くのいちモノ 黒組8

くのいちモノ
無軌道のまま出せるネタは尽きた……

くのいち

 ビルの狭間からのぞく月を、一つの人影が横切った。
 それが、深紅の忍者服を身にまとったうら若き少女だと、そう認識できた人間は誰一人としていなかった。
(…………)
 深紅の少女──戦忍「紅葉」は、モニタールームで確認した集団の元へ向かいつつ、近頃の仲間の様子について考えていた。
(絶対、ヘン……)
 おっとりしていて、いつも優しく微笑んでいた楓。
 最近では何かを思い悩むようにして表情に影を落とし、かと思ったらまるで悪事を思いついたかのような顔でニタニタと笑うようになった。
 街で暴れるゲニンを難なく退ける腕前こそ健在だが、その戦闘スタイルも以前とはどこか違っている。
 もっとおかしいのは、その楓よりも遥かに腕の立つ椿が、敵の下級戦闘員を相手に苦戦を強いられていることだ。
 しきりに自分の身体を抱きしめ、何かに耐えるようにして歯軋りする椿は、以前よりずっと口数も少なくなった。
 楓に、椿。
 二人の様子がおかしくなったのはいつ頃からだろう。
 ボスを倒した今、ツキハミ党を完全に打ち滅ぼすのはもう間もなくだ。そう思っていたのに……。
 この拭いきれない不安が、紅葉の気を引き締める。
 この残党狩りは、楽に終わらない。打つ手を間違えればきっと、やられるのはこちらだろう。

***

「さあ。本性を表すのだ人間よ!」
 黒子のような格好をした黒衣の人物が声高に叫び、両手を広げる。
 左右の五指からは、それぞれ一本の糸が伸びていた。
 まるで意思を持つかのようにうねる十本の糸が、燃え盛るビルから逃げ惑う一人のOLに突き刺さる。
「きゃあ!?」
 体内に糸が突き刺さり、彼女の動きがピタリと止まる。
 顔の隠れた黒衣の人物は、両手でわしづかみをするようなポーズをとっていた。
「忍法・解脱!」
 両手を脇腹へと引き戻し、十本の糸ごとOLを引っぱる。
 ……否。引っ張られたのは、OLの『抜け殻』だった。
 彼女の身体から、彼女そっくりの皮とも呼ぶべきモノがずるりと引き剥がされる。
 実際に表皮が剥がされたわけではなく、OLには傷一つついていない。皮を剥がれた彼女は、そのままヒザから崩れ落ち、地面に倒れてしまった。
「お、おい、大丈夫か!」
 同僚らしき男性が駆け寄り、彼女を抱き上げる。
 女はすぐに目を開けて、ぼんやりとした表情で目の前の男を見ていた。
「良かった。早く逃げるぞ!」
「うるせぇよ」
 乱暴な声色で、女が男を突き飛ばす。
「な、何を……」
「てめぇ、アタシ置いて逃げようとしてたろ。ざっけんじゃねぇっつの、そのまま死ね」
「なんだその言葉遣い……い、いつものキミらしくないぞ!」
 男は驚愕していた。ついさっきまで彼が知っていた女とは似ても似つかない喋り方をする人物を前に、混乱していた。
 だから、気付かない。
 後ろに、刀を振り上げたゲニンがいることに気付かない。
「カワイコぶんのはやめだ。これがホントのアタシなんだよ」
 舌を出して、心底から男をバカにするOL。
 同時に、ゲニンの刀が振り下ろされ、男の胴体と首が真っ二つに分かれた。
「あははははっ!サイッコー!」
 血しぶきを浴びながら、女が笑う。
 その後ろで、彼女から剥ぎ取った皮を懐にしまう黒子がうんうんと満足そうに頷いていた。
「くっくっく……まさに『一皮剥けた』といったところか」
 表情こそ見えないが、その覆面の下は間違いなく笑顔で満たされているだろうことが声でわかる。
「さて……お次は誰だ? この改忍クロコ・チカマツ様が本性を暴いてやるぞ!」
 クロコが、手を振り上げ、再び糸を振るい始める。
 だがその糸は、上空から放たれた十字の刃……手裏剣によって、プツンとあっけなく切断された。
「ぬぅ!?」
「ツキハミ党、悪事はそこまでよ!」
 少女の甲高い声が天から響き、クロコが顔を上げる。
 街灯の上に立つ背の低い少女が、細長い針の先端を突きつけて高らかに名乗った。

「夜に潜む悪の影よ、月の光に呑まれて消えなさい!
 ツクヨミ機関・戦忍、紅葉! ただいま登場!」

「くっ……せ、戦忍か!」
 片手の糸を失い、クロコは明らかに動揺した素振りを見せる。
 逃げ惑っていた人々も、正義のヒロインが登場したことで絶望ムードから一気に好転した。
「おぉっ、戦忍だ! 助かるぞ俺たち!」
「腕に自信がある奴らはゲニンの相手だ! 改忍さえ引き受けてくれれば俺たちだって……!」
 それまで闇雲に逃げるだけだった一般人が、ハッキリと、武器を持って戦う者と逃げるものにわかれる。
「くっ……一般人風情が、調子に乗りおって」
「あんたの相手はわたしよ!」
「!」
 街灯から飛び降り、クロコとの距離を一気につめる紅葉。しかしクロコは、一瞬の判断で背後に跳び、紅葉と距離を取る。
「ふぅ、危ない危ない……スピードには自信があるようだな」
「そう? ありがとう」
 余裕に満ちた表情で、紅葉が針をくるくると回す。
「じゃあ、ご褒美にあんたの素顔でも見せてもらおうかな?」
 針の旋回を止めて、尖端をクロコに突きつける。すると、クロコの顔を覆い隠す黒布に一直線の切れ目が入った。
「なっ」
 はらりと、黒布が地面に落ち、クロコの素顔が衆目に晒される。
「……え?」
 しかし動きが止まったのは、紅葉の方だった。
「ハァッ!」
 クロコは素顔を……少女の顔を手で覆いながら、地面に何かを投げつける。
 破裂音と共に、一瞬で白煙が広がり、相手の姿はおろか一寸先すら不確かになってしまった。
「この勝負、預けるぞ」
 真っ白に染まる視界の中で、耳だけが、クロコの声を捉える。
「うそ……なんで、桜ちゃんが?」
 覆面で抑えられていた肉声は、紅葉の良く知る少女の声……クラスメイトの『桜』のもので間違いなかった。


***

「……ふぅ。危ないところであった」
 都会から少し離れた雑木林。
 黒衣に身を包む少女……桜は、そこまで逃げてようやく一息ついた。
「まさか民衆までもが反抗するとはな。保険をかけていて正解だった」
 そういうと、桜は自分のアゴの肉を掴み……べりべりと、引き剥がしていった。
 だが「桜の顔」の下から出てきたのは筋肉でも骨でもない。
 黒布で顔を覆い隠した、黒子頭巾だった。
「あやつめ……かなり動揺していたな。くくっ、よもや黒子の正体が顔見知りだとは思いもしなかったのだろう」
 クロコは用済みとなった桜の皮を懐にしまい。今後の作戦を練る。
 『一皮剥く』技の応用……『皮を被る』。
 一皮剥いた人間の皮ならば、どんなに体格差があろうとも着用でき、声や体型、その気になれば記憶や身体能力すらも本人に成り代われるという奥の手だ
 だが一般人の皮しか持たないクロコでは、今回のように顔見知りに化けて相手の虚をつく程度しか活用法がない。
 なんとかして戦忍を『一皮剥き』、それを自分が着ることが出来れば勝ち目もあるが……。
「しかし、急いては事を仕損じる。ツキハミ様しかり、茸法師しかり」

 党首ツキハミは戦忍の引き抜きに失敗し、落命した。
 暗殺に特化していた茸法師は、自ら最前線に出て切り伏せられた。
 『一皮剥く』しかできないクロコは、改忍の中でも最弱の部類だ。しかし、最弱だからこそ、生き残る手立てに余念はない。
「一般人の皮を使い……うまく戦忍に近付くことが出来れば……」
 幸い、クロコは『桜』以外にも紅葉の友人少女らの皮を所有している。
 クラスメイトの少女に成り代わり、学友として過ごしながら隙を窺う……。
「ふふ、悪くない考えだ」
 熟考し、一人自分の策略に納得したクロコは、懐から少女の皮を取り出す。
 背中が大きく開き、空洞となった少女の身体に、黒子頭巾を埋め、腕を通し、足を入れていく。
「待っていろ……目にものを見せてくれる」
 数分後、黒子衣装の怪人は姿を消し、そこには裸の少女が下卑た笑みを浮かべて佇んでいた。


 友人として近付き、戦忍・紅葉の皮を狙うクロコ・チカマツ

 戦忍・椿の妹に寄生し、姉妹の絆と心を絶望に染める茸法師

 戦忍・楓と入れ替わり、ツクヨミ機関の弱味を探るツキハミ

 首領の思惑を知らず、不穏な動きを見せるツキハミ党の残党

 そして、残党の掃討作戦が順調であると疑わないツクヨミ機関

 五つの思惑が複雑に絡み合い、やがて一つの結末へと向かう……。






打ち切りEND再び
俺たちの戦いはこれからだ!
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Author:巫

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