空箱3-4

未完成の長編小説を投下します

*以下、注意事項
1:TSの話ではありません
2:女装キャラがメインにいます
3:女主人公です
4:相変わらず拙い文書です
*以上に不愉快を感じる方は、読まないことをお勧めいたします


前章のあらすじ
『桜の森の満開の下』ステマ乙


空箱 3-4
 放課後になるとクラスメイト達は席を立ち、思い思いの場所へとそれぞれが向かっていく。その中の一人が、毎度のように真っ直ぐヒビキの席に駆け寄ってきた。
「ヒビキ、ごめんっ」
 正面に回られ、両手を合わせ説明もなしに謝罪される。教科書をカバンに詰め込む手を休めると、ヒビキはやや怪訝な顔をして鳴子に訊ねた。
「えと、何?」
「アタシ、これから部活なの。なんか顧問と部長が夏に向けて張り切っちゃって……遅刻したら代表外すとか、いきなり厳しいこと言い出してさっ。横暴だよ!」
「あ、あはは」
 遅刻常習のヒビキが言えたことではないが、どう聞いても普通の規律だ。むしろ今までのほうが運動部としては緩すぎるぐらいだったのではとも思う。
「ホント、ごめんね。今日は一緒に帰ってパーッと遊ぶ約束だったのに」
「してないよね? そんな約束」
「……そうだ、それでいい」
「はい?」
 なぜか弟子の成長を喜ぶ師匠のような台詞を言い、ニヒルな笑みを浮かべる。自分で引っ掻き回した空気をそのまま放置し、鳴子は背を向けて教室を出て行った。
「メイ……わけがわからないよ」
 相変わらずの無軌道ぶりに、どっと疲れが舞い降りる。本当ならば自分も早く文芸部へ向かいたいところだが、しばらくこの場から動けそうもなかった。
「……ここで読んじゃおうかな」
 机の上にへたり込みそうだった頭を持ち上げ、カバンの中を漁る。休み時間も昼休みも鳴子が傍にいたため朝に受け取ってから開く機会に巡り合えなかった合作ノートを取り出すと、ヒビキの目はすぐさま新しく加えられた文章を追った。
               ------
 男娘の返答は────。
 沈黙、でした。男娘には、彼女の本当の気持ちがわかりませんでした。
 弱気な女の子は男でも女でも愛しているといいましたが、信用できません。
 本当は女が好きだから、女になった男娘を愛していると言っているのでは?
 そんな風に悩んでいると、あるとき、女神が現れました。
 「こんにちは。手違いであなたに呪いをかけてしまいました犯人です」
 女神は言いました。キスで、男娘の呪いは解けるのだそうです。
 「でもキスをする相手によっては、一生女の子かもです」
 女神は言いました。
 キスの相手が男に戻って欲しいと願うなら、男娘は男の身体に戻ります。
 でも、本当は女のままでいて欲しいと考えているのなら、その逆です。
 男娘は女の身体でいることに違和感を抱かず、二度と男に戻れません。
 「それで、一番好感度が高いのはですね~」
 女神の言葉を聞くまでもありません。
 男娘は弱気な女の子の所に行くと、すべてを打ち明けました。
 キスをしてくれれば、男に戻ること。でも逆に、身も心も女になるかもしれないこと。そして男娘が、女の子の気持ちを疑っていること。
 醜く澱んだ自分の心をさらけ出して、さらに男娘は言います。
 「キス、して欲しい」
 女になっても、絶対に恨まないから。
 男娘はじっと、弱気な女の子を見つめ、やがて、そっと目を閉じました。
               ------
「にゃ、あ、が、あ」
 ノートを掴んだままの両手を小刻みに震わせ、ヒビキは悲鳴とも呻きともつかない声を上げていた。まだ教室に残っているクラスメイトが訝しげな顔をしていたが、それほど興味もなかったのかすぐに顔を逸らされる。
「き、ききききき、す……って」
 全身が熱い。なのに身体は、寒さを訴えるかのようにカタカタと震えていた。
「これ、どどど、どういう、意味、なの?」
 読み返せば読み返すほどに、震えの正体がはっきりしていく。
 物語の中に出てくる「弱気な女の子」は、自分自身だ。いくらか理想も混ざっているが、彼女の言葉はそのままヒビキの言葉でもある。ではもし、フミも同じように「男娘」を自分に重ねているのだとしたら。
 ヒビキの言葉は、全て疑われていたわけだ。
 愛しているも、好きですも、彼にはまったく信用されていなかった。
「うそ……だよ」
 ノートが手からずり落ち、床に落ちる。
 ヒビキは拾う力すら出せず、机の上に沈み込むようにして突っ伏した。


 夕焼け空が薄紫に変わり、深々と夜へ向かう時間になっても、ヒビキはピクリともしなかった。夕闇へ落ちていく教室に残るクラスメイトはいない。いっそ、このまま闇に呑まれ、消えてしまいたかった。
「【あとには花びらと、冷めたい虚空がはりつめているばかりでした】」
 どこからか、覚えのある一節が聞こえてくる。
 それは『桜の森の満開の下』の、最後の一行だった。
「アヤ……先輩?」
 その一文を絶賛していた人物と、たったいま聞こえた声がぴったりと重なり、顔を上げる。
 ヒビキのすぐ目の前には、ニコニコと微笑む綾女の姿があった。
「おはようございます、ヒビキちゃん」
「ど、どうして、ここに」
 周囲を見渡すが一年生の、自分のクラスで間違いはない。いつの間に電気を点けたのか、薄暗い窓の外と反比例して教室の中はまばゆいほどの白い明かりに包まれていた。
「ヒビキちゃんこそ、桜の森ごっこですか?」
「桜の森ごっこ?」
「暗い場所で独りぼっちになる遊びです。あまり、楽しくないですよ?」
「や、やったことあるような、言い方ですね」
「やりましたけど、何か? ドヤぁ~ん」
「なんで得意げな顔しているんですか……」
 ここにいることの不可思議さはともかく、綾女の言動はいつも通りだ。
 ため息と一緒に目線を下ろすと、机の上に広げられた大学ノートに気付く。
「こ、こここ、こけっ」
「ニワトリですか? ヒビキちゃんらしいモノマネですねー」
「じゃなくて、これっ、読んだん、ですか!?」
「落ちてあったのを拾って、ちょっと中身に目を通しただけですよー」
 それを読んでいないというのなら、「読書」の定義を揺るがす発言だ。
「なかなか面白いお話です。結末をどうするのか、非常に気になりますねぇ」
「……いいんです、もう」
「何です?」
「続きなんて、書けません」
 暗い気持ちに押しつぶされながら、ぼそぼそと呟く。
 自分の、フミが好きだという気持ちが、こともあろうにその当人に疑われていた。そんな真実を突きつけられて立ち上がれるほど、ヒビキは強くなっていない。
 些細なことで萎えてしまう度胸を奮い立たせたところで、最初から程度が知れていたのだ。
「わたし……フミさんのことは、諦め」
「甘えんなチャボ娘」
「え?」
 俯きかけた顔を上げると、笑顔を纏っているはずの綾女が消えていた。ヒビキの目の前にいたのは、口を厳しく結び、驚くほどに温かみのない瞳をした、文芸部部長の顔だった。
「諦めないって言ってから、一ヶ月も経ってない。それなのに、ノートに書かれた断片を真面目に受け止めて、こんな暗くなるまで落ち込んで、バカですか? バカなんですね?」
「あ、あああ、アヤ、先輩?」
「弟もバカだけど、あなたはそれ以上です。キングオブバカ就任おめでとう」
「にゃ……」
 捨て鉢のような口調で首を左右に振り、綾女は椅子を鳴らして立ち上がる。
「もうあなたと語る舌は持ちません。さようならです」
「あ……」
 冷たい目が逸れ、入り口に向かって歩き出す。
 遠ざかろうとする背中に掛ける言葉は、一つしかない。
「ま、って……待って、下さい」
 制服に手を伸ばして引き止める。引き止めて何を伝えたいのかはわからないが、しかしこのまま別れたら、もう二度と会えない気がした。
 震える指先でつまんだ裾は、綾女が少し前に進むだけで簡単に離れそうだ。
「離してくれませんか、ヒビキちゃん」
「ヤ、です」
「私、章一さん待たせているんですけど」
 わざとなのか、彼氏の名前をこれ見よがしに出して、恋人らしさをアピールしてくる。いつもとなんら変わりのないノロケの一端だったが、いまのヒビキにとってそれは、逆恨みにも似た感情を呼び起こす誘発剤も同然の一言だった。
「……から、ないですよ」
「何です?」
「わからないですよアヤ先輩には! わたしの、気持ちなんか!」
 苛立ちに支配され、ヒビキは激情を振り撒き声を張り上げた。
「綺麗で。みんな、憧れてて。ちょっと怖いけど優しい恋人も、いて! そんなアヤ先輩が、まともに喋れもしない根暗なわたしの気持ちなんか、わかるはずありません!」
 ヒビキは確かに綾女を信奉していた。だが、本心ではまったくの逆だった。
 欠点なんてどこにもない、理想をかき集めたような稲木綾女という女を、本当はずっと嫉んでいた。眩しすぎる光は、かえって目に悪いのと同じで、ヒビキは自分でも気付かないうちに劣等感を募らせていた。
 女神とまで称される人間に厭わしさを抱き、そんな自分の醜悪さに気付かず。結果、最悪のタイミングでヒビキの心は爆発した。
「わたしなんかが、強く、なれるはず、なかったんです!」
 言っていることは無茶苦茶で、どうしようもない八つ当たりだという冷静な自分もいる。しかし一旦起こった癇癪は、抑圧され続けた言葉をなおも破裂させた。
「嫌い……先輩なんか、大っ嫌い!」
 決定的な一言を弾き出し、次の瞬間、荒れ狂っていた感情の波が嘘のように引いていく。はりつめたような静寂に包まれた教室で、鬱屈し続けていた少女は、真っ青になって何かに怯えていた。
「そうですか」
 感情の読めない声色で、綾女が振り返る。過呼吸を引き起こしそうなほどの緊張に襲われるヒビキには、顔を上げてその表情を窺い知ることが出来なかった。
「どうも、ゴチソウサマでした」
「……え?」
 俯いたままのヒビキの頭に、手のひらが乗せられる。綾女にもフミにも劣る、決して上等とは言えない質感の髪が、ゆっくりと左右に撫でられていた。
「やっと、本音を見せてくれましたね。嬉しいです」
「アヤ、先輩?」
 恐る恐る、顔を上げる。
「でも」
 笑顔なのに、目が笑っていなかった。
「ひぃうげふっ!?」
 悲鳴を上げたヒビキの顔面に、B5判のノートが振り下ろされる。
 言葉では形容しがたいうめき声が漏れ、それでもジリジリと後ろに退いた。
「テンプレ的な台詞ですが、実際言われると結構ムカつくんで、叩きました」
 今度は眼差しにもしっかり微笑みを纏わせて、悪びれもせずに言う。慈愛の女神だと周囲は言うが、一度この正体を妄信者達にも見せてやりたかった。
「さて、チャボ子ちゃん」
「誰がチャボ子ですか」
「じゃあタンドリーチキンでいいです。口を挟まないで下さい」
「生物ですらない!?」
「この台詞も、ありきたり過ぎてヤなんですけど。でも、テンプレにはテンプレで返すのが礼儀ですしねー」
 部族レベルの礼儀を持ち出すと、綾女は急に引き締まった顔を作り、言った。
「恋に傷はつきものです。でも、恐れちゃいけません」
「……先輩は美人だから、そんなこと言えるんです」
「あははー。本当に、根暗なんですねこのフライドチキン。……例えば、私とヒビキちゃんの容姿が入れ替わったとしましょう。さて、私たち二人が初対面設定の章一さんを恋人にしようとした場合、勝つのはどっちでしょう?」
「もしもの話は、好きじゃありません」
「一刀両断とはやってくれますね。ちなみに私の身体になっても、やっぱりヒビキちゃんはオドオドしたままで何も出来ないと思います。つまり、私の勝ちです」
「……」
 言いたいことは伝わる。綾女は、人間は中身だという、本当に使い古されたありきたりな台詞でお茶を濁すつもりなのだろう。
 ヒステリーの後遺症か、ヒビキの胸中は卑屈で根暗な部分が際立っていた。
「容姿とかは二の次で、迷わずくじけずにアタックし続けた方が、恋を制する側になれるんです。いま私、最高にかっこいいです」
「最後の台詞で全部台無しですけど」
「ふふっ、ヒビキちゃーん。気付いてないんですかぁー?」
「何をですか」
「先輩に対して、ずいぶん滑らかにお話ししていますねー。しかも辛口です」
「!」
 言われて初めて気が付く。いつもならこれだけ会話をしていれば、必ずどこかで一回、言葉を詰まらせたり途切れさせたりするのが常だったのに、激昂した後は一度もどもることなく喋っていた。
「ね? 気負わずに喋るのって楽ですよね。その分、衝突もしますけどー」
「……衝突なんて、したくありません」
「でも、そのほうが分かり合えます。……話が逸れたじゃないですかこの鶏肉」
「調理すらされていない!?」
「よーするに私が言いたいことは、あのバカ弟が好きなら、振り回してやるぐらいの気持ちでアタックしてくださいってことです」
「でも、わたしの気持ちは、フミさんには」
「あの子、前の恋で傷ついて以来、ちょっと人間不信なんですよー」
 ピクッと耳が反応する。
 女装趣味とはいえ、フミほどの人間がヒビキと出会う以前に恋愛をしていなかったはずがない。そんなことは簡単に想像できた。しかしいざ姉の口からその事実を告げられ、しかも人間不信に陥るほどの失恋をしていたとなると、無関心では済ませられない。
「それ、どういうことです? フミさんに、何が」
「……ところで、弟のフルネーム言って貰えます?」
「え? えと」
 あまりにも強引な話の逸らし方に、一瞬だけしどろもどろになる。
「稲木フミ。です」
 簡単な問題なので、すぐに答えは言えた。
「バカ発見です」
「にゃっ!?」
「好きな相手の本名知らないとか、どんだけ怠け者なんですか。気持ちを疑われても文句なんか言えないレベルです。取説読まずにゲーム始めて『これクソゲー』って判断してるのと同じです」
「……同じなんですか」
「はぁー、なんか一気にしらけました。今度こそ本当に帰ります」
「ちょ、あ、アヤ先輩!」
 気になる話題を振っておきながら、それを回収せずに帰ろうとする綾女を慌てて引き止める。振り向いた女神は、心底面倒そうな顔をしていた。
「本当に、世話の焼ける……。じゃあ、一つだけ教えます」
 ため息をつき、そのついでとばかりに吐き出された綾女の言葉は、難易度が低い方の〝答え〟だった。正直、知ったところで『だからどうした』というレベルの話だ。
「それじゃあ、また明日です。さっさとあのバカ弟をオトしてくださいねー」
 そういい、綾女は笑顔のまま手を振ると、教室を出て行った。
「ふ……はぁ~……っ」
 ヒビキはその場でへなへなと座り込むと、精も根も尽き果てたため息を漏らし、しばらく呆然としていた。
 数十分後、見回りの教師に発見されて怒鳴られたことは、言うまでもない。




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・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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