学園モノ2

全年齢向けの学園モノです(もちろんTS)
なんというか、この軽いノリがすごくやりやすいです


 目が覚めたら女の子になっていたという事件は起こらず、俺はいつものようにとても硬い胸板とご対面し、いたって平凡な朝を迎えた。
 可もなく不可もないツマラナイ男の顔を洗面所で確認し、軽い朝食を取った後は男子の制服に着替えていく。うんざりするぐらいの男子高校生の日常風景だ。色気も何もあったものじゃない。
 朝の身支度に時間をかけることもなく、すんなりと家を出る。と、まるでタイミングを計っていたみたいに一拍遅れて隣の部屋も扉が開かれ、小柄な女の子がソロリソロリと忍び足で出てきた。
 ポニーテールを結わえていない姿は珍しいどころか初めて見るので、その不審な態度とあいまって一瞬誰かわからなかった。が、幼げな横顔は間違いなく俺の知る少女のものだ。
「おはよう、雛姫ちゃん!」
 普段の彼女を見習って、元気良く挨拶をする。家が隣同士とはいえ登校時間が重なることは滅多になく、ややテンションが上がっていたのもあった。
 雛姫ちゃんは俺の声に肩を大きく震わせて、大袈裟なぐらい勢い良く振り向く。どういうわけか妙に顔が赤く、やつれているように見えるのは気のせいだろうか。
「桑倉く……っ、センパイ。……おは……おはよう……」
 調査委員会に文書にして提出すれば百人とも不審のプラカードを掲げるような態度で、しどろもどろに返してくる。もちろんそんな雛姫ちゃんの姿に、俺の妄想スイッチが発動しないわけがなかった。
(何だこの態度……まるで俺の知り合いが雛姫ちゃんの体になってどうにか雛姫ちゃんらしく振舞おうと焦っているみたいだ!)
 俺は心の中でガッツポーズを取りつつ、『そんなことねぇよ。ただ寝坊して髪とか身だしなみとか整えられなくて恥ずかしがっているだけだよ』とか言うすさまじく無粋な自分もいて、もしソイツが目の前にいるなら握った拳をそのまま顔面に叩きつけてやりたい衝動を抑えあくまでも平静を装いつつ話を続けた。
「珍しいね、こんな時間に。よかったら一緒に行かない?」
「ぬにぁっ!?」
 俺のアプローチに雛姫ちゃんは踏まれた猫みたいな声を上げ、持っていた通学カバンを床に落としてしまう。ますます怪しいが、俺は胸中の妄想などおくびにも出さず紳士的にカバンを拾い、スマイル付きで持ち主の手元に戻した。
「どうしたの? なんか、今日は変だね」
「そそそ、そうかなっ!? 私は、いつも通りだと思うんじゃないかな!?」
 どうみても黒です。本当にありがとうございます。
「悩みがあったら聞くよ。俺じゃ、頼りにならないかもだけどさ」
「い、いや、それは、まぁ、ありがたいが……い、いやっ、大丈夫! 大丈夫です! おぉっと、そろそろ遅刻しそうだ! 急いだ方がいいんじゃないかな!?」
 強引に話題をねじ曲げて、してもいない腕時計を見るような仕草でセーラー服の袖をまくる。
「いや、ぜんぜん余裕……」
「それじゃ、お先!」
 シュバッと右手を上げ、自慢の脚力であっという間に俺から遠ざかる。
 全力で走り去る後姿は、スカートのはためきを気にかける素振りすらなかった。



「……って事があったんだが、どう思う?」
 教室に入り白山と六村を見つけた俺は、二人を自分の席に招いて今朝の出来事を掻い摘んで話してみた。
 様子のおかしい知り合いの女の子。というテーマについて、いろいろな角度から検証を重ねる必要がある。俺一人では、せいぜい入れ替わりを疑うのが精一杯だ。
「たぶん、気弱な男に憑依されたな」
 期待通りのいつもの白山の答えだった。
「気弱だってどうしてわかるんだよ」
「あれだな、たぶん、その子のことが好きな男子がいてだな。憑依の儀式を試してみたら成功して、でも体から抜けられなくなったから記憶とか読みながらなんとか『ヒナキチャン』のフリをして元に戻る方法を探そうとしているんだよ」
 好きになった=憑依したい。という前提条件からして特殊なのだが、俺も人のことは言えないので可能性の一つとして考える。
「あたしは、『ひなきちゃん』におちんちんが生えたと思うのよね」
 若い男性を好む紳士淑女が嬉々として使いそうな用語をさらりと言ってのけ、六村が朝から実に六村らしい発言をする。
「朝立ちの処理なんか当然知らなくて、スカートをいまにもめくり上げそうな立派な股間のアレを知り合いのお兄さんに見られたら……そんな不安と混乱の中、まともな対話なんて出来るわけないでしょう?」
 根拠のない自信に裏打ちされた笑みと鼻息を漏らし、眼鏡を押し上げる六村。とりあえず、それも可能性の一つだ。
 二人とも、いつも通り自分の希望する展開を語り明かしているだけのような気もするが、あえて突っ込むことはしなかった。
「……うーん」
 悩んでも答えの出ないことを悩む。結論を出すには早すぎるが、果てしなく不毛な時間だ。
 窓の外に顔を向けると、一時限目から体育の授業が始まるのか一クラス分の生徒たちが校庭に集まっていた。
「あれ?」
 その集団から少し離れた場所に、今話題の人物を見つける。
 雛姫ちゃんだ。制服姿のまま、体操服に着替えたクラスメイトを遠巻きにして地面に座り込んでいた。
(体育の授業は見学か)
 朝に会ったときは、様子がおかしくともとりあえず病気はしていなさそうだった。少し下世話な発想になるがいわゆる『オンナノコの日』ということも考えづらい。陸上部に入るほど運動好きな彼女が仮病を使う考えはもちろん排除し、俺は大胆にあぐらをかく雛姫ちゃんの姿を見守り続けた。
「ほらみろ! きっとあの子は男に憑依されているんだぜ!」
「違うわ! 体だけじゃなくて、仕草まで男の子になってきているのよ!」
 俺の視線に気付いた二人が彼女の姿を見て、対立する主張をぶつけ合う。昨日とまったく同じ行動であり、この分ではまた俺に意見を求められるのは間違いなさそうだったので先制して答えておく。
「俺は、誰かと入れ替わったんだと思う」
 特殊な発想で盛り上がる先輩達の会話など知りもせず、友達らしき子に耳打ちされるまで雛姫ちゃんは姿勢を正そうとはしなかった。


 決定打は得られないまま迎えた昼休み。調べ物があるといってそれぞれ別の場所に向かった白山たちと別れ、俺は学食にいた。
 どんなときでも腹は減る。適当な定食を頼み、「ここ、いいか」と断りを入れ大人しそうな男の向かい側に座った。
 値段の割りに大ボリュームのコロッケを見つめ、ぼんやりと雛姫ちゃんのことを考える。
 万が一。仮にだが本当に入れ替わり現象が起きたのだとしよう。その場合考えられる相手は誰だ?
 昨日の夕方の時点では、彼女はいつも通りだった。つまり、昨晩のうちに何かが起こったことになる。俺の名前や、薄氷学園の場所を知っていたことも大きなヒントだ。
「……ん?」
 ふと視線を感じたので顔を上げると、正面に座っていた男子が慌てて顔を背けたのが見えた。
 六村の眼鏡よりもさらに分厚いレンズで顔を覆っているため気づきにくいが、かなりの美形だった。イケメンというよりは、むしろ男子の制服を着ているのが不思議なぐらい可愛らしい目鼻立ちをしている。
 もし体だけ女になったとしても、きっと誰にも気づかれずやり過ごすことができるタイプだ。
「俺、2Cの桑倉」
 急に自己紹介を始めた俺に、美少年は逸らしていた視線を戻し、目を丸くした。
 青田買いというわけではないが、もし彼が女体化をした時、俺のことを思い出してくれたら嬉しい。そんな期待込みで声をかけることは俺にとって特に珍しいことでもなかった。
「お前は?」
「……し、司馬(しば)、達成(たつなり)……2A……」
 名乗られた以上、名乗り返さなければとでも思ったのだろう。逡巡した後、美少年は自分の名前と同級生であることを明かしてくれた。
 司馬の手元を見ると、学食で一番安いかけそばが盛られている。俺はコロッケを半分に割り、片方を小皿に乗せて差し出した。
「これも何かの縁だ。仲良くしようぜ」
「え? え……えぇ?」
 あたふたする姿が妙に愛らしく、俺は素直に微笑む事が出来た。


 最初からわかっていたことだが雛姫ちゃんの謎は解けないまま放課後となり、俺は日課に従って昨日と同じく光明神社を訪れた。
 石段を登り、海岸線を一望できる風景に心を清められ、神殿にお参りをする。願うのはもちろん『素敵なTSFと出会えますように』だ。
 雛姫ちゃんのことは心配だが、今の時点でどんな願い事をすれば彼女にとってプラスになるかさっぱりわからない。それならいつも通りの願掛けをする方がまだ有意義だろう。
 それから社務所も覗いてみたが、葛葉さんの姿はなかった。ガラス戸も閉じられ、人の気配がまるでない。今日は休みか?
「ぬぅ? 少年か」
 背後からの声に振り向くと、神主のお爺さんが神殿から降りてくるところだった。
 どこか疲れたような顔をしていて、背負う空気も心なしか重い。いつも陽気な印象があるだけに、その変わりようは俺を少しだけ驚かせた。
「なんか、あったんすか?」
「ほ? はて、何の話やら」
 神主さんは俺のカマかけなど軽く受け流し、砂利を鳴らして俺の横を通り過ぎる。
「すまんが、今日は忙しいのだ。日を改めてもらえるか?」
「あ、あぁ、いえ。俺ももう帰りますんで」
 無表情だが均整の取れた美人巫女さんの顔を思い出すが、まぁ、またすぐに会えるだろう。後ろ髪引かれる思いを抱くこともなく、あっさりと光明神社をあとにした。
「……彼に任せてみるのも、一つの案、か」
 去り際、かすかに届いた神主さんの台詞が、どういう意味なのか、俺は特別そのことに思案をめぐらせることもなく、石段を下りきる頃には綺麗さっぱり頭の中から消去していた。

***

 予兆、あるいは予感はあった。
 夕日が沈みかけた帰り道。俺の住むマンションが近づくと、エントランスに二つの人影があった。
 俺は彼らに誘われるままマンションの一室に招待され、間取りが我が家と対称的な作りの大鳥家を物珍しそうに眺めることもせず、リビングに通され椅子に座った。
 正面には、いつもの快活さなど完全に置き忘れ、ポニーも結わえていないお疲れモードの雛姫ちゃんが座っている。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 麦茶の入ったグラスを差し出し、トレイに載った残り二つのグラスを自分と自分の娘の前に置くのは、大鳥父……雛姫ちゃんの父親だ。
 雛姫ちゃんは「ありがとう」と小さな声でお礼をいい、顔の前で組み合わせていた両手をようやく解放した。
「突然呼び出したりしてすまなかったね」
 その台詞は、大鳥父ではなく愛らしい少女の口から出てきた。
 俺は胸の高鳴りを抑えながら、次の言葉を待つ。
「信じられないかもしれないが、まずは話を聞いて欲しい」
 憔悴の感じられる声で、雛姫ちゃんは小さな唇を震わせながら、その一言を紡ぎだす。
「私たち父娘は……カラダが、入れ替わっている」
「昨夜、お風呂で頭をぶつけて……それで気が付いたら私、お父さんになってたんです!」
 妙に内股ぎみだった大鳥父がようやく口を開き、『娘』の台詞を補足した。
 酷い話だが。
 本人達にはとても深刻で大事件なのだろうが。
 俺は、祝福の鐘が大音量で響くのを、確かに聞いた。


 家に戻った俺は、大鳥親子から得られた情報を早速ノートにまとめた。
 まず、大前提である入れ替わり現象は当然信じる。あの善人の親子が、俺にこんな嘘をつく理由がない。
 俺にだけ事情を明かしたのは学園内でのフォローをして欲しいからだと言うが、これも信じる。雛姫ちゃんはこの春入学したばかりで、腹を割って話せる相手は一学年上の俺しかいなかったらしい事情は、とりあえず納得するには充分だ。
 俺の趣味を知っていたのかと冷や汗が流れたりもしたが、違うとわかり胸を撫で下ろした。むしろあっさり入れ替わり現象を肯定した俺を不思議がっていたぐらいだ。
 次に、なぜ入れ替わったのか。これは大鳥父……父親のカラダになった雛姫ちゃんが説明した通り、風呂場で頭をぶつけて入れ替わったという、実にベタな展開だった。
 昨夜、仕事から帰ってきた大鳥さんは、雛姫ちゃんがまた浴槽に入ったまま眠りこけているのを見つけ、慌てて回収しようとしたらしい。その際に足を滑らせ、頭をゴッツン。目が覚めたら父が娘で娘が父で君の名前はって状態だ。
 こういう場合、もう一度頭をぶつければ元に戻るのだが、親子は既にそれを試し、失敗したらしい。
『なんとか今日一日、雛姫のフリをしてみたが……無理だというのが、よぉくわかった』
 娘の姿になった大鳥さんが今日一日を振り返り、苦悩の声を漏らす。クラスどころか学年すら違う俺だが、万が一のときに事情を知る人間が居るのだと思えばかなり精神的負担は減るらしい。
 一方で父親になった雛姫ちゃんだが、必要以上に泣き喚くこともなく、むしろ前向きですらあった。
 大鳥さんの仕事はオフィスビルの夜間警備員で、小難しい事務はほとんどない。レクチャーを受ければ、中身が経験ゼロの女子高生でもなんとか形にはなると胸を張り、明日から父親の職場に出向くつもりでいる。
 父娘ともどもお互いの生活を守ろうと努力し、あぁ、こんなドラマあったなぁなどと思いながら俺は彼らに全面協力しつつ共に元に戻る方法を考えると約束すると、大鳥家をあとにした。
「……ふっ」
 今日一番の……人生最大の出来事をまとめ終えた俺は、静かにノートを閉じる。
「ふふ……ふふふふ……!」
 冷静に沈着に。無感情無表情の葛葉さんになりきって、顔の筋肉を全力で制御し、限界まで堪えていた頬の緩みが、ついに決壊を始める。
 せめて隣の親子に届かないよう俺は枕に顔をうずめ、力いっぱい叫んだ。
「いよっっっっしゃあああああああああああああああああっ!!!!」
 キタ。キタキタキタキタキタぁああああああああ! ついに来た!
 俺の夢。男が女になる、超自然的な現象。物語の中にしか存在し得ないと思っていた、TSF!
 親子による男女入れ替わりがついに発生し、しかも俺は考えられる限り最高のポジションを獲得した。これでテンションがあがらないはずがない。
「雛姫ちゃんの体に男が……あの大鳥さんが……! くがぁあああっ!」
 その事実を確認するだけで言語化不可能の興奮がせり上がり、のた打ち回りたくなる。傍から見たら通報待ったなしの奇行をしている自覚はあっても止まる気になれなかった。
 もちろん親子との約束は守る。二人を元に戻すのに、俺の知識は大いに役立つはずだ。
 だが今は、この喜びをかみ締め、小躍りしよう。神様への感謝を示せと言うなら、巫女になって神楽を舞ってもいい。
 男女入れ替わり現象と出会った俺は幸せな気分のまま、巫女のカラダになる夢を期待しつつ眠りにつくのだった。
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非公開コメント

No title

>>巫女になって神楽を舞ってもいい

フラグが立った気がする( ˘ω˘ )

コメントありがとうございます

> 柊菜緒 さん
ネタバレ:今回の主人公は女になりません

>拍手コメント
ありがとうございます。かなり気楽にやっております
プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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