長編3-3

未完成の長編を投下します
未完成のため各所で拙い点がありますがご了承ください

今北産業(前章までのあらすじ)

後輩の直哉に好意を抱く一樹は幼馴染の沙耶歌に憑依し生き返る
沙耶歌がいじめられていることを知った一樹は、紆余曲折を経て
いじめの実行犯と黒幕を退治したのだが……


「あぁん? やんのかてめぇっ!」
「わめかずとも聞こえている。必要以上に大声を出すなど、感情をコントロールし切れていない愚か者の証拠だぞ、不良生徒」
「あー……」
 祝日の朝っぱらから、駅前のロータリーでタイプの違う野郎二人が言い争いをしているのを、俺は冷めた目で、半分ぐらい呆れながら観察していた。
 片方はいかにも暴力を好みそうな、凶悪な面構えの男。もう片方は頭脳派のアイディンティティーともいうべき小ぶりな丸眼鏡をかけた男である。ワイルド系とインテリ系の二人に親和性などを期待するだけ無駄だが、それが不良と生徒会長にもなればまさに煮立った油に水を注すようなものだった。
「上等だ。だいたい、てめぇは前から気に入らなかったんだよ」
「威勢が良いな、一年生。相対する者の格差すら測れぬドン・キホーテめが」
 惚れ惚れするぐらいの偉ぶった態度で、生徒会長は今日も絶好調の言い回しを操り相手を翻弄している。
 対する直哉はツリ目がちの目元をさらに吊り上げ、いまにも飛び出してきそうな拳を硬く握り締めていた。
 雛菊が待ち合わせの時間になっても姿を現さないというだけのことで、どうしてこんな一触即発の状態になるのか。
『おっせーなぁ、福山の奴……』
『たかが一分の遅刻だ。そんなことも許せんのか? 小物め」
『あぁ?』
 思い返してみても、発端となった会話はこれだけだ。明らかに会長の方からケンカを吹っかけているわけだが、見え見えの挑発に乗る方も乗る方だった。
「格の違いなんざ、俺の手で埋めてやる!」
「ならば思い知らせてやろう。生徒会の頂点が、貴様の幻想を打ち砕いてくれるっ!」
 なんだこのショートコント。
 ただの高校生だよな? こいつら。
「────二人とも、少し落ち着いてください」
 口調を沙耶歌モードにして冷静さを促す。直哉はともかく、会長のギアが最高潮に達したら演劇観賞どころではない。
「あぁ? 福山が遅れているんだぞ? お前は心配じゃないのかよ!」
「これだから素人は。彼女が遅れている理由など、少し考えればおのずと導かれるだろう」
 中指で眼鏡を押し上げ、不敵に笑みを作ったまま言葉を止める。
 まるで、というか間違いなく相槌が打たれるのを待っているポーズなので、『副会長』としてはその役をこなさないわけにはいかなかった。
「会長。一体どういうことですか?」
「くくっ、わからんか? 福山は僕のために着飾ってくる。ならば、私服の選択に時間がかかるのは当然だ!」
「なるほどー」
 棒読みで感嘆の声をお送りする。
 世界は自分のために回っていると信じてやまない、実に会長らしい意見だった。
「やっぱ、てめぇだけは今ここで潰す」
 目の前の男が雛菊をめぐるライバルだと再認識したのか、直哉の目の色がさらに鋭さを増している。
「蛮勇も良し悪しだぞ、若造」
 会長も妙なテンションをどんどん高ぶらせている。
 そろそろ切り上げてくれないと、本気で収拾のつかないことになりそうだ。
「二人とも、いい加減に……むゃっ!」
 止めに入ろうとした瞬間、いきなり視界が暗転する。
 というか眼球が圧迫されていた。地味に痛い。
「えへへー、だーれだー? です」
 人の目ん玉潰す勢いのくせに、やたら可愛らしいソプラノボイスのウザイ台詞が背面から聞こえる。
「……ヒナちゃん。目、痛い」
「えへー、大当たりですぅ」
 パッと圧迫感から解き放たれ、網膜に光が再入荷される。相変わらず鬱陶しい真似を平気でやらかす女の子だ。
「あのさ、ヒナちゃん。アレ普通に危ないか……ら」
 効果がないとわかりつつお説教のために背後を振り返る。
 そして、俺は言葉を忘れた。
「戯れはここまでだ。福山が来……」
「よかった。無事だった……」
 睨み合っていた男二人も、想い人の登場となり頭を切り替えたらしい。
 が、やはり彼女の姿を確認した途端、口がストライキを起こしたようだ。
「どーしました?」
 可愛らしく小首をかしげる雛菊の服は。
 白や黒を基調にして、ところどころにフリルが施された、いわゆるゴスロリ系の衣装だった。
「…………」
 この場にいる三人が三人とも、開いた口がふさがらない。
 まるで魔法少女みたいなふわっふわのロリータファッションは、幼げな顔立ちと舌足らずな言葉遣いをする雛菊に大変よく似合っている。が、それでもあえて言わせてもらおう。
 あざとい。あざと過ぎる。
「え……エクセレンッ!」
 放心から一番初めに立ち直った生徒会長が、人目もはばからず大声で拍手喝采をゴスロリ少女に浴びせる。
 この人はさっき自分が不良生徒に何を言ったのか、もう忘れているようだ。
「ブラボーだ。実に美しいぞ福山! エンジェルの君がその小悪魔的なコスチューム身に着けることで、ギャップ的な魅力が加算されているっ。まさしく至高と呼ぶに相応しい!」
「相変わらずキモイですね、会長さん」
 冷たい態度で、不快感をあらわにした視線を無遠慮に突き刺す。
 だが、今回の雛菊はいつもとほんの少し違った。
「……まぁ、褒められて悪い気はしませんですけど」
「な」
 呟いた台詞には、デレの傾向が見え隠れしていた。
 ひょっとすると、会長はいつか自力で雛菊をオトすかもしれないという危惧さえ抱かせる。
 たった一言と侮るなかれ。少なくとも、いまので彼女の会長苦手意識は八割ぐらい消えたと考えるべきだ。
「おい、直哉。直哉」
 直哉の袖を引っ張り、会長に負けじと雛菊を褒めるよう促す。
「あが……」
 ヘタレヤンキーは、ゴスロリ雛菊に石化されていた。


 オーバーヒートした直哉は、復旧作業が終わるまでただひたすら俯き加減で顔を赤らめていた。
 具体的に言うと、会長のテンションが落ち着き、雛菊が『先輩も褒めて』と目で訴え、電車に乗り劇場に着きミュージカルを観終わるまでの約三時間。
 ひとっ言も喋らなかった。
「はぁ……」
 劇場備え付けのカフェに入った後も、頭をテーブルに横たえて幸せそうな嘆息をこぼしている。
 直哉の視線の先には、販促グッズの並んだショーウィンドウを覗き込む雛菊がいた。生でプロの舞台を目にした興奮からか、彼女はさっきからやたら上機嫌だった。
 芝居の世界に本格的な興味を持ち始めたのかもしれない。だとしたらそれは、演劇部にとってとても良い事である。
「それは、いいんだけどさぁ……」
 雛菊の隣に立つ人物へ視線を移す。丸眼鏡の男は、時折ガラスケースから目を離して振り返る少女と楽しげに話していた。
「おい、直哉。お前、アレ見てなんも感じねーの?」
「……福山が可愛い」
 駄目だ、コイツ。
 フィルターでも掛かっているのか、この男には雛菊と談笑する生徒会長の姿が見えていないらしい。
 駅前で集合してからずっと固まっていたヘタレ男と違い、会長は雛菊へのアプローチを欠かさなかった。
 何もしないでただ萌えていた男と、ウザがられても言葉を尽くした男。二人に明確な差がつかないはずがない。
「お前な、いい加減にしろよ」
「あ?」
「このままじゃ、ヒナちゃん会長に取られるぞ」
「んな…………い、いや。別に、俺には」
 関係ない、ね。
 ツンデレもここまで意固地だと逆にうざったい。
「素直になれよ。好きなんだろ? 雛菊のことがさ」
 このときの俺は、きっと、どうかしていたに違いない。
「はぁ? またそれか」
「ごまかすな!」
 らしくもなく、声を荒げてテーブルを叩き、目の前のバカを怒鳴りつけた。
 何事かと店内の視線がこちらに集まる。しかし、そんなものにかかずらってはいられない。
「遠くからただ眺めていて、お前は、それで満足なのかよ!」
「……っぜぇな。関係ねぇってんだろ、副会長」
「なっ」
 最近、無意識に『沙耶歌』として振る舞うことが多くなった自分に、言い知れない焦りを抱いていた。そのせいもあってか、直哉にそんな呼ばれ方をされたことが、俺の引き際を完全に見失わせる。
「……ことあるか」
「は?」
「関係ないことあるか! このバカ!」
 苛立ちがあった。
 行動を起こさない直哉に。笑顔で雛菊と話す会長に。
 嫌っていたはずの相手にあっさり心を許した雛菊に。
 何よりも、恋敵のために黙って身を退く、できた人間を気取る自分が。

 大っ嫌いだ。

「俺は、お前が好きなんだよッ!」
 少女の告白が、たいして広くもないカフェ全体に小さなエコーを響かせる。
 水を打ったように静まり返る店内のおかげで、暴走した感情はすぐに落ち着きを取り戻した。
「あ、ぅ……」
 冷静さの次は、羞恥心が甦る。
 取り囲む視線は、一点に集中していた。
 直哉も、雛菊も、生徒会長も、見知らぬ他人も、一様に目を丸くしてたった一人を見ている。
 俺ではない。と誤魔化すのは無理があった。
「……ッ、……ッ、か……帰る」
 なんとかそれだけを口にして、直哉に背中を向ける。
 お勘定は、申し訳ないが会長に立て替えてもらおう。混乱しているはずの頭でなぜかそんなことを考え、俺はバタバタと逃げるように店から出て行った。

   *   *   *

「最っ低……」
 夕日を背にして、とぼとぼと通いなれた道を歩きながら自己嫌悪を口に出す。
 沙耶歌の身体に住み着いてから、これまで何度となくバカな真似をやらかしてきた。だが、いくらなんでも今回は酷すぎる。
 聞かせるべきではない想いを聞かせてしまった。
 他人の、女の子の体で、あまつさえキレながら告白してしまった。
「バカ……バカバカバカバカ大バカ!」
 自分をいくら罵っても足りない。
 沙耶歌になりきって生活するどころか、次々に人間関係をムチャクチャにしている。
 こんな状態で、本人に体を返せるはずもない。
「ごめん……ごめん、沙耶歌」
 図々しくも許しを求めて、返事のない相手に謝る。
 いつもみたいに沙耶歌のフリをして『仕方ないですね』とでも言いたいのだろうか。だとしたら、つくづく最低の男だ。
「どうして俺は……うん?」
 侮蔑するはずだった言葉は、低い唸りを上げる携帯の駆動音に遮られる。
 ディスプレーを開くと、「福山さん」の文字が明滅していた。
「……はい」
≪あー、先輩ですかぁ? ヒナです≫
 スピーカーからは、普段と変わらない舌足らずな雛菊の声が聞こえてきた。
 外にいるのか、車の走行音がちょくちょくと混じる。
≪あのですねぇ、ヒナちょっとお尋ねしたいことがありましてぇ~≫
 わざとかというぐらい、間延びした声だった。
 だがイライラする元気もない俺は、黙って話の続きを促す。
≪さっきの、アレ。冗談ですよね?≫
 公衆の面前で告白した直後だ。アレが何を指しているかなど、考えるまでもない。
「そうだって言って、信じられる?」
 怒鳴り散らすように好きだと叫んで、醜態をさらして逃げ出して。
 それが冗談でしたーで通じる人間が、果たして何人いるのやら。
 ……最近になって旧交を温めたモトカノの顔が浮かんだが、そこはその辺にうっちゃっておく。
≪あ、あはは。だって、先輩は男の人で、いまはさーちゃん先輩で女の子ですけど、ナオ君は男の子で≫
「そうだね」
≪ですよね? じゃあ、やっぱり≫
「冗談なら、全部丸く収まるよね」
≪…………≫
「…………」
 お互いに沈黙する。
 これ以上、言葉を交わす必要はないようだ。
「切るよ、ヒナちゃん」
≪せーんぱい?≫
 声のトーンは変わっていない。
 なのに、その台詞はいままでのきゃぴきゃぴしたものから一転して、暗い雰囲気を纏っていた。
≪もう、お芝居は終わりにしましょうよぉ≫
「何の話?」
≪だからぁ。もうカズキ先輩の真似はやめませんか? って、言っているんです。さーちゃんせ・ん・ぱ・い≫
「…………」
 息が止まる。
 そのぐらい、雛菊の言葉は予想外だった。
≪もう十分騙されてあげましたよね? そろそろ止めにしませんかぁ?≫
 電話は不便だ。相手がどんな表情をしているのか、判断する材料がほとんどない。
「……俺が一樹だって、信じて、なかったんだ」
≪ヒナ、童話はあまり好きじゃないのですよ~≫
 雛菊はいつも通り、笑顔が目に浮かぶ甘ったい調子で喋っている。そのはずなのに。
≪でも、先輩が好きだったのはナオ君ですかぁ。可愛いヒナちゃんでもなくて、ミステリアスな部長さんでもなくて、真面目なさーちゃん先輩でもなくて、愛想の悪い男のナオ君? うふふっ。冗談にしては、お粗末ですよぅ≫
 電話口の向こうにいる少女からは、口を三日月形に歪めて不気味に笑うイメージしか、出てこなかった。
≪さーちゃん先輩の演技、物凄くお上手でしたよ。このまま騙され続けてもいいと思いました。……なのになんで、カズキ先輩が男を好きだなんて嘘つくんですか?≫
「本当、だから」
≪あははははははははははははっ!≫
 甲高い笑い声が、耳をつんざく。
 たまらず携帯を遠ざけるが、少女の笑い声はそれでも聞こえてきた。
≪せぇんぱぁい? 来週ぅ、楽しみにしててくださいねぇ? キャハハハハッ≫
 常軌を逸したような哄笑がしばらく続き、やがて通話口は単調なノイズを最後に音を閉ざす。
「な、なんだったんだ……」
 まるで恐怖映画のワンシーンだ。
 ふと振り返れば電柱の陰に雛菊の姿があったとしても、まったく不思議ではない。怖いけど。
「来週?」
 連休は終わり、学校が始まっている。
 何をやるつもりだ、あの腹黒ホラー娘は。
「……あれ?」
 直哉に告白してしまい、雛菊の不気味さが片鱗を見せた。
 そしていよいよ、極限的な問題が満を持して表舞台に立つ。
「て、手が……」
 携帯を持つ手が勝手に動き、いつの間にか起動していたメモ帳欄に文字を入力していく。
 一分ほどかけて完成したその〝メッセージ〟を見て、俺は今度こそ間違いなく確信した。

『話する 書く物 用意する    沙耶歌』

 神よ。
 お前は敵だ。

***

『私の数奇な運命に感謝を。一樹には呪いを』
「ひでぇっ!」
 机にノートを広げた瞬間、右手が俺の意思を介さずにペンを握り、いきなりこんな文書を書き出した。
「一言目だろ? 一言目でいきなり呪いとか書くなよ!」
『人の身体を乗っ取る悪霊には、適切すぎる評価かと』
 いや、悪霊はむしろ呪いを生む側じゃ……っていうか誰が悪霊だ。
「あのさ、とりあえず確認したいんだけど。お前、沙耶歌だよな?」
 右手に向かって話しかけると、さらさらと静かな音を立てながらインクが紙の上を走る。
 几帳面に並ぶ文字列が人の言葉を形作り、俺は口には出さず胸の内でその台詞を読み上げた。
『はい。あなたのヨメではありません』
「知ってるよ! そんなこと誰も聞いてないから!」
『つまらない質問には予想のナナメ上を行った対応をしろ。会長のお言葉です』
「ウチの部長が言いそうなことをっ」
 あの二人は本当に良く似ている。実は兄妹か?
『苗字が違います』
「いや、そうだけど…………あれ?」
 いま俺、思ってること口に出したか?
『一樹の考えは、全部、私の中にも流れています』
「もしかして、頭ん中だだ漏れ?」
『同性愛者に身体を奪われたのは、不幸中の幸いですね』
 私の数奇な運命に感謝を。と、少し前に綴った文字をペン先で指す。
 ようするに、俺が直哉を好きだということもバレているわけだ。
「でもとりあえず認識改めろ。俺は、好きになった奴がたまたま男だったってだけで」
『(笑)』
「いや、笑うなよ! たしかに使い古されたフレーズだけどさ!」
『つかれました』
「話の流れがめまぐるしい!」
『週明けになったらそうだんし』
「……沙耶歌?」
 綺麗に整えられていたフォントが草書体に変わり、ややあってから右手が失速する。
 身体の一部分を操られていた奇妙な感覚が抜け落ち、沙耶歌の腕は再び俺の思い通りに動いた。
「おーい?」
 手のひらを握り、開く。
 グーの敗北を三回ほど繰り返し、ようやく自分に主導権が戻ってきたことを実感した。
 まだ話すことはたくさんあったのに、勝手な奴だ。
 違うか。
 沙耶歌の性格上、こんな中途半端な書置きをするはずもない。
「相談しましょう、か」
 ノートに記された会話を読み返し、書きかけとなった言葉を口にする。
 相談といっても、直哉や雛菊にしてどうにかなる話じゃない。そもそも、あの二人とは顔も合わせづらい状況だ。
 もちろん事情を知らない人間など問題外であり、そうなると適任は一人しかいないわけで。
「……頼りっきりだな、俺」
 彼女が逆に頼もしすぎるせいだと、責任転嫁してみる。
 余計に情けなくなった。





らすとすぱーとごーごー
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プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

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・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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