ネコス40

TSした店主の喫茶店で巻き起こる人間関係をゆるゆる描く短編SSです
基本的に後先考えず気の向くまま適当に進行しています

ネコス40 白日編その3

 みなさまこんばんは。
 悲しいときには街の外れで電信柱の明かり見ている喫茶店「ネコス」の美人マスターです。
 涙浮かべて見上げていないので虹の欠片がきらきら光っていません。
「きやがりませんでしたねー」
 来なかったとは、もちろん、私を口説く例の常連さんです。
 うっかりバレンタインにチョコを渡してしまい、ホワイトデーにはとんでもないお返しがくるのではとハラハラしていました。
 ですがまったくの杞憂で、白い日の当日どころか次の日すら、あの男は姿を見せませんでした。
 はっきりいって、キャラがぶれています。どんなに私に冷たくされても、めげずに、相変わらずのウザイテンションでこの美人マスターを口説くというのが、あの男のキャラだったはずです。
 もっとも、私はこれからもあの男に対してデレるつもりなんて欠片もありませんけど。
 だって私はTS美人マスター。元男ですので、女の子が大好きなのです。猫さんの次ぐらいに好きです。
「けど、今日はネコさんもやってきません」
 いったいどうしたというのでしょう。開店時間は終わり、いつものように勝手口に売れ残りのご飯を置いているのですが、ぜんぜん姿を現しません。悲しいです。
「にゃー……」
 勝手口の前でひざを抱えて座ります。なんだかどっと疲れました。

――バダダダダダダダダダダ…
「にゃ?」
 上空から、無粋で機械的な羽ばたきが聞こえてきました。
 ヒュンヒュンヒュンとアニメの空中描写でお馴染みのファンが回る音も聞こえます。
 音を不審に思っていると、急に地面の一部分だけがピンポイントで明るくなりました。
 まるで、上空からライトを照らしているみたいな光景です。円形の照明は左右に動きながら、ゆっくりと私に近づいてきます。
「スポットライトですか? 私、アイドルデビューですか!?」
 そんな私の妄言は半分ぐらい当たっていたのでしょうか。ピンスポは私を照らし出すと、ピタリとその動きを止めました。
 まぶしさに手をかざしながら、光源である上空に視線を向けます。
「( ゚д゚ )」
 超低空飛行するヘリが一機、正面につけてあるサーチライトで、私を照らしていました。
――バダダダダダダダダダダ…
 っていうか、ヘリすっげぇうるさいです。お向かいの人たちが起きて文句を言ってこないのが不思議でしょうがありません。
 あっけにとられていると、ヘリは縄はしごを下ろしました。降下作戦が始まったに違いありません。
 ヘリからは屈強な黒服の男達がはしごを降り――ることはなく、逆光に照らされる細身の人物がゆっくり地面に近づいてくるだけでした。
 やがて、地面に降り立ち、身なりのいい男が、私の目の前にやってきました。
「やぁ、遅くなってすまないね、マスター」
「(  ゚д゚ )」
「( ゚д゚ )」
 上空待機するヘリからのライトを浴びて、いつも以上にキラキラ輝くうっとうしい男は。
 ネコスの常連客にして私の天敵である、とってもウザイお客様でした。


「にゃーーーーー!!! 高い高い高いですぅーーーー!」
 みなさまお空の上からこんばんは。くもじ…高度一万メートルの美人マスターです。実際には五千メートルもないのでしょうが、高所恐怖症でなくてもこの光景は恐ろしすぎて正確な数値など割愛に決まっています。
「というか、なんで私は縄はしごで空中を振り回されているんですか!?」
「この景色をキミに捧げたかったのさ」
「せめてヘリの中から見せてくれませんかねぇ!? なんで命綱つきで夜景を眺めなきゃいけないんですか!?」
「ふっ、もちろん、ヘリのパイロットにキミの姿を目の当たりにさせたくないからさ。キミの美しさに惑い、ヘリの操縦を誤ってもらっては困るからね」
「ぜってぇ嘘です! こうすれば、私があなたの手を離さないと思ったのでしょう!? まんまとひっかかってやっています!」
 今の私の状況を具体的に言いましょう。

 ヘリ
 |
 |ウザ客私
 |

 夜景

 です。全然具体的じゃない? こっちもいっぱいいっぱいなのですよ! ようするに空中ダイハードです! 魔女宅です!
 ヘリから垂れ下がる縄はしごに私とウザ客がしがみついている状態です! 夜景なんて楽しむ余裕ありません!
「さて、そろそろ時間だ。マスター。夜景から目を離さないで欲しい」
「下を見ていろと!? ドンだけ鬼畜ですかあなたは!」
「大丈夫。僕は何があってもこの手を離さない」
「うざいです! でも手を放したら呪い殺します!」
 仕方がないので私は恐る恐る街の明かりを眼下に見据えます。
「うにゃ?」
 するとなんということでしょう。街の明かりが、数箇所を覗きパっと暗くなりました。町中が、一斉に停電したようです。
 というには、なぜか一部分だけ電気がついたままなのが不思議です。
 …………うお。よく見れば、これは。
「気付いたかい?」
「ILOVEYOU…………」
 空から、街を照らす明かりの部分だけ繋げてみました。
 ILOVEYOUという文字が浮かび上がりました。よく、ビルの明かりで文字を描くという話は聞きますが……街規模でそれをやらかすなんていうのは、予想外すぎます。
「この景観を、マスターへ捧げる。準備に手間取り、ホワイトデーに遅れてしまったけどね」
「あ、あなたは……」
 ヘリをチャーターし、パイロットも雇い、街の明かりまで操作したウザ客に、私は初めて、ポリシーに反する質問します。
「あなたはいったい、何者ですか!?」
 他人の素性を詳しく聞かないことこそ、私の、ひいてはネコスのスタイルだったのに。
 ついに、ついに聞いてしまいました。そのぐらい、この男の行動は私の常識外でした。
「ふっ……僕は赤井。君に恋をする、ギャンブル好きの個人商さ」
 いいながら、きらきらと歯を輝かせ、男は私の耳元でさらに囁きます。
「愛しい人よ。君の、名前は?」
「わ、私は────」

***

 みなさまこんにちは。
 涙拭くハンカチの色は何色でしょうとお空を眺めながらセンチメンタルに浸る「ネコス」の美人マスターです。
 白い薔薇を束ねた形をした雲を探してもなかなか見つかりません。
「おい、きいているのか野良猫」
「すみませんが、セキナさんの顔で凄むのは止めて貰えませんか、オウカちゃん。怖いです」
 お向かいのカフェ「オレンジ」の店主の身体をしたツンギレウエイトレスが、ぼんやりと窓を眺めるマスターを現実に引き戻します。
「野良猫の意見など知ったことか。それより、昨夜の騒音はなんだと聞いているんだ私は」
「なぜ私に聞きますか」
「お前が原因なんだろう? あの飼い主の顔を見ていればわかる」
「(・∀・)」
 お店の隅では、ウザ客さんが胡散臭いほどの笑顔で私を眺めています。
 普通、あんな大イベントを起こした次の日は顔を見せないのがセオリーだと思うのですが、そういったデリカシーはあの男はまったく持ち合わせていないらしいです。
「おかげでベッドから落ちてしまい、朝起きたらこのザマだ」
「さりげなく一緒のベッドで寝ている発言しないでくれますか。いちゃラブアピールですか」
「ふぁ……私達は婚約者なのだから、一緒に寝て何が悪い。それに」
「それに?」
「お前達ごときに、私は負けたくない」
「あははー、言っている意味がわかりません」
「覚悟しろ。私達はお前達よりもずっとずっと、今までよりも深く愛し合うのだ!」
「あははー、言っている意味がわかりません」
 とりあえずこの目つきの悪い子は、自分達はラブラブだと言いたいらしいです。誰と張り合っているのか、皆目見当がつきませんけど。
「マスター。お会計を頼むよ」
「え、ああ、はいはい。830円です」
 ウザ客さんは夏目さんを寄越し、私におつりを要求します。
「マスター」
「うにゃっ!?」
 おつりを渡した直後、手を握られてしまいました。
「は、はなしやがれです、このウザ客ー!」
「君が、約束を守ってくれたら、名残惜しいけど今すぐ離すよ」
「う……」
 昨夜、上空で私達は一つの約束を交わしました。
 私の名前を、おいそれと呼ばないこと。
 その代わり、私はウザ客さんにある言葉を投げかけること。
「ししし、心配しなくとも、帰る直前に小さな声でいってやりますです!」
「僕に聞こえるように、大きな声で言って欲しい」
「にゃ~……」
 約束は、約束です。
 私は、カウンター席で物凄い目つきで睨むオウカちゃんに怯えつつ、例の言葉を口に出します。
「あ……かい、さん」
「うん?」

「ありがとうございました。またお越しください」

 営業スマイルを全力で無理矢理振り絞り、私は、私の天敵へ再来店を願います。
 約束の言葉に赤野郎は満足したのか、私の手を離すと、ご機嫌そうにお店を出て行きました。
「うにゃ~。疲れました」
「なぜ飲食店で当たり前の台詞を恥ずかしがっているんだ、お前は」
「ほっといてくださいー」

 私にとって激動の日々でも、他の人にとってはなんでもないようなことであり。
 ネコスは今日も、穏やかに時間が流れていきます。



白日編終了です
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Author:巫

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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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