くのいち 黒組9

放置すればするほどハードルが上がるようなきががが……
そういう理由ばかりでもありませんが、ひとまず畳みます
投票ありがとうございました


黒組くのいち

 エンド1


(今日も今日とて、雑魚の掃討か)
 戦闘特化忍者────通称「戦忍」の楓は、群がる敵を切り伏せながら、心の中でため息を付いた。
「シィ!」
「ふん、ぬるいわ」
 鬼面の黒づくめ……ツキハミ党の下級戦闘員「ゲニン」の振り下ろした刀を難なくかわし、自らの短刀を相手の喉元に深々と突き刺さる。
 もはやこのような下っ端では相手にならないほど、楓は……楓の体を奪ったツキハミは、戦忍としての感覚を身に着けていた。
(この体にもだいぶ馴染んだ……そろそろ本格的に機関をいただきたいのだがな)
 横薙ぎか振り下ろしの二択しかないゲニンの攻撃をいなしつつ、ツキハミは思う。
 ツキハミ党の対抗組織ツクヨミ機関。楓としてその内部にもぐりこんだものの、たった一人で組織の全てを乗っ取れるなどとは思っていない。
 潜在能力に目をつけて肉体を交換したものの、いまだに楓の真の力は引き出せないのだからなおさらだ。
 元・自分の組織の構成員が残党として町を襲撃するのは予想していた。だが、こんな雑魚をいくら集めたところで機関をつぶせるとは到底思えない。
(せめて上級の改忍……いや、幹部クラスが出張ってくれば)
 統率力と戦闘力。その二つを兼ね備えた元・自分の構成員と出会えれば、楓のフリを続ける意味は無い。
 その機会を待ちながら、ツキハミは正義の味方のフリをして元・自分の構成員を切り伏せる日々を続けるのだった。

「シィッ!」
「無駄だといっておろう!」
 横薙ぎの剣閃を振り払い、返す刀で切っ先をゲニンの鬼面に突き立てる。
「ぎ、が」
 無機物が漏らすざらついた断末魔を最後に、この区画に集まっていた最後のゲニンがガシャンッと崩れ落ちる。
<お疲れ、楓。帰還してくれ>
 腰にかけた小型の無線機が、機関の司令塔的な立場を持つ柏の言葉を伝える。
 楓は「了解」とだけ返し、ゲニンどもの死体を尻目に背を向け────
「おらぁッ! 地雷蛇!」
 コンクリートの大地を削りながら、鎖のついた鎌が背後から迫ってきた。

***

 ツクヨミ機関の作戦室では、情報処理を専門とするオペレーターたちがソレの出現にどよめいていた。
「こ、この反応……!」
「……楓! 応答しろ楓! くそ、だめか!」
「パターン紫! 間違いありません、ツキハミ党幹部です!」
 ツキハミ党幹部……その名を出した瞬間、待機中だった一人の戦忍が駆け出した。

***

「……ひゃはは、今の不意打ちを避けるたぁ、さすがだ」
 楓の足首を狙った鎖鎌は、彼女がとっさに跳躍したことでなんとか事なきを得た。もしすぐにでも動かなければ、今頃彼女は二度と足の裏で大地を踏みしめることの叶わない体になっていただろう。
「貴様……」
 楓の怜悧な瞳を細めて、背後を振り返る。
 地面に倒れ付すゲニンどもとは一線を画した忍び装束に身を包んだ男は、しかし異形な姿形をした改忍たちとも異なっていた。
 ジャラジャラという音を立てて、男は鎌のついた鎖を振り回す。野生的なその顔には、愉悦の笑みが浮かんでいた。
「戦忍、楓……だったな。うちの大将をツブしてくれやがったそうじゃねぇか」
「……ツキハミ党幹部、ノヅチ、か」
 ノヅチ。
 鎖鎌の使い手で、殺戮を好む好戦的な男だ。
 女子供が相手でも容赦をしないその残忍な性格は、幹部の中でももっとも凶悪だといわれている。
 ……そのぶん、頭が足りないわけだが。
「何だその顔は。俺様を倒せたとでも思っていたのか? 甘ぇよ!」
「……くくくっ」
 楓の記憶には、確かにノヅチとの交戦が残っている。しかしまんまと敵の策略に乗せられて撃退された元部下の姿を思い浮かべると、思わず笑みが漏れてしまった。
(こやつはバカだが……力は申し分あるまい)
 いよいよだ。いよいよ、楓がツキハミとして動く瞬間がやってきた。
「なんだその顔は。……前の俺様と同じだって思っているなら、後悔すんぞおらぁ!」
 ノヅチの怒声とともに、鎖が勢いよく投げつけられる。
 だが楓には避ける気がない。多少ダメージを負ってでも、ノヅチを説得する必要があった。

 ────ギィンッ!!

「!?」
 だがその鎖は、見えない壁に跳ね返されるようにして金属音を立て、ノヅチの元に吹き飛ばされた。
「無事か、楓!」
 ノヅチの鎖をはじき返したのは、楓の先輩にしてツクヨミ機関ナンバー1の実力者、戦忍「椿」だ。
 椿は楓をかばうように前に立ち、腰の刀に手を添えている。彼女の間合いに踏み込んだが最後、目にも止まらぬ居合い斬りの一閃が体を通過するだろう。
「ひゃははっ、増援か。いいぜ、二人まとめてあの世に送ってやるよ!」
「……いいか楓。私は万全ではない。二人で、なんとか隙を作って逃げ出すんだ」
 椿は楓に背を向けたまま、緊迫した声色で状況の不利を語る。
 いま、一瞬でもノヅチから気をそらせば、殺されるのは自分のほうだとわかっているからだ。
 ────だから、椿は気づかなかった。
「えぇ。任せて、椿」
 そういい短刀を構える楓の口元が、邪悪な笑いに歪められていたことに。

***

 ────幹部ノヅチと相対し、椿は思う。
 万全ではない自分では、おそらく楓を逃がす時間稼ぎ程度の働きしかできない。そして待ち受けるのは死、のみだ。
 しかし、それでいい。
 楓は将来、ツクヨミ機関のトップに立つ女だ。ここで、彼女を失うということは、つまりツキハミ機関の敗北にも通じる。
 もしそうなれば……妹・菊花も、一生敵に乗っ取られたままだ。
(楓ならきっと、菊花を助けられる)
 抜刀を構える手に汗がにじむ。
 目の前のノヅチはニタニタと嗜虐的な笑みを浮かべていた。
 その間合い、おそよ十歩。
 鎖鎌と居合いでは、この距離は明確な優劣の差があった。
 踏み込むか、迎合するか。その二択を逡巡し……ふいに、背中に痛みが走った。
「え……」
 振り返る。
 強敵を前にしながら、それでも椿の意識は後ろに向けられた。
「かえ、で?」
 楓が。
 彼女の持つ小太刀が。
 切っ先が、深々と、自分の背中に刺さっていた。
「いまだ! ノヅチよ!」
 声を張り上げた少女の顔は。
 目の前の男と良く似た、邪悪な笑みを浮かべていた。



「忍法、『遠視』!」
 モニター画面に手のひらをあてて、意識を集中する。
 すると、まるでその場にカメラが置かれたように、遥か遠くの出来事が映像としてモニター画面に映し出された。
 戦忍「紅葉」だけが使えるこの忍法によって、ツクヨミ機関は一時的ながら戦況をより詳しく知ることができるのだった。
「ああっ!」
「そんな……!」
 現れた映像は、絶望の光景だった。
 救援に向かった最強の戦忍は地面に倒れ……楓は、幹部ノヅチによって激しくその乳房を弄ばれていた。
 
***

「んっ……ほぅ。これは、なかなか……」
「しっかしまだ信じられねぇな……アンタがあのクソジジイねぇ」
「くくっ、ん、楓は、仲間を背後から刺し殺し、敵に体を委ねるような女であったか?」
「……ねぇな。あの女は、いけすかねぇ正義を振りかざす偽善者だ」
「であろう? 交換したのよ。あの年老いた肉体は奴にくれてやったわ」
「部下には内緒でか?」
「どこに裏切り者が潜んでいるかもわからんのでなぁ。だが、そのおかげでお主はこうして、ふっ、女の胸をもみしだけるわけだ」
「……けっ、乗り気の女を犯してもつまんねぇよ」
 そういい、ノヅチは楓の胸から手を離す。
「『遠視』とやらが使える奴への対策は十分だろ? どう見ても、椿は殺され楓は俺様に陵辱されたって絵面になったはずだ」
「……そう、だな」
 頷き、楓も服を整える。しかし中途半端に揉ませ続けたせいか、体の芯がわずかながら疼いていた。
「いいか? さっき言ったとおり、ワシは「陵辱された楓」として機関に戻り療養する。その間、お前は」
「残党を集めて、その機関の本拠地を急襲すりゃあいいんだろ?」
「うむ。なるべく基地の破壊はせず、内部の人間だけを殺すのだぞ。……そっくりそのままいただくのだからな」
「第二のツキハミ党ってところか。まぁ、それより俺様は何人殺せるかの方が楽しみだ。ひゃはは」
「やれやれ……」
 狂気じみた殺人衝動をひけらかす男に苦笑しながらも、楓は、この作戦がうまくいくことを確信していた……。

***

 それから、一週間後。
「……なんだ。ずいぶんと騒がしいな」
 室外の喧騒に怪訝な顔をしながら、右手に手袋をした白衣の女性スタッフが研究室から出てくる。
 あちこちで悲鳴が聞こえ、どこからか破壊音が響いている。このツクヨミ機関に潜入してから日は浅いが、この場所がここまで騒がしいのは初めてだ。
「ひゃはははは」
「!?」
 男の笑い声が聞こえ、振り向く。
 白い壁に囲まれた廊下の先には……黒装束の、鎖鎌を持った男が凶悪な笑みを浮かべていた。
「また一匹! 地雷鎌!」
 言葉と同時に、ノヅチの鎌が廊下を抉りながら飛んでくる。
 まるでその右腕を失ったときの再現のように。
 少女の首は、あっけなく刈り取られてしまった。



「どういうことだ……なぜこの基地がばれた!」
「わ、わかりません! しかし事実として幹部を筆頭にゲニン、カイニンが侵入しています!」
 突如として本部に攻め込まれたツキハミ機関は、もはやその機能を完全に失っていた。
 もとより、ツキハミ党の構成員と真っ向から対決できるのは戦忍のみである。その戦忍も、先日一人失い、一人は傷を癒すため療養中だ。
 しかし敵の数は圧倒的で、たとえ三人の戦忍が健在だったとしてもおそらく状況は覆せなかっただろうが……。
「くそっ……総員、退却! なんとしてでも、生き延びるんだ!」
 情報忍が目の前の敵に対してできることといえば、せいぜいが近代兵器による足止め程度しかない。
 彼らに残された道は、この場を乗り切り、再起を待つしかないのだ。
「いいえ。皆さんはここで死ぬんです」
「!?」
 住んだ少女の声が、騒然とした作戦室を一瞬で静まり返らせる。
 振り返ると、作戦室の入り口には療養中の戦忍、楓が佇んでいた。
 まるで出入り口をふさぐように、彼女は微笑んだまま一歩もそこから動かない。
「か、楓……? なんだ、何を言っているんだ?」
「ふふっ……くくくく、くははははははははははは!」
 堰を切ったように哄笑をされる。
 それは、恋人である柏もはじめて見る、邪悪そのものの楓の笑顔だった。
「ははっははははは! どこまでもおめでたい連中よ! まだこの楓を信じてくれるとはなぁ!」
「お、ここが作戦室か?」
 交渉する楓の隣に、血のりのついた鎌を持つノヅチが立つ。彼の猛禽類のような眼差しは、作戦室の中にいる人間のみに向けられ、すぐ隣にいる宿敵の少女になど目もくれなかった。
「う、裏切ったのか、楓……?」
「くく……教えてあげようか、柏君」
 突然、楓は元の楓らしい朗らかな雰囲気を取り戻し、緊迫した空気に似合わない可憐な微笑を浮かべる。
「覚えている? 私がツキハミを討ち取ったあの日のこと」
「あ、ああ……」
「あのとき、私はツキハミ様と体を交換したの。ツキハミ様になった私は、私になったツキハミ様に殺されちゃった♪」
「そ、そんな……」
「ねぇ、恋人の異変に気づかなかった? 私を、楓だって信じてくれたんだよね。本当の楓は、醜い老人になったのに、ソレに気づかずツキハミ機関の人たちはみんな私を持て囃したよね」
 くすくすくすと、かわいらしい声で真相を語る楓に、もはや誰も口を開けなかった。
「あなたたちが愚かなおかげで、ノヅチとも出会えてわ。ありがとう。そして」
 じゃらっ、とノヅチの手もとで鎖が鳴り。
 楓が、腰から短刀を抜く。
「さらばだ。あの世で老人の姿をした楓に詫びて来い」
 その言葉を皮切りにして。
 作戦室は、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられるのであった。

 ─────────数ヵ月後。

 世界は、破壊と恐慌に満たされていた。
 天にそびえていたビルは崩れ、血のような赤い月が夜を照らす。
 荒廃した町には鬼面の破壊者が溢れ、地上からは人間の姿が消えて久しい。
「はっ!」
「シィィィ!?」
 そんな中で、千枚通しを手にゲニンを相手取る少女がいた。
 ぼろぼろになった深紅の忍装束をまとい、少女はたった一人で戦い続けている。
 休む場所もなく。
 仲間もいない。
 いつ心が折れてもおかしくない状況で、しかし彼女はゲニンを葬り去る。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 この区画のゲニンを殲滅せしめ、少女は膝をついた。
 体力の限界まで戦い続け、しかしそれでもまだ彼女は生きている。
 生きている限り、彼女は戦うことを決めたのだ。
「お見事」
「!?」
 どこからか拍手と、女性の声が聞こえた。
 顔を上げると、瓦礫となったビルの上に立つすその短い着物を着る女がいた。
 彼女は赤い月を背に、腰の短刀を抜きもせず大仰に拍手をしている。
「お前のその力、消すには惜しい。わが軍門に下れば、命だけは助けてやるぞ?」
「ふふっ……」
 ゆらり、と赤い着物の少女が立ち上がる。
 疲労に満ちた顔で少女はうっすらと笑い……そして、力強く睨みつけた。
「ツクヨミ機関! 戦忍・紅葉!」
 ありったけの針を構え、声高に名乗る。
「ツキハミカエデ! 覚悟!」
「やれやれ……そんなに死にたいか」
 カエデと呼ばれた少女もまた、腰の短刀を抜く。
 金属のぶつかり合う音とともに、最後の戦いが今、幕を下ろそうとしていた…………。





ツキハミEND
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No title

お疲れ様です!
ダークでエロくてもう最高ですね!
好きな部分がたくさんありすぎてありすぎて……!
大好きです!超好きです!
すばらしい作品をありがとうございました!

感謝

>tsuniverse さん
コメントありがとうございます
いつかこんな感じの変身ヒロインモノが出るといいなー…なんて妄想しながら生まれました
お気に召して何よりです

ダークな感じが最高です!!お疲れ様でした!

Re: タイトルなし

>a さん
ダークいいですよね
さて、次の犠牲者は……(ゲス顔)
プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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