長編3-2

今年最後の三連続投下!


未完成の長編を投下します
未完成のため各所で拙い点がありますがご了承ください

今北産業(前章までのあらすじ)

後輩の直哉に好意を抱く一樹は幼馴染の沙耶歌に憑依し生き返る
沙耶歌がいじめられていることを知った一樹は、紆余曲折を経て
いじめの実行犯と黒幕を退治したのだが……

 放課後になり、もはや完全に習慣化した部室への道順を、俺はスニーキングミッションさながらにこそこそと進んでいた。
 昼に流れた校内放送のおかげで、生徒会役員は全員〝F〟の情報を与えるメッセンジャーだと一般生徒から勘違いをされている。「知らない」と答えるのは簡単だが、一歩進むごとに敵と遭遇する意地の悪いRPGばりにアプローチを食らい続ければ、さすがにウンザリもしてくる。
 そういったわけで人目を避けながらやっと部室前までたどり着いた頃には、普段のおよそ倍の時間が経っていた。
 やれやれと疲労を振り払い、ノックを二回響かせる。返事はなかったが、ノブを回すとドアは簡単に開いた。
「……遅かったな。だが安心しろ、お前もすぐに後輩達のあとを追わせてやる」
「あ、先輩おつかれさまですぅ~」
 中に入ると、腕組みをする部長の第一声にさっそく出迎えられる。
 この人には、目の前でパソコンと向かい合う眼鏡娘が死に体にでも見えているのだろうか。
 って、あれ?
「ヒナちゃん、どうしたのそれ?」
 眼鏡をかけている雛菊など初見もいいところだ。まさか、急に目が悪くなったわけでもあるまい。
「に、似合ってませんか?」
 『カワイイと言え』というカンペを持ったスタッフが出てきそうな質問だった。
 しかし似合っていないこともなかったので、素直に頷いておく。
 眼鏡効果は偉大なもので、いつもの腹黒さは控え目になりその代わりに垢抜けた純朴っぽさを醸し出していた。もし初対面のときにこの形態だったのなら、今とはまた違った評価をしていたかもしれない。
「うん、可愛いんじゃない?」
「きゃうん!」
 リップサービス同然の感想一つで雛菊は奇声を上げる。……演技なのか素なのか、見分けがつきにくい反応だ。
「部長さん部長さん。いまいま先輩、ヒナのこと可愛いって。可愛いって!」
「そうか、よかったな。作業に戻れ」
 冷たっ!
「はいですぅ。うぇへへへへ~」
 突き放したような部長の態度にもめげず、顔をニヤケさせたまま再びパソコンと向き合いカタカタと音を鳴らす。
「何をさせてるんですか?」
 作業をする雛菊にではなく、その後ろで控えている部長に尋ねた。
 雛菊が眼鏡をかけているのも、パソコンをいじっている姿を見たのも今日が初めてだ。こういった状況の変化には、俺の経験上必ずこの人が絡んでいる。
「台本の手直しだ」
 すんなりと、部長は予感に太鼓判を押してくれた。
「台本……」
 思い浮かぶものは、一つしかない。崖っぷちにいる演劇部が起死回生を賭ける、雛菊が作者を買って出た脚本のことだ。
「この数日間でざっと目を通したが、まだまだ改善の余地がある。そこで、色々アドバイスを与えながら手を加えさせているところさ」
「というわけです」
「それにしても、既存ではなく自作の演劇をしようという君らの豪胆さは尊敬に値するね。これが若さか」
「はぁ」
 普通はシェイクスピアなどの有名な演劇を使った方が人も集まるし、失敗だって少なくて済む。今年入ったばかりの一年生が書いたシナリオを使うなんて、全国の他の演劇部が聞いたらマジか落ち着けと言われても不思議ではない選択だ。
 ではなぜ、俺はあえてそんな茨の道を選んだのか。
「ごめんなさい」
 答えは単純。真剣に演劇部の存続について頭を悩ませていなかったからだ。
「なぜ謝る? まぁ、去年の学園祭で『ハムレット』を演じていた私達の功績がこのザマだからね。部員数も違うのだし、オリジナルで勝負してみるのも一つの手だとは思うよ」
「うっ」
 一年前の演目を耳にし、身体に緊張が走る。
 劇そのものは当時現役だった部長を筆頭にして、かなりハイレベルな芝居を成功させていた。むしろ必要以上に精度を上げていたのが、部長の演じた〝オフィーリア〟の狂気だ。
 花束を抱えて登場し、わけのわからない歌を歌いながら登場人物の核心をついた花言葉の花を手渡すシーンで、彼女はなぜか舞台から降り観客一人一人に花言葉を囁いた。
『あなたにはヤブランをあげるわ。謙遜の花よ。欲しいものを欲しいといわない貴女にぴったりでしょう? うふふふ」
 まるで、初見であるはずの相手の本質を見透かしたように笑顔で花言葉を呟く部長の姿は、今振り返ってみても薄ら寒く感じる。実のところ入部希望者が来なかった最大の原因は、コレのせいではないかと俺は勝手に思っていた。
「ん?」
 ふと、妙なことに気がつく。
 一年前の自分は演劇部で裏方をやっていた。なのになぜ、舞台から降り一人一人の耳元で囁いていた部長の台詞や表情を、俺は思い出すことができるのだろう。
「ちーっす」
 奇妙な記憶の齟齬にひっかかっていると、けだるそうな男の声がノックもなしに部室へ入ってきた。
「遅かったな、佐川」
「うっせ、ってぬおわああああああああああああああっ!」
 叫び声をあげ、閉めたばかりのドアに背中から突撃する。
 かなり派手な音がした。
「な、直哉?」
「おま、おま、おままままま」
 顔をみるみる赤くし、一点を凝視したまま意味不明の単語を羅列する。……この男がここまで慌てふためく理由といえば、ひとつだけだ。
「ふぇ? どうしたんですか、ナオくん」
「めが、がが、めがががが」
 ぷるぷると震える指先が、腹黒さ一割減の眼鏡娘を指差す。
 どうやら直哉も眼鏡雛菊を見たのは今日が初めてのようだ。
「んん?」
 直哉の反応に、雛菊は首を可愛らしく傾げる。
 その仕草一つで、限界間近だった一線はあっさり切れた。
「あが……」
 腰を折り、ヒザを曲げ、床にしりもちをつき。
 目つきの鋭い不良男は、湯気でも立ち上りそうなほどに顔を赤くし、撃沈する。
「へっ……萌えたろ?」
 部長だけが、相変わらず楽しそうにしていた。

「そうだ、君らにはこれを渡しておこう」
 直哉を机まで運びいつもの定位置に座らせると、ご機嫌な様子の部長はスカートから質素な茶封筒を取り出した。
「なんです?」
「良い物だ。受け取れ」
「マジカワイイカワイイヤベェメガネヤベェ」
 長机に突っ伏してぶつぶつと雛菊万歳的な言葉を呟く男をチラ見し、言われた通りに従い受け取る。
 重みはほとんど感じない。封筒をひっくり返すと、茶封筒と同じ形をした白い紙が四枚出てきた。
 何気なく裏返し、瞬間、目をみはる。
「……!」
 誰もが一度は耳にした事のある劇団名と、タイトル程度ならばやはり誰もが知っているだろう演目名が印刷された紙。
 それは、ミュージカルのチケットだった。
「ど、どうしたんですか、これ」
「君らは一度、本物の舞台を観るべきだと思ってな。手配しておいた」
「でもこういうの、高いんじゃ」
 というか値段も印字されている。一枚六千円だった。
「気にするな。高瀬のいじめ問題が解決したお祝いとでも思っておけ」
「いや、でも」
「『ありがとうございます。マジ嬉しいッス最高ッス抱いてください』と言ってくれるだけで私は満足だ」
「返します」
 チケットを中に戻し、茶封筒をつき返す。
 多分、言った途端に襲い掛かってきてもなんら不思議じゃなかった。
「冗談だ冗談」
 アンタが言うと、全部が全部本気に聞こえるんです。
「公演日はシルバーウィークの真っ最中だが、どうせ予定などなかろう?」
 二日後か。また、急な話ではある。……確かに、何もないけどさ。
「ヒナは特にやることないですし、先輩が行くなら……」
 とりあえず雛菊は問題ないようだ。
 直哉の意向も確かめたいが、果たしていまの状態で会話ができるのか甚だ疑問である。
「……別に、平気だ」
 机に突っ伏したままだが、問いかけると返事があった。
 後輩二人が乗り気なら、俺に反対する理由はない。
「ん、じゃあ。ありがたく受け取ります」
「ああ、楽しんで来い」
「あれぇ? 部長さんは行かないですかぁ?」
 雛菊が間延びした調子で疑問を呈する。
 物凄くウザッたかったが、俺も同じ気持ちだった。
「馬鹿者が。私まで行ったらどうなると思う」
 鼻で笑い、わざとらしく首を左右に振る。
「どうなるんです?」
「佐川のハーレム状態だ。ああくそっ、考えるだけでおぞましい!」
 自分の肩を抱き、寒気を全身で表現する。言われてみれば、演劇部全員が出掛けた場合の男女比率はかなり不公平だ。
 いまの俺は、女、だからな。
「……俺、アンタに嫌われることしたか?」
 地味にショックを受けているらしい。直哉は机の上に頭を乗せ、ジト目で部長を睨んでいた。
「黙れギャルゲ主人公。私を攻略したいのならファンディスクを作ることだな」
「何の話だよっ! つーかそのあだ名、認めてねーから!」
 ガタッとイスを蹴っ飛ばし、机から身体を引き剥がす。やっと眼鏡雛菊のダメージから回復したようだ。
 あるいは、ツッコミによる活力が直哉を再び立ち上がらせたのかもしれない。……どうでもいいか。
「でも部長。チケットは四枚ですよ?」
「そうだ。あと一人は自由に誘え……と、本来なら言ってやりたかったが、な」
 言葉を濁し、突然、ビッと天井を指差す。
「?」
「あと一人は、今回の功労者を指名する」
 部長は不敵な笑みを漏らし、そんなことを言ってきた。
 わけもわからず指先を視線で追うと、天井と天窓と……校内放送を伝えるスピーカーが、目に入った。
「まさか」
「あ、あうううぅ。ヒナ、実は、その日は用事が」
「『ヒナは特にやることないですし~』」
 雛菊そっくりの声が、部長の口から出てくる。
「……自分の声を聞いて寒気がしたのは、初めてです」
 スマイル0円の腹黒娘が、顔をひくつかせていた。
「くっくっく、なぁ森実」
「なんすか」
「生徒会長殿は、〝F〟がたいそうお気に入りのようだな」
 ……もーやだ、この人。

 部長にぐったりさせられたその日の夜。
「あれ、これって、デートじゃね?」
 淀みなくノートの上を走るペン先をはたと止め、誰にともなく独り言を呟く。
 あくまで部活動の一環ではあるものの、学校外で直哉と会うのは初めてのことだった。
 好意を抱いている相手と一緒に、街に繰り出す。生徒会長と雛菊もいるのだし、ともすればこれはダブルデートと言っても過言ではないような気がしてきた。
 ということは、だ。
「こんなことやってる場合じゃねぇっ」
 復習の時間を強制終了し、いそいそとクローゼットに向かう。
 デートそのものは一桁ではたりないぐらいの経験値を持っているが、ここまで浮き足立った気分は初めてだ。
「うわ、うわ、なに着てこ?」
 沙耶歌の衣装を物色しながら、以前、直哉の姉から拝借した服装を思い返す。
 ワンポイントのブラウスにスカートというシンプルなものは、どうもあの男の好みではないらしい。何でそんなものを着ているんだボケと怒られたぐらいだ。雛菊が好きなぐらいだし、もっと女らしさを強調した可愛い服の方が。
「っておおおおおおおおおおいぃッ!」
 何、フツーに楽しみにしてんだよ、俺!
「違うし! 俺の服なんかどーでもいいし!」
 プライベートで一緒に出かけられることは確かに嬉しい。しかし自分がすべきことは、恋のサポートだ。
 あの男は素直じゃないし、直哉が想いを寄せている相手はといえばいまだに俺のことが好きだと明言している。
 そんな二人を恋人同士にしようなんて、ずいぶんとまた難易度の高いお節介だ。
 それでも、やるだけやってみる。
「だから……もう少しだけこの身体、借してくれ」
 俺は、直哉の笑顔を見たい。
 いつも尖った表情ばかりの男が、緩みきった幸せな顔を見せてくれるのなら。
 きっと心残りはなくなると思う。
「すまんな、沙耶歌」
「────仕方ないですね」
「お?」
 てっきり皮肉めいた台詞を返してくるかと思いきや、出てきたのはお許しの言葉だった。
「────私からの手向けです。せいぜい頑張ってください」
「あ、ああ。悪い」
 独白の一人芝居のはずが、まるっきり会話をしているような流れになっている。
 俺の演技力が生み出した『沙耶歌』のキャラが勝手に動き始めた……というには、その反応はやけにリアルすぎた。
「……沙耶歌?」
 戸の内側に取り付けられた鏡に向かって、見慣れた顔に、親しんだ名前を呟く。
 当然のように、返事はなかった。

 その翌朝には、さらに不可解な事が起こるわけなのだが。
 真相は、割とすぐに解明することを、俺はまだ知らなかった。
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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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