爆発しろ 9

12月だ……今年中には終わらせたかったんですが間に合う気がしない

恋人の恵莉(めぐり)が『エリタ』という男だった頃の記憶を蘇らせた
転生系TSの恋愛モノをまったり書いています

タイトルは(仮) 似たようなタイトルがあったような気が……



『めぐり・めぐる』


 恵莉さんと出会ったのは、朱城学園に入って一年が過ぎた頃だった。
 二年生になって、同じクラスになって、だけどそのときの僕はまだ、三坂恵莉という女の子が同級生にいるという事実しか頭に入っていなかった。

 話すようになったのは、恵莉さんが風紀委員の当番をしていた日、たまたま僕が遅刻をしたのがきっかけだった。
 真面目そうな、ただのクラスメイトにしか過ぎなかった彼女をそのとき初めて自分の中に認識し、同時に、叱られているにもかかわらず『かわいい』なんて思っていた。話を聞いているのか、って怒られたけど。
 それから何度か会話をするようになって。
 あの印象的な長いお下げの黒髪に目を奪われたときにはもう。
 あるいは、教室の窓際で頬杖をつく物静かな姿を綺麗だと思ったときにはすでに。
 僕はまるで急坂を転がるように彼女の事を好きになった。恋に落ちる、という言葉がまさしく文字通りの意味だったことを知った。
 自分の気持ちに気付き、女の子人気の高い輪島にも相談して背中を押されて、当たって砕けろとばかりに告白を決心したのもあっという間だ。
「好きです。僕と、付き合ってください」
 心臓が破裂しそうなほどバクバクしていたことも、窓辺から差し込む夕焼けの色も、新緑の匂いも、ありったけの勇気を振り絞ったことも覚えている。
 もちろん、告白相手──恵莉さんの言葉だって忘れていない。
「わたしに、言ってるの、かな?」
 二人きりなのに、きょろきょろとあたりを見回していたことも。
「わ、わたし、あなたが好きになるような女の子じゃない……かもよ?」
 しどろもどろになって自分を卑下していたことも。
 僕が知らない恵莉さんの魅力をこれからどんどん教えていってほしいと言うと、目を丸くしていたことも。
「じゃ、じゃあ……あの、よろしく、お願いします」
 真っ赤になってはにかみながら手を差し出してきたことも、左手のあたたかさも全て、昨日のことのように振り返ることができる。
「あ、でもエッチなのはダメだからね? そーゆーのは、卒業してから」
「しないよ!?」
 ついでに、真面目な彼女の台詞で僕の方が逆に赤面させられてしまったことも、覚えていた。


 空を見上げ、今朝見た夢の光景を白い雲に描く。
 懐かしい、といってもまだあれから半年ぐらいしか経っていない。
 告白をしたあの時はまさか、こんな事が起こるなんて想像もしていなかった。学園に向かうための足取りは非常に重く、この間まで浮き足立って歩いていたのがウソのようだ。
 早く教室に行って、恵莉さんと話そう。100日以上もの間そのことで頭が一杯だったのに、今はその気持ちが見事に逆転している。
 エリタへの苛立ちを直接ぶつけてしまってからの翌日。僕はとても憂鬱だった。
 間違ったことを言ったつもりはない。でも彼女の呆然とした表情を思い返すたびに、後悔がどしどし募っていく。もう近づくな、はさすがに言いすぎだったかも。
 仲直りはしたい。かといって、自分から折れたくもない。悪いのはエリタの方だから。
「わがままだなぁ……」
 自分勝手な考えに情けなくなり、なおさら気分が落ち込む。
 結局どうするという決心もつかないまま、僕は足を前に進めるしかなかった。



 校門で仕事をする風紀委員たちの姿を見た瞬間、さっそくエリタに絡まれるのかと思い身体が強張る。
 だけど顔見知りの先輩の傍にいたのは知らない男で、いつかの恵莉さんと同じようにクリップボードを抱えて何かを書いていた。どうやら、今日はいないらしい。
 問題が先送りにできたことにほっと息を吐いて、門を通り抜けようとしたそのときだ。
「おはよう、永倉くん。ちょっといい?」
 風紀委員の先輩に呼ばれて、足を止める。
 何か校則違反でもしてしまったかと自分を見下ろすが、先輩は細い眼差しでじっと僕を見ているだけだ。
「あ、あの?」
「キミ、めぐりんと何かあった?」
 漠然としているのにやけに的を得た質問をされ、肩が震える。
 僕の態度を肯定と捉えたのか、先輩は頬に手のひらを添えて喋り続けた。
「今朝ね、いきなり『委員会、しばらく休んでいいですか?』って訊かれたのよ」
「えぇっ!?」
「どうしてって聞いたら、『見返したい男がいるから特訓する』んだって。なんかさ、めぐりんのキャラ違くない?」
「そ、そそ、そう、ですね……」
 見返したい男って……やっぱり、輪島だよなぁ。
 バスケの試合でボロ負けしたこと、そうとう根に持っているっぽい。
「ま、それで『見返したい男』って、やっぱりキミのことかなーって思って」
「……違いますよ」
「えぇー、でも」
「僕、フラれましたから。恵莉さんとは、もう関係ないんです」
 口に出したことで、フラれたことを強く実感する。『別れよう』と告げられてから一週間経って、ようやくだ。
「……マジ?」
「マジです。もう、行っていいですか」
 朝から学園の入り口で話なんかしていると目立って仕方がない。それでなくても、相手は上級生なのだから緊張してしまう。
 なんだかさらし者にされているような気がして、とても居心地が悪かった。
「あ、ああ、うん。ごめんね呼び止めて」
「いいえ」
 軽い会釈をして、校門を抜ける。
 閉門時間が迫ってきたためか、ずいぶん人通りが増えていた。
「永倉くん」
 しばらく歩いたところで、また先輩に呼び止められる。
 振り返ると先輩は狐のような目をいっそう細くして、僕を撃ち抜くように指差していた。
「あたしの目には、二人とも未練たらったらなの丸わかりだよ?」
 だから、と彼女は続ける。
「またくっついて、それから、爆発しなさい」
 なんでこの人はヒトのことを爆発させたがるんだろう。
 妙な励まし(?)方に力なく笑って応え、僕は今度こそ校舎に向かうのだった。



 朝から沈み込んでいた気分は結局一度も浮上することないまま、あっさりと放課後を迎えてしまった。
 エリタは今日一日、昼休みや移動教室をのぞいてほとんど自分の席から動かなかった。
 変わったことといえば好き勝手に遊ばせていた長い髪が、この日はポニーテールでまとめられていたことぐらいだ。
 みつあみからストレートへ、ストレートからポニーテールへと、彼女の髪型はだいたい一週間おきに変化している。
 特に活発な印象のある今週のヘアスタイルは同じクラスの女子から話のタネにされ、本人も交えてわいわいと楽しそうに騒いでいた。
 元男なのによく女子トークについていけるなぁ、とか変なところに感心をしてふと気付く。
(僕、全然恵莉さん離れできてない?)
 自分から近づかないでと言ったのに、今日一日ほとんど彼女のことを観察していた。
 今朝の先輩の言葉を思い出す。
 未練たらたら。その通りだ。だって僕は、恵莉さんを諦めたつもりはこれっぽちもない。
 ただエリタとどう向き合えばいいのかわからなかった。元の恵莉さんを求めればエリタの存在に苛立ちを覚え、エリタを受け入れれば僕の中の恵莉さんが希薄になっていく。
 そこまで考えて、「あれ?」と思う。僕は、エリタを受け入れたいのか?
(かわいそうだとは、思うけどさ)
 僕とそんなに変わらない歳で死んでしまったのだ。同情はする。
 でも、それとこれとは話が別だ。
 元の彼女とかけ離れた性格をしたエリタを、肯定するわけにはいかなかった。

---

 秋の深まった夕暮れ時の公園は、午後四時を境にして少しずつ人通りが減っていく。
 親子連れが立ち去り、遊んでいた子供が友達と別れ、公園の敷地内に設置された街灯がぽつぽつと点く頃にはすっかり人気がなくなっていた。
 そんな中、ジャージ姿のポニーテール少女は一向に帰る気配も見せず、バスケットコートでひたすら汗水を流している。
 たった一人きりで、かれこれ四十分以上身体を激しい運動を続けていたせいか、フットワークは明らかに鈍りショットの成功率も伸び悩むようになっていた。
「はぁ、はぁ……くそっ!」
 放物線を描いたボールはリングに弾かれ、一瞬だけ宙に浮く。
 少女はすぐにゴール下まで走り、まるで仮想敵とリバウンド争いをしているかのように大きく飛び跳ねて腕を伸ばした。
 だがボールは再び手のひらに収まることはなく、指先を掠めて彼女の背後へと落下する。てんっ、てんっ、と音を立てて地面を弾み、やがて落下の勢いを失ったボールはころころ転がりながらベンチの足元にたどり着いた。
「あ……」
 ボールを追いかけてきた少女──恵莉さんは、ベンチに座る男の姿を確認して少し驚いた声を上げる。
「こんばんは」
 僕はボールを拾い、時間的に判断の難しい挨拶をして微笑んで見せた。
 遠くの空はすでに青黒く変色していて、だけど僕らの周辺にはまだまだ夕焼けの残照が色づいている。
 夕方と夜の中間点。たそがれ時の始まりだ。
「……近づくなって、言わなかったっけ?」
 約一日ぶりにきく声は、元の彼女の口調に似ていて、そしてどこかよそよそしい。
「僕から近づいたから、いいの」
「何、その勝手なリクツ」
 彼女の表情が少しだけほぐれる。が、すぐにまた厳しい視線を向けられた。
「もう俺が恋しくなったのか? このジコチューメガネ」
 わざとなのか、急に男っぽい喋り方を強調して僕をからかう。
 何度見ても、何度聞いても、恵莉さんの顔と声でそんなことを言われるとモヤモヤする。けど同時に、また『エリタ』の口調で僕と話してくれたことに安堵もした。
 僕の決意は恵莉さんにではなく、エリタに向けるものだから。
「ずっと、キミを元に戻す方法を考えてた」
 ボールを持ったまま彼女の横をすり抜ける。
 薄茶色をした球は、昨日僕ら三人が使ったものと同じだ。
「だって僕は、やっぱり恵莉さんの事が好きだから」
 エリタの指摘は間違ってはいない。
 たった一日で彼女が恋しくなり、近づくなといった相手に自分から近づく勝手な男だ。
 この公園にきたのも、最初は明確な意志があったわけじゃない。彼女の姿を求めて、気がつけばふらりと引き寄せられただけだ。
「決めたよ、僕」
 離れた場所から、ずっと練習している姿を眺めていた。そうしたことで、僕の中で一つの覚悟が決まった。
「何をだ?」
 後ろから恵莉さんの声が聞こえる。
 僕は振り返らずに、バスケットボールを目線の上に掲げた。
「協力する」
 跳び上がり、ボールから手を離す。
 軌跡はゆっくりと放物線を描き──吸い込まれるように、リングを潜った。
 3ポイントショット。ドリブルも満足にできない僕が唯一得意とする技だ。成功率はそんなに多くないけど、これから上げていけばいい。
「キミが望むこと、全部協力するよ」
「は、はぁ……?」
 振り返ると、エリタはきょとんとした顔をして、間の抜けた声を発した。
「エリタが生きていた時にできなかったこと、やりかたったこと。全部僕が叶える……ま、まぁ、無理なときもあるけど」
 僕にできることなんて、たかが知れている。
 けど、最善は尽くそう。それが、同い年で死んだエリタの手向けにもなるはずだ。
「だから満足したら…………元の、恵莉さんに戻って欲しい」
「なんだよ。結局、それか」
 これは、取引ですらない。
 恵莉さんが元に戻る保障もなければ、エリタの意思でそれが可能かどうかすらもわからない。
 神頼みにも近い、ただの「お願い」だった。
「一度戻った前世の記憶を忘れろってか?」
「うん」
「約束なんかできねーぞ? やり方なんざ知らないからよ」
「構わない」
「コキ、使いまくるぞ?」
「そのつもりだよ」
 短いやり取りを交わしながら、ふと、前にも似たやり取りがあったような気がする。
 けれど、野性的に瞳を輝かせて笑うエリタの表情が、回想に浸る前に僕の意識を繋ぎとめた。
「っしゃあ! またヘタレんじゃねぇぞ!?」
「うんっ」
 上着を脱ぎ捨て、お互いの拳を打ち合わせる。
 目指すは、輪島へのリベンジだ。





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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

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