長編1-3


未完成の長編を投下します
未完成のため各所で拙い点がありますがご了承ください


今北産業(あらすじ)

ツンデレヤンキー直哉に好意を抱く一樹(♂)は事故で死んだ
が、なぜか幼馴染で生徒会副会長の沙耶歌に憑依してしまう
とりあえず沙耶歌として生活することにした一樹だった

ココロノカタチ(仮)

2.登校

 二度寝をしたにもかかわらず、朝の七時ごろにはすっきり目が覚めた。
 沙耶歌になって三日経つが、どうもこの身体には早起きの習慣が染み付いているらしい。
 寝る前に聞いた気象予報士の予言は珍しく当たったようで、カーテンを開けるまでもなく今日は快晴であるとわかる。
 惜しむべくは、そんな青空を見上げる俺の気分が大して良いというわけではないことぐらいか。
「愚痴ってても仕方ねーよな」
 個人の気持ちに合わせた気候にしてやる義理など天気には何一つない。
 そんなどうしようもないことを考えていないで、さっさとやるべきことを済ますべきだ。
「あー……」
 部長のレクチャーによれば、朝起きたらまずシャワーを浴びるべきだと教えられている。
 もちろんこの二日、トイレにも行ったし風呂にも入った。女の裸が見れてヒャッホー、と浮かれもした。
 だが、罪悪感を抱いていないわけじゃない。むしろ、そういった行為のたびにいたたまれなさは強くなっていく。
 トイレは生理現象だからどうしようもないが、風呂ならば自分の気持ち一つでその回数を減らせる。沙耶歌のイメージを出来るだけ崩したくなかったが、この身体を間借りしている以上、バスタイムは一日一回にするべきじゃないだろうか。
「沙耶歌本人だって、俺に何度も裸を見られたくないよな」
「────当たり前です。男は変態でも紳士であれ、という格言があります」
「ハハハーだよなー」
 朝っぱらからベッドの上で胡坐をかき、急に一人二役を演じ始める女の姿が鏡の中にあった。っていうか俺だ。
 ぶっちゃけいうと朝から風呂なんて面倒くさいとか、そんなことは決して思っていない。
「にしても意外と演技派だな、俺」
 最初こそうまく沙耶歌になりきることができるのかと懸念していたが、やってみれば実際なんとかサマになっている。
 伊達に演劇部で部長を任されていたわけじゃないってことか。別に、女役をやるのはこれが初めてってわけじゃないし。
 それでも、下着まで女モノだというのは流石に未体験ゾーンだ。
「……やっぱ、着替えなきゃなぁ」
 風呂、トイレに次いで俺に申し訳なさを植えつける生活習慣である。
 沙耶歌本人の意識がないというのは、ある意味ラッキーだった。もし二心同体みたいな状態だったらと思うと、どれぐらい騒がれるか想像に難くない。
「許せよ、沙耶歌」
「────仕方ないですね。とでも言うと思いますか」
「デスヨネー」
 自分で自分の傷を広げ、鏡の中の沙耶歌はパジャマの上着に手を伸ばした。
 男のときとは左右逆のボタン配置にももう戸惑うことなく、割合スムーズに外していく。が、上から三つ目のところで手の平に柔らかな触感を得た途端、指先が止まってしまった。
 これ以上の開放は即ち、第二次性徴を迎え年相応に隆起した少女の胸の露出を意味する。
 いい加減に慣れろよと思うが、土台、無理な話だ。ナマ乳を拝む機会など生きていた頃にもあったが、それが自分についているのといないのとじゃ、緊張の度合いがまったく違う。
 かといって目を瞑ったまま着替えを行えるほど手馴れてはない。むしろそんなことをすればいらん所まで触ってしまうのは実体験済みだった。
 母親に手伝ってもらおうにも、高瀬家はすれ違い生活らしく滅多に顔を合わせない。そもそも、いい歳した娘が母親を呼びつけて着替えを手伝って欲しいなんて頼めるかっつーの。
 当然、このまま硬直していたら遅刻どころか夜になってしまう。沙耶歌として違和感なく過ごしてやるつもりだったのに、初日からサボりなんて意志薄弱もいいところだ。
 ならば、どうするか。
 テレビならば放送事故が起こったときのように。
 危ない発言には、銃声がかぶさるときのように。
「ラーララララーララララー」
 美しい風景でも心に描き、さわやかな歌を口ずさみながら。
 俺は無心のまま、着替えを敢行するのだった。
 …………おっぱいやーらけぇー。


 煩悩との戦いにからくも勝利し、下着よりは幾分か落ち着く女子の制服姿でいつもの通学路を歩く。
 休日の間は基本的にパンツスタイルで過ごしていたせいで、スカートの頼りなさにはいまだ緊張してしまう。さすが生徒会副会長だけあって丈の長さはキッチリしているが、恥ずかしいものはどんな長さだって恥ずかしい。演劇部での女役はあくまで劇の一環だったし、こんなありふれた日常風景の中での女装というのはかなり精神的に堪えるものがあった。
 自意識過剰なのは十分に理解しているが、同じように学校へ向かう生徒達の視線が妙に突き刺さるような気がする。
 諸君、これが話に聞く、針のムシロというやつですよ、たぶん。
「ん?」
 落ち着かない気持ちをごまかすようにきょろきょろとせわしなく視線をさまよわせていると、道路の脇にポツンと供えられた花束が目に入った。
「ああ……」
 曲がったガードレールや、アスファルトに刻み付けられたタイヤ跡を見るまでもなく、直感的にわかる。
 ここは、俺が死んだ場所だ。
 葬式にまで参列しておいて言うのもなんだが、事故現場を見たことで初めて、ようやく自分が死んだことを実感する。
 むにゃむにゃと湿っぽいお経を唱える坊さんの声を聞いていても、泣いている親やクラスメイトを見かけても、どこか自分とは関係のない出来事のように思っていた。
 でも、無自覚でいれば現実が変わるわけでもなく。
 森実一樹という男の生涯は、間違いなく、ここで終わってしまったのだ。
「あー……やめだやめ」
 暗く沈みかけた気分は、ぶつけどころのない苛立ちを生む。そんなどうしようもないネガティブに付き合う暇があるなら、もっと違うことを考えていたほうが有意義だ。
 たとえばこの、道路に添えられた花を置いた誰かの姿を思い描いてみる。
 いつも無愛想なツンツン頭の男子高校生が、花束を抱え朝もやの中で一人涙していた。
「へへ~……直哉のツンデレめっ」
 朝の通学路で急にニヤケたと思いきや妙なことを口走る。男の俺がやると随分アレな行動だが、美少女の姿ならば不思議と許されるような気がした。
 可愛い女の子は得だね、いろいろと。
「……どうして、笑っていられるんですか?」
「ほへ?」
 突き刺すような声が後ろから聞こえ、緩んだ頬のまま振り向く。
 そこにいた女の子が誰だったのか、俺は一瞬本気でわからなかった。
 トレードマークの大きなリボンが外され、束ねられていた髪を下ろしているから?
 いつものはじけるような笑顔ではなく、まるで一睡もしていないような荒んだ顔つきだったから?
 それもある。だがそれ以上に、いまの彼女には普段の彼女を思い出させない決定的な違いがあった。
「先輩が亡くなった場所で、どうして笑顔でいるのかと、ヒナはそう聞いているのですよッ!」
 外見でも表情でもなく、憎しみや苛立ちを積み重ねたようなそのトゲトゲしい声が、俺の知っている雛菊とあまりにも違いすぎている。まるで、別人……いや、もしかしたらこっちが雛菊の本性かもしれない。『無垢で可愛い後輩』が演技だったとまでは言わないが、あくまでもそれは表の顔でしかなかったわけだ。
 誰だって表と裏の二面性は持っている。雛菊も普段はそれを上手に使い分けているのだろうが、今回ばかりは冷静さを欠いたらしい。
 好意を持っていた男の事故現場でニヤケるような女を、許せるはずがない。たとえそれが美少女だったとしてもだ。
「そうだね、不謹慎だった。ごめん」
「ヒナはそんな言葉聞いていません。この場所で、何を思い出してあんな顔になったのか、それを聞いているのですよ」
「…………」
 彼女が、本気で怒っているということは伝わってくる。目元に作られたクマが、泣きはらした顔が、気を遣われた形跡のない下ろしたままの髪が、雛菊の傷心を如実に物語っていることもわかる。
 けど、言っていいかな。
 うぜー。詰問女うぜー。
 ニヤニヤしていた理由聞いてどうするんだよ。
 事故現場で笑っていたのは確かに不謹慎だったけど、世の中が自分の価値観が基準じゃないんだ。他人に、お前の悲しい気持ちに付き合うことを強要しないで欲しい。
「何を睨んでいるのですっ。ヒナ、正しいことを言っています!」
 正論で全員がはいそうですかと納得できればみんなハッピーになれる。やったね、世界平和の完成だ。
 本来なら無視しておきたい相手だが、このギャップのありすぎる雛菊の二面性に直哉がショックを受けてしまわないだろうか。
 受けそうだよなぁ。結構もろいし、アイツ。
 あまり気は進まないが、彼女を落ち着かせてやったほうが良さげな結論に行き着いてしまった。
「ヒナ……福山さん」
 思わず彼女のあだ名を呼びそうになり、慌てて修正する。こんな激情に身を任せたアホ娘に正体を悟られてしまっては、何をされるかわかったものじゃない。
 呼吸を整え、俺は出来る限り確実に、高瀬沙耶歌のイメージへ近づいていった。
「――――睡眠はしっかりとったほうがいいですよ。寝ないと、人はイライラしやすくなります」
「何を言って……」
「寝不足のせいで可愛らしい顔も台無しです。きっと一樹も悲しみます」
「先輩、が……?」
「ええ。こんな風に、福山さんのいつもの優しい笑顔が消えてしまったと知れば、きっと」
 我ながらよくもまあ口が回る。ほとんど嘘だけど。
 〝一樹〟の名前を出したのが効いたのか、雛菊の表情はだいぶ落ち着きを取り戻したものに変わった。
「……ごめんなさい。ヒナ、確かに少しイライラしていたかもです」
 小さな声だったが、そう言ってしっかりと頭を下げる。
 どうにか沙耶歌を演じきることに成功し、彼女をクールダウンさせることが出来たらしい。
「先輩が亡くなって……ヒナ、悲しくて悲しくて……」
「……うん。ありがとう」
 あまり好感を持っていなかった相手とはいえ、こうまで慕ってくれていた女の子を無下にするわけにもいかず、つい〝一樹〟としての言葉が出てしまった。
 俯いていた顔を上げ、涙を溜めた雛菊の瞳がじっと俺を見つめてくる。
「……えへへ。なんで、さーちゃん先輩がお礼を言うのですか」
 十分に梳かしていないくたくたの髪で、泣き腫らした顔が、涙をこぼして目を細めた。
 死んでからようやく、上っ面でない雛菊の笑顔を見れた、そんな気がした朝の登校風景だった。

 そんな風にちょっといい感じの話っぽく一日の始まりを過ごせればよかったのだが、とかく神様は悪趣味らしい。
「ッ……!」
 サイコロを積み重ねたような形をした、アイボリー色のどこにでもありそうな靴箱を開けた瞬間、俺は呼吸を忘れてしまう。
 沙耶歌のロッカーには、正六面体すべての面に、悪意が刻まれていた。
 『死ね』
 小学生でも思いつける簡単な一言。それが、黒のマジックで大小問わずぐちゃぐちゃに、びっしりと書きなぐられている。
「……マジかよ」
 品行方正でクールで、現在は俺の身体でもある生徒会副会長の少女は、どうやら、陰湿ないじめを受けているらしかった。





これって、純愛センセー「それ以上はいけない」

書き溜め分が尽きました
ここからが本当の地獄だ……
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