橙日々4

「ネコス」シリーズの番外編を投下します。
ネコスシリーズを知らなくても問題なく読めるよう配慮はしているつもりです
結局最後までTS成分薄味の番外編、最終話です

【みかんデイズ】 その4


 ――――数ヵ月後。
「着きましたよ、黄花。ここが、これから私達の住む町です」
「しょぼい町ですね。都会と呼ぶにはのどかすぎるし、田舎と呼ぶには一通り物が揃っていそうです」
 私は、黄花を連れて、屋敷から遠く離れたとある町にやってきた。
 私達が、再び歩き始めるための、始まりの土地に。
「しかし……勘当されるものとばかり思っていたのですが」
「父は、名誉を後生大事に抱えているからね。息子の私を追い出したら、家名に傷がつくと思ったんでしょう」

 私の体の黄花に頭突きをされた、あの日。
 目が覚めると、私の目の前には気を失った金髪少女が横たわっていた。
 私達は無事、元の身体に戻った――――そのことを実感し、同時に問題はまだそのまま残っていることを思い出した。
「まったく……好き勝手やってくれましたね」
 気を失ったまま目を覚まさないメイドを苦笑いで見下ろし、私はポケットで振動を続ける携帯電話を手に取った。
 黄花と入れ替わったおかげか、私の身体は高揚し、いくらか気分が大きくなっていた。
 いや、それ以上に、黄花の言葉が、私の支えになっている。
「――お父さん。赤那です」
 うわべのみの会話を良しとした相手に。
「――ええ、数々の暴言については謝罪します。しかし、まずは私の話を聞いてくれませんか?」
 私は、私の本心を紡ぐ。
「――話というより、取引です」
 自由を得るために。

 父は、『家』の傀儡だ。
 家を成長させるためならば、どんな犠牲もいとわない。逆に、家名に傷がつくことを神経質なまでに恐れている。
 橙藤の跡取り息子が乱心し、勘当された――そんなスキャンダルを、父が良しとするはずがなかった。
「――そうです。私の会社、取引相手、有能な人材。すべて、お父さんにお譲りします。もちろん、今回の騒動については関係者全員に沈黙を約束させましょう」
 相手には、好条件を与え。
「――簡単なことです。僅かばかりの資産と、たった一人のメイドを私に残してください」
 自分は、あくまでも質素を貫き。
「――その、僅かばかりの資産で、私はのし上がってみせます。『家』の威光も届かない片田舎からのスタートですが、いずれは今以上の地位を築いて見せましょう」
 相手に損失を抱かせない自身の野望を大仰に語り、私は父に、一世一代の取引を持ちかけた。
 家の加護のない私が、成功を納めれば。それは橙藤家にとっても絶大なアピールになる。事業に失敗しても、私を勘当するよりは幾分かマシな傷だろう。
 スキャンダルの黙秘。家の威光で築き上げた私の力の吸収。そしてあわよくば得られる大きな成功。
 果たして父はそれらを計算し、私の取引に応じたのか。詳細は、父のみしかわからない。


「しかし、ここからが大変ですよ? 何せ、ほとんどゼロからのスタートです」
「ただの小娘が、公園生活からここまで這い上がったんです。あなたなら、さらに上へ登れるに決まっています」
「決まっていますか」
「決まっています。あなたの邪魔をする虫はすべて、私が駆除しましょう。カフェの美形マスターという職業は、とかく虫が寄って来るものだと聞きましたし」
「エロ漫画にかい?」
「エロ漫画にです。私達は恋やエロスなど二の次にして、『私達の』成功を手に入れるのを何よりも優先させるべきだと、そう思います」
「そうかなぁ」
「そうですよ。だから、セキナ…………あくまで虫除けの一環ですが、このような幼児体型が婚約者を名乗ることを許して下さい」
「ははっ、気にしていたのかい?」
 それは、私達が初めて会ったときに言った言葉だった。
 ロリコンでない私は、いまだ黄花に対して性欲を抱いたことがない。
「……そりゃあ、気にしますよ。あの日以来、ずっと悩んでいます」
「…………お店の裏に、みかんの苗を植えたのは知っているね?」
「は? え、ええ」
「私は、いずれ君にあれの花を捧げようと思っている」
「みかんの花を、ですか?」
「うん。そのときまで、君の悩みが解消されるといいね」
「? よく、わかりません」
「花が咲いたら、教えるよ」
 みかんの花言葉は――――花嫁の喜び。
 花が咲くまで、しばらくかかるだろうから。
 君は、その攻撃的な本音をずけずけと人にさらけ出さないよう改善し、身体と共に心も成長させていって欲しい。
 私は、この張り付いた笑顔を、本物の笑顔に変えるよう努力し――指輪の一つぐらいは買い与えてやれるように、あの店を成長させるから。
 あのお店で、共に成長し、共に学び、共に歩んでいきましょう。
 赤那と黄花――赤と黄色が作る『オレンジ』で。


「さあ行こう、黄花」
「……セキナ。聞いた話だと、私達の店の目の前にはすでに喫茶店があるみたいですね」
「うん、そうらしいね。仲良くできたら……」
 振り返る。
「おごっ!?」
 と同時に、私のアゴをめがけて、鮮やかな金髪が飛び込んできた。
 私達の体はあの日以来、強く頭をぶつけると簡単に入れ替わってしまう体質になった。
 最初はお互い戸惑いもしたが、しばらく経つと、時々今のように黄花が強引に私の身体を奪っていく。
 男の体になった黄花は、それはもう、生来の不機嫌面が倍増しで凶悪になる。そのヒトニラミで黙らせた人間は少なくない。
「待……おう、か」
「セキナはしばらく寝ててください。私は先にその喫茶店へ行って脅し……ではなく、内部調査をしますので」
 視界が明滅し、遠ざかる意識の中で聞いたのは、果たして『私』の声だったのか、彼女の声だったのか。
 少なくとも、はっきりしているのは。
 黄花の性格は、早急に成長してもらわなければいけないということだった。






妙に長く、なんとなくシリアスで、そのくせ置いてけぼり感の強い駆け足で終わってしまいました。反省
ちなみに今日はみかんの誕生花でもあります(だからなんだ


ここまでお付き合い、ありがとうございました




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