長編1-2

未完成の長編を投下します
未完成のため各所で拙い点がありますがご了承ください

内容は憑依系の恋愛ストーリー
今回からTS入りました



ココロノカタチ(仮)
 
1・目覚め

 しとしとと慎ましく控えめな雨の音が、耳を撫でる。
 幽霊となり先代部長によってデコピンされるという、えらく刺激的な夢を見た後にしては穏やかな目覚めだった。
 部屋の中は薄闇に包まれている。カーテンの隙間から差し込んでいる光も太陽ではなく街灯のようだ。
 遠くの空で、今夜中に通り過ぎるはずの雨雲が不機嫌そうな唸り声を上げている。
 机の上に置かれたデジタル時計を見ると、二度寝をするには十分すぎる時間を示していた。
 が、その隣に表示された日付を見た途端、眠気よりもさらに重い気持ちが降ってくる。
「今日は月曜か……」
 土日は出来る限りこの家から出ず、人との接触を避けて過ごしたが、それももうおしまいだ。
 制服を着て、学校に行き、授業を受けるという、当たり前のようにこなしてきた日常へ戻らなければいけない。どれも、今はとても難しく思えることばかりだった。
 それでも、やらなくてはいけない。
 服の着替えについては、部長からレクチャーしてもらった。
 違うクラスとはいえ、同じ学年なのだから授業内容にもついていける。
 問題なのは人間関係だが、何とかなると思うしかない。
 とにかく俺は、可能な限り"お前"らしく振舞ってやる。
「だから、安心しろ」
 二日が過ぎようやくある程度違和感を覚えなくなってきた自分の声を聞き、ベッドの匂いと、仰向けになることでわずかに感じる胸の重量感にやはり今日も戸惑いながら。
「お休み、沙耶歌」
 俺は、今の自分のものでもある名前を呼び、まぶたを閉じたのだった。

 高瀬沙耶歌は生徒会の副会長であり、廃部寸前の演劇部員であり、女にだらしない森実一樹の幼馴染だった。
 とはいっても彼女が演劇部員になったのは二年生になってからの話で、それまでは生徒会のみに力を尽くしていたらしい。
 演劇部に入ったその理由は誰も知らない。日記でもあればそうした本心に迫れるのだろうが、あいにく最近ではそうした書記活動を行う学生は少数派であり、彼女もまたその一派だった。
 本当、世の中はうまくいかないことばかりである。
 車にはねられてわけもわからないまま死んでしまった男もいれば、その哀れな男に身体を乗っ取られてしまった女だっている。というか俺と沙耶歌のことだ。
 幽霊になったことも、先代部長にデコピンされたことも。
 気がつくと自分が、制服を少しはだけた――おそらく着替え中だったのだろう――沙耶歌の姿になっていたことも、全部、現実だった。
「これが、"取り憑く"ってやつか?」
 鏡の中に映る自分の姿と向かい合わせになり、男だったときとは比べるべくもない小さな白い手を眺めながらそんなことをつぶやいた。
 取り憑く。憑依。
 人間には魂があり、その魂が自分の肉体を離れ別の身体に宿る現象を、そう呼ぶらしい。らしい、というのはその知識は部長からの受け売りであり、くわえてそうしたオカルト分野は俺の興味の外だったためその話を聞くまで寡聞にして知らなかったからだ。
 まさか、そんな自分が幼馴染の女に取り憑いてしまうなんて想像だにしなかった。そうした状況下にいること自体、すぐに理解できるはずがない。
 そんな状況下にあっても、するべきことは決まっていた。むしろ、それしか頭になかったといったほうが正しい。
 慣れない身体でうろ覚えの道のりを歩き、感じたことのない股下の頼りなさとわずかにかかる胸の重みに戸惑いながら、やっとの思いでついさっき見た覚えのある集合住宅の界隈に行き着く。
 そこに、彼女はいた。
 妙な方面に博識で、幽霊を相手に物怖じするどころかデコピンを決めた前部長は、まるで俺が尋ねてくるのを見透かしていたように棟の入り口にいる。
 さっきと違うところがあるとすれば、制服姿から私服姿に変わっているぐらいだ。腕を組んだその佇まいは、どこか頼もしささえ感じさせる。
「森実」
 こちらが何か言う前に、外見は部長の旧知でもある沙耶歌にも関わらず、彼女はまるで当たり前のように俺の名を呼んでくれた。
 この人は俺をわかってくれる。そんな、生きているときには当たり前と感じていたことが、やけに嬉しかった。
「ぶ、部ちょ」
 俺の言葉が終わらないうちから間合いを詰められ、気がついたときには視界が部長の手のひらで覆われていた。間髪いれずに、額が指先で弾かれる。
「おあらいあたァッ!?」
 また、デコピンされてしまった。
 肉体がある分、食らったソレは幽霊のときよりも強烈に痛みが増しているような気がする。
 というか、一応この身体は沙耶歌のものなんだから、もう少し躊躇とかそういうのがあってもいいと思うんだ。
「どうしてソコにいる、森実。お前は死んだんだぞ? だめじゃないか、死んだ奴が人に取り憑いちゃあ」
 ひりひりする額を押さえる俺に、部長はお説教を始めた。ホント、何もかもに容赦がない。
 畜生……俺の感動を返せ。
「じゃ、じゃあ、死んでろって言うんですか! 死んでなきゃって!」
「……人の台詞をとるんじゃないよ、無粋な後輩だね」
 出会い頭にデコピンかます人間は無粋でないとでも言いたげだった。
 幽霊状態どころか、憑依状態にあっても、この人は俺の存在に気付いてくれた。その慧眼には感謝したいが、やっぱりこの人は好きになれない。
「まぁいい。それで? 迷える子羊よ。お前はどうしたい?」
 偉そうだった。
「子羊に躊躇なくデコピンかましたんですかアンタ」
 ああ、いいや。いちいち突っ込んでいるとキリない。
「とりあえず……何が起こっているのかさっぱりわかんないんですが」
「帰れ」
「いきなり見捨てないでくれませんかねぇっ!」
「無に還れ」
「消滅しろとッ!?」
 非道い。
 一緒に部活をやっていた頃はそれなりに親しくしていたはずなのに、この冷たさはなんだろう。
「仕方ないだろう、幽霊とは消えるべき存在だ。それとも何か、森実は高瀬の身体を乗っ取り彼女の人生を奪うつもりか」
「い、いや、そんなつもりは……」
「できるか? できるわけがない。なぜならお前はチキンだからだ」
「アンタ見え見えの挑発して俺に何を言わせたいんです!」
「女の口から言わせるつもり? キミは本当に無粋だね」
「違う! 少なくともそんな頬を染めて言うような色気づいた台詞は出てこない!」
「『ククッ、これからは俺がお前として生きてやるよ』。……いいね。萌えるよ」
「妙な性癖をいきなりカミングアウトしないでくれますかっ!」
 全っ然、話が進まないし。
 ダメだこの人。
「冗談はさておき、森実。お前の未練はなんだ?」
「は?」
「『これをやらなきゃ死に切れない』。そういった強い想いがあると、死んだ人間はごく稀にだが死後、幽霊になる。その想いを成しえたとき、あるいは振り切ったとき、幽霊は心穏やかに消えることが出来るんだ」
「はぁ……詳しいですね、部長」
「元部長、だ。受験のため、いろいろ勉強しているのさ」
 その知識を活かせるような進学先はおそらくないと思います。
「未練か……」
 というと、やっぱり直哉のことか?
 あの男が幸せになる瞬間を見届けたい。それが心残りで、俺は沙耶歌に取り憑いたのだろうか。
 惚れた男のためにあえて自分を殺し、恋敵のキューピッド役に徹するなんて、我ながらずいぶん健気じゃないか。
「ふむ……頬を緩めてニヤニヤする美少女は萌えるね。中身が男だと知っていても──いや、中身が男だからこそか」
 部長は自分のあごをさすりながら、まじまじと俺を観察して妙なことを呟いている。
 そういえばこの人、俺が幽霊だったときは有無を言わさず除霊しようとしていたくせに、沙耶歌の姿のときは普通に会話してくれている。いや、あのやり取りを普通といえるかどうかはかなり微妙だがとりあえず話し合いをする態度は取ってくれている。
「どうした? 『百合プレイとかしてみたかったんだよな~、フヒヒ』みたいな目で私を見るんじゃない、このケダモノ」
「言いがかりにも程があるッ!」
「ちなみに私は百合もBLもTSもイケるクチだ」
「受け入れる気満々ですねぇ!」
 というかこの人、さっきから自分をさらけ出しすぎだ。
 学校ではもうちょっと大人しかったと思ったけど……。アレか、勉強疲れか? 大変だなぁ、受験生。
「まあ、未練を話したくないのなら話さないでいい」
「へ? いいんですか?」
「ああ、聞かない。面倒だしね。自分で勝手に解決して一人で勝手に成仏すればいい」
「そこはかとなく悪意の感じられる台詞ですね」
「ふふふ、サービス期間は終了したのさ」
 俺はいつこの人にサービスされていたのだろう。
 一瞬たりとも覚えのない記憶を無駄とわかっていながら探っていると、ひゅぅっと強めの風が吹いた。
「……風が出てきたね」
「え、あ、ああ。そうですね」
 ひらひらと中身を見せびらかそうとするスカートの裾を握り締め、上の空で部長に相槌を打つ。
 本当に頼りないなスカート。
「そろそろ私は行くよ。早くしないと卵のサービス期間まで終わってしまう」
 部長はそういって話を打ち止めにすると、俺の肩に手を置きそのまま横切った。
 俺を待っててくれたんじゃなかったんだ……。まぁ、いいけど。
 しかし自分で解決しろといわれても、どうしたら良いのかよくわからない。
 それに沙耶歌の魂はどうなったんだろう。俺が取り憑いたせいで身体からはじき出してしまったのか、それともこの身体の中で眠っている状態なのか。
「森実」
「はい?」
 呼ばれて振り向くと、部長は自転車にまたがり、すぐにでも発進できる体勢のまま余裕ぶった笑みを向けていた。
「行き詰ったときは私を頼りなさい。アドバイス程度ならしてあげよう」
「部長……」
「百五十円で」
 人の感動をことごとく打ち砕く人だなぁっ!
「同じ部にいたよしみで二回も除霊を試みてあげたんだ。これ以上のただ働きはごめんだね」
「有料だったんですか、デコピン(アレ)!」
 もう進路は霊能者とかにすればいいのに。
 そういえば霊能者ってどうやったらなれるんだ? 明らかに神社仏閣とは無関係そうな人間もそう名乗っているし自称で良いのかもな――って、今考えることじゃないぞコレ。なんか、部長の妙な言動に引っ張られてこっちまでどうでもいい事を考えてしまっているっぽい。
「それじゃあ、せいぜい頑張るがいい」
 人の内心を好き勝手引っ掻き回して満足したのか、部長は背中のお下げ髪をひらりと風に踊らせ、自転車を漕ぎ始めた。
「あ……ちょっと、待って!」
「うん?」
 慌てて呼び止めると、ほとんどスピードの乗っていなかった自転車が鈍い悲鳴を上げる。
 完全にもう話は終わらせたつもりだったのだろう部長は、少しばかり文句の言いたそうな顔で再度俺を振り向いた。
「なんだ」
「いや、あの……いきなりですけど、アドバイスください」
「スタート直後にBダッシュはやめたほうがいい。慌てずに最初のエネミーを踏むんだ」
「なんのアドバイスですかッ! そうじゃなくて、その、女の服の着方とか、いろいろ……」
 なぜか気恥ずかしさを感じ、少しずつ声が小さくなってしまう。
 でもしょうがない。俺は十七年間、男として生きていたわけだし、いまさら女としてスムーズに生活できるはずがないのだから。
「ああ……」
 これまで一度たりとも崩さなかった薄ら笑いが引っ込み、大変珍しいことに目を丸くしている。
 と思ったら何がおかしいのか、いきなり優しげな顔で微笑まれた。
「いいよ。私がキミを『高瀬さん、最近変わったな』『でも、いまの副会長の方が好きだな』と言われるよう指導してあげよう」
「そこまで頼んでいません!」
「とりあえず、女らしくするためにワイシャツのボタンは第三ぐらいまであけておけ。スカートはもっと短めにな」
「アンタ、ドライで真面目な生徒会副会長を何キャラに改造する気ですか!」

 そんな経緯があったのが、いまから二日前のことだ。
 部長にも言ったが、俺はこのまま沙耶歌として生きるつもりはない。速やかに俺の未練を晴らし、一日でも早く本人に体を返してやることがベストだ。
 土日は自分の葬式への参列や、高瀬沙耶歌として不自然なく過ごすための勉強などで費やしてしまったが、おかげで基礎知識はだいたい頭に詰め込んだ。とはいえいざそれを自然に実行できるかといえば不安でないはずがない。
 例えば、うっかり入るトイレを間違ってしまったり、イスに座るときに脚を開いてしまったり。一番ありえそうなのが自分のことを"俺"と言ってしまうパターンだが、それらは実際、大した問題じゃない。何度もそれらを繰り返すのはさすがに怪しまれるが、一度や二度くらい勢いや下手な言い訳で乗り切れるはずだ。
 しかし、直哉と会った時に平然としていられる自信はまったくなかった。
 沙耶歌のように、生徒会長を悪く言われた程度で直哉と対立できるわけがない。俺自身、少なくともあの会長に好意を持っていないのは確かなのだから。
 なにより、俺はいま、女だ。
 もし自分が女だったら、直哉にアタックをかけていたことは間違いない。いつもいつも考えていたその『もしも』が、悪趣味な神様のおかげで叶ってしまった。
「直哉……」
 沙耶歌の声色で、一番好きなツンデレヤンキーの名前を呼んでみる。
 それだけで、胸が締め付けられるような切ない気持ちが襲ってきた。
 もう一度言うが、俺は沙耶歌の人生を奪うつもりはない。ただ、理性とは別の箇所にあるこの想いが表面化したとき。
 果たして俺は、自分を保てるのだろうか。
 つーか無理っぽい。




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地盤固めの描写って大事だと思うんだよね
前作といい、それを回想で済ませるのはどうかと思う
成長してない証拠だHAHAHA

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巫

Author:巫

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・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

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・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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