爆発しろ 8


恋人の恵莉(めぐり)が突然『エリタ』という男だった頃の記憶を蘇らせた
転生系TSの恋愛モノをまったり書いています

タイトルは(仮) ギャグ漫画か



『彼と彼女のバクハツ日和』


 いくら前世でバスケ部員だったからとはいえ、今のカラダは女の子で、本来の実力の一割も出せないんじゃないか。
 そう思っていたけど、僕の浅はかな考えはすぐに覆された。

「おいおいおい……1クオーターだけで20点差とかどんだけだよ」
「ぜぇー、ぜぇー……」
 疲れすぎていて、嫌味にもまともに答えられない。十分間ほとんど走り続けていたせいで、体力はもう限界だった。
 フットワークといいシュートの成功率といい、素人の僕とは比べ物にならないぐらいエリタは上手い。開始早々に速攻でレイアップを決められ、そこから点差が開くまであっという間だった。
 こっちも何度か3ポイントを決めたりしたけど全然追いつかない。焼け石に水だ。
「っていうか……すっごい、慣れてない?」
「そりゃお前、俺はバスケ部だぞ?」
「いや、そうじゃ、なくて」
 エリタがいくらバスケが上手かったとしても、カラダは恵莉さんのままだ。
 女の子の中では背の高い彼女だけど、背丈や腕の長さ、それに体力だって男の頃とは違うだろう。なのにエリタはスムーズに身体を動かし、ボールを思いのまま操り、いまもほとんど疲れている様子を見せない。
 まるで恵莉さん自身が以前からバスケになじみがあったのではないかと思わせる、そんなプレイだった。
「これじゃあ、残りの3クオーターやっても結果は見えてるよなぁ……」
 なんて言いながら、指でボールをくるくると回している。
 男としてはここで大逆転を決めてみせたいところだけど、残念ながらいまだに整わない呼吸が全てを物語っていた。
「よっ、面白そうなことやってんな」
「あ?」
 恵莉さんの声が怪訝を通り越してガラの悪い台詞を吐いて、僕の後ろを睨みつける。
 振り向くと、スポーツウェアを身にまとった男がにこやかな顔をして片手を挙げていた。
「あぁ……輪島か」
 ようやく呼吸が整ってきたところだから、言い方がぞんざいになってしまう。けどクラスメイトは特に気にした風もなく、僕とエリタをしげしげと眺めていた。
「珍しい場所にいるな。お前らってインドア派じゃなかったのか?」
「はぁ? 勝手に決め付けんなよ」
 どう言い繕おうか悩む前に、不機嫌をそのまま声に出したような調子でエリタが先に答えた。
 元の恵莉さんとはかけ離れた受け答え方だったから、心臓がドキンと跳ね上がる。正体、隠す気あるのかな。
「っと……」
 エリタも言ってから失言だったと気付いたのか、苦い顔をしてごまかすように笑った。
「ンンッ。それで、何か用? 真島クン」
「輪島な。いや、暇だったから声をかけただけなんだけど……」
 と、恵莉さんの持つボールに目をとめてまた笑う。
「バスケやってたんだろ? 俺も混ざっていいか」
「えっと……」
 僕は別に構わない。というかちょっと休憩したいと思っていたところだ。
 念のためエリタの顔色も窺ってみるけど、特に文句はなさそうだった。
「じゃあ、僕は休憩してるね」
「おー、いけいけ根性なし」
 吐き捨てるように言って、追い払うように手を振ってくる。さっきからかなり態度が荒っぽいけど、もともとエリタはこんな感じだし気にしない。……耐性がついてきたのかな、僕。
「じゃあ鹿島クン。わたしと勝負しようか?」
 それでいて時々恵莉さんらしさも混ざるのだから、頭がこんがらがる。
 歌谷さんとの一件がなければ、いまだに多重人格を疑っていたかも知れない。
「いや、二人でいいぜ。あと、輪島な」
「え?」
「2on1だ。かかってきな」
「へぇ」
 運動神経に自信のある男はさすがに言う事が違う。実際、僕と恵莉さんが一緒に挑んでも完勝しそうなのが輪島だ。
 なんて、素直に感心したのはどうやら僕だけらしい。
「いけ好かねぇ野郎だな。ボロ負けしても泣くんじゃねーぞ!」
「あぁぁ……」
 好戦的な瞳をむき出しにして、パートナーが挑発に応えていた。
 輪島も驚いたように目を丸くして、だけどすぐに笑顔に戻る。
「ま、よろしくな」

 こうして僕の休日は、輪島も交えて2対1の変則バスケで潰れていくのだった。

***

 秋になると、日が出ている時間もとたんに短くなる。
 つい一週間前までは綺麗な夕焼けが浮かんでいたのに、今はもう空全体が青紫に染まっていた。
「そろそろ俺、帰るわ」
 宣言通り……いや、宣言はしていないけどとにかく僕らを翻弄し滅茶苦茶な点差をつけて勝利を飾った男は、もう何本目になるか数えるのもバカらしいレイアップシュートをさらりと決めて、にこやかに言った。
「サンキューな、いい運動になった。今度、なんかおごるよ」
「ひゅー、ひゅー……」
「ぜへ、ぜへ、ま、待て、もう、一回。もう一回だ!」
 僕は言うまでもなく、エリタも息が切れ切れだった。
 大して輪島は多少汗ばんでこそいるものの、まったく呼吸を乱していない。たとえもう一試合やったところで、結果は目に見えていた。
「ははっ、なんか教室に居るときとイメージ違うな、三坂。そんなに負けず嫌いだったのか」
「プライドの問題だプライドの!」
「あー、まぁよくわかんねーけど、いつでも受け付けるぜ? 気が向いたら声をかけてくれ」
 一度地面に弾ませて、エリタにボールを返す。
 爽やかな所作と笑顔は、大の字になってへたばる僕とは雲泥の差だった。
「はー……ったく、アイツあれでバスケ部じゃねぇんだから、もったいねぇっつうかムカツクっていうか……」
 遠くなる輪島の背中を見送りながら、エリタがガシガシと頭をかいて愚痴を漏らす。
 僕の方はというと、疲れ果てていまだに立ち上がる気力さえ湧かなかった。
「だいたい、二人がかりで攻めてんのに何だよあの動き! っていうかそもそもお前、ヘボ過ぎんだろうが!」
「はぁ……?」
 惨敗したストレスを口に出している内に歯止めが利かなくなったのか、矛先が僕に向けられる。
「いつまでも寝てんじゃねぇよ! 特訓するぞ特訓!」
「いや、ちょ……ホント、無理……」
「ざっけんな男だろ! 悔しくないのかよ!」
「いや、でも輪島だし、別に」
 何度も言うようだけど、運動が苦手な僕と女の子の恵莉さんが組んだところで結果は見えていた。
 なにせ相手は、運動ができて、頭も良くて、女の子にも人気がある輪島だ。勝ち目なんて最初からあるはずがない。
「何だよそれ……だいたいな、お前が足を引っ張ったから、あそこまで点差を付けられたんだぞ!?」
 恵莉さん……恵莉さんの姿をしたエリタは、恵莉さんの声で僕を罵り、理不尽な理由で叱ってくる。
 向こうからすれば負けて悔しい気持ちをそのままぶつけているだけなんだろうけど、疲れ切った今の僕に、その怒りを受け止めるほどの余裕は残っていなかった。
「じゃあ、最初から一人でやりなよ。僕なんか誘わないでさ」
「んなっ」
「だいたいキミはなんなの? 前世は男だったとか言って僕と別れたり、かと思えば休みの日に呼び出したり。正直、疲れるんだけど」
 地面に手を突いて、ゆっくりと起き上がる。
 立ち上がってもまだ彼女の方が背は高い。だけど僕は、僕の穏やかな日常を壊した男を睨み続けた。
「ミナキのくせに口答えすんのかよ。どうせ暇なんだし、相手ぐらいしろよ!」
「別れたいって言ったのはキミだよね。だったら普通、気まずくなって顔をあわせづらくなるんじゃないの?」
 歌谷さんのことを調べて、エリタを彼女の中から追い出そうともした。
 だけどそれは無駄だったことがわかり、他に手を尽くせないことがわかると苛立ちは更に積み重なっていった。
 エリタと会話をするたびに、僕の中から恵莉さんとの思い出が消えていく。そんな不安をいつも感じていた。
「中途半端に僕を振り回すぐらいならさッ」
 一瞬だけ、続く言葉をためらう。
 だけど、目の前にいるのは恵莉さんじゃない。
 性格も態度も全然違うのなら、見た目が同じでもそれはもう別人だ。恵莉さんとして生きてきた知識はあっても、目の前にいる彼女は僕の好きになった女の子じゃない。
 だから────
「もう、僕に近づかないでよッ!」
 そう叫ぶ事ができた。できて、しまった。
「…………」
 エリタは呆然としている。
 何を言われたのか理解していない様子ではなく、むしろ信じられないものを見たような、そんな顔だった。
「……そうかよ」
 少しの沈黙の後、言葉少なに言って俯く。
 女の子の姿でそういう仕草をされると、言い知れない罪悪感に襲われる。けど、言いたいことを言い切ったおかげで多少なりともスッキリしていた。
「ウラァッ!」
「ッ!?」
 雄々しい女の子の怒声と共に、薄茶色の塊が僕の鼻っ柱に直撃した。
 デジャブを覚える痛烈な痛みとボールが弾む音に混じって、恵莉さんの声が聞こえてくる。
「さようなら、永倉クン」
 いやに他人行儀なその台詞を聞きながら。
 あぁ眼鏡外しておいて良かったとか、どうでもいいことを考えていた。


スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
管理者の詳細

最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
FC2投票
無料アクセス解析
応援バナー
ちぇ~んじ!~あの娘になってクンクンペロペロ~
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR