橙日々3

「ネコス」シリーズの番外編を投下します。
ネコスシリーズを知らなくても問題なく読めるよう配慮はしているつもりです
TS成分薄味な上に地の文がほとんどない会話進行なので各所でわかりづらいです。ご注意ください

【みかんデイズ】 その3



「……なんだ、お前は」
「ずぶ濡れの少女に手を差し伸ばす、ただの暇人です」
「私にひどいことをするつもりか? そこの草むらに落ちていたエロ漫画みたいに」
「幼児体型はちょっと」
「殺すぞ笑顔サギ」
「…………」

 その少女は、私の笑顔を偽りだと切り捨てた。


「よく似合っていますよ」
「お世辞はいい。……メイドコスの私に欲情するのか? 引き出しの二重底にしまってあったエロ漫画みたいに」
「なぜ知っていますか」
「ふん。……まあいい。しばらくお前のところで働いてやる」
「あー、では、まずいい加減名前を教えてくれませんか」
「黄花だ。よろしくな、セキナ」
「…………」

 その少女は、両親以外から呼ばれなくなった私の名前を呼び捨てにした。

「主が風邪とか、笑えません」
「ははっ……げほげほ」
「他の使用人は、みんな通常業務というのも笑えません」
「……いいんだよ、私に何があっても、いつもどおりの仕事をするよう言いつけたのは私だ。……君も、自分の仕事に戻れ」
「だが断ります」
「黄花」
「私がずっと傍にいます。セキナが望むなら、エロ漫画のように看病します」
「…………普通に、看病してください」

 その少女は、主の命に逆らおうとも私の傍にいると誓った。

 彼女の一挙一動が、私の世界を壊していった。
 そんな彼女に私はどんどん惹かれた。
 それなのに、『家』は私から彼女を引き離そうとする。家の傀儡にしか過ぎない私は、その命に従う。
 心を砕き。全ての感情に笑顔を纏い。
 私は、私の安らぎを、私の手で無くそうとした。

「ん……」
 高い天井につるされた電灯が、私のまぶたを瞬かせる。
 私は、どうしたのだろう。
 黄花と階段から落ち、それから?
「……?」
 視界の端に、鮮やかな金色を持つ毛先が入り込んだ。
 私の髪は、こんなに長かっただろうか。それに、ここまで見事な金色に染めた覚えもない。
 気付かない振りをしようと思った。だが、一回でも気に留めてしまえば、疑問は次々にわき上がる。
「何が起こっている」
 天井が、高い。声が、高い。
 視界が低い。手足が短い。
 胸は変わらず平坦だが、服が──女物。見慣れた、メイド服を身に着けていた。
「まさか……っ」
 常識的にありえない予感を抱き、鏡を探す。
 しかし、扉を開ける音が、私の探索を邪魔した。
「入るぞ」
 そう言って入ってきたのは、初老に差し掛かった屋敷の執事だった。
 私が生まれる以前から使用人をしている彼が、ノックを忘れるはずもない。
 だが、『私』がノックを必要としない相手だとしたら?
「大変だ、メイド長。若が乱心した」
「メ……イド、長?」
 その役職を冠する者は、私の屋敷には一人しかいない。
 そして、彼が『若』と呼ぶのは、赤那──つまり、私だけ。
「失神から目覚めたばかりがすまないが、すぐに若の元へ向かってくれ。私は相手の女性をなだめる」
「……何が、あったんです?」
「赤那様が、例の女性を罵倒した」


「結婚をし、セキナを陰から操るつもりなんだろう? エロ漫画みたいに」
「えろ……? 何をおっしゃっているのか、わたくしには理解できませんわっ。戻ってきたと思ったら、突然わけのわからないことばかり!」
「エロ漫画も知らないのか、箱入りめ。夫を裏で操る家系の癖に、そういう教育はしてこなかったのか? 妲己を見習え!」
「ダッキ? 海外の方ですか?」
「ははっ。おい、コイツはとんだ無能だぞ、親父殿!」
 私の部屋では、『私』が未来の妻に向かい、携帯電話で誰かと話しながら暴言を振り撒いていた。
「若! 言葉が過ぎますぞ!」
「何を言っている、ジジイ。コイツの家系がどんな人間を輩出してきたのか、苦々しく口にしたのはお前だろ!」
「な、なぜそれを……」
「ふん。いいか、親父殿。この女の家は、上辺だけの名家だ。結婚して名のある家とのパイプをつなぎ、相手の財力を裏から自分の家へ配給する寄生虫だ! それをお前は理解しているのか! していないだろうな、ただの傀儡ごときでは!」
「な、な、な……」
 怒涛の展開、とはこのことを言うのだろう。
 『私』が紡ぐ、私の知らない情報に。
 私が逆らえるはずのない父を相手に、『私』が糾弾する光景に。
 何より。
「ジジイ、この女を調教しろ。エロ漫画みたいに!」
「こんな年寄りに何をさせるつもりですか、若!」
 語尾にずっと付いてくる、大声では口にするのをはばかれる単語が、私の予感を確信に変えた。
「おう……か」
「む。セキナ……ではなく、オウカ。目が覚めましたか」
 どうやら、私と黄花は。
 心と身体が、入れ替わってしまったらしい。


「それで、どういうわけですか」
 あっけに取られる未来の妻や執事を部屋の外に追い出し、私と黄花はようやく落ち着いて話し合う状況を作ることができた。
「どういうわけもなにも、私の言ったとおりです、セキナ。あの女は、他人の成功をすする化物です」
「そうじゃない。なんで、私と君が入れ替わっているんだ」
「奇跡でしょうか。私がセキナを案じるあまり、神が入れ替わりを敢行したのでは」
「ありがたみのない奇跡ですね」
 どうやら、こうなった原因は彼女にもわからないらしい。
 ならば、ひとまずこれからどうするかを考えた方が建設的だろう。
「どういうつもりですか、黄花。あなたのせいで、何もかもが滅茶苦茶になりました」
「あんな女との結婚を無理強いするような状況は、全部壊した方が良いと思います」
「それは、私が決めることだ!」
「嘘だ!!」
 じっと、私の顔が私を睨みつける。
 自分の顔を見上げるという行動は、私を妙な気分にさせた。
「セキナ。あなたはすべて橙藤家のために決定しているだけだ。そこには自由意志などなく、決定権もないただの傀儡だ」
「それの何がいけないのですか。家に仕える皆にそれぞれの人生がある。だが彼らの人生は、私の身勝手な行動で壊れかねない!」
「使用人を見くびるな。自分が犠牲になれば、皆が幸せになるとでも? ふざけるな!」
「……ふざけてなど、いませんッ」
「執事のジジイは、死んだ魚のような目をした『若』を気に病んでいた。そろそろ身体に無理の利かない歳にもかかわらず、若が心配で辞められないのだとよっ!」
「な……」
「あのジジイだけではない。運転手も、他のメイドも、屋敷の使用人全員が『ご主人様』のことを気に掛けている! もちろん、私もな」
「だが、しかし……」
「若い奴は、ここの仕事がなくなっても別の働き口を探せばいい。ジジイのような奴は引退して楽隠居だ。退職金ぐらい、親父殿がどうにかしてくれる」
「親頼り、ですか。この歳で」
「自分の子供を、こんな捻じ曲がった性格に仕上げた報いだ」
「ははっ、捻じ曲がっていますか。私は」
「……私の顔で、そんな表情を作るな。笑顔サギ」
「は……」
「怖がるな、セキナ。偽りの笑顔を作らずとも、人は攻撃してこない」
「……何を、言っているのやら」
「笑顔で本音を隠し、自分が傷つかないよう、生きてきた。そうだろう?」
「知ったような口を利きますね」
「私は、お前と違って気に入らないことがあれば仏頂面を決め込んだ。だが、実際に攻撃されたことは少ないぞ? ……まぁ一時期、帰る場所を無くしたがな」
「ずいぶんと、リスクが大きい生き方ですね」
「しかし、おかげでお前に拾われた」
 黄花はそういうと、彼女の言う捻じ曲がった者が浮かべる笑顔ではなく。
 ニッと、不敵で、自信を持った笑みを浮かべた。
「いつか、言ったな」
「?」
「私は、ずっと傍にいる」
「……『家』を失い、あなたを養う力がなくなっても?」
「当然だ。私の人生は、あの公園でお前に拾われた瞬間から、セキナと共に在ると決まったんだ」
「決まったんですか」
「決まったんだ」
 当人との契約も何もなしに、なぜか私は、一生涯かけて従事してくれる者を得ていたらしい。
「だが、決定を下すのはお前の役目だ」
「え?」
「お前の問題はお前が解決しろ。いまならまだ、全員に土下座をすればこれまで通りの生活に引き返せるはずだ」
「……」
 引っ掻き回したくせに、処理は私がやるんですか?
「忘れるな。私は、何があってもお前の傍にいる。しかし私が目覚めたとき、何もかも元通りになっていたそのときは────」
「そのときは?」
「私は、二度とお前の名を口にしない」
「…………」
「じゃあな、セキナ。こう呼ぶのが最後でないことを願う」
 そういって。
 黄花は『私』の頭を思い切り振り上げ。
「ふんっ!!」
「おがっ!?」
 ……思いっっ切り。
 私の……自分の体に向かって、頭突きをかましてきた。


つづく
<hr>

超駆け足
次回で終わりです
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巫

Author:巫

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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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