青運命 1

「ネコス」シリーズの番外編を投下します
ネコスシリーズを知らなくても問題なく読めるよう配慮はしているつもりです

TS成分薄めな上に語彙が所々R18っぽいのでご注意ください
あと、あまりお気楽でもありません


【ネコス・ブルーディスティニー】 その1

 愛し合う男女はよく自分たちのことをこう例える。
 六十億もの人間がいるこの世界で、あなたと出会えたことは奇跡に等しい、と。
 まさに二人は運命の出会いなのだ、と。


 ……バカバカしい。
 世界は広くとも、世間は限りなく狭い。
 自分の及ぶ範囲でしか生きていない輩が、奇跡を例えに出して運命の出会いだとうそぶく様はこっけい極まりない。
 本当の奇跡とは、神の意志が必要だ。神のみぞ知る世界からの介入を受け、ようやく一つの事柄は奇跡になり、運命になる。
 何がいいたいのかというと、つまり兄妹として生を受けた男女こそ、まさに奇跡の象徴であり、運命の出会いだということです。
 故に、誰にも負けることない強い意志を持って、私こそが運命の相手であるという自負を胸中で呟く。

「お慕いしております……兄さん」

 私の兄は、完璧だった。
 スポーツ、勉強、娯楽、どれをとっても、私は兄以上に見識がある人間と出会ったことがない。
 女のような顔つきは好みが分かれるところだが、逆に言えば妹である私こと青葉は兄に大変よく似た顔だと捉えることができる。
 だから、私は自分の顔も好きだった。兄さんに似ているこの顔が好きだった。
 恥ずかしい話になるが、兄さんの服をこっそり拝借し、兄さんのマネをして自分を慰めたこともある。
 ……そのぐらい、私は兄さんのことが大好きだった。
 同世代の男に何度か告白を受けたこともあるが、全て断ってきた。兄以外の男性の、なんとくだらないことか。
 女の胸を見て、尻を追い回し、段差があればスカートの中をのぞこうと必死になる憐れな存在を、どうして好きになれよう。
 兄さん以外の男はくだらない。
 兄さんがいればそれでいい。
 兄さんは私の全て。

 …………ところが。
「あ、お帰りなさい。青葉ちゃん」
「……?」
 あの日、家に帰ってきた私を出迎えたのは、私によく似た年上の女性で。
「……どちら様ですか?」
「あははー、実はですねぇ」
 兄によく似た笑い方で、くねくねぶりぶりと女の仕草を全身で表しながら。
「お兄ちゃん、今日からお姉ちゃんになりました」
「………………はい?」
 ニコニコと、その人は私の兄さんの肖像を、粉々に砕いてくれたのでした。

***

 それから数年が過ぎ、私は高校生になりました。
 すでに兄……元兄は家を出て、いまはこじんまりとした喫茶店を経営している。
 完璧だった兄ならば、さぞかしおいしい料理を振舞っていることでしょう。私は一度も行っていませんし、これから先も行く気などありませんが。
「……兄さん」
 女になった兄さんは確かに美人だった。しかし私は、まるでぽっかり心に穴が開いてしまったような状態で過ごしていた。
 理想の男が突然美女に性転換し、私の恋心は宙ぶらりんになってしまっている。
 兄が女になったからといって冷めてしまうような気持ちではなかったことが、余計に私を苦しめていた。
「お姉さま……?」
 ふいに隣から聞こえてきた声に、私は現実に引き戻される。
 いつもの通学路。見慣れた並木道。そして……。
「青葉お姉さま、どうしましたか? お加減が優れないようですが」
 私の横で私と並んで歩く、私を愛しいと言ってくれる女の子の姿が、そこにあった。
「……ごめん。ちょっと昔のこと、思い出していただけです」
「昔の……」
 心配そうに私を見る彼女とは、もう二ヶ月の付き合いになる。
 兄が女になったのならば、私が男になろうと。そう思いつめた結果、気が付くといつの間にかこんな関係が生まれていた。
 気が小さく、守ってあげたくなる可愛い女の子で────憐れにも、私の欲望のはけ口に選ばれた少女。
「お姉さまも、やはり昔、男性に酷い目にあわされた経験がおありなのですね……」
 多少思い込みが強く、男性恐怖症の彼女は、とにかく男を毛嫌いしている節がある。だからこそ、私が彼女の肉体を求めても強くは拒まれなかった。
 私達の関係は、傷の舐めあいだ。
 かたや、男のために女の子へ走った私。
 かたや、男を恐怖し女の子に逃げた彼女。
 そんな二人が、心の結びつきまで求めるのは不相応というものだろう。
「でも平気です。お姉さまには、私が付いております。私は一生、お姉さまから離れませんっ」
 だのに、この子はそう思っていないらしい。
 いつもいつも、真っ直ぐな好意で、より強い結びつきを私に求めてくる。
 私には────それが苦痛で仕方なかった。
「……あの」
「なんですか、お姉さま」
「お姉さまって言うの、やめてください」
「え……」
「私は、妹です」
「で、では、わ、私がお姉さま……ですか?」
「それも違います」
 私は、妹だ。『兄さん』の妹だ。
 それ以外の何者でもないし、何者にもならない。
 この期に及んでも、私にはそのフレーズしか頭になかった。
「あの、あのっ、わ、私、何か粗相がありましたか? お姉さまのことを、こんなにこんなに愛しいと思っておりますのにっ!」
「それは、貴女のわがままです……そもそも私には、あなたの愛を受け取るつもりはありません」
「そんな……」
 彼女が、よろめく。
 いままで散々、彼女の身体を抱き、乳房を辱め、愛液を交換してきた『お姉さま』が、突然、拒絶をはじめたことが信じられないのだろう。
 しかし一度開いた私の口は、とどまることを知らず、次々に彼女の心をえぐっていった。
「そもそも、あなたとはただの遊びなのです。なのに、あなたは必要以上に私に依存をしてくる……いい加減、うんざりしてきたところです」
「お、ねえ、さま……」
 彼女の目じりに、じわじわと涙が溜まっていく。
 我ながら、酷い女だ。別れを告げるにしてももっと他にいいようがあるものを。
「もしそれでも私を求めたいのなら、ここからはビジネスです。一晩につき一枚で愛を囁き、優しく抱いてあげま──」
 パンッと乾いた音がし、私の頬に痛みが走る。
 視線を彼女に戻すと、彼女の綺麗な瞳からはボロボロと滴が零れていた。
「……最低」
 初めて聞く憎憎しげな口調を最後に、彼女は私に背を向け、一度も振り返ることなく歩き去った。
「……痛い、ですね」
 叩かれた頬に手を添える。ジンジンと痺れるような痛みは、やがて熱を持ち始めた。
 家に帰ったら、すぐ冷やしましょう。
 お風呂に入って、冷たいシャワーを浴びて……彼女との思い出もすべて、洗い流しましょう。
「……あなたの愛に応えられず、ごめんなさい」
 姿の見えなくなった彼女へ、絶対に届かない言葉を贈り。
 私は、彼女の去った方角とは正反対の道を歩きはじめるのだった。




続きます
短編というより中篇
つーか暗ぇ
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・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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