三題話 №2「入れ替わり、女性同士、パニック」

お待たせしました
三題話 №2「入れ替わり、女性同士、パニック」 行きます

気分転換程度のつもりで書いているので今後も更新は遅いです……


桃木ちゃんは私のもの


 ────僕はパニックになると、ある発作を起こしてしまう。
 ちょっと驚いた程度で動悸や目眩がし、全身の力が抜けて道端に倒れてしまったことも一度や二度じゃない。

 ヘタレ? ビビリ? 何とでも言えばいい。とにかく僕は、突然の出来事に対して過剰に反応してしまうのだ。それだけならまだ良かったんだけど……。
「おーはーよっ!」
「うわぁっ!?」
 叫んだ口から自分の心臓を吐き出しそうになる。
 幸いにして発作が出てくることはなかったけど、脈拍は明らかに正常から逸脱してしまった。
「ひ、ひどいじゃないか、美繰(みくり)」
 ドクドク高鳴る胸を押さえながら、背後で急に大声を出した女の子をにらみつける。
 幼馴染の少女は僕の視線をまったく気にせず、それどころかチッと舌打ちまでしてきた。
「なんで発作起こさないの? 行典(ゆきのり)のくせにナマイキだぞー」
「イジメじゃない? それ、イジメじゃない?」
「イジメじゃない。愛さ!!!!」
「ひぃっ!?」
 急に大声を出され、また全身がこわばる。
 美繰と話しを続けていたら、いつ発作が起こるかわかったものじゃない。
「いーからアンタはさっさと発作を起こせ! そして私は愛を勝ち取る!」
 朝の通学路で、登校中の男と女がごちゃごちゃとわけのわからないことを騒ぎあっている。
 何も知らない人が見たらそう思うだろうけど、あいにく僕や彼女にとっては意味の通った台詞だった。
 その説明をするためにはまず、僕の発作の真骨頂(?)から解説しなければいけない。
 僕はパニックになると────。
「行典、後ろ!」
「え?」
 振り向く。
 僕の後ろから、車道を飛び出した乗用車が迫ってきていた。
「jhbwfkshjK><」
 声にならない声を叫び、逃げようにも足がすくんで動けず。

 プツン、と。
 糸が切れるように、僕は発作を引き起こし、意識を失った。

………………

「う、あ……?」
 目を開ける。青い空が見えた。
 どうやら無事みたいだ。
 いつの間にか地面に寝そべっていた身体を起こして、状況を確認する。
 迫っていた車は、アスファルトの上に大きなタイヤ跡をつけ、電柱に激突していた。どうやら運転手がハンドルを切ってくれたらしい。ボンネットが真ん中からひしゃげている。
 そしてその車の傍らには……僕が、倒れていた。
「やっぱり……」
 呟いた声はさっきまで僕が聞いていた少女の声で。
 カーブミラーを見上げれば、僕の今の気分としっかりマッチした、疲れた顔の美繰が映っていた。
「僕、美繰になっちゃった」

 発作の真骨頂。
 パニックが極まると、近くの人間と心を入れ替える特殊能力。
 はからずも、こんな形で美繰の望みは叶えられたわけだ。

………………

「っしゃあ! 入れ替わったぁ!」
 目を覚ました美繰は、今の状況を把握すると元の僕よりも男らしい仕草と口調で入れ替わりを喜んだ。
 ちなみに事故現場からはさっさと離れ、いまは学校の校舎裏にいる。運転手、無事だと良いなぁ。
「み、美繰。声、大きいよ」
 スカートから伸びる素足をこすり合わせながら、弱々しく美繰をいさめる。
 何度入れ替わっても、女の子の身体と服装には慣れない。慣れたくないけど。
「ねぇ美繰ぃ~。早く元に戻ろうよー」
「ハッ、何言ってんだか。マイハニー桃木ちゃんと会わずに元に戻るわけないでしょうが!」
「……だ、だから、僕の身体でそんな、はにーとか……」
 顔が熱くなる。
 桃木ちゃんとは、僕と美繰の共通の友人で、美繰は彼女のことを愛している。冗談とか友人としてとかじゃなくて、本気で恋愛感情を抱いているらしい。
 でも美繰も桃木ちゃんも女の子で、女同士の恋愛はなかなか理解されない。そこで美繰が目をつけたのが、僕の発作だった。
 男の僕の身体を奪って、桃木ちゃんと恋愛関係になる……。果てしなく自己中心的な考えだけど、美繰はそれが正しいと信じて疑わない。
 もう一度『僕』の身体がパニックを起こせば元に戻るけど、中身が美繰ではそれはあまり期待できない。
 時間が経てば元に戻るけど、最近遅いんだよなぁ。もしかしたら次こそ元に戻れなくなるんじゃないかって、ビクビクしている。
「じゃ、行って来ます!」
 既に男として、行典として生きていく覚悟を完了している美繰は、意気揚々と校舎に走っていった。
 今日もまた、桃木ちゃんをデートに誘う気だろうか。
 一度も成功していないのが唯一の救いであり、同時にちょっと悲しい。僕、桃木ちゃんに男として見られていないのかな……。
「あら……美繰さん?」
「ひゃっ!?」
 背後から今日二度目の声を掛けられ、、思わず浮き足立つ。
 美繰の身体で驚いても発作が起こらないのは、この入れ替わりで数少ない利点だった。
「も、もも、桃木、さん」
「うふふ、いかがなさいましたの? そんなに驚いて」
 上品な物腰とたおやかな笑顔で、美繰の思い人が静かに微笑んでいる。
 たったいま頭に思い描いていた少女が突然目の前に現れ、僕は言葉を失ってしまった。
「あら、そういえば行典さんがいらっしゃらないようですが……いえ、お二人とも、いつも一緒なので」
「僕……じゃ、なくて。ユキノリ、は、その……」
 しどろもどろになる僕の態度から何を読み取ったのか、桃木ちゃんは頬に手を当ててどこか遠くを見た。
「ああ、またワタシをデートに誘おうと、張り切っていらっしゃるのですね……?」
 頷く。憂鬱そうな彼女の表情を見ると、僕(美繰)の行動を疎ましく思っているのがわかった。
「まったくもう、せっかく美繰さんという素敵な恋人がいるのに、移り気なお方ですのね」
「え、こ、こいび……ち、ちがっ!」
 どうやら彼女は、美繰の恋人の僕が自分に浮気していると勘違いしているらしい。
 ひどい誤解もあったものだ。というか、これじゃあ僕が完全にダメ男じゃないか!
「あ、あの、ね、桃木ちゃん」
「はい?」
 誤解を解かねばならないとパニックになる頭が命令し、もつれながら口をムリヤリ動かす。
「み、美繰は、桃木ちゃんのことが好きだから!」
 出てきた言葉は、一番わかりやすくて直接的な言葉だった。
 美繰がひたかくしにしている思いを、僕が打ち明けてしまったとか、。そんな後悔にまで考えが及ばない。
 何よりも────
「美繰さんが、ワタシを?」
 驚く桃木ちゃんの瞳に映っているのが、誰なのか。僕は、それさえ忘れて、ただ誤解を解こうと必死だった。
「そう、美繰は、桃木ちゃんのことを愛しているの! 僕と恋人とかじゃ、全然ないんだから!」
「…………」
 ぽーっと、桃木ちゃんの顔が赤くなる。
 誤解は解けかけているようだと判断し、僕はトドメの一言を放った。
「桃木ちゃん。美繰と、付き合ってくれないかな?」
 そうすれば僕も美繰と入れ替わらなくて済むはず……。うん?
「あ……」
 やっと、混乱していた頭が平静を取り戻す。
 僕は今、美繰だった。
「美繰さん……」
「あ、え、えと、今のは……」
 再び別の言い訳をしようとしたけど、頭は真っ白で何も働かない。
 そうこうしているうちに桃木ちゃんは頭を下げて、こう言った。
「不束者ですが、宜しくお願い致します」
「 え 」



「……マジ納得いかんし」
 行典がぶすっと膨れっ面でそんなことを言う。
 彼と私はあの日以来、元の身体に戻れなくなってしまった。仕方なく私は美繰として生きて、僕から私になり……桃木という、生涯の恋人を手に入れた。
「ああーーーーっさっさとカミングアウトすりゃよかったーーーー!!」
「ひっ」
 後悔を叫ぶ元・自分に慄き、肩をすくめる。
 しかしその肩に、そっと手を添える優しい人がいた。
「だめですよ、美繰さん? そんな野蛮な男に近付いては」
「桃木ちゃん……」
「もーもーきーちゃーん! そいつはニセモノだー! 本物の美繰はこっちー!」
「おかわいそうに……妄想を拗らせてしまわれたのですね」
「え、えぇっと……」
 桃木ちゃんが、私の手を握る。
 女の子の手は小さくて柔らかくて。自分自身のちっちゃな手を絡めることで、握り合う心地よさが倍増する。
 この安心感が、私を女の子のままでいようと決意させた。そしてそれは正解だった。
「さ、行きましょう美繰さん」
「う、うん」
 二人手を取り合って歩き出す。
 女性同士の恋愛がたとえ周りの人に理解されなくても、彼女と一緒なら、たぶん平気だろう。




エロナシ一人称

タイトルでわかった人はTS通(笑)

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