長編2-4

未完成の長編を投下します
未完成のため各所で拙い点がありますがご了承ください


今北産業(前章までのあらすじ)

後輩の直哉に好意を抱く一樹は事故に遭い死に至るが、幼馴染の沙耶歌に憑依し蘇った
女として生活することにした一樹だが、沙耶歌は学校でいじめられていた
さらに、うっかり自分の正体を直哉達にバラしてしまう……


 道に迷ってしまい、結局、家にはたどり着けなかった。
 そんな言い訳を考えたが、通わなくなって一週間も経っていない、そもそも今現在自分が寝泊りしている高瀬家の近所に存在する森実家への行き道を間違えられるはずもなく、学校を出てさほどの時間を要さない内に俺は目的地の門前へ到着してしまった。
 久々に見る元・我が家は、沙耶歌として『俺』の葬式に参列したときのまま、住宅街の一角に相応しい平凡な一戸建ての外観を保っている。……当たり前か。
 むしろ俺がこうして再び訪ねるまでの間に、家が奇才の建築家にでも再構築されたのかと疑わせる外観に変わっていたほうが問題だ。
「ちょっと見てみたい気もするな」
「────アクロバティックな住居は住みにくいと思います」
「意見が合うねぇ」
 さて、そろそろ空しい一人芝居と思考の迷走というか遁走はやめにして、現実と向き合わなくてはなるまい。
 自分の家族と会うのにここまで緊張を必要としなければいけない状況は、なかなかに得がたい機会だ。できれば一生得られなくて良いと思う。
 今回ばかりは、後輩達に口を滑らせてしまったときみたいにうっかりで正体を悟らせるわけにはいかなかった。
 『俺』はすでに死んでいる。もういない人間が他人に取り憑いて戻ってきた、なんて与太話を信じるのはさすがに少数派だろうが、いずれにせよ死者の残影をわざわざ家族に思い出させるべきではない。
 俺がこの家に戻ってきたのは。
 葬式中、俯いたまま一度も顔を上げることのなかった母親に。
 十年ほど老け込んでしまったかのように、覇気を失った父親に。
 ぼろぼろと涙を流していた妹に、別れを告げるためではなく。
 モトカノをおとしめるための材料を引き取りに来た。ただ、それだけなのだから。
「あら、沙耶歌ちゃん?」
「あ……」
 覚悟を中途半端に完了させた俺の前に、ここ数年ろくに会話を交わさなかった相手が玄関から出てきた。
「こ、こんにちわ。……おばさん」
「はい、こんにちは。今日はどうしたの?」
 おっとりした足取りで家の入り口から離れ、十七年間見続けた顔が近付いてくる。
 母さんの「か」の字も唇に働きかけることを許さず、俺は一演劇部員として、題目『高瀬沙耶歌』を演じ始めた。
「────よければ、一樹にお線香を上げさせてもらえませんか……こんな短い間隔でどうかとは思いますが、まだいまいち整理がつかなくて」
 顔見知りの少女が悲愴な顔でこう述べれば、拒む人間はまずいない。
「まあ……でもおばさん、これからちょっと用事があってでかけなくちゃいけないの」
「そう、でしたか」
「あ、そうだ。もうすぐ二葉が帰ってくると思うから、良ければそれまでの間、留守番お願いできるかしら」
「二葉……さん、が。はい。わかりました」
「ごめんなさいね」
 そういい、かつて母親だった女性は俺とすれ違う。
 演技が上手くいったのか、俺の正体に気付くことはなさそうだった。
「…………少し、やつれたな」
 小さくなる背中を見送りながら、あんなに俯き加減で歩く人だっただろうかと思い返しても益体のない考えを振り払う。
 鍵の開いたままになった玄関のドアをゆっくりと引き、俺は久しぶりに、我が家へと足を踏み入れるのだった。


 仏壇の前に座り、自分の遺影に向かって形ばかりの焼香をする。
 それにしても、どうしてこんな写真が選ばれているのだろう。この歳にもなってバカ面で満たされた笑顔の写真を飾られるのは、なんだか気恥ずかしい思いがあった。
「……さて、ちゃちゃっと済ませるか」
 もうじき妹が帰ってくるとはいえ、こうして一人で自由に動ける時間を得られたのは好都合だった。
 母さんは沙耶歌のことを随分と信頼しているらしい。幼馴染さまさまである。
 階段を上り、二階へ向かう。視線の高さや足の長さがいつもと違うせいか何度か段差でつまづきかけたものの、惨事には至らずどうにか目的の部屋に到着した。
「……ノックは、必要ないか」
 無意識に伸ばした腕を引っ込め、ドアノブに手を掛ける。
 扉を開けば、男子高校生の肩書きに恥じない適度に散らかった部屋が俺を出迎えた。
「変わってないな」
 あの日の朝、出て行ったとき、そのままの状態だった。
 唯一違うところを挙げるとするのなら、起床と同時に開いたはずのカーテンが閉じられていることぐらいか。
 それ以外は全て、俺がこの部屋で過ごしていた頃と変わっていない。
 死んだ子供の部屋をそのままにしておく、なんて話はよく聞くが、それはどうやら本当だったらしい。
「────感傷に浸ってないで、やることやってください」
「ですよねー」
 対話をする一人芝居が、自分を当事者ではなく傍観者に仕立て上げる。
 まったく、その通りだ。いまは余計なことなど考えている時ではない。
「確かここに……あったあった」
 机の引き出しにしまいこんだ旧型の携帯電話を取り出し、およそ半年振りに電源を入れる。
 液晶画面に浮かび上がったメール欄には、当時付き合っていた少女達の名前がずらりと表示されていた。
 どれもこれもが違う女の子の名前で、それぞれ数通ずつ受信している。
 この頃は、付き合っては別れ別れては付き合っての移り変わりが一番激しい時期だったらしい。部長に言われるまでもなく本当に自分はロクデナシのタラシ野郎だと自覚し、心の中で猛省しておいた。
「これだ」
 履歴を過去にさかのぼらせ、『ユウ』と登録されたメールに行き当たる。
 たった一週間にも満たない付き合いだったのに、他のカノジョたちと比べてやたら件数が多かった。それらのデータを一括してメモリーカードにコピーする。
 これで、沙耶歌の携帯からでもユウのメールが閲覧できるようになったわけだ。
 満足感とは程遠い目的の達成を果たし、携帯を元の場所に戻す。
 もう、ここに足を踏み入れることはないだろう。思ったよりうら寂しさを感じることもなく、俺はかつて自分の部屋だった場所のドアを静かに閉じた。

「あれ? 沙耶歌さん」
「あ」
 一階に戻ってくると、ちょうど帰ってきたらしい妹の二葉と玄関で鉢合わせた。
「────お邪魔しています、二葉さん」
 思いがけない遭遇に戸惑うよりも先に、沙耶歌としての対応が口を動かす。
 そのおかげか、妹も家族以外の人間が家の中にいるという状況以外に対して不審を顔に表すことはなかった。
「どうして、ウチにいるんですか?」
「お焼香を。それと、二葉さんが帰って来るまでの間、おばさまから留守を預かりました」
 幼馴染で、真面目が取り柄のような『沙耶歌』の言葉に、二葉はもともと薄っぺらだった警戒心をさらに薄弱にした。
「そうでしたか……ありがとうございます」
 礼を言い、頭を下げる。
 両手に持ったビニール袋が、彼女の身じろぎにあわせてガサリと音を立てた。
「買い物、してきたのですか?」
「え? ええ、まぁ。今日の夜と、明日の朝ごはんの材料です」
 近所にあるスーパーのロゴが印刷された袋を掲げながら、二葉は力なく笑う。
「あたし、まだまだぜんぜん料理へたくそですけど、少しでもお母さんの助けになれたらいいなって」
「……そう。偉いですね」
「偉くなんか、ないですよ」
 力なく笑った顔が俯き、目線の高さに持ち上げられた買い物袋がぶらん、と落ちる。
「お母さん、お兄ちゃんがいなくなってから、ずっと無理してますし」
 ぼそぼそと、抑揚のない乾いた声で呟く。いつも通りに振舞おうとする母の姿をいたましく思う心や、自分がしっかりしなければという決意を、翳りのある表情のままで妹は語った。
「そっか……」
 例え、母が辛そうだと言う彼女の方こそが、辛そうに見えていたとしても。
 『沙耶歌』である俺には、かけるべき言葉が見つからなかった。
「そろそろ、おいとましますね」
「あ、お引き留めしちゃってすいません。えと、お線香は……」
「もう済ませました」
 靴を履き、妹とすれ違う。
「またいつでも来てくださいね。沙耶歌さん」
 ドアを開ける間際に掛けられたその言葉が、なぜかとても悔しくて。
 腕を伸ばし、ついぞ自分の手で触れることのなかった妹の頭を撫でる。
「…………二葉」
「え?」
 沙耶歌ではなく。
 一樹として、兄として。
「元気でな」
 弱い部分を見せまいと気丈に振舞う妹へ、最期の言葉を贈るのだった。




加速します
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