爆発しろ 7


恋人の恵莉(めぐり)が突然『エリタ』という男だった頃の記憶を蘇らせた
転生系TSの恋愛モノをまったり書いています

タイトルは(仮) 意味深に



『Rebound -リバウンド-』


 歌谷さんとの出会いから三日が経った土曜の午前。
 彼女は相変わらずエリタのままで、それでも特にこれといった事件はなく平穏な日々が続いている。

 最初はすぐに問題を起こすんじゃないかと思っていたけど、歌谷さんと会った時に見せた『三坂恵莉』としての振る舞いができるのなら余計な心配だったらしい。
 それだったら初めから僕に対しても『三坂恵莉』を演じきって欲しかったという思いがないでもないけど、自分の今の状況を僕にだけ教えてくれたと考えると、なんだか嬉しいような複雑な気分になる。
 一方で、元の彼女に戻す方法がまったく思いつかない僕は焦りを抱いてもいた。
 『ずっと恵莉さんはあのままなのか?』そんな疑問を浮かべるたびに、心がざわざわする。でもそれはただのエゴなんじゃないかと、エリタを受け入れ始めている自分もいた。
 どうするのが正しいのかわからず、気持ちが落ち着かない。その上、また新たな違和感が出てきたことで頭が痛くなってきた。
「……」
 窓際の席に座る恵莉さんに、こっそり視線を向ける。
 みつあみにされていない綺麗なロングヘアは今日も自由気ままに彼女のうなじを覆い隠し、小さな肩を撫でていた。
 授業の合間にあるこの時間は、あちこちから仲の良いクラスメイトたちのおしゃべりが聞こえてくる。そんな喧騒の中で彼女は一人頬杖を付き、窓の外をぼんやりと眺めていた。
「?」
 視線に気付いたのか、恵莉さんの目が僕を見る。
「……ッ」
 だけどすぐに顔を逸らし、積極的に僕を視覚の外に追い出そうとしていた。
 また、これだ。ここのところ、なんでか知らないけど避けられている。
 理由を聞こうにも、あからさまに挙動不審な態度で『用事が』と言ってどこかに行くから、近づくことさえままならない。
 エリタに変わってからの日々も含め、恵莉さんとこんなに会話をしていないのは初めてのことだから戸惑ってしまう。なんだかんだいって、付き合うようになってから毎日話していたしなぁ。
「よっ、ちょっと訊いていいか」
 声をかけられて振り向くと、輪島が僕の席のすぐ傍にいた。
 今日も相変わらず口角が好感の持てる向きに曲がっている。この男はいつもこんな顔だ。
「どうしたの?」
「いや、お前と三坂のことだけどよ。もしかして、うまく行ってないのか?」
「え」
 いきなりなその質問に目を剥く。
 最近目も合わせてくれなくなったとか、思い当たるフシはいろいろあるけどまさかそれを他人の口から指摘されるとは思っていなかった。
「ど、どうして、そんなこと」
「何となく。前は爆発しろってぐらいベッタリだったけど、最近ぜんぜん一緒にいること見ねーからさ」
「あ、あはは……よく見てるね」
 不穏な単語には耳を塞いで、どうにか苦笑いで返す。
 恵莉さんと付き合う前、輪島にはよく恋愛相談に乗ってもらった。恋人同士になってからもいろいろと気にかけてくれて、今もこうして心配してくれている。
 本当に、いいヤツだ。
「えっと……」
 だから、輪島になら恵莉さんに起こった異常事態のことを話してもいいかと、口を開きかけた。
「それに、なんだ? 三坂ってバスケが好きだったのか?」
「え?」
「昨日と一昨日、バスケ部の練習を見学していたらしいぞ」
「へ、へぇー」
 まぁ、前世ではバスケ部だったし、いろいろ思うところもあるんだろう。
「なんか、めっちゃくちゃテンション高めで応援してた。……ああいう一面もあるんだな、三坂って」
「…………」
 前言撤回。
 エゴでも何でもいいから、恵莉さんのイメージを守るべく努力していこうと改めて強く思った。



 半日の授業を終えて体育館に行くと、逃げるように教室から出て行ったエリタが壁に片足をつけた姿勢で立っていた。頭の後ろに組んだ腕がちょうど横顔を遮り、その表情を窺い知ることはできない。
 彼女の正面ではバスケ部のメンバーが練習をしている。
 ドン、ドン、とボールが弾む重い音とシューズと床とが擦れ合う高い音が混ざり合い、そこに歓声まで加わったバスケットコート特有の騒々しさが体育館中に鳴り響いていた。
「何しているの?」
 喧騒に乗じて彼女に近づき、すぐ近くで声をかける。
 手は頭に添えたまま上半身をひねって億劫そうにこちらを見て、すぐに驚きの表情に変わった。
「なっ、お、お前……なんでここに……!」
「そんなに驚かないでよ」
 好きな女の子に全力で後ずさりされるとか、さすがにショックなんだけど。
「輪島に聞いたんだよ。昨日も来たんだって?」
「おう。悪いか」
「誰もそんなこと言ってないから」
 凄くハイテンションで応援していたって聞いたけど、ぜんぜん普通だ。
 単に見学しているだけなら、僕だってごちゃごちゃ口出ししたくはない。
「…………」
「…………」
 会話が続かず、何となく並んでバスケ部の練習風景を見る。
 そういえばどうして輪島は恵莉さん……正確にはエリタが、ここにいることを知っていたんだろう。あの男はバスケ部じゃないし、あたりを見回しても笑顔の男は見当たらなかった。
「ん?」
 ふと隣を見ると、エリタはいつのまにか腕と足を降ろしてじりじりと距離を取っていた。
「なんで逃げるのさ」
「に、逃げてねーよ」
「ウソ。最近、なんか僕のこと避けているよね」
「うぅ……小さいこと気にしやがって」
 顔を赤くして、恨みがましいというよりは拗ねたような視線を向けられる。
 やがて観念したのか、ため息をつくとふてくされた声で投げやり気味に答えてくれた。
「……ずかしいんだよ」
「え?」
「恥ずかしいんだよ! あ、あんな情けねーザマ、見られて……」
 勢いは徐々に衰え、最後にまたフンと鼻を鳴らして顔を背ける。
 耳まで赤くなっているのがよくわかった。が、何の話だろう。
「情けないって?」
「美優と会った日だよ。くそっ、誰にも言ってないだろうな!?」
「えと……もしかして、泣いていたこ」
「言・う・な!」
「はい」
 怒られたので、頭の中にだけあのときのことを蘇らせる。
 エリタが『エリタ』として生きていた頃に付き合っていた女性、歌谷美優さん。彼女がどうやら結婚するらしいことを知り、エリタは最初平静を装っていたけど最後は僕の背中にしがみついて泣いていた。
「別に、情けなくなんかないよ」
「言うなっつーの。……情けないだろ。男が、女に振られたぐらいでポロポロ泣いて」
「いや、たぶん僕だって、恵莉さんに振られたら泣くし」
「お前と一緒にするなヘタレ」
 さらりと酷いことを言われる。そういえば確か、僕は恵莉さんに振られているんだよね。中身がエリタだから全然そんな感覚がないのが救いだ。
「とにかく今は女の子だし、気にしなくていいんじゃない?」
「……ふん。都合のいいときだけ女扱いしやがって」
 深いため息をつき、僕の言葉にしぶしぶといった風に納得してくれる。それからまたしばらくの間、沈黙が流れた。
 バスケ部員の一人がボールを放ち、綺麗な放物線を描いてゴールポストのリングをくぐる。ほぼ同時に、試合終了の笛が鳴った。
 その音にまぎれるような小さな声で、彼女が口を開く。
「なあ」
「うん?」
「明日、一緒に遊ぼうぜ」
 前を向いたままそっけなく言い放った台詞はなんだかとっても幼げで。
 思わず顔を綻ばせて、快く了解をした。



 これって実はデートなんじゃ? と気付いたのは、約束した場所で彼女の到着を待っているときだった。公園の時計の下で女の子と待ち合わせなんて、デートみたいだとふいに思ったせいだ。
 恵莉さんの性格が変わる前は、放課後にちょっと寄り道をしたりしたぐらいで、日曜日に二人だけで出掛けるなんてこれが初めての経験だ。正直、何のプランもない。
 相手がガサツなエリタとはいえ、ドキドキしてしまう。思えば、彼女の私服を見るのだって初めてだ。パジャマ姿は先に見たけど。可愛かった。
(どんな服着てくるんだろう)
 以前の性格なら、なんとなくロングスカートのワンピースを着てきそうだ。勝手な印象だけど、シックな森系ファッションが似合う気がする。
 今は……どうだろう。
 前世が男だというのなら、男モノかユニセックス系を選ぶかもしれない。だけど恵莉さんがそんな服を持っているかと思うと、ちょっと疑問だった。
「何ぶつぶつ言ってんだ、おめーは」
「ひゃあっ!?」
 普段よりずっと高い声量で悲鳴を上げ、後ろを振り向く。
 長い髪を後ろでひとつにまとめた、ポニーテールの恵莉さんが呆れた眼差しを僕に向けていた。
「お、お、おはよう」
「午後だぞ」
 空を指差し、それにつられて頭上の時計を見上げる。
 午後一時。約束した時間にピッタリだった。
「えぇと……」
 緊張して、頭が真っ白になる。
 服装のことは気にしていたけど、まさか髪形を変えてくるなんて完全に不意打ちだった。
「なんだよ、変か?」
 エリタが怪訝な顔をして、自分の後ろ髪を弄る。
 首を横に振って否定するけど、目を離すことはできなかった。
 前世の記憶が戻る前の恵莉さんはずっとみつあみで、エリタになってからは面倒だという理由でストレートにしていた。
 初めて見る彼女のヘアスタイル。それに加えて、活発な印象のあるポニーテールを静かで照れ屋だった恵莉さんがしていることに、ある種のギャップみたいなものを抱く。要するに、凄く可愛い。
「へんなやつ。ま、いいや。行くぞ」
 てん、と脇に抱えていたバスケットボールを地面に弾ませて、僕にパスをよこしてくる。……って、バスケットボール?
 恵莉さんの服装を見れば、ミントブルーのジャージ姿だった。冬も近いというのにハーフパンツで、白というよりは灰色に近いスニーカーを履いている。
 図書館や映画館などの施設とは間違っても関係のない、アウトドア感満載の格好だった。
「とりあえず、身体あっためてから1ゲームやろーぜ」
 公園内のバスケットコートに向かって歩き出すエリタの表情は。
 ちょうど今日の天気と同じ、からっとした笑顔だった。

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