「学校であったTSい話」 序章

夏コミで売り出そうと思ったものですが
落選したうえに読み返せば読み返すほど首を傾げるようなモノなのでもう公開します

プロローグなのでTS要素ありません
プロローグ

「お前さ、ストックホルムシンドロームって知っているか?」
 期末試験も終わり、夏休みを目前に控えた放課後。
 誰もいなくなった教室でぼくと他愛のない話をしていた氷上は、唐突にそんなことを訊ねてきた。
「ストックホルム……? 何それ」
「ん、まぁ実際にあった事件なんだけどな。銀行強盗がいて、人質がそいつに肩入れしちまうって現象だ。極限状況に置かれたことで、被害者が犯人に愛情を持ったりする場合があるらしい」
「ふぅん」
「でだ。女の子を怖い目にあわせれば、俺にもカノジョができるんじゃね?」
「まず嫌われると思うなぁ……」
 トンデモ理論にも程がある。
 口癖のように『あー、カノジョ欲しい』と呟くような男だったけど、とうとう夏の日差しにやられたようだ。
「それでさ、ちょっと付き合ってくれないか」
「?」
「『テラーズ研究部』の先輩たちが、今から怖い話をしてくれるんだってよ」
 テラーズ研究部。その名の通り、恐ろしい話をする人間の集まりだ。氷上はそこに所属している。
 女の子を口説くためのトークスキルを身に付けるためだって聞いたけど、怖い話で女の子との会話が盛り上がるのかはなはだ疑問だった。
「先輩たちがな、最高に怖い話をしてくれるんだ。もちろん俺も参加するぜ。で、俺たちの怪談を聞いた女の子は、俺に惚れるってワケだ」
 ストックホルムの話を知ってなければかなり破綻した内容だと思う。……知ってても破綻しているよね、これ。
 それがまかり通るなら淳○さんは今頃とんでもない数の女の子をキープしてるよ。
「そこで、佐倉。お前の出番だ」
「はい?」
 ぼく?
「怖い話する側って、何が一番イヤかわかるか? 話を、平然とした態度で聞く奴さ」
 氷上が言うには、怖い話をする人は「怖がる人」の反応が一番の楽しみらしい。怖い話に聞き慣れた人たちが相手だと、反応も薄いし怖がらないしで聞き手としては最低なんだそうだ。
「まぁつまり女の子を相手に怖い話をする前の、予行演習みたいなものだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんな、やだよぼく!」
 ぼくは怖い話が得意ではない。というか、大っ嫌いだ。
「いやマジ頼むって! 先輩たちにも、『最高にいい反応する奴連れてきますよ』っていっちゃったし!」
「なにそれひどい」
 本気で酷い。
 うわ、目頭熱くなってきた。でもそれぐらい、本気でイヤなのだ。
 氷上だってソレは知っているはずだけど、この男は性格が歪んでいるからかどこからかそういうイベントを見つけてきてはぼくを怖がらせようとする。
 この前だって、ムリヤリ入れられたお化け屋敷で思わず氷上に抱きついちゃったし……あぁ、思い出しただけでも気持ち悪い。
 なにが『泣き顔サイコーだぜ』だよ! 好きで涙腺弱いワケじゃないんだからな!
「うぉ……ぐっと涙こらえる佐倉チョーカワイイ……」
 なんかまたおぞましいこと呟いているし。
 もう、絶対に行くもんか!
「悪いけど、他の人誘ってよ。ぼくは絶対に行かないからね」
「……夏休みの宿題、一緒にやらないか?」
「う」
 軽そうな雰囲気に惑わされがちだけど、氷上は意外と頭がいい。コイツが手伝ってくれるのなら、七月中に宿題を終わらせることだって可能だ。
 そしてぼくは、勉強が苦手だった。
「…………今回だけだからね」
 しぶしぶ承諾すると、氷上はとても満足そうに頷いた。


 そういうわけで、ぼくは重い足を引きずりながら一人で『テラーズ研究部』に向かっていた。
 氷上はいない。途中で用事を思い出したとか言って、それきり姿を消している。
 まさか、逃げた? だけど氷上が逃げる理由は何もないはずだ。
 首をかしげながら、ぼくは薄暗い廊下を進んで行く。
 運動部は既に撤収したのか、グラウンドはしんと静まり返っている。どこかで吹奏楽部の物悲しそうな音色が奏でられ、窓の外を見ると太陽は真っ赤に染まっていた。
 普段は活気に溢れた景色しか見ないせいか、人気のない廊下は新鮮で、なおかつ不気味だ。
 自分の足音が床と天井とで反響し、いやに大きく聞こえる。
 携帯を開くと、時間はまもなく集合時間の午後五時になろうとしていた。



 手書きの文字で『テラーズ研究部』という貼り紙がはられたドアの前で、ぼくはしきりに時計を気にしていた。
 氷上はまだ戻ってこない。
 予定では、氷上を含めた七人がそれぞれぼくに怖い話をするらしい。
 時間にルーズでないのなら、ドアの向こうでは六人の部員が氷上とぼくを待っているはずだ。
 おそらく、その中には上級生もいるだろう。
「……どうしよう」
 このまま氷上を待って、二人で遅刻をして先輩たちの前に立つのは……なんというか、とても気まずい。それなら、ぼく一人だけでも先に入るべきかもしれない。
 ようやく意を決し、おそるおそるドアノブに手をかける。少し湿っぽいのは、ぼくの手のひらが汗ばんでいるせいだ。
 人は、何が楽しくて怪談なんてものをやるんだろう。ぼくにはまったく理解できないし、したいとも思わない。
 だけどこの扉一枚を隔てた向こう側には、そういう理解不能の人間ばかりが集まっている。
 夏休みの宿題が早く終わる。たったそれだけのご褒美にどうして釣られてしまったんだろう。いっそこのまま引き返してしまいたかった。
 なのにぼくの手はドアノブを回していた。
 隙間からひんやりとした空気が漏れ、肌にまとわりつく。
 背筋がぞっとする。なのに足が前に進む。
 ぼくは、心の底では怪談を聞きたがっているのだろうか?
 好奇心がないとは言い切れなかった。
 その時点で、ぼくの行き先は決まっていたようなものだった。


 ……十二個の目が、一斉にぼくを見た。
「よぅ、待っていたぜ」
「……会えて嬉しいですよ」
 短髪の男性と、やせ細った男が笑みを浮かべる。
「ヒヒヒッ、君が佐倉君だね?」
「氷上くんからウワサはかねがね。ホント、可愛い顔しているのね」
 太った男と長い髪の綺麗な女性が、ぼくの名前を呼ぶ。……容姿には触れないで欲しいんだけど、先輩っぽいので口答えはしづらかった。
「氷上の奴は遅刻かい? ルーズな男は嫌いだよ」
「えー、じゃあまだ待つのー? ヤダな~」
 女性受けしそうな顔の男と、軽い感じの女の子が何かを促すように目配せをしてくる。
「え、と」
 長テーブルに座るのは六人で、空席がひとつだけ用意されていた。……ひとつ? 氷上の分はどうしたんだ?
「いつまで立っているの? 座りなさい」
 髪の長い女性が、ぼくを空席に呼ぶ。
「で、でも……その、ぼく、氷上を探してきます」
「なんだい? さらに僕等に無駄な時間をすごせと、キミはそう言うわけかい」
 イケメンの男が気取った風に言う。
「い、いえ? そんなことは」
「もーあたし待ちくたびれたー。さっさとはじめようよー」
 軽い感じの女の子が明るく言う。
「あ、あの、でも」
「……話しているうちに氷上君も来るのではないでしょうか」
 やせ細った男が陰気な調子で言う。
「キミは、予定通りボクらの話を聞いているだけでいいですから。ヒヒッ。たっぷり怖がってくださいね」
 太った男はニタニタと不気味に笑い。
「文句はないな? 佐倉」
 短髪の男が、嗜虐的な笑みを浮かべてぼくの逃げ道をふさぐ。
「………………わかりました。よろしくお願いします」
 ぼくが頷くと、こころなしか、部屋の空気が一段と重くなったような気がした。

 まだ戻らない氷上を待ちながら、六人は、六つの怖い話を語り始めるのだった……。
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巫

Author:巫

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・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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