橙日々2

「ネコス」シリーズの番外編を投下します。
ネコスシリーズを知らなくても問題なく読めるよう配慮はしているつもりです
今回もTS成分なしな上にテンション暗めなのでお気楽を求める方はご注意ください

【みかんデイズ】 その2

「婚約者、ですか」
 父の連れてきた客人は、近い将来、私の妻となる予定の女性らしい。



 女性の家名は私の耳にも届いている。
 強い家と強い家が結託し、より強大な結びつきを得るための結婚だということはわかりきっていた。
「お前もいい歳だ。結婚をして、所帯を持ってもなんら不自然はない。だろう?」
「はははっ」
「結納の日取りは追って知らせる。それまでしばらく、未来の妻との親睦を深めておきなさい」
「はは……っ」
「それじゃあ俺は失礼するよ。今日はこれから大事な取引先との会議があるんだ」
「は……っ」
「大丈夫。セキナと夫婦になることに、彼女はなんの異論もない。お前は、愛されているのさ」
 今日、初めて会ったばかりの男を?
 さすがの私も、それ以上の乾いた笑いは出せなかった。

 家のために、初見の相手と所帯を持ち。
 家のために、愛する者さえ定められた私は。
 笑顔以外の表情を、忘れてしまいそうだった。

「ふつつか者ですが……」
 父の連れてきた女性は、奥ゆかしい物腰で深々と頭を下げる。
 彼女も私と同じく、家のため供物にされた哀れな存在なのだろうに、そういった悲壮は表情に感じさせない。
 自らの生き方を納得している者が見せる、しっかりとした意思が、彼女にはあった。
「……あなたは、疑問ではないのですか?」
「はい?」
「私とあなたは初対面だ。なのに、あなたは私との婚約を納得している。なぜです?」
「……貴方様は、食事をすることにいちいち疑問をお抱きになっているのですか?」
「は……」
「わたくしの存在意義は、御家の為にあります。それは、名家の産まれである以上、当然の認識ではありませんか」
「……」
 なるほど。
 つまり、私は覚悟が足りなかったようだ。
 これが我が運命と諦観するのでは、まだまだ家の供物に及ばない。
 彼女は、家のために生き、家のために死ぬ。それが、摂理だと。
 自分の気持ちなど、はなから度外視し。食事をするような感覚で、見ず知らずの男に嫁ぎに行けるのだ。
「いや、素晴らしい。と褒めることさえ、あなたには不思議なのでしょうね」
「そうですわね。わたくしのどこが素晴らしいのか、理解できません」
 その、家のために文字通り滅私奉公できる境地が、です。
 そこは、私には到底たどり着けないであろう、しかしいつかはたどり着かなければいけない場所だ。
「セキナ」
「うん?」
「あら」
 ドアを叩く音に続いて、少女の呼びかけが私を『私』に引き戻す。
 ……そうだ。まだ、私は『家』になるわけにはいかない。
「お話があります。入ってもよろしいでしょうか」
「……いや、私が出るよ」
 私は、あの少女に何を期待しているのだろう。
 アレはただの少女だ。私を捕らえて放さない呪縛を壊せるはずもない、どこにでもいる女の子だ。
 それなのに、どうして。
「メイドが呼んでいますので、少し失礼します」
 私は、未来の妻をこの場に残し、侍女の元へ向かうのだろうか。
「未来の旦那様」
「はい?」
「わたくしと正式に結納を交わした暁には、今のメイドに暇をお願いしたいのですが」
「どういう、意味ですか?」
「貴方様の傍には、わたくし以外、必要ありません」
「………………」
 この言葉は、好意や嫉妬から出た物ではない。
 おそらく『家』の成長のためにも、黄花は私の傍に置かないほうがいいと判断したのだろう。
 私の懸想を見抜かれたのかどうかはわからない。だが、この女は確実に黄花を排除するつもりだ。
「手続きはわたくしにすべてお任せください。貴方様はただ一言、メイドに暇を与えると言えばよいのです」
「……では、結納後、そのように」
「物分りが良くて助かりますわ」
 にっこりと微笑んだ女は。
 私が縛られている『家』の呪縛以上の、得体の知れない不気味さを醸し出していた。
 おそらく父は。
 とんでもない化物を、橙藤に呼び入れてしまったらしい。

「セキナ、私は婚約に反対です」
 広間の大階段前まで来て、ようやく周囲から人気がなくなる。
 それと同時に、黄花はそう口火を切った。
「……誰から、婚約の話を?」
「執事さんです。いいえ、既に使用人全員の噂になっています」
「はっはっ。セキュリティの甘い屋敷だね」
「誤魔化さないでくださいセキナ。私は婚約に反対です。私だけでなく、執事も他のメイドも、婚約はしないほうがいいと口を揃えているのです」
「……彼女が、化物だから、かい?」
「化物? ……そうですね、あの噂が真実なら、そう呼ぶのが相応しいかもしれません」
 あの噂。というのが何か知らないが、私の抱いた不安はどうやら的中したらしい。
 だが、それでも。
「父の……『家』の決めたことだ。私に拒否権などないよ」
「しかし!」
「立場をわきまえてくれ、黄花。君はメイドで、私はこの屋敷の主人だ」
「セキナ!」
「ちょうどいい、君に暇を与えるよう言われたばかりだ。少し、冷静になりなさい」
「……ッ! こんなの、絶対に間違っています」
「そうだね」
 それでも変えられないのが、家の『呪縛』たるゆえんだ。
 小娘一人喚いたところで、何も影響がない。
「じゃあ、私は戻るよ。……未来の妻のところに」
「行かせません。まだ、話し合う必要があります」
「無駄だよ。もう話すことはない」
「無駄とわかっていても、何もせずいじけているよりずっとマシだ!!」
「黄花……」
 メイドとして相応しいよう、努力に努力を重ね身に着けた口調をかなぐり捨て、主を糾弾し、小さな少女は私の腕をつかむ。
 形相は初めて出会ったときのように、尖りきっていて。
 なのに私を引き止める力は弱々しくて。
「……君が男で私が女だったなら、未来も変わったかもしれないね」
「男の力で令嬢を無理やり外に連れ出せと? ふざけるな。自分の問題ぐらい自分で解決しろ!」
 絶叫し、腕を引き力が急に力強さを増す。
 微動だにしなかった私の身体が、その引力に負け、彼女の望む位置へと移動を始めた。
「あ……」
 問題なのは、腕を引く黄花は望む位置を定めていなかったことだ。
「え……」
 結果。広間の大階段の上で盛り上がっていた私達は。
 二人、もつれ合うようにして。
 階段を、転がり落ちて行くのだった。



つづく



ちょっと、ところどころ何を言っているのかわかりづらいorz

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