一年ぶりの長編

久々に長編を投下します
ただし前作の長編とは違いまだ未完成のためいろいろ表現が拙いままです
完結した暁にはじっくりがっつり推敲し一つのファイルにまとめます

意訳<内々で放置していたらいつまでも完結しなさそうだったので習作がてら置いていきます

内容は憑依系の恋愛ストーリー
今回はプロローグのため該当シーン無しです

<ココロノカタチ(仮)>

 ずっと、ずっとキミが好きだった。
 そんな、ありきたりでとてもシンプルな愛の告白が、放課後の静けさを断ち切る。
 秋空に浮かんだ夕日が差し込む教室で、俺は告白相手の顔をじっと見つめた。
 目を見開き、夕焼けよりも鮮明な朱色の顔をして、福山雛菊は口をパクパクと動かしている。
 やけに長い時間をおいてから、やっと彼女は大きなリボンでくくった二つの長い髪を揺らし、頭を下げた。
「あ、ありがとうございます。ヒナ、嬉しいですっ」
 ちょっと待てぃ。
「カーーーーーット!」
 俺が頭の中でカチンコを鳴らすと同時に、それまで黙って俺達の告白シーンを見守っていた男も椅子から立ち上がり絶叫する。
「福山ぁっ。てめぇ、自分で書いた台本をもう忘れてんのか!」
 手を伸ばせば噛み付きかかってきそうな彼の目つきは、相手の防衛本能を働きかけるには十分すぎる鋭さを持っていた。
 普通の人間より何十倍も凶悪な目つきに睨まれてしまっては、白旗を揚げる以外の手段はない。それがか弱い女の子なら尚更だ。
 だというのに、雛菊はまるでソレを気にした風でもなく、苦笑いで頭を下げている。
「あはー、ごめんなさいです。ヒナ、つい……」
「ついじゃねーだろ。ここは、告白してきた男……カズキを振るシーンだ!」
 男は恫喝じみた口調で、相手のおでこをビシビシとつつく。
 トサカ頭のツンツンと堅そうな髪は、心なしかいつもよりやや上を向いていた。もしかしてこれが怒髪天というやつだろうか。
「ひぅ、はぅ、にゃうっ」
 つつかれている少女は少女で、加虐心を煽るような喋り方でオタオタとしている。
 後輩二人のいつもの戯れにこんな評価を下すのはアレだが、その光景は、いたいけな少女を不良が脅している、という風にしか映らなかった。
「まぁ、そんなカリカリするな。ヒナちゃんに悪気がないことぐらい、直哉だってわかってるだろ?」
「そりゃあ、まあな」
 直哉は雛菊をつつく手を止め、自分のツンツン頭をくしゃりとする。その顔には、少しばかりの不満が残っていた。
 彼女のボケ具合はわかってはいるものの、人よりいくらか気性の荒い直哉にしてみれば怒りをすぐ爆発させなければ気が済まないのだろう。
 いや。たぶん、それだけが理由じゃない。
「なあ、カズキ。このシーン、俺いらなくね?」
「いやいやいや。俺がヒナちゃんに告白して、振られて、それからお前の登場だから。ハケる理由ないから」
 仮にたとえ出番がなくても、他にもやることは沢山ある。少数精鋭主義とはいえ演劇部は常に人手不足だ。
 それでも直哉は、どこか居心地が悪そうな顔を続けている。
「……お前の気持ちもわかるよ。ヒナちゃんが他の男から告白されるシーンなんて、何度も見たくないわな」
「んなっ」
 肩に腕を回して耳打ちしてやると、途端に顔が風呂上りのようになった。
 目つきの険しさも取れ、あわあわと動揺している。
「し、しつけーなお前も。俺は、福山のことなんざ別に……」
 言いつつも語尾は弱々しいし、声の大きさだってガッシリとした体躯に似合わないほど小さくなっている。
 さらには急に内緒話を始めた俺らを不思議そうな顔で見ている雛菊にチラチラと目を泳がせている。
 見た目は完璧にヤンキーなのに、少しからかってやればこのざまだ。硬派を通り越して純朴少年のレベルじゃなかろうか。
 自分より一つ年下だというのが、さらにいけない。
 つまり、どういうことかというと。
 俺、森実一樹は、この男にすっっっげぇ萌えている。
 少々オタクくさい単語だが、それ以上しっくりくる言葉が思いつかんのだから仕方がない。
 俺は男だが、それがどうした。男が男に萌えちゃいかんのかと逆切れもしてやるさ。
「早く告白しないと、誰かに取られるぞ。いやいや、フられたその時は俺がヒナちゃんの代わりになるし、安心しろ」
「なにその欠片も嬉しくねーアフターケア。……いや、だから、俺は福山なんて好きじゃねぇしっ」
 諸君、これが巷で噂のツンデレという奴ですよ。たぶん。
「おふたかたー、ヒナも混ぜてくださいー」
「うっせ、あっち行ってろっ!」
「にゃぅっ。ご、ごめんなさいです」
「っ……あ、いや、悪ぃ」
 ツンデレヤンキーの性か、好きな相手に対しても直哉は凶暴な面を惜しげもなく晒してしまう。
 普通の女の子だったらとっくに怯えて近づかなくなっていそうなものだが、この能天気そうな後輩は一度だってそういう素振りを見せたことがない。
 とはいえ、こんな態度を取り続けていればそのうち直哉が彼女に嫌われてしまう可能性だってある。
 自分の好きな相手だからこそ、そいつには幸せになって欲しいと思うわけで。
「意地悪するナオくんなんか、ツーンです」
「拗ねんなよぉ、福山ぁー」
「はぁ……」
 いっそ俺が女だったら話は簡単だったのにと、夕焼けの空を見上げながらそんな願っても叶わないことを胸の中でつぶやいた。

   *   *   *

 当然、というか言うまでもなく、俺は女の子が大好きだ。
 健康な思春期男子なのだから、もちろん性欲だって有り余っている。
 つまり俺は別にホモでもなんでもない、いたって普通の男子学生だ。
 ああ。直哉のことは好きだし、自分がもし女だったら間違いなくアタックをかけている。そこは認めよう。
 しかし俺は男であることをちゃんと自覚しているし、男である以上、佐川直哉と恋人関係になりたいとかそういうことを積極的に思ってはいない。
 たとえるのなら愛情未満、友情以上。ここらが妥当な気持ちじゃなかろうか。
 まぁどう言葉を取り繕ったところで、俺がこのツンデレヤンキーに萌えてしまっていることは確かだ。
 『萌えの前に性別や倫理観など無力っ!』と声を大にしていた先代部長の台詞をしみじみと思い出す。
 まさか、彼女の引退後にその言葉の意味を思い知るとは考えもしなかったが、実際その通りだった。
「先輩、早くリテイクしましょうよー」
「ん、ああ」
 過去の思い出に浸っていると、雛菊が芝居の続きを促してきた。
 ふいと教室の隅に目をやれば、直哉がひざを抱えてなにがしか呟いている。
「……女に嫌いって言われただけだぞ? 慣れっこじゃねぇか、いつものことじゃねぇか……」
 ガタイのいい男が部屋の隅でぶつぶつぶつぶつと。……あの男は、俺を萌え殺す気らしい。可愛すぎるわ。
「先輩、どうしたんですか?」
「い、いや。直哉、どうしたのかなって」
「知りませんっ。意地悪なナオくんなんか、ヒナは嫌いです」
 頬をぷぅっと膨らませながら、雛菊はわざとらしく怒った声を作った。
 貴重なゲキ部メンバーであり直哉の想い人でもある少女だが、あえて言おう。ちょっとウザイ。
 自分のことをヒナとあだ名で呼び、無垢っぽい笑顔をいつも見せている彼女は、必要以上に可愛い女を演出しているようで、どうにも好きになれなかった。
 それらの挙動が無自覚なのか意識的なのかは彼女のみぞ知る領分であり、俺も踏み込むつもりはない。
「せんぱーい? またボーっとしてますよー」
「ああ、うん。なんでもない」
「本当ですか? ……もしかして、私にみとれてました? なーんて」
 諸君、コレが巷で噂のウザ女ですよ。たぶん。
 仮に本人が意識的ではないのだとしても関係ないねこりゃ。もう、見慣れた外見すらうっとうしく思えてきた。
 長いツインテイルとか、それを結ぶ大きなリボンとか、甘ったるい声とか笑顔とか。どれをとっても男に媚びているような気がしてイライラする。
 俺、これでもフェミニストのつもりだったんだけどな。
「むー、だんまりですか先輩? ヒナ、寂しいです」
「いや、もっと女の子入らないかなーって、考えてた」
「な、なんでヒナと話しててそんな考えが出てくるのですかっ」
 雛菊タイプ以外の女の子がもっといれば、少しは俺のイライラも改善されるような気がしたからです。という本音はさておいても、実際のところメンバーの増員は切実だった。
 二学期に入ると同時に先輩方は引退し、残ったのは俺を含めてたった四人というこの貧弱さはお世辞にもいい状況とはいえない。
 ただでさえ生徒会からは一年生二人の対照的理由による注目のおかげで悪目立ちしているし、このままでは来年の新入生を待たずに廃部、なんて可能性もある。
 別にこの部活に特別な思い入れがあるわけでもないが、ここが潰れてしまうと直哉と会う機会がぐっと減ってしまう。それは、出来れば避けたかった。
「先輩ってばぁ。はやくテイク2に入りましょうよー」
「うん、でもリテイクする原因はヒナちゃんだからね。少し反省しなさい」
「えへー、すいませんでしたぁ」
 まったく反省の色が見えない笑顔を撒き散らされる。
 …………ホント、フェミニストのつもりだったんだけどなぁ。俺。
 手のひらが痛いし、爪は小まめに切っておこう。
「すみません。遅れました」
 俺が小さな決意をしていると、何の前振りもなく教室のドアが控えめな音を立てて開いた。
 待ちに待った、もう一人の女子部員のご登場だ。
「お疲れ、沙耶歌」
「……ええ」
 俺がそう言葉を投げると、セミショートの女の子はつまらなそうな顔で小さく返す。
 無愛想、というのとも少し違う、他人への興味それ自体が希薄な印象だった。
 子供の頃はもう少し活発だったはずだが、いつのまにやら高瀬沙耶歌といえばこのアンニュイな空気がトレードマークになっている。
「暗ぇな、副会長さんよ」
「性分ですから」
 いつのまにかこっちの世界に戻ってきた直哉は、威嚇するように沙耶歌をねめつけた。
 おそらく普通に目を向けただけなのだろうが、その凶悪な顔つきの前ではどうしてもそんな風にとらえてしまいがちになる。
「あ、あの。また、生徒会長に何か言われたのですか?」
 沙耶歌の気だるそうな雰囲気をいつものごとく勘違いしたらしい雛菊は、よせばいいのに余計な気を回し始めた。
「会長に?」
「はい。サーちゃん先輩、演劇部とかけもちですし、会長からいろいろイヤミを言われていないかなーって」
 ……地雷踏むの好きだなぁ、この後輩。
「会長の言っていることは、常に正論ですっ!」
 案の定、こっちが引くぐらい沙耶歌は声を荒げて机を叩く。
「年々入部希望者の減っていく演劇部に出す部費は無駄以外の何物でもなくっ! 部は解体し生徒会の別室として使おうという思惑は当然の意見なのです!」
「あ、あの、えと」
 多少ウザイとはいえ、元々がおとなしい性格の雛菊は彼女の剣幕にすっかり呑まれてしまっている。
 もうすでに何回も会長ワードを出してはキレられているのに、学習しない子だ。
「というか、最後のは完全にそっちの都合じゃ……」
「福山さん。いくらあなたが会長のお気に入りでも、言っていい事と悪いことがあります」
「ひ、ヒナは、会長さん嫌いです」
 ホント地雷好きだね、この子。
「一樹」
「なんだ」
「世界一の殺し屋の居所を知っていますか」
「トップシークレットっぽいな。それ知ってる俺は何者だよ」
「史上最低の女ったらし」
「幼馴染にそんな風に思われていたのかっ! 地味にショックだ」
「一週間も続かない恋愛を繰り返す男には、的確すぎる評価かと」
「ぐっ」
 なまじ事実なだけに、言葉が返せなかった。
 確かに沙耶歌の言うとおり、俺は一週間も続かない恋愛ばかりしている。
 言い訳をさせてもらうのならば、もともと女の子の評価は高かった俺だが、別れては付き合ってを繰り返すようになったのは今年に入ってからだ。
 男の俺が直哉を好きだなんて、そんなのはおかしいと自分でもわかっている。
 だから、いままで受け入れなかった女の子からの告白を手当たり次第に受け入れて、普通に戻ろうとした。
 それでもやっぱり、直哉のことばかり考えていて。
 結果、彼女からは他の女がいると疑われたり、呆れられたりとかされて、気が付けば一週間も経たずに別れるのが当たり前になってしまった。
 そんな男でも好きだ、という女はたくさんいる。
 例えば、本人は必死で隠しているようだが、雛菊が俺に好意を持ってくれているのはまず間違いない。
 ならば告白をされたら俺は彼女を受け入れるのか。直哉が好きな相手を、一週間も続かないからといって恋人関係になることが出来るのか。
 無理に決まっている。
 ではその場で彼女を振ってしまうのかといえば、そういうわけにも行かない。
 雛菊はこれ見よがしに落ち込み、直哉もまた、自分の好きな女を傷つけた男として俺を見る筈だ。
 情けない話だが俺は直哉に、どんな形でもいいから嫌わないでいて欲しい。
「どうしました。何も言い返せませんか」
 沙耶歌の瞳は相手を見下すような冷たい色をしている。
 まさか心を見透かしているわけでもないだろうが、まるで嫌わないで欲しいと願う臆病者を責め立てているような冷ややかさがあった。
 耐え切れず、逃げるように視線を逸らす。
「せ、先輩は、最低な男なんかじゃありませんっ」
 いやな汗が浮かぶのをぐっとこらえていると、思わぬところからフォローが来た。
「ヒナ、ちゃん?」
「先輩は……先輩は……」
 待て、そこの人工天然娘。
 何を言う気か知らないがこれ以上、事を面倒にしてくれるな。
「ちょ、ヒナちゃん。ストッ──」
「先輩は、女の子にだらしないだけですっ!」
「プガハッ!?」
 フォローかと思ったらトドメだった。
 油断も隙もないな、大ボケ後輩。

「……さて、女にだらしない一樹のことは、まぁどうでもいいとして」
 俺の心をえぐる行為が、どうでもいいの一言で済まされた。
 雛菊は雛菊で、さっきの台詞が何のフォローにもなっていないことにいまさら気付いたのか、珍妙なうめき声を上げてすまなさそうに俺を盗み見ている。
「あぅぅ……」
 『あうう』じゃねぇよ。人を傷つけたら『ごめんなさい』だろ。別に傷ついてないけど。
「生徒会長から、演劇部の皆さんへ伝言があります」
 そういって沙耶歌は、小さく咳払いをして台詞にタメを作った。
「『生徒会役員のイスは空いている。はやくその部に見切りをつけろ』とのことです」
「けっ、誰が生徒会なんざ」
 両足を机の上に投げ出して椅子の上でふんぞり返る男が、鋭いガン付けで沙耶歌を睨む。
 とかく、不良と生徒会は相性が悪い。お約束といってはアレだが直哉もまた、その定番だった。
「会長はこうも言ってました。『不良に空けておく席はない』だそうです」
「ハッ、こっちから願い下げだっつうの」
「んー、俺は直哉がいるなら、生徒会でもゲキ部でもどっちでもいいんだけど」
「いますぐ部活抜けたくなった!」
「一樹、その手の冗談は人によってはドン引きしますよ」
 冗談じゃないんだけどな。
「ひ、ヒナはそれぐらいで先輩を嫌いませんっ」
「あーうん、アリガトー」
 できればそういう台詞は黙っていて欲しいけど。
 直哉から恨みがましい目を向けられるのは、あまりいい気分じゃないんだ。
「とにかくだ、生徒会長には、もう少し待ってもらえないか頼んでくれ。ほら、来年になれば部員も十倍に増えているかもしれないだろ?」
 実際、そのためにいろいろと準備をしている。沙耶歌の登場で中断することになったが、さっきの芝居だってその一環だ。
 少人数でもここまで完成度の高い演劇が出来るのだと、それを全校生徒に知らしめてやれれば、おのずと部員増強にもつながる。
 ただ問題としては、それを発表する機会が当分先になる点だ。
「……あくまで、会長に楯突こうというのですね」
「ヒナ、会長さんのこと嫌いですから」
「俺も気にいらねーな。あんなモヤシ野郎、拳一発で言うこと聞かせられるだろ」
 後輩二人が勝手に敵対意識を表明してくれた。
「ふふっ……いいでしょう。次の暴言が、戦争開始の合図です」
 ぞっとするような笑みで、沙耶歌も何やら静かに熱くなっている。
 会話という高度な意思疎通の手段を持つ人類が、なぜ戦争をやめないのか、ちょっとわかったような気がした。
「いやいや、お前ら落ち着け。楯突くとかじゃなくてな、俺の代であっさりゲキ部が潰れちゃ先輩に合わせる顔がないだろ。それだけだ」
 もちろん直哉と離れたくないというのが一番の理由だが、さっきの様子を見る限りじゃどうせ冗談としか受け止められないだろうし黙っておく。
 というか、この場でその台詞を言える勇気がない。
「だいたい、沙耶歌だって演劇部員だ。積極的にここを潰したいわけじゃないよな?」
「………………はぁ」
 逡巡。
 葛藤。
 そういった思いが込められた、それでいてそんな感情を吹っ切るようなため息だった。
「わかりました。この話はここまでにしておきます」
「あ、ああ。サンキュ」
「お礼の必要はありません」
 そういって言葉を締めくくった沙耶歌の顔は、この部室に入ってきた直後よりも、どこか疲れて見えた。
「よしっ、沙耶歌も戻ってきたし。もう一度、本読みするかっ」
「一樹」
「ん?」
「そろそろ下校時刻です。六時以降の居残りは、原則認められていません」
「……あそ」
 取り直した気持ちが、くたくたと萎れていく。
 真面目なのはいいけど、もう少し空気読もうぜ沙耶歌。


 ……とまあ、こんな感じで一日の八割を過ごしたはずだ。
 部活メンバーと一緒に帰るなんてシーンはなく、俺を含め四人ともそれぞれ別々のタイミングで校舎を後にした。
 道すがら、今日も直哉はアホ可愛かったとか、雛菊はウザかったとか、沙耶歌は苦労してそうだったとか。そんなことを考えながら信号待ちをしていたことも覚えている。
 断じて言おう。
 別にいきなり超能力が開眼したわけではないし、宇宙人にスーパーパワーを与えられた覚えもなければ、謎の集団にさらわれて改造された覚えもない。
 では、どうして。
 俺は〝俺〟を見下ろすことが出来るのだろう。
「……ってかグロッ。俺、グロ!」
 なんつーか、足とか腕とかがありえない方向に曲がっている。というか、明らかにパーツが足りていなかった。
 アスファルトの上には堂々と赤色を撒き散らしているし、目は気持ち悪いぐらい大きく見開いている。
 〝俺〟を取り囲む集団も、見た瞬間口元を押さえて目を思い切り逸らしすのが大多数だった。
 野郎にはともかく、女の子にそういう反応されるとちょっとショックだ。いや、目の前にはそれ以上のショッキング映像がいまだどくどく赤黒い水を地面に広げているわけだが。
「……えーと……」
 普通なら慌てるべき状況だが、あまりに衝撃的過ぎるせいか、ただ棒立ちになる以外何も出来ない。
 ただ、これだけはハッキリさせなきゃならないと思う。
「もしかして俺、死んだ?」
 答えは返ってこない。
 〝俺〟を取り囲む人たちにも同じような台詞を投げかけてみるが、聞こえていないのか完全に無視してくれた。
 だがむしろ、この状況が、質問の答えのような気がした。
「じょ、冗談……」
 乗用車が歩道に突っ込む──よく耳にする事故だが、まさか実際にそれが自分の身に起こるなんてことを考えられる人間が、世の中にどれだけいるだろう。
 仮に起こったとして、それを納得できるはずがない。
「冗談じゃないっ! 俺は……っ!」
 直哉と結ばれたかったなんて贅沢な願望を漏らすつもりはないが、せめて、あのツンデレヤンキーが幸せになる瞬間を見届けるぐらい、許されてもいいはずだ。
 それが、なんだ、この結末は。
 男が好きというすこし特殊な事情を除けばごく普通に生きてきた俺に、こんな展開が認められるはずがない。
「……うわあああああああああーーーーーーーーッ!」
 血を流し、ピクリとも動かない自分の身体をそれ以上見続けることに耐え切れず。
 誰にも聞こえない叫び声をあげて、俺はその場から逃げ出した。

 どれだけ走っていたのか。そもそも走っていたのかさえ定かではない移動を繰り返し、ようやく俺は足を止めた。
 集合住宅の界隈に迷い込んでしまったのか、似たような外観をした20m程の建築物が自分を包囲している。
 ムチャクチャに走ってきたせいで、どこにいけば〝俺〟がいた場所に戻れるのか見当も付かない。
 それ以上に驚くべきは、自分でもワケがわからないほど無心で走ったというのに、息切れ一つしていないことだった。
 いやでも、実感してしまう。
 いまの体は幽霊であり──俺は、死んだのだと。
「……嫌だ」
 死をあっさり受け入れられるほど、俺は潔くなれなかった。
 未練がないはずがない。
 もっと生きたいと願わないはずがない。
 そんな些細で当たり前のような願いは、絶望に取って代わられた。
「森実……か?」
「え?」
 ふいに自分の名を呼ばれ、声のしたほうへ振り向く。
 自転車を手押しする女性が足を止め、怪訝そうな顔で俺を見ていた。
 そう、俺は"見られていた"。
「なんだ、本当に森実か」
 どこか呆れたようにそう呟き、女性は自転車の脚を下ろす。
 三つ編みにした長いお下げをしっぽのように背中で揺らし、彼女はまっすぐ俺の方へ近づいてきた。
「部ちょ、あ痛ァッ!?」
 いきなりデコピンされた。
 どうやら見えるどころか触れることもできるらしい。
「何するんスか、部長!」
「元、だ。演劇部は君に任せたはずだろう」
「そんなこと聞いてません! なんでいきなりこんなマネをっ!」
「決まっている。除霊だ」
「デコピンでッ!?」
 聞いたこともない霊退治の仕方だった。
「安心しろ。次で終わらせる」
「あんたに情ってものはないんですか!」
 部活の後輩が幽霊になっているのに驚くどころか迷いなく攻撃してくるなんて、とても人間のやることじゃない。
 そもそもこの人に特殊な能力があること自体、聞いたことがなかった。
 なのに部長は手馴れた様子で、こうするのが当たり前だとでも言いたげに、俺の目の前に力を蓄えた指先を差し向けてくる。
「未練がましい霊は生きてる人間に取り憑いたりするからな。そうなるといろいろ面倒なんだ……よッ!」
「あぐぁっ!?」
 語尾と共に弾かれた彼女の指が、俺の額を撃った。
 なんらかの超能力的なパワーが込められていたのか、それとも単純にその威力が絶大だったのか。
 夕暮れよりもさらに暗い景色が、視界を暗闇に閉ざしていく。
「さようなら森実。嫌いではなかったよ」
 ……俺はあんたが、たった今嫌いになりました。






ご意見、ご感想があれば大変喜びます

この主人公設定で憑依系……? 某少女マンガじゃん。
という突っ込みは聞こえません

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
管理者の詳細

最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
FC2投票
無料アクセス解析
応援バナー
ちぇ~んじ!~あの娘になってクンクンペロペロ~
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR