爆発しろ 6

勝手ながら しえっと さんの【しえっと】というブログとこっそり相互リンクをさせていただきました
でじたるメイトというソフトを使って、さまざまなTSモノを作成されているようです

それはそうと(失礼)
恋人の恵莉(めぐり)が突然『エリタ』という男だった頃の記憶を蘇らせた
転生系TSの恋愛モノをまったり書いています

タイトルは(仮) 小説っぽく
迷走中



『キミと見た風景』


 夕食より少しだけ早い時間帯だからか、ファミレスの店内はそこそこの喧騒に包まれていた。
 小さな子供を連れた家族に、朱城学園の制服を着た男女のグループに、難しそうな顔をしてパソコンを叩くスーツ姿の一人客。
 さまざまな人が居合わせるこの場所で、僕と彼女はどういう風に見られているんだろう。


「……それで? 聞きたいことって?」
 僕の向かい席に座った歌谷美優さんは、注文したドリンクバーの紅茶を飲みながらやんわりとした口調で促してきた。
 探していた人がいきなり目の前に現れて、つい『仕事の後、空いてますか』なんてナンパまがいの台詞を言ってしまったけど、歌谷さんはまるっきり気にしていなさそうだ。
 まぁ、一回りも年下の男にナンパされたとか普通は考えないだろうし、余計な心配か。
「その制服、朱城学園のだよね。私が昔の先輩だってことは知ってた?」
「は、はい」
 仕事が終わったからか、口調は図書館のときよりだいぶ砕けたものになっている。
 初対面の男相手にも緊張しない、気さくな女性のようだ。……僕が男として見られていないだけかも知れない。
「えっと……それで、会って貰いたい人がいるんです」
「私に? へぇ、どんな子?」
「その前に」
 いきなり『僕の彼女はあなたの恋人だった男の生まれ変わりなんです』とか言っても信じてもらえるはずがない。
 僕はブレザーのポケットを探ると、昼休みに受け取ったラムネ菓子の箱をテーブルに置いた。
「貴方の知り合いの中に、よくこれを食べていた男はいませんでしたか?」
「……うわぁ、まだ売ってるんだ。これ」
 どこにでもある安物のお菓子をまるで宝石を見るように笑って、箱を手にとる。
「エリタ君、でしょ? うん、覚えてる覚えてる。懐かしいなぁ」
 年上なのにどこか幼い感じのテンションではしゃぐ女性の口からその名前が出てきたことで、改めて『エリタ』は実在していた人物なのだと確信する。
 恵莉さんが生み出した別人格という考えがないでもなかったけど、これでその線は完全に消えた。
「いつもくわえてたなぁ、コレ。……きっかけは、私からだったんだけどね」
「え?」
 歌谷さんは手の中で小さな箱をいじりながら、昔を思い出すようにゆっくりと口を開く。
「エリタ君はバスケ部だったんだけど、素行にちょっと問題があったの。いわゆる不良ってやつ」
「不良……」
 あの粗暴な態度を思い出せば、十分ありえる話だと思った。
「でね、私は風紀委員で……ある時たまたま、彼がタバコを吸う現場を目撃したわけ」
 歌谷さんはもちろんそれを見逃すはずがなく、すぐに先生に報告しようとした。
 けれど、エリタもただ黙って彼女を見送ったはずがない。
「ぐっ、と思いっきり肩を引っ張られてねー。校舎の壁に押し付けられちゃった。今ハヤリの壁ドンってヤツ? あれ、実際やられると怖いのよー?」
 おどけるように言って、十年以上前の出来事をとうとうと語る。
「そんな状態で、『吸っているのバレたら、部活の奴らに迷惑がかかる』なんて言うのよ? じゃあ最初から吸うなって話よね」
「あはは……」
「詳しくは聞かなかったけど、なんか家庭の事情とかでイライラしてつい始めちゃったとか必死に言い訳してね……それで、仏心を出しちゃった」
 アルバムで見たバスケ部のメンバーはみんな笑っていた。
 歌谷さんがエリタを許したからこそ、彼らは笑顔のまま部活を続けられたのだろう。
「そのときエリタ君にあげたのが、コレ。ほら、見た目ちょっとタバコっぽいでしょ?」
 カタッと音を鳴らして、僕にお菓子の箱を返してくる。
 箱の側面には『貴方の禁煙を応援します』という文字があった。
「代用品ぐらいにはなるかなーって思ってさ。本人もなんだか気に入ってくれたし、結果として禁煙の助けになったみたい」
「そうだったんですか」
 お菓子で禁煙って発想が簡単に浮かぶあたり、歌谷さんはなんだかずいぶん茶目っ気のある性格をしているらしい。
 アルバムに写っていた彼女は何だかとっつきづらい怖そうな人だなと思ったけど、全然そんなことなかった。
「そこから、なんか縁ができちゃったんだよねー……。気が付いた彼のことがら好きになってて、恋人同士になって……すぐに、別れちゃったけど、ね」
 それまでずっと朗らかに昔語りをしていた歌谷さんだったけど、その言葉を口にして初めて声に陰りを見せる。
 あと一歩だけ深く踏み込もうと、僕は口を開いた。
「亡くなったんです、よね」
「なんだ、知ってるんだ。……うん、そう」
 苦笑いを浮かべて、歌谷さんはさらに言葉を紡いでくれた。
「肺炎で、そのままあっさり。もしタバコが原因だったら『バーカッ』って言ってすぐに忘れてやったんだけどねぇ」
「違ったんですか?」
「風邪をこじらせたらしいよ。一度だけお見舞いに行ったけど、凄い熱だった」
(風邪……)
 そういえば、今みたいになる前の恵莉さんも高熱を出していた。
 死んだときと状況が重なって、それで、前世の記憶を取り戻したのかもしれない。
「もっとちゃんと看病してあげてれば助かったかもって、すごく後悔したなぁ……」
 エリタとの思い出を語り終えた女性はしめやかに息を吐き、再び紅茶に口をつけた。
「……すいません。辛いこと聞いちゃって」
「いいのいいの、もうほとんど気にしてないから。昔のことよ」
「そう、ですね」
 話を聞いて、わかった事がある。
 歌谷さんにとって、エリタはもう『過去』なのだ。
 いまさら恋人だった男の名前を出されても、戸惑うだけに違いない。けれどそんな気持ちをおくびにも出さず僕に話を聞かせてくれた彼女は、やはりとても優しい人なんだとも思った。
「っと……ごめんね。ちょっと電話が」
 軽く会釈をして、バッグから取り出した携帯を片手に歌谷さんが店内から出て行く。
 一人になるとようやく緊張の糸が切れたのか、肩の力がどっと抜けた。
「気は済んだか?」
 後ろの席から、どこか不機嫌そうな女の子の声が飛んでくる。
 いまさら、それが誰の声かなんて確認するまでもない。だから僕は、振り向かずに訊ね返した。
「……いつ、来たの?」
「さっきだよ。『俺』が死んだときの話をしていたとき」
 女の子の声で聞くには違和感のある一人称を使い、これ見よがしに深々とした溜息をつく。
「急に呼び出したかと思えば、美優と二人きりで話なんかしてやがって……どこで見つけたんだ」
「図書館で、偶然。……どうする?」
 彼女を呼び出した時点では、とにかく何としてでも歌谷さんと会わせるつもりだった。
 でも、見ず知らずの僕に嫌な顔一つせず『過去』を語ってくれた女性を目の当たりにしたことで、その気持ちが揺らぐ。
「余計なこと、しちゃったかな」
 心残りをなくせば恵莉さんは元に戻るなんて、そんな不確かな期待に縋って、僕は二人の古傷をえぐり返そうとしている。
 自分がしていることは自己満足ですらない、ただの迷惑行為なんじゃないか?
「うぜぇッ」
「ぁ痛っ」
 沈み込んでいると、ぺチン、と後頭部が叩かれた。
「い、いきなり何するんだよ」
 抗議の声を上げて、後ろの席を振り返る。
 エリタがむくれた顔をして、僕を睨みつけていた。
「うじうじうじうじ鬱陶しいな、てめーは。だいたい、余計なこと気にしすぎなんだよ」
 そうなのかな。自覚はないけど、納得できないでもなかった。
「でも、だって」
「でももだってもねぇ、男なら一度決めたことを最後までやり通せ!」
「いたっ、痛いって」
 バシバシと遠慮なく人の頭をはたいてくる。
 励ましてくれているにしても、乱暴だ。
「お待たせ……って、あれ?」
「あ」
 いわれのない暴力に耐えているところへ、電話を終わらせた歌谷さんが戻ってくる。彼女は少しだけ目をしばたたかせてから、にっこりと笑いかけた。
「こんにちは。お友達?」
「う……」
 どう紹介したものか、言葉に詰まる。
 元は恋人だったけど今は友達でもなくて、正確に言うと知り合いでもなんでもないし、これは女の子として生まれ変わったあなたの昔の恋人ですだなんて信じてもらえるわけがないし……。
「歌谷美優さん、ですよね。はじめまして。わたし、朱城学園で風紀委員をやっている三坂恵莉です」
(……はい?)
 ぐるぐるあれこれと考えていると、ハキハキとした声が質問に答えた。
「風紀委員……? あぁ、じゃあ貴女が」
「無理を言ってすいません。当時の風紀委員がどんなことをしていたのか、今後の参考のために聞きたくて」
「ええ、もちろん。参考になるかわからないけど、どんどん聞いて?」
 三坂恵莉と名乗った少女が僕の言っていた『会って貰いたい人』だと勝手に納得して、同じ学園の先輩後輩どころか、同じ風紀委員だったことがわかり歌谷さんの態度はますます親しみやすいものになった。
 一方で、僕はただひたすらポカン、とすることしかできない。
 まるで別人……というか、元の恵莉さんと比べてもまったく違和感のない、完璧な振る舞いだ。
「わぁー、そんなことなさっていたんですか」
「あの先生、まだいるの? え、教頭に? へぇー」
 後ろの席で女性二人が賑やかに話すのを、僕は放心状態のまま右から左へと聞き流すのだった。



 ファミレスの店内が夕食時のピークを迎えたのをきっかけに、僕らは話を切り上げて外に出た。
「今日はありがとう。楽しかった」
「こちらこそ、色々教えて下さってありがとうございました」
 女性同士の話題は尽きないというけど、エリタは本当に男だったのかって思うぐらい、歌谷さんと気持ち良さそうに話していた。
 いまだに恵莉さんのフリも続けているから、実は元に戻っているんじゃないかという錯覚さえしてしまう。同時に、それがただの淡い期待でしかないこともわかっていた。
「それじゃあ、またね。お二人さん」
 歌谷さんは最後まで笑顔のまま手を振って、背を向ける。
 僕も会釈をして、遠くなる背中を見送った。
「あのっ、もう一つだけっ」
 なんだか切実そうな顔をして、エリタが呼び止める。
 さっきまで彼女と一緒に同じように笑っていた表情は、いまは真剣そのものだった。
「どうしたの?」
「その……いま、幸せですか?」
 風紀委員とまったく関係のない、不思議で唐突なその質問に、歌谷さんはきょとんとして、けれどすぐに目を細めた。
 返事を聞くまでもない、満面の笑みで響かせた彼女の声は。
「もちろんっ」
 言葉通り、とても幸せそうだった。


 歌谷さんの後ろ姿が今度こそ見えなくなり、日の落ちた歩道に街灯の明かりがあちこちで輝く夜の風景をしばらくの間ぼんやりと眺める。
 と、横から背伸びをするような億劫そうな声が上がった。
「はぁ~あ……こんな早く見つけるなんて、思ってなかったぞ」
「……僕も」
 声帯は同じなのに口調が違うだけでこうも人の印象が変わることに驚きながら、小さく頷く。
 自分の死後なおも気にしていた、歌谷さんとの出会い。それがこんな形で叶うなんて、僕も予想していなかった。
 しかし、望みが果たされても恵莉さんは『エリタ』のままだ。生前の心残りを解消したところで、幽霊じゃない『エリタ』の人格は恵莉さんの中から消えない。
 一体どうしたら元の恵莉さんに戻るのか、また一から考え直す必要があった。
 と、ふいにエリタが夜空を仰ぎ、強がるように笑う。
「しっかし……やっぱ、そうかぁ」
「何が?」
「あー? 美優のヤツ、結婚するんだなーって思ってな」
「け、結婚!? そんな話、してたっけ」
「バーカ。美優の右手、見なかったのかよ」
 人のことをキッチリけなしてから、見せびらかすように細くて小さなこれ手をかざす。
 反対側の手で右の薬指を小突きながら、やけっぱちのように言い放った。
「指輪あったぞ、ここに」
「え……確か、それって」
「婚約してるってことだな、どっかの男と。まぁ、幸せだってんなら、いいんだけど、よ」
 言葉尻はだんだんと弱くなり、そのまま顔を俯かせる。
 どうしたのか、なんて聞いても答えてくれないだろうし、何よりもエリタになってから初めて見るあからさまに落ち込んだ様子が、声をかけるのをためらわせた。
「前、向いてろ」
「う、うん……」
 言われたとおり、歌谷さんが消えた方角に向き直る。
 あの人は今どうしているだろう。さっきの電話は婚約者からだったのかな、とかそんな取り留めのないことを考えていると、後頭部をまた叩かれた。
 ……いや、違う。
「ちいせえな、お前の背中」
 両肩に恵莉さんの手のひらの感触が乗り、茶化すような声はすぐ後ろからする。
 少しだけ心臓をドキドキとさせながら、だけど振り返ることなく何も言わずにいると、押し殺した嗚咽が聞こえてきた。
「あー……俺が、幸せにしてやりたかったなぁ……ちくしょう……」
「……」
 こんなとき、広い背中に寄りかからせてあげられれば、もう少し格好が付いたんだろうけど。
 背の低い僕には、耳元で彼女が泣くのをじっと受け入れることしか出来なかった。




折り返し地点!
あ、入稿は終わりました
初めてなのでざわざわしています
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

TS + 「でじたるメイト」と言えば Tira-さんのブログも同じです。 私も時々見ています。
http://tira.blog.jp/

Re: No title

>きよひこ さん
某掲示板と同名……いや、何も言うまい

あの方は素晴らしいですね
自分もたびたび格の違いというものを見せつけられています
というか他サイトのお歴々全員ががが

プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
管理者の詳細

最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
FC2投票
無料アクセス解析
応援バナー
ちぇ~んじ!~あの娘になってクンクンペロペロ~
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR