ぞっこん1-4

導入部ようやく終了です


ぞっこんショット1-4


 人というものは無意識のうちに本来の自分をイメージするようになっているという話は、先輩のウンチクだか何かで聞いたことがある。たぶんそのせいで、俺は自分の異変に気付くのが遅れてしまったのだろう。実際、自分の身体が藤になっていると認識してからは、やたらと胸が重く感じて仕方がなかった。
 俺とは逆に、先に目を覚ました藤は自分の身体が倒れているのを見て、すぐに事態を把握したらしい。窓ガラスではなく、わざわざトイレの鏡で姿を確認しにいっていたあたり多少の混乱は窺えるが、それでも俺と比べると藤はだいぶ冷静だった。
「入れ替わった原因って、なんなのかな」
「俺は夢だと思う。こんなこと現実に起こってたまるか」
「いやいや、甘いよタカくん。世の中はね、階段を一緒に転がり落ちたり、近くに雷が落ちたりするだけで、こんなことは案外起こるものなんだから」
 そんな世の中のコトワリなんざ聞いたことがない。そんなことよりも、男の声でその口調はかなり気持ち悪かった。
「ってか、どうしてお前はそんな平然としているんだよ!」
「えー、あたしだって困ってるよー? うまくタカくんらしくできるかとか、これじゃ可愛い服は似合わないな、とか」
 すんなり受け入れているようで何よりだ。すぐに打開策が出せない現状で、それは正しい悩みなのかもしれないが、どうも腑に落ちなかった。
 なんだかんだとはいえ藤も女だ。男の俺に自分の身体を使われて、抵抗がないはずはない。


「あ、でもどっちかっていえばタカくん女顔だし、キチンと処理すればミニスカとかも断然ありだよね」
「やめんかっ! いくらなんでも落ち着きすぎだろお前っ!」
「だぁって、悩んだって始まらないし。それとも、あたしの知る四十八の入れ替わり方法試してみる?」
「方法あんのかよ!」
 俺のエアツッコミが風を切る。それならそうと早く言ってくれ。
「うーんとねー」
 藤は明後日の方向を見つめながら、指折りにその方法とやらを挙げていった。
「まずセオリーなのが、入れ替わったときと同じ衝撃だね。例えば、曲がり角でぶつかったんなら、またぶつかってみるとか。変な道具が原因なら、もう一度それを使うとか。他の方法なら、キスとかエッチとか、あとはクシャミとかアクビとか、悪魔との契約とか、宇宙人に脳みそ交換してもらったりとか?」
「いやちょっと待てストップ」
 どんどん胡散臭くなっていく提案の中で、一つ引っかかるものがあった。
 気絶する前に起こった異常事態を思い出す。むしろなぜそれが一番初めに思い浮かばなかったのか不思議でしょうがない。
 それの正体が思いついた俺は、すぐに最初に目覚めた地点の本をひっくり返していく。予測通り、俺の倒れていた位置とほぼ同じ場所に、ソレはあった。
「たぶん、これだよ。このカメラ」
「えー? カメラで撮ったら入れ替わったの? なんか非科学的ー」
 いまの俺達が置かれている状況を科学的に説明できるのなら、是非やってもらいたいものだ。
 俺だって信じられないが、藤のいう怪しげで危険で、かつ絶対後悔するような提案よりも先にこっちを試した方がいいに決まっている。
「これで、もう一度シャッターを押せば……」
 ファインダーを覗き込み、〝俺〟に向けてシャッターを切る。
 しかし、どうしたわけかあの乾いた音どころか、押したという手ごたえすらまったく感じなかった。
「まさか、な」
「壊れているの?」
「それを言うなぁぁぁぁっ!」
 認めたくない現実をまたもや残酷に、しれっとした顔で告げられる。
 さっきから藤はえらく冷静だ。というよりも、実はまだ思考がまともに働いていないだけなのかもしれない。
「お前、さっきカメラいじっていたろ? なんとかできないのか?」
「んー、修理となるとちょっとねぇ。……とりあえず、今日は家に帰ろうよ」
「ノンキだなお前は。……うん?」
 頭をかきむしっていた自分の腕を、五秒ぐらいじっとみつめる。当然だが肌の白さや手の小ささ、肉付きなどは、明らかに男のときと違っていた。
「帰るって、もしかして、俺がお前の家に行くのか?」
「うん。で、あたしがタカくんの家に。身体が変わったんだから、お互いの生活も交換しなきゃ」
 こんな非常識なこと、誰に言っても信じてもらえない。よくて白い目で見られ、運が悪ければ病院行き。自分自身、いまだに夢の中にいるんじゃないかと思っているぐらいだ。
 ことを騒ぎ立てないためには、それしか考えられなかった。
「カメラはあたしがお店に持ってくね。あたしが修理するより、ずっと確実だし」
「はぁ……。わかった、頼む」
 俺は藤にカメラを渡し、これからのことを考えた。
 お互いの生活を交換ってことは、ボロを出さないよう、藤らしく振舞わなければいけないということだ。
 あの無駄に騒がしく無意味に明るいテンションで喋らなければいけないと思うと、いますぐ失踪してしまいたい気分だった。考え方から何から違う女の真似が、どうしてできる?
「お互い頑張ろうねっ」
「おー……」
 笑顔と一緒にVサインを出した藤に、俺はすさまじいまでの不安を覚えた。
 とりあえずコイツにも俺らしくしてもらわなければならないので、そのテンションは封じてもらうことにしよう。
 このさい、永久に。

 * * *

 ひとまず最低限の情報と家までの地図を書き記し、俺は藤の家へ、藤は俺の家へと帰ることにした。
 彼女の両親はいつも帰りが遅いらしく、演技の問題はひとまず先送りにできたが、それでも一向に気は晴れない。
「はぁ~」
 ため息をついているうちに、電気のついていない四ノ宮家に辿り着く。どこにでもある、普通の一軒家だ。
 藤の部屋は二階にあるようだが、本人いわく、『ちょっと汚いけど我慢してね』だという。普段からの雑な振る舞いを知っているので、そのときはまだ、女の子の部屋に入るという期待感と背徳感の方が、汚い部屋というキーワードよりも重要視されていた。
「うお……」
 だが家に入り、部屋のドアを開けた瞬間、『ちょっと汚い』という俺の認識は根っこから覆された。脱ぎ散らかされた洋服に、山と積まれた漫画や雑誌。部屋の隅にまとめられたゴミ袋からは、心なしか妙な臭いが漂っている。男でもなかなかこうはいかないぐらいに、六畳ほどの空間がゴミで隙間なく埋め尽くされていた。足の踏み場もないなんて言葉は、とうの昔に超越していそうだ。
 俺は特別キレイ好きなわけでもないが、さすがにこの惨状には目眩を覚える。
 壁にはポスターが貼ってあるが、アイドルとかではなくなんかのアニメキャラらしいところが本気で救いようのなさを感じさせた。
 片づけるにしても、一体どこから手を付ければいいのかさっぱりわからん。
「と、とにかく着替えなきゃな……」
 意識した途端、ふいに顔が熱くなる。
 好きでもない女の身体でも、やはり多少の興奮は覚えてしまうものだった。そのあたりは、悲しいことに健全な男のサガと言えよう。
 しかしいざ着替えようとしてみて、俺はどこにもタンスがないことに気がついた。クローゼットがあるにはあるが、なぜかウチの学校のものではない制服や職業別の制服が吊るされているだけで、普段着らしいものは足元に散らかっている服の他に見当たらない。
 まさか、あの女はこの脱ぎ散らかした服を、そのまま着ているのだろうか。それとも、クローゼットのあれらを私服にしているのか。
 どっちにしても、ありえねぇ……。
 それでも、事実はいつだって残酷で、結局おろしたての洋服は一着たりとも見つからなかった。
 だらしがないにも程がある。二度とこの身体に興奮を覚えまいと固く心に誓ったことは、もはや言うまでもないことだ。
 藤の方はうまくやっているのか。もはや、それだけが気掛かりだった。

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