空箱3-1

未完成の長編小説を投下します

*以下、注意事項
1:TSの話ではありません
2:女装キャラがメインにいます
3:女主人公です
4:相変わらず拙い文書です
*以上に不愉快を感じる方は、読まないことをお勧めいたします


前章のあらすじ
女装男に再告白したら「考えさせて」といわれたぜぇ~?


空箱 3-1
 『女は毎日首遊びをしました。首は家来をつれて散歩にでます。首の家族へ別の首の家族が遊びに来ます。首が恋をします。女の首が男の首をふり、又、男の首が女の首を捨てて女の首を泣かせることもありました。』

「いぃぃやあああああああああああ────ッ!」
 妙に間延びした悲鳴を上げ、ヒビキは今までおそるおそる読み進めていた本を、ついにテーブルの上へ放り捨てた。
 昼下がりの日光を浴びる『桜の森の満開の下』が、雑な扱いに抗議するように、恐怖の物語が載ったページをパラパラと舞い躍らせる。休日の午後に読書をするという、極めて穏やかだった時間は、憐れにも怯えおののく時間へ取って代わられた。
「な、なに、これ。ささ、サギだよっ!」
 桜という美しいキーワードにひかれて文芸部から持ち出した文庫本は、その実、恐ろしく残酷な話だった。
 惚れた女のために平然と人殺しをする山賊と、生首を使ってごっこ遊びをする美しい女。それらの登場人物は、作中で散々恐ろしいとか怖いものだとか語られている桜よりも、ずっと薄気味悪い存在だ。
「もうやだぁ……もう読みたくないぃ~」
 ソファに身を沈め、泣き言まで漏らす始末である。完全にタイトルに騙された。『桜の森の満開の下』は、優しさなど欠片もない、毒々しいホラー小説だった。
 そうでなければあるいは、男の愚かさを説いた話なのかもしれない。
 前の女房を殺し、山から都へ居を移し、戯れのために人を殺して首を持ち帰る。それは全て、女が美しいからだ。
 美しい女の言いなりになって、山賊はどんどん自分を追い詰めていく。美女のために人生を狂わせたバカな男がどんな末路を辿るのかは、想像に難くない。
 つまるところ男は、女の美醜にしか注目していないのではと、ネガティブな思いが顔を覗かせる。考えれば考えるほど、ヒビキは男性不審に陥ってしまいそうだった。
「わたしが、もっと綺麗だったら……」
 天井を見上げ、「もしも」を考える。もしも自分が綾女並みの美しさを備えていたならば、フミへの告白は成功していたかもしれない。
 クオリティの高い女装からして、美意識にはとりわけ敏感であることが窺える。容貌にひとかけらの自信もない女など、相手にされなくて当然なのだ。
「ずるいな……アヤ先輩」
 綺麗で、大勢から慕われて、理解のある彼氏もいて。
 綾女はまるで、『桜の森の満開の下』の女のようだと、見苦しくも羨んでしまった。


「さあヒビキちゃん。いますぐ章一さんとイチャイチャしてください!」
 休日開けの放課後、文芸部に着いたヒビキを出迎えたのは、羨む心も吹っ飛びそうな『スイッチ』が入った綾女のそんな一言だった。
 部室の中心にある机には、章一がいつもの席に座っている。ただ今日も、フミの姿はなかった。
「遠慮するな、武内。俺の傍に来い」
「ほぁっ!?」
 てっきり綾女の妄言を止めてくれるものとばかり思っていたのに、まさかのツッコミ不在だった。章一は眉一つ動かさずに、自分の膝元を叩いている。座れ、ということだろうか。身長差的に問題はなそうだがって違う、心配する所はそこじゃない。
「なん、なん、なん、で」
 恋人が、他の異性とイチャイチャする。それは絶対に見ていていい気分ではないはずなのに、なぜか二人は笑ってそれを薦めてくる。これがパニックを呼ばないのなら、それはもうヒビキの姿をした別の人間だ。
「落ち着いてください。これは、作戦です」
「さ、さく、せん?」
 言われて、先週から置きっぱなしにされていたのだろうホワイトボードへ視線をやる。以前の『私だって女の子だよ作戦』には大きくバツ印がかぶせられ、その下に新たなる項目が追加されていた。
 【何でこんなイライラするんだろう。もしかして、俺……? 作戦】
「なんですかこれ」
「やっぱり、ちょっと長かったですかね?」
「そっちじゃないです」
 作戦名が、よりストーリー性を帯びている。
 むしろ、モノローグからの抜粋にも見えた。
「これは、自分に近しい女が他の男と親しくしているのを見て、初めて恋心を自覚するときの一文だ」
 章一による、的外れだが的確という矛盾したコメントが入る。
 同時に、綾女たちが何を企んでいるのかにも理解が及んだ。
「し、嫉妬をさせてみよう、ってことですか?」
「さすがヒビキちゃん。話が早いですねー」
 話の速度など、綾女には到底及ばない。
 発想力が飛びすぎていて、ついていくのがやっとだ。
「というわけで、章一さんとイチャイチャしてください。さあ!」
 見失うときもしょっちゅうだった。
 綾女はヒビキの手を取り、空席に押し込めるようにして章一の隣に座らせた。
「あ、の……」
 別の男といちゃつく姿を見せて、フミの嫉妬心を焚き付けようという狙いはわからないでもない。しかし、その相手役に自分の彼氏をあてがう綾女の思惑は理解できなかった。
 もしかしたら、ただ面白がっているだけなのかもしれない。
 自分の男を、自分の都合で振り回す綾女の姿が、『桜の森の満開の下』に出てくる女と重なっていく。彼女を信奉していた心がどんどん崩れ、代わりに小説と同じ感想が築かれていった。
 何を考えているのかわからない。
 ひたすら、不気味。
 帰りたい。
「では、イチャイチャするか」
 いつもの真面目ぶった顔と口調で、冗談としか思えない台詞を言う。
 章一に、異存はないのか。
「せ、先輩は、いいんですか?」
「いい、とは?」
「いくらフリだからって、わたしなんかと……すること、です」
 章一は、あの山賊と同じ。女の美しさに狂わされ、前後を失っているのかもしれない。綾女より劣る女と恋人ごっこをするのも、彼女がそう望むからだ。きっとそうに違いない。
 暗い心が被害意識を高め、疑いを確信へと変えていった。
「勘違いをしているようだな、武内」
「勘違い?」
「この作戦の立案者は、俺だ」
「え」
 思考が停止する。
 実はまだ二人はケンカ中で、当て擦りのためにヒビキを使おうとしているのだと言われた方が、ずっとわかりやすかった。
「先週言っただろう? 稲木弟がどう思っているのかを知ることが、最初の一歩だと。現時点でそれを推察できないのならば、推察出来る状況を作るまでだ」
「そこで、章一さんとヒビキちゃんがイチャコラして、あの子が嫉妬をするかどうか試してみようってワケです。まぁ、私達がお互いの絆を確かめ合ったばかりだからこその発案ですね~」
「ふっ、そうだな」
 気取った調子で口端を曲げ、眼鏡のずれを直す。
 つまりこの作戦は、からかいでもなければ当て擦りでもなく、純粋にヒビキの支援をするために考え出された、いわば善意なのだ。
 それなのにヒビキは、悪いほうへ悪いほうへと考えていった。善意に気付かず、あろうことか二人を蔑むような思いに支配されていた。
 恥ずかしさのあまり、泣き出しそうだ。
「わ、わたし。ごめ、ごめんなさ……っ」
 俯いた顔を上げることが出来ない。
 できることなら、このままこの世から消え去りたかった。
「ごめんなさい。ごめんなさいっ」
「んん? 謝られてばっかりじゃ、全然わかりませんー」
「……まぁ、推察は出来るがな」
「推察って言葉が大好きですね、章一さんは。嫉妬しちゃいます」
「ただの単語にか!? って、いまは武内だろう」
 頭上で騒ぎ始める恋人たちの会話が止み、代わりにふっと、ヒビキの髪が何かに触れられた。
「心を落ち着けろ、誰もお前を責めはしない」
 章一の手が頭を撫で、穏やかな声をかけてくれる。普段の冷たい態度からは思いも寄らない優しさに、自虐する心が和らぎ、一撫でされるごとに、慙愧や煩悶といった後悔の念が癒されていくようだった。
「善意を疑ってしまった自分を、恥じることなどない。説明を省きすぎたこちらに非があるんだ」
「で、でも」
「だがな、武内。稲木姉弟と付き合うコツは、少しでもいいから図太くなることだ」
 言葉を返そうとしたヒビキの台詞を封じ、話し方を冗談めかした風にして章一は続ける。
「そんなザマでは、弟をオトすことなど出来んぞ?」
「お、オト、オト」
 独占的な響きは、顔中を瞬く間に赤く染め上げた。
 呂律が怪しくなり、真っ赤になった顔も恥ずかしくて、下を向いてしまう。
 それでも、気持ちはだいぶ軽くなっていた。
「むぅ~……なんだか、随分イチャイチャしてますねぇ」
「お前が嫉妬してどうする」
「しちゃいけませんか?」
「存分にしてくれ。アヤには悪いが、正直嬉しい」
「素直なのはいいことです」
 間にヒビキを挟んで、カップル同士がじゃれあいの会話を交わす。
 別に惚れかけたとか、そんな気持ちはもちろんないのだが、女を慰めている傍らで恋人とイチャイチャする章一に少しだけムッときた。
「居たぞ、響だ!」
「え?」
 突然、部室のドアが開き、鋭い声が飛び込んでくる。
「こちらチームブラボー、武内女史を発見。フェーズ2に移行する」
 続いて聞こえてきたのは、最初に乗り込んできた人物とは違って冷静さのある声だった。
「……どちらさまですかぁ? あなたたちは」
「ノックもなしに部外者が入室とは、随分と教育が行き届いているらしい」
 この状況下で不釣合いすぎる満面の笑みを浮かべた綾女と、皮肉たっぷりの章一による出迎えに、ジャージ姿の女子生徒らはそれでも怯む様子を見せずに言った。
「あたしらはチームブラボー。陸上部のモンだっ」
「緊急の事態により、武内女史の身柄を一時お借りしたく存じます。我々と一緒に保健室へ来て下さい」
「き、緊急?」
 やけに堅苦しい言葉遣いをする少女にはツッコミどころ満載だが、それより先に穏やかではない単語が気になる。
 ヒビキと陸上部の接点は、一つしかない。だとしたら、呼び出される理由は必然的にその一つに関わることだ。
「め、メイに、何かあったんですか?」
 クラスメイトにして親友でもある少女の名を出すと、それまでキリリとした表情を浮かべていた二人組みが、初めて顔を曇らせお互いの視線を交し合う。
 にわかに、心が騒ぎ立った。
「……高橋選手は、いま、保健室に」
「鳴子がお前を呼んでんだ。さっさと行くぞ」
「あ、えと」
 浮きかけた腰を制止し、章一と綾女の顔を窺う。
 まだ話は途中で、しかもあれだけ優しくされておいてなお、鳴子の元へ向かうのか。そんな風に責める自分の声が聞こえた。
「その……ご、ごめんなさい。先輩、アヤ先輩」
「問題ない」
「私もですよ。早くお友達のところへ行ってください」
 鳴子の話題を出したことは一度もないのに、綾女には全てお見通しらしい。
 上級生二人の笑顔に後押しされるように、ヒビキはイスから立ち上がり、陸上部の二人組みと共に保健室を目指した。
「……どう思います? 章一さん」
「陸上部は、演劇部からいろいろと学ぶべきだな」
「文芸部で脚本力を養うって手もありますよねー」
 部室から出て行った後で、二人がそんな会話をしていたなど、露として知ることはなかった。

 保健室のドアを開けると、奥のベッドに、鳴子がその身を横たえていた。
「あれ……ヒビキ?」
 元気の塊であるはずの少女が、青白い顔で弱々しく振り向く。背筋に走る悪寒から逃れるように、ヒビキは入り口から駆け出すと、鳴子の手をギュッと握った。
「や……メイ! 死んじゃヤダぁ!」
「え、死なないけど?」
「え?」
「あーでも手は握ったままでお願い。ヒビキ分、充~填~」
 いつものよくわからない台詞を、どこか気だるげそうに言う。体調は万全ではなさそうだが、ふざけるだけの気力があることがわかり、ホッと胸を撫で下ろす。
 どうやら勘違いだったらしい。しかし、そもそも不安を煽ったのは、例の二人組みのせいだ。緊急とか曇った表情とか、今思うとあからさま過ぎるほどに嘘っぽかった。
 鳴子から手は離さずに、入り口を振り返る。
 さっきまでそこにいたはずのジャージコンビは、忽然と姿を消していた。
「どうかしたの、ヒビキ?」
「……メイ、わたしのこと呼んできてって、誰かに頼んだ?」
「ううん。『ヒビキ分が足りないー』って愚痴っただけ。願いが通じてめーちゃん大変ハッピー」
「そ、そう」
 どうやら鳴子は、陸上部のチームブラボーとやらに大変慕われているようだ。
 ヒビキ分とやらの正体については、聞かなくても何となくわかるというかむしろ聞きたくないネーミングだが、こうして手を握っていればソレは充填されるのだろう。
「でも、本当に大丈夫? 顔色、悪いよ?」
「んーまー、二日目だしねー」
「ふつかめ? ……あ」
 言葉の意味に思い至ったときには、ヒビキは既に顔中を赤面させていた。
 どうやら体調不良の原因は、病気でも大怪我でもなかったらしい。
「イケるかなーって思ってたんだけど、意外と重かったみたいよ? アタシ。無理に部活出て、それで、このザマ」
「や、休みなよ」
 女性共通の悩みを赤裸々に語る鳴子とは逆に、ヒビキは耳まで真っ赤になっている。どちらの反応が一般的なのか、優劣は付け難い。
「だってヒビキ、今日は全然話してくれないからさー」
「それ、関係ないよね?」
「あるの。放課後だって、いつもは駄弁ってから部活行くのに……アタシ、ヒビキに嫌われちゃったかなって、ずっとモヤモヤしてたんだよ?」
「……ご、ごめん、なさい」
 言われてみれば、確かに今日は鳴子とあまり話をしていなかった。
 小説のこと、フミのこと、そういった自分のことばかりに気を取られすぎていたせいで友達を、言ってしまえば蔑ろにしてしまったのだ。
 鳴子の言い分もまた自分優先の台詞なのだから、いわゆる「お互い様」という奴だが、反省の濁流に呑み込まれ思考停止状態だったヒビキに、そこまでの考えは至らなかった。
「んじゃ、看病プリーズ」
「え」
「ごめんって思うぐらいなら、看病してよ」
「で、でも……」
 ヒビキには医療の心得などない。そもそも保健室にはその役目に適した人間がいるのだから、出る幕などあるはずもない。さらに言うなら、生理に看病が必要かどうかも疑問だった。
「ほ、ほ、保健の、先生は?」
 鳴子の訴えから逃れるように、視線を辺りへと巡らせる。そこでようやく、保健室の主が席を外していることに気が付いた。
「あー、なんか買い物してくるって。そろそろ戻ってくるんじゃない?」
「買い物って」
 養護教諭が、生徒をベッドに残し、買い物。
 入学して約三ヶ月しか経っていないが、早くもヒビキはこの高校を選んだことを後悔しそうになった。
 それにしても今日はやたらと落ち込むことが多い。まるで、強気で行こうとした意気込みが徐々に減っているようだ。
「ささ、ヒビキ。早く看病してよ。ガバーッ! って感じで」
「が、がばー?」
 およそ看病という単語に似つかわしくない疑問を、反射的にオウム返しする。
 保健室の入り口から扉が開く音がしたのは、そんなときだった。
「ヘイッ、ナース一丁お待ちどう!」
「ふ、ふふふ、フミ、さんッ!?」
 保健の先生が戻ってきたものとばかり思って振り向いた先には、桃色のナース服があった。
 身体のラインに女性的な凹凸のない白髪の桃色看護師は、カルテらしきものを小脇に抱え、笑顔のまま足早にヒビキたちへ近寄ってくる。
「始めまして患者さん。担当ナースのフミですっ」
「……アタマ痛ぇ」
 ヒビキの隣に立ったフミは、ベッドの上で顔を歪める鳴子を覗き込むようにして身体を屈め、パッとした眩い表情を浮かべる。
「ふ、フミさん、どうして、ここに」
「ヒビキー。突っ込むところそこじゃない」
 心なしか、さっきよりもずっと気分の悪そうな口調で、鳴子がナース服への言及を促す。
 制服以外の女装姿を見たのは、冬の出会い以来だ。当然、戸惑ってしかるべきなのだろうが、いまのヒビキにとってはこの瞬間、この場所にフミが現れた意味を知る方が、何よりも優先された。
「キョウちゃんが、仮病かもしれない人に呼び出されたって聞いて」
「仮病じゃねーよ。ブッコロスぞ変態」
 体調の影響か、台詞の選択をやたらと好戦的にしてフミを睨みつける。
「あはは、そんだけ元気なら、看病なんていらなさそうだね?」
「あのさぁ、アンタみたいな変態に看病されて、気分が良くなると思う?」
「こんな可愛いナースなのに?」
「……初対面でここまでイラツク人間に会ったの、めーちゃん初めて」
 言い方こそ冗談めかしているが、その声は怒りで震えている。
 繋いだままの手が強く握り締められ、頑丈ではないヒビキの五指が悲鳴を上げた。
「め、メイ。痛いよ」
「え、あ、あぁ、ゴメンッ」
 訴えに気付いたのか、鳴子が慌てて手を離す。が、離れたのは一瞬だけのことで、すぐにまた握られた。
「とりあえず、ハジメマシテ。ヒビキの〝親友〟の高橋だよ」
 親友という言葉を力強くして、上辺だけなのが透けて見える微笑を浮かべる。胸中に渦巻く敵愾心を隠すつもりなど端からないらしく、厳しい声で続けた。
「それで、保健室に何の用? 頭の治療は保健室じゃ無理だよ?」
「この格好見てわからないかな? 看病しにきたんだよー」
「今が初対面のアタシを? 嘘が下手だね」
「まぁ、確かに建前なんだけどさ。本当は、キョウちゃん連れ戻しに来たの」
「わ、わたしを?」
 ヒビキはきょとんと目を丸くし、自分を指差す。
 フミの言っている内容が、まるで現実味のない出来事のように思えた。
「あの、どうして」
「それは後で。とりあえずタカちんも元気そうだし、戻らない?」
「妙なあだ名付けるな変態」
 間髪入れずツッコミを入れるあたり、元気そうだというフミの言葉には納得せざるを得ない。しかしつい先ほどの猛省が、鳴子を一人この場に残す提案を受け付けなくさせていた。
 せめて買い物に行ったらしい養護教諭が戻ってくるまでは、鳴子の傍にいてやらねばと、そんな自責に近い思いに追い込まれる。
「いいよ、行って」
 ヒビキの思いを知ってか知らずか、さらりとゴーサインが出される。
 鳴子は目線をフミに向けながら、吐き捨てるように続けた。
「わざわざ迎えに来たってことは、それなりに大事な用なんでしょ?」
「ま、ね」
「じゃあ、戻りなよヒビキ。アタシのことは、気にしないでいいから」
「メイ……」
「そのかわり」
 険のあった表情を元の気軽で明朗なものに戻し、繋いでいた手がそっと離れる。
 喋り方は一気に反転し、明るい調子の鳴子が、笑顔を咲かせた。
「明日はたぁーっぷり喋ろうね、ヒビキ」
「う、うんっ」
 呼応するように微笑み返し、精一杯の力強さで明るく頷く。
 明日は絶対、朝一番に、鳴子と話をしよう。
 そう決めた。




冒頭箇所は坂口安吾「桜の森の満開の下」より抜粋
ヒビキみたいな解釈をした読者もきっといるはず……たぶん
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プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

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・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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