長編3-4

未完成の長編を投下します
未完成のため各所で拙い点がありますがご了承ください

今北産業(前章までのあらすじ)

後輩の直哉に好意を抱く一樹は少女に憑依し生き返った
好意を抱く雛菊に対して素直にならない直哉を見かねた一樹は勢い余って告白してしまう
その日の夜、身体の持ち主、沙耶歌の意識がようやく目覚めるのだった



 月曜日。
 今日も姿見に自分ではない自分が映り、本来ならば一生袖を通すことのなかった女子用の制服に着替えていく。
 こんなちぐはぐな朝を繰り返して、気がつけばもう一週間が過ぎていた。
 交通事故であっけなく幕切れとなった俺の命だが、なんだかんだで七日間も生きながらえているわけだ。人生、何が起こるかわかったもんじゃない。
「――あなたの人生は一週間前の時点で終わっています」
「おおぅ、そういやそうだ」
 鏡の自分との虚しいやりとり……といいたいところだが、実はちょっと違う。
 はたから見たら確かに一人芝居だが、いまのは〝一樹〟と〝沙耶歌〟の会話だ。
 例の書置きから沙耶歌本人の再覚醒はそう遠いことではないと思っていたが、どうやら俺は彼女を見くびっていたらしい。
 筆談してから一夜明け、目覚まし代わりとばかりに平手が飛んできた。
 そればかりか口までが勝手に動き、起床をせかしやがったのだ。
『おはようございます。さっさと起きて支度してください』
 最初はいつもの自作自演かと思ったが、さすがに眠りながら自分で自分の頬を叩き、ヒリヒリした痛みをまるで無視したドライな声を出せるほど俺は役者じゃない。
「おー……」
「――どうしました?」
「いや、なんつーか……沙耶歌だなぁって」
 鏡に映る女の子には、いままで見てきた中のどんな姿よりも高瀬沙耶歌らしさがあった。
 見た目はこれまで俺が再現してきたものと大差はない。しかし朝からシャワーを浴び、時間に余裕を持って身だしなみを整えるだけで、こんなにも雰囲気がガラリと変わるかと驚きを隠せなかった。
「女ってすげぇな……」
「――戯言はこのぐらいにして、そろそろ学校に行きましょう」
 右手が耳の後ろの髪をさらりと梳き、淡々とした口調ですべきことを言う。
 俺はそれと同じ声を使って、対照的な明るい口調を返した。
「りょーかーい」
 沙耶歌は、少しずつ身体の主導権を取り戻していた。



 新品同様に磨き上げられた靴箱から上履きを取り出し、廊下を進んでしばらくした頃だった。
「優生?」
 向かい側から紙筒を抱えた優生が俯き加減でトボトボ歩いてくるのを見て、声をかける。
「ひっ、さ、サヤカ……」
 顔を上げた彼女はなぜか怯えた反応をし、じり、と一歩下がった。
「あああ、あの、アタシ、悲しいけど報道部で……でも、これはイジメじゃないってウチの部長も言ってて」
「?」
 優生は可哀想なぐらいに身体を震わせて、要領を得ないことを喋る。
 力が抜けたのか、抱えていた紙がスルリと腕から抜け落ちた。
 丸められていた大判がころころと回り、紙面を明らかにする。
「……ご、ごめんなさい! サヤカーッ!」
「あ、ちょっ」
 荷物を放り出し、野ウサギのように俺の前から姿を消す。なんなんだと思いながら目線を落とした、その先に、答えがあった。
【『呆れた性癖! 〝F〟が見た生徒会長の真実!』『副会長が騙る死者への冒涜!』『三年前の学び舎で起きた乱闘騒ぎの主犯はなんとあの男だった!』】
「二時間ドラマかよ」
 やたらと長いタイトルを載せた紙が、俺の目をひきつける。
 すでにお馴染みとなった、報道部による特集記事だった。
 矢継ぎ早に三回も新聞を更新した報道部のマンパワーに妙な感心を抱きながら、記事を拾い上げ中身に目を通す。
 『噂のFによるリークで、生徒会長がドMでることが判明した。会長はFに入れ込み何度もその性癖を吐露しており』。……間違ってはいないな。
 『生徒会副会長は、やはり糾弾すべき少女だった。彼女は先日多くの人間に悼まれながら逝去した森実一樹を騙り、無垢な少女を毒牙にかけようとした疑いが』。……誰が無垢だって?
 虚実の入り混じった文章を読み進めていくと、やがて内容は三年前の事件について触れられる。
 『この学校で過去、小規模な乱闘騒ぎがあった。不良グループと呼ばれた素行の悪い連中が、当時中学生だった佐川直哉(現・1-C)と派手に殴りあったらしい。グループ二名と佐川本人が病院送りになり、この事件は特に騒がれることもなく収束したものの、佐川の目的はいまをもって不明。在校生諸君は、彼に細心の注意を払い、腫れ物のように扱うべきだと筆者は考える』
 …………さて、これはウソか本当か。
 今回の黒幕は誰だと考える前に、雛菊の台詞が思い出される。
 来週を楽しみにしていろ、とはこのことだろう。ただわからないのは、なぜ生徒会長や直哉まで標的にしているのかだ。
「無差別攻撃か?」
「彼女は憎いのさ。自分に不愉快を与える全てがね」
「……」
 おさげ髪の女が、密着すれすれの距離で背後に立ち、涼しい顔をして俺の手元を覗き込んでいた。
「……あのですね、黙って人の後ろに立たないで下さいって、もう何度も言いましたよね」
「そうだな。高瀬には、よく言われていた」
 高瀬、と呼んだ部分をやけに強調し、部長は一歩分の距離を下がる。顔はいつもどおり不敵ににやけているが目は笑っておらず、かといって厳しさがあるわけでもない。
「だいぶ高瀬本人が表面化したようだな、森実」
「わかるんですか?」
「もちろんだとも。お前は次に、『これからどうなるんですか?』と言う」
「──おそらく、一樹は消えてしまう。そうですよね?」
「……ノリの悪いコンビだね、ホント」
 突然、〝沙耶歌〟が口を利いたことにもそれほど驚いた様子はなく、部長はつまらなさそうに首を横に振った。
 ノリで会話する空気ではないことぐらいわかっているだろうに、どうしてもこの人はボケたいらしい。
「重い話の前に軽いジャブをいれるのは談笑の基本なのだがね。つくづく真面目キャラは度し難い」
「談笑する気、ありませんし」
「森実がこの世にとどまっていられる時間は残り一日、もって二日。もともと一つの身体に二つの魂が入っている状態なんか、長続きするわけがないのさ」
「い、いきなりですね」
「無駄な会話がお嫌いのようだからねぇ。君も、君の宿主も」
 悪い顔で、皮肉めいたことを言われてしまった。
「……あと一日、ですか」
 わかっては、いた。
 沙耶歌の意識がハッキリしていくたびに、一樹としての意思が希薄になる。
 文字通り以心伝心で通じている沙耶歌にそのことを隠せるわけもなく、俺たちはだいぶ早い段階からその覚悟を決めていた。
 幽霊である俺は、やがて消える。わかっていたはずなのに、部長の口から告げられたことで揺らいでしまった。
「君の願いは叶ったかい?」
「願い?」
「まぁ記事を読む限り、未練を果たすどころか余計にこじれてしまったようだ。……心穏やかに逝かせてやりたかったんだがなぁ」
 憂いを含んだ声で呟き、壁に貼られなかった壁新聞を俺の手から奪い取る。
 部長の言うとおり、状況はこじれにこじれまくっていた。
 願い。未練。
 俺の未練は何だ? 本当に直哉の幸せを望むのなら、なぜ告白なんかした?
「……俺は、どうしたら?」
「私に聞くな」
 冷たい台詞と、チャラ、という小さな音が、沈みかけた俺の頭を持ち上げる。
 目の前には、見覚えのある鍵が部長の手からぶら下がっていた。
「選択肢を増やすぐらいのことはしてやる。これは好きに使え」
 部長の手が沙耶歌の右手を包み、手のひらの中に鍵を握らせる。
 態度とは裏腹に、彼女の手はとても暖かかった。
「せいぜい悩み、悔いを残さぬよう努力してみろ。森実」
 ほんの一瞬はにかんだように笑い、かと思いきやすぐにいつもの不遜な薄ら笑いを浮かべる。
 全てを悟っているような、相手を小ばかにするような、それでいて頼もしさと優しさを織り交ぜたような、奇妙な、しかし慣れ親しんだ微笑みだった。
「部長……」
「元、だ」
 手が放れ、棒立ちの状態から動かない俺の脇をすり抜ける。
 すれ違いざま、常套句のように言っていた台詞を久しぶりに呟き、丸めた新聞で肩を叩きながら部長は悠々と立ち去っていった。
 これが彼女なりの今生の別れ方なのだろう。なんとなくだが、そう思う。
「──あっさりとしていましたね」
「部長らしいよ」
 あの人には、たくさんフォローをしてもらった。行き詰ったときは頼れと言っていたが、実際に助けてもらったのは一度や二度ではない。
「結局、一度も払わなかったな……料金」
 相談一回につき百五十円。けち臭い話で、ドリンク一回分の値段を踏み倒し続けてしまった。
「──私の財布を勝手に使わないで下さい」
「そうは言うがなー……っと、そろそろ行くか」
 独白モドキのショートコントをしているうちに、昇降口に人だかりが見えてくる。
 ざわざわとした喧騒に耳を傾けながら、俺は手のひらの上に乗った部室の鍵を握り締めた。
 俺がすべきことは……いや。
 森実一樹が本当にしたいことは、なんだろう。


 残り時間はわずかだと宣告をされたにもかかわらず、俺は普通に授業を受け、気がつけば一日の半分が終わっていた。
 疑問の答えは、もう出ている。というよりも最初からわかっていた。
 ただそれを認めることが出来ず、結局こんなギリギリになるまでお人好しの振りを続けていただけだ。
「ホント、バカだな俺」
 自嘲もそこそこにして、昼休みの校舎をさまよう。
 この時間ではターゲットの捕捉も難しいが、じっとしてなどいられない。沙耶歌の腹がいやしくも空腹を訴えているが、現在の俺はラマダン月間なので断食中だ。もちろんウソだが。宿主の知識とリンクしているせいか、ボケのレベルが高いね、ハハハ。
「――焦っていますね」
 焦ってないよ? うん、ぜんぜん。っていうか人の多いところでいきなり喋るな。
「――そんなわけのわからないテンションで、まともに話が出来ると思いますか?」
 …………。
「悪い。ちょっと、イラついていた」
 やっぱり沙耶歌はドライだ。
 幼馴染の余命があと十二時間を切っているのに、こうして冷静な判断で俺を諭してくれる。
 正直な話、ありがたかった。
 落ち着いた今なら、自分がしようとしていたことの無謀さが自覚できる。もし一人でこの局面を迎えていたらと考えると、ぞっとした。
「……飯、食いに行くか」
 沙耶歌の返事はない。だがきっと、いつものつまらなさそうな顔で「そうですね」とでも言っているに違いない。
 俺は苦笑いを浮かべ、学食に向かって歩き出した。
≪あー、オホン≫
 天井から、スピーカーのハウリングとわざとらしい咳払いが聞こえてくる。
「……前もこんなこと、なかったか?」
 パートナーの返事は、沈黙だった。きっと、俺と同じく首を上げてハテナでも浮かべているに違いない。

≪生徒会から全校生徒に告ぐ。〝F〟の捜索を終了せよ≫
「は?」
 既視感が、一挙に襲い掛かってくる。
 周囲のざわめきは息を潜め、皆あっけに取られた顔をして天の声に耳を澄ましていた。
≪僕は今、一人の天使を失った。至純な想いを、Fは冷笑をもって打ち壊したのである! 彼の者は果たして天使と呼べるだろうか? 否! 魔性の者である! 僕が愛し、諸君らが捜し求めたFは死んだ! なぜだ!≫
≪夢を見る時間が終わったのです。それだけのことです、会長≫
≪おお、坂井よ。従順なる生徒会書記よ! ……そうだな。僕は悲しみを乗り越え、そして新たなる情熱の炎を胸に宿し立ち上がろう! 生徒会役員こそがこの学園の生徒達を正しき道へと導けることを……ん? ああっ、何をする放送部!≫
≪以上、生徒会によるお知らせでした≫
≪おいまだ僕は語り足りな――――ブッ≫
 放送はものの一分かそこらで終了した。
 ほんのわずかな時間でしかなかった。
 それなのに。
「なん、なん、な……」
 シリアスな空気も、十二時間後の絶望も、パートナーに抱いた信頼感すら。
「――さすがです、会長」
「っておおおおおおおおいいいいいっ!」
 ぜんっっっっっぶ、かっさらわれてしまったようだ。





ボケ要員の出番は終わった。何故だ!?
「この先はシリアスパートだからさ」


よろしければ 最後までお付き合い下さい
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・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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