暑いので怪談でも

怪談シリーズ第二話目です


「白い犬」

「俺の番か。俺は緑川霧太、二年だ。
 俺が話すのは、怖い……ってより、ちょっと不思議な話なんだ。
 十年位前だったか……田舎にいる祖父母の家に遊びにいったときの話でな。
 そこは本当にド田舎で、あるといえば、小川とか、山とか、森ぐらいなもんだった。
 それでも当時の俺は無邪気なガキでさ、そんなところでも遊び場にしてはしゃいでた訳だ。
 で、あの日もいつものように川を遊び場にしているとな、遠くのほうで犬が見えたんだ。
 遠くてはっきりとはわからなかったけど、たぶん幼稚園児ぐらいはあったんじゃないか。
 でも正確に言えば、それは犬じゃない。犬の形をした、白い何かだった。
 ……そういえばお前らは、『くねくね』って知っているか? 人の形をした白い『何か』だ。
 遠くのほうで白い人影が立っていてな。ただ立っているだけじゃない。踊っているんだよ。
 阿波踊りみたいな感じで両手を上げてな、関節とかそういったのをまるで無視して、くねくね動くらしい。
 人間って不思議なもんでさ、そんなわけのわからねぇ物も好奇心の対象にするわけだ。
 一番有名なものだと、ある兄弟の話だな。
 田んぼの中で、遠くに白い服を着た人間見たいなのが見える。
 そしたらその白い奴は両手を高速で振り回してくねくねし始めた。
 それが人間じゃありえないような動きで、兄弟は怖いながらにも興味をそそられた。
 で、兄貴だけがそいつを先に見に行ったわけだが、帰ってきた兄貴は青い顔して「わからないほうがいい」って弟に答える。そして兄貴は発狂してしまうってオチだ。
 何? 結局その『くねくね』は何なんだって?
 さぁて、諸説色々あるしな。今でもよくわかっていない。
 妖怪やドッペルゲンガーだって言う奴もいれば、熱中症の幻覚症状や蜃気楼だって言う奴もいる。中には異次元の裂け目だって言う奴もな。
 でも、『くねくね』が怪談なんかで積極的に討論されたことはない。
 まぁわかってること自体が少ないし、わかったらわかったで気が狂うんだもんな。興味本位で突っ込んで病院に入れられちゃたまらないしよ。
 さっきのヒロエの話じゃないが、危ねーもんには近づかないほうが長生きできるってことさ。
 
 で、俺が見た白い犬も、そんなふうにわけのわからない存在だったわけだ。
 別にくねくねしていたわけじゃ無いけど、ただじっと空を見上げるみたいに顔の部分が上を向いてたな。
 なんとなく不気味で、俺はそれ以上近づけなかった。
 するとさ、そいつは音もなくジャンプしたんだよ。二メートルか、三メートルぐらい。
 そんで、ふわーってスローモーションがかかったみたいにゆっくりと元いた地面に降りてくる。
 その瞬間、俺はそこから一目散に逃げ出した。確かめてやろうなんて気にはなれなかったな。

 それ以来、俺はあの川辺には近づかないようにした。白い犬とも二度と会うことはなかったよ。
 ……あれはいったいなんだったんだろうな。
 ん、ああ、いや。まだ話は終わりじゃない。
 俺のクラスメイトにいたんだよ。白い犬を見るって言うやつがさ。

 そいつ、吉村って言ってさ。サッカー部に入っていたんだ。
 まぁ普通の男だったよ。顔も普通で頭も運動神経も人並み。それでもさ、思い込みだけは強かったんだよな。
 自分は絶対に、キャプテンになれる資質だっていつもいってたな。ただ周りの人がそれに気づかないだけなんだって。
 実力? あまり大したこと無かったよ。いったろ、人並みだって。
 部活に入ってない俺でも二回に一回ぐらいは勝てたな。
 でもあいつはいつも自信満々でさ。「僕は出来る」って感じの自己暗示をいつもしていた。
 けど、そういう思い込みだけで出世できるほど世の中甘くはないんだよなぁ。
 ある日、隣町の高校から練習試合の申し込みがあった。
 吉村にしてみれば、自分の実力を示す絶好のチャンスだと思ったんじゃないか?
 で、レギュラー選抜が行われたわけだけど……結果はわかるよな? 吉村はベンチ。キャプテンどころか、レギュラーにさえなれなかったのさ。
 それでも吉村本人は納得していない。自分は絶対にレギュラーになれるのに、どうして二軍なのかって考えていた。
 そして出した結論は、どんなものだったと思う?
 素直に自分の力不足を認めた? それならよかったんだけどな……。
 吉村はな、キャプテンが自分の実力を恐れて、わざとレギュラーから外したんだって考えたんだ。
 奴はそのうち、自分に正当性があると思うようになってきた。
 自分は選ばれて当然なのに、選ばなかったキャプテンが悪い。
 自分の地位ばかり大切にして、チームのことを考えない奴にキャプテンなんか務まらない。ってな。
 憎む対象ができたら、後は簡単だった。吉村はキャプテンに嫌がらせを始めたんだ。
 聞いた話じゃ、ロッカーに落書きしたり、いやがらせの手紙を入れたり物を隠したりとか、そういった幼稚なものばかりだったらしいけどな。でも、地味に効果はあった。
 とうとうキャプテンは怒り、チームのメンバーを一人ずつ手荒く尋問していったんだ。
 レギュラーはともかく、補欠メンバーの中には怪我をする奴もいてな。吉村はもし自分が犯人だって知られたらと思うと、とても名乗り出ることは出来なかった。
 でもサッカー部をやめる事はできなかった。今やめたら、自分が犯人だって言ってるようなもんだしな。
 それでも着々と尋問の手は吉村に近づいていってる。
 逃げも隠れも出来ない状況で、吉村はとうとう気が変になったんじゃないかな。

「犬が見えるんだ」
 放課後、吉村は俺にそうして話を切り出してきた。嫌がらせのこととかもそのとき聞いたんだ。
 そのときは、どうして俺なんかに話すんだって思っていたけど、それはすぐにわかったよ。
「ねぇ、緑川君。君は白い犬を見たことがあるんだよね」
 前に、クラスの出し物で怪談特集をやったんだよ。去年の文化祭でさ。そのときにさっき話した白い犬の事を書いたから、吉村が知っているのも別に不思議じゃなかった。
「それは、あいつかい?」
 そういって、窓の外を指差すけど、俺には何にも見えない。そもそも俺の教室は三階だから、そこに何かいるわけが無いんだよな。
 聞くと三日ぐらい前から吉村はそいつにつきまとまわれているらしい。
 真っ白な大型犬で、そいつが白目を剥いた鬼気迫る表情でじっと吉村を見つめているんだとよ。
 道端から、屋根の上から、窓の外から。最初は十メートルぐらい離れた位置で吉村を見ていたんだけど、一日ごとにそいつが距離を詰めてくる。
 別に何をしているわけでもないのに、そいつに近づくと危険だって直感が告げるらしい。まぁ俺が見た白い犬も、なんとなくやばそうだとは思ったけどな。
 それで、白い犬から逃れるにはどうしたらいいかって俺に聞くんだよ。半泣きでさ。
 そんなこといわれても俺は別に何かしたわけじゃないし、だいいち吉村がいう方向には何も見えない。
 ストレスでそんなもんが見えるんじゃないか。キャプテンに正直に打ち明けてみたらどうだって言ってやったら、吉村の奴、今度は鬼のような形相で怒り散らしてさ。
「君がそんな薄情な奴だとは思わなかったよ!」なんて勝手なこと言って教室を出ていっちまった。
 俺はそういう逆切れする奴には割合慣れているんでな、とりあえずその時は吉村のことなんか気にせず放っておいたわけだ。
 次の日、学校についてみたら、朝錬をしていたらしいサッカー部が大騒ぎしていたよ。
 ああ、ついに怪我人が出たんだ。
 キャプテンに尋問された奴? 悪事がばれた吉村? いや違う。
 大怪我をしていたのは、キャプテン本人だったよ。
 獣のような呻き声を上げてな、グランドの上をのた打ち回っているんだ。
 近くで見ると、奴の両足が血塗れになっていた。足首の辺りには、杭でも打ったみたいな大きな歯形があったんだよ。まるで犬に噛み付かれた痕のような、な。
 キャプテンはすぐに救急車に運ばれていった。
 みんなが心配顔で見送る中、吉村だけはなぜか呆然としていたな。
 
 キャプテンがいなくなったことで、サッカー部の連中はみんな浮き足立っちまった。
 副キャプテンが何とかみんなをまとめようとしていたけど、元々いていないような奴だったんだよな。
 二十人にも上るサッカー部の連中をまとめるには力不足だったわけだ。
 そんな中で、一人ほくそえんでいたのが吉村さ。
 キャプテンが抜けたレギュラーの穴に、まんまと収まったんだからな。
 ……それがあいつの実力で勝ち取ったものなのか、卑怯な手を使ったのかはわからないけどよ。
 まぁこれで奴も白い犬なんか見ることもないだろうって思っていたら……。
「まだ見えるよ、白い犬。ストレスなんかじゃなかったんだよ」なんて、したり顔で言ってきたんだよ。
 俺は真っ先に違和感を覚えたね。だってそうだろ。この前は半泣きで犬のことを相談してきたのに、今度は半笑いだ。
 絶対に、何かあったって思うよな。
 それで、俺は聞いてみたんだ。そしたら、「あの犬は、僕の味方なんだ」ってまたわけのわからねぇことを言う。調子のいい奴だよな。ついこの間まで怖いだの気味が悪いだの言ってたくせに。
 俺はあきれて、それ以上聞く気にはなれなかった。
「君は僕を見捨てようとしたよね。だから、君も罰を受けるべきだと思うんだ」
「ああ、そうか」
「でも、君は僕の友達だし、見逃してあげる」
「そうか。ありがとよ」
 俺は友達になんてなったつもりはなかったが、否定するのも面倒でな。そのまま適当に受け流していたよ。
「ふふふ、ついに僕の実力を発揮するときが来たんだ。あの馬鹿なキャプテンはもう二度とサッカーなんて出来やしない。僕の邪魔をする奴は誰もいないんだよ。……君は、応援してくれるよね」
「ああ、してやるしてやる。がんばれ」
 俺の言葉に満足したのか、吉村はニタァッと笑って教室を出て行った。
 前々からちょっと不気味な奴だったけど、そのときぐらい気持ち悪いって思ったのは初めてだったな。

 それからしばらくして、サッカー部の練習試合が行われた。
 相手高校とウチの実力はほぼ伯仲だったと思うんだよな。
 だがそれも、キャプテンがいたらの話だ。
 キャプテンはいなくて、代わりに入ったのがスタメン。しかも協調性のない吉村だ。
 武道ならともかく、サッカーみたいな団体でやるスポーツはチームプレイが命だからな。そんな中で吉村はワンマンプレイばかりが目立って自爆していった。
 もともとがたいしたことないんだから、ひとりで大立ち回りなんかできるわけないんだよな。
 そんなわけで、ロスタイムに入る頃にはウチの高校は大打撃。
 逆転の見込みなんて、これっぽっちも残されていなかった。
 みんな諦めの表情でロスタイムを迎えた。だけど戦況は一変する。
「あああああああーーーーー!!!!」
 物凄い叫び声とともに、相手高校のメンバーが次々と倒れていったんだ。
 みんな同じように足を抱えて倒れ込んでいく。まるで、あのキャプテンのようにな。
 当然試合は中止……いや、一応不戦勝になるのか?
 まぁ公式試合じゃないし、少なくとも相手高校が全員倒れるまではこっちがボロボロにやられていたんだからな。試合に勝って勝負に負けたってやつだ。
 ……しかしなんで相手高校はいきなり倒れたんだろうな。聞いた話じゃ、みんな足首に犬に噛まれたような傷跡があるって話だ。
 けどあの時、犬なんていなかったしな。そもそもみんなが同時に噛まれるなんて、そんなことありえないだろ?
 みんな不思議に思っていたけど、吉村だけはそれが自分の手柄だって言うように自慢して回っていた。
 俺は犬の話を聞いていたからな、もしかしたら本当に奴が犬に命じて相手チームを、そしてキャプテンを襲わせたんじゃないかって思えてきたよ。

 そうしてしばらくした後、今度は部内の連中だけで練習試合をやることになった。
 結論から言うと、吉村のチームが勝ったよ。どうしてかわかるよな?
 相手チームが怪我をしたんだよ。レギュラー・スタメン問わず一網打尽にな。
 そしてやっぱり怪我した奴の脚には噛み付かれた傷跡がある。さすがにそんなことが何度も続けば、サッカー部の連中も作為的なものを感じずにはいられなかった。
 それで、部の連中はどうしたと思う? 吉村を吊し上げしたのさ。
 まぁ普段からキャプテンは気に入らなかっただの、あの練習試合は自分の功績だのと言っていたからな。
 真っ先に疑いの目が向けられるのは当然というわけだ。
 俺はそのときちょうど下校しようとしていてな。運悪くその吊し上げの場面を目撃してしまったんだよ。
「お前がキャプテンをあんな目に合わせたんだろ!」
「お前のせいであいつ、一週間も入院だよ! どうしてくれる!」
 なんて、罵詈雑言が吉村に向けられていたな。
 あいつはただ黙って、俯いていたよ。
 離れていたから表情まではわからなかったけど……たぶん、笑っていたんじゃないか?
 何でって言われても困るな。ただの直感だよ。でも、ひとしきり部員たちが騒いだ後で顔を上げた吉村は、確実に笑っていたな。
 ニタァって、あの気持ち悪い笑みでさ。
 そして奴が何か呟いた、その瞬間、サッカー部の連中は次々に悲鳴を上げて倒れていった。
 足から血を吹き出してさ、みんな苦しそうにのた打ち回ってるんだ。
「あはははは、あはははあはははははははは!!!!」
 次々と部員たちが地面に倒れていく中、吉村は狂ったような笑い声を上げていたよ。
 そして、ついに立っているのは吉村一人になった。
「ばぁーかっ! 僕には守り神様がついているんだよ! あはははははははは」
 なんて、悶える仲間たちを見下ろしてさ。
 でも、ふいに笑い声が悲鳴に変わった。
 人間のものとは思えないような叫び声をあげて、吉村は地面に尻餅をついたんだ。
 サッカー部の連中と同じように足から血を流してさ、怯えきった表情で地面を見つめていたよ。
「ひ……なんで、どうして! ぎゃああ!」
 奴は今度は左腕から血を流した。
「やめろよ、やめろぉ!」
 まるで、見えない何かを振り払うように、吉村は必死で腕を振り回し、右手で何もない空間を殴ったりしていた。
 やがて吉村は血まみれの足を引きずり、校門の方へ走っていく。見えない何かから、必死で逃げるようにな。
「くるなくるなくるなくるなくるなぁぁぁ!!!」
 逃げつつも両手を狂ったように振り回し、吉村はそのまま学校の外へ出て行った……。


 ……俺が知っているのはここまでだ。
 サッカー部の奴らは全員傷を負ったけど、一週間もすればみんな退院してきたよ。
 ただ、足の神経かなんかがやられちまったみたいでな。サッカーどころか激しい運動さえ出来なくなったらしい。
 ま、命があるだけマシって事だ。
 吉村? さぁな、あれ以来行方不明だよ。まぁ多分どこかで生きているんじゃないか?
 さもなきゃ奴のいう、白い犬にでも食われたか。ははは。
 ……さて、俺の話は終わりだ。次の話を聞こうか」
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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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