ネコス35

TSした店主の喫茶店で巻き起こる人間関係をゆるゆる描く短編SSです
基本的に後先考えず気の向くまま適当に進行しています

ネコス35

 みなさまこんにちは。あなたの変身願望を叶える喫茶店「ネコス」の美人マスターです。バレンタインフェア真っ最中です。
 お店に来るカップルとか、人待ち顔の女の子とか、一人でパフェをかっ食らう男子高校生とか、この日はみんな色めき立っています。
 そしてそれは、ここ「ネコス」も例外ではありませんでした。

「いらっしゃ……いませ」
 来客鈴が鳴るたびにお店のバイト美女は、一瞬最高の笑顔でお客さんをお出迎えします。が、すぐに無愛想になってしまうのはちょっとばかりいただけません。
「ユカリちゃーん、その最高の笑顔は最後までお願いしますー」
「はぁ……マスターは悩みがなさそうでいいよな、ホント」
 なんか失礼なことを言いやがるのは、ネコスのアルバイターにして絶世の美女、ユカリちゃんです。
 もともとは普通の女子大生だったらしいのですが、マッドな祖父に男人格を移植され、一時期記憶喪失になっていたところを私が救い、なんだかんだあって今ではただの口の悪い女の子です。
 ええ、私が、救ったんです。何か文句でもありますか? ユカリちゃんを慰めるイベントスチルを見逃してたりなんかしてないんですからねっ!
「いらっしゃいませーーーっ!」
「うにゃっ!?」
 急に弾けんばかりのあっかるい声が、お店中に響き渡ります。
 キャラ崩壊も辞さない、ユカリちゃんの声でした。
「ユカリちゃーん。元気なのはいいですけ……ど」
「やあ、マスター。今日もキミは美しいね」
「よ、よぉ赤井っ。ままま待ってたんだぞ?」
「相変わらずいい笑顔しているね、ユカリちゃん」
「にゃー……いらっしゃいませです」
 妙にテンションを上げるバイト美女とは逆に、私の気分はどんどん落ち込んでいきます。
 この、背景に星空のパネルでも背負っているかのようなキラキラした男は、ネコスの常連客です。
 節穴過ぎる審美眼のせいで、絶世の美女であるユカリちゃんを差し置いてこの私を美しいなどと言い当然のように口説いてくるウザイ客です。
 いいえ、まぁ私だって美人マスターを名乗っているわけですから? そりゃあ自分が美しいと理解はしているつもりです。
 でも、この男が言っていることは、エベレストの朝日を拝んだ後で高尾山の朝日が最高に美しいとか言っているようなものです。酔狂以外の何物でもありません。
「それで、今日のご注文は?」
 カウンター席に当然のように座ったウザ客に、私はいつもの営業スマイルも忘れぶっきらぼうに接客します。
 ホール担当のユカリちゃんが、なんかそわそわしながらこちらを見ていますが……嫉妬でしょうか?
 うふふ、大丈夫ですよーユカリちゃん。私はあなたのものですからー。こんなウザ客に心揺らぐものですか。
「マスターの今日のランチを。そしてデザートには、キミの愛がこもったチョコレートをいただきたい」
「…………オーダー承りましたー」
 青筋マークを乱発させる顔を背け、私は厨房に向かいます。
 ああほんと、マジウゼェです。いっそのこと女体化するチョコでも贈ってやりましょうか。
 でも残念ながら私が変身効果を付加することの出来るメニューはコーヒーのみです。レパートリーを増やしたいと切実に思います。
「マスター!」
「うん?」
 ちゃきちゃき料理を作っていると、突然、ユカリちゃんが厨房に現れました。
「あの、よ。さっきのオーダーだけど」
「どーしました? まさか変更ですか?」
「いや、そうじゃなくて。……ああ、なんつーか。赤井、デザートにチョコ、頼んだよな」
「……………………あー、はいはい、そうですね」
 赤井というのが誰か一瞬本気でわかりませんでしたが、文脈から察してたぶんさっきのウザ客のことだろうと理解しました。さすが美人マスターの私です。
「や、やるのか? チョコ」
 ユカリちゃんは真っ赤な顔してもじもじして、背が高いくせに猫背になって私を上目遣いします。美女可愛いとはこのことです。
「あははー。あいにくウチのバレンタインフェアは、キャッシャーの傍にある十円チョコ配布だけなのです」
「そ、そっか。ならさ」
 ごそごそと制服のエプロンのポケットに手を突っ込んだかと思ったら――
「ここ、これ」
 そういって差し出されたのは、赤のリボンでラッピングされた、四角い箱でした。
 この日に「コレナニ?」なんていうバカは男をやめるべきだと思います。
「営業中に、しかもお客さんの料理を作っている真っ最中のこのタイミングでチョコを渡されるとはさすがに思いませんでしたけどねー」
「は? い、いやちげぇよ! 赤井の料理に、これをつけて欲しいって言ってんだよ」
「? …………ああ、なるほど。ユカリちゃんは優しいですねー」
 あのウザ客のことです。どうせ今日のチョコの収穫なんて、家族以外から貰っていないに決まっています。
 しかし、こころ優しい私のユカリちゃんはそんな男を不憫に思い、わざわざチョコを用意して上げたのでしょう。
「ちなみに、私にもちゃんとあるんですよね? チョコ」
「LO○Kなら」
 市販モノですか。しかも伏字が伏字の役割を果たしていないですねぇ。
「ほら、そんなことよりこれ、頼んだからな」
 言いながらユカリちゃんはランチメニューのトレイにラッピングされた箱を置き、ホールに戻っていきました。
 ……もしかして、わかりにくいツンデレでしょうか。
 義理であげるウザ客が手作りで、恩人の私が市販者なんて、納得いきません。本当は逆なのかもしれません。
「うーん……」

「というわけで、マスターの今日のランチ。ユカリちゃんからの義理チョコ添えです」
 悩んだ末、結局私は彼女の言うとおりにすることにしました。
 チョコ一つの獲得に腐心するのではなく、素直に言うことを聞いて好感度を上げていくほうが重要だと気付いたのです。
「……へぇ。ユカリちゃんからか。ふっ……そういうことにしておこうか。恥ずかしがり屋のマスター?」
 ウザイ感じで誤解しやがりました。ふとホールを見れば、ユカリちゃんが顔を真っ赤にしています。
 なるほどそういうことですか。私だったからセーブできましたが、ユカリちゃんならこのウザさに耐え切れず、手を上げてしまいそうですからねー。
「フ……では、早速、マスターの愛の結晶を僕の口の中に導いてあげるとしよう」
 チョコのどに詰まらせて生死をさまようがいいですこのウザ客。
 ――パク――
「………………君の愛は、苦いんだね」
「苦い?」
「なるほど……カカオ99%……いや、この味わいは85%といったところか。一昔前のブームを今もなお受け継ぐキミの姿勢に、僕は敬意を表するよ」
 言っていることがウザクて私の脳内処理が追いつきません。なのでこの男の全ての言論は拒否することにします。
「ま、マスターに渡すのと間違えた…………」
 視界の片隅で、ユカリちゃんがなぜかテーブルに座って頭を抱えています。
 相席状態のお客さんは、そんな彼女をよしよしと慰めていました。
「やれやれです」
 ――コポポポポポ…
「ホットココアです」
「うん?」
「コーヒーが嫌いってことは、あなた、苦いのがダメということでしょう? これで中和するといいです」
「(・∀・)…」
「な、なんですかその顔は」
「マスター。僕はキミを注文したい」
「バレンタインデーに風俗行くがいいですこのウザ客ーーーー!」

 「ネコス」は今日も、苦くて甘い空気がいっぱいです。





まにあったまにあった
そして登場人物おさらい編終了
あとはまぁ、適当に
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Author:巫

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・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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