爆発しろ 10


恋人の恵莉(めぐり)が『エリタ』という男だった頃の記憶を蘇らせた
転生系TSの恋愛モノをまったり書いています

タイトルは(仮) 籠球部のタイトルの秀逸さに今気付く



『えくすぷろーど!』


『わたし、あなたが思っているような女じゃない……かもよ?』
 告白をしたとき、恵莉さんはそう言って俯いた。
 あの時はただの謙遜だと思っていたけど、エリタと一緒にバスケの練習をするようになって、僕はその言葉の意味をようやく理解する。
「記憶が戻る前から?」
「そうだよ。文句あるか」
 真面目で物静かな第一印象とは裏腹に、恵莉さんは前世の記憶が戻る前からバスケットに熱心だったらしい。やけに手馴れているからもしやと思って訊いてみたけど、やっぱりだ。
 ジャージもボールも全て自前で、朱城学園に入る前はたびたびこの公園に来て汗を流していたという。
「あと試合とかは、今もよく見てるぞ。夜中にやってるからちょっと眠いけどな」
 ドリブルをする手は休めず、エリタは雑談を交わしながら僕の隙を窺っている。
 いつも窓の外をぼんやりと眺めていたのは単に寝不足だったからで、深夜にもかかわらずテレビの選手たちに声援を送ることもままあったようだ。
 それほど好きなら、どうして進学後もバスケを続けなかったのだろう。
「あー、なんか中二の頃からカラダが成長してなぁ。スポブラしてても胸が揺れて痛ぇし、月イチで腹は痛くなるわ……」
「いっ!?」
 トンでもないことをさらっと言われ、思わず目の前の彼女の胸に視線が行ってしまう。その一瞬を見逃すことなく、エリタは猛スピードで僕の脇をすり抜けるとあっという間にシュートを決めた。
「男子にもだんだん負け続けるようになって、親からもいーかげん女らしくしろってうるさく言われて……で、しょうがないから試しに三年ぐらい、真面目な優等生をやってみようと思ったんだ」
 と、笑いながらポニーテールの毛先をくるくると弄る。
「女っぽくなるように髪も伸ばしてみたんだけど……いやぁ、マジ鬱陶しいぞコレ。すっげぇ面倒くさい」
「あはは……」
 その長い髪を魅力的に思っていた僕としては、乾いた笑いしか出てこない。それにしても恵莉さんは元から奔放な性格をしていたなんて、にわかには信じがたい話だった。
 僕の好きになった恥ずかしがりでお淑やかな三坂恵莉さんは、全部ニセモノだったんだろうか。
「……」
 ボールをエリタから受け取り、今度はこちらが攻撃する番になった。独特の軽い音を鳴らして、地面と手のひらを交互に行き来させる。
 一方で、まったく別のことも考えていた。
 恵莉さんに告白をして、恋人同士として付き合ってきた約半年間。
 バスケが好きなことも、長い髪を疎んじていたことも僕は全然気付かなかった。
 彼女の方も、もしかしたら『エリタ』の記憶が戻らなければずっと内緒にしていたかもしれない。僕らは一度だって、本当の自分を見せていなかったんだ。
「……やめた」
「は?」
 ドリブルを止めて呟いた僕に、エリタが怪訝な目を向ける。
 そのわずかな隙を利用して、大きく飛び跳ねると同時にシュートを放った。
「なっ」
 反応の遅れたエリタのブロックは間に合わず、ボールはそのまま弧を描いてリングの中央に吸い込まれていく。
「よしっ」
 拳を握って、格上を出し抜けたことに手応えを感じる。
 たいぶ遠投の感覚もつかめてきた。これならいけるかもしれない。
「な、なんだよ、卑怯だぞ」
「胸のこと言い出したキミの方が先だから」
 前世が男だったというなら、その辺の思春期男子的気持ちをわかって欲しい。
(まぁ、無意識だろうけどさ)
 それは僕だって同じで、別に動揺を誘うつもりはなかった。
(そうだ……もう悩むのはやめよう)
 自分の情けなさも、恵莉さんの別の顔も、エリタのことも。
 いったん全部忘れるぐらいのつもりで、一つのことに集中しよう。
「勝てると良いね、今度こそ」
「……ふん。勝つんだよ、今度はな!」
 情熱的な表情で口角を曲げる恵莉さんの顔は、とてもすがすがしくて。
 見ていると、別に恨みがあるわけでもないのに、闘争心が沸き立ち、打倒輪島の想いがますます強くなっていくのを感じた。
 再戦は、もう間もなくだ。



 ホイッスルの高い音が、昼下がりを迎えた冬の青空に響く。
 数分前まで無人だったコートには、四人の男女が集まっていた。
「また挑んでくるなんて思わなかったぜ」
 日曜の午後。僕らは輪島を呼び出し、ここしばらく通い詰めていた公園のバスケコートで対峙した。
 バスケの再戦をしたいといったら二つ返事で了承してくれたのだけど、目の前の男はまるで散歩の途中で立ち寄ったみたいな、ごく普通のジーンズ姿で現れた。スポーツウェアを着て意気込む僕らとは対照的だ。
「たった一週間で何が変わったのか、見せて貰うぞ」
 わざとなのか、いやに悪役めかした台詞で輪島が笑う。
 僕は何も答えず、隣にいるエリタに目線をやった。
「ほえ面かかしてやんよ」
 熱血な返事だが、冷静さは失っていなさそうだ。
 自信たっぷりに笑う横顔に、僕も勇気付けられていく。
「えーと、2on1の変則ルール、でいいんだよね」
 笛を首にかけた風紀委員の先輩が、細い目をさらに細めてメモ帳を確認している。
 先輩を呼んだのはエリタの案だ。スコアを頭に入れながらのプレイでは集中ができないからということで、記録係として頼んだらしい。
 特に面識のなかった輪島も、相手が公正な風紀委員ならばとあっさり承諾してくれた。それどころか口説き始めたのには、さすがに呆れたけど。
「ホイッスルは10分に1回で2セット。インターバルを入れて全部で25分」
 ルールを声に出し、センターラインの上でボールを手のひらに載せる。
 ジャンプボールはエリタと輪島だ。
「はっ!」
 天高く放り上げられたボールを追って、二人が跳ねる。競り合いを制したのは、残念ながら相手の方だった。
「まずは挨拶代わりだ」
 エリタが着地するよりも先に、輪島の速攻が始まる。ディフェンスをしようにも、そのスピードに付いていくのがやっとだ。
 結局、たった数回のドリブルであっさりとゴール下に着いた輪島は、ジャンプボールのときよりも更に大きく飛び跳ねてダンクシュートを決める。
 それは──予想した通りの結果だった。
「エリタ!」
 ゴールネットから吐き出されたばかりのボールを掴み、輪島の体勢が整う前にパスを送る。
 たいしたスピードじゃないけど、それでもダンクを決めたばかりの一人きりの敵を振り切るだけの速度は出ていた。一度地面を跳ねて無事に味方の手に渡ると、エリタは意趣返しとばかりにフリーとなったコートを全力で駆け抜けていく。
 カウンタープレイは見事にはまり、一瞬で同点に追いつく。展開の速さに翻弄されたのか、先輩が慌ててスコアボードをまくっていた。
「っしゃあ! この調子で行くぞ!」
「うん!」
 とはいえ、もう輪島がダンクをすることはないだろう。前回の、チームプレイも何もない状態の僕らを知っていたからこそ、味方もいないのにあんな大きな隙ができるショットをしてきたんだ。
 きっと、もう油断はしてこない。
「へぇ……カウンターか。参ったね」
 再びオフェンスに回り、鞠つきのような仕草をキープして僕らを見る。
 油断はしてこない。だけど、余裕が消えたわけでもない。
「次は何を見せてくれるんだ?」
 ドリブルが始まる。相変わらずスピードは凄まじくて、やっぱり僕ではなんとか併走するので精一杯だった。
 でも、これでいい。
「貰った!」
 僕の身体が壁となり、輪島の移動範囲は限定される。制限をかけられたドリブルは、エリタのカットを容易に許した。
「ちぃっ!」
 スティールを成功させ、今度はこちらの速攻が始まる。慌ててきびすを返す輪島だが、相変わらず僕が邪魔になって思うように動けないようだ。
「やっぱり、2対1なんて難しいんじゃない?」
「ハハッ、それでボロ負けした奴らが良く言うぜ」
「うっ」
 それを言われると痛い。
 前回はエリタに不満を持っていたし、チームプレイなんか全然やらなかったからなぁ。
 走りながらそんな会話をしているうちに、またゴールが決まる。
 これでスコアは4-2。先のことを考えると、今のうちにもっと点差をつけておきたかった。



「第一セット、終わりー」
 先輩ののんきな掛け声と共にホイッスルが鳴る。
 ボードを見ると、スコアは20-10。数字の上じゃ二倍の差をつけているけど、安心できるほど離れてもいない。
 なにより、僕の体力が持ちそうになかった。一週間の特訓で底上げされた持久力なんてたかが知れたもので、このままの調子で行けば第二セットの途中でバテるのは確実だ。
 それにエリタだって、身体は女の子だし男の輪島よりスタミナがあるとは思えない。実際今も、僕と特訓をしていたときより疲労の色は濃かった。
 このままやっていけば、ジリ貧は避けられない。
 どれだけこの差を維持できるか。次の試合の重要課題は、これだ。


「正直、ここまで成長するとは思ってなかった」
 第二セットが始まり、オフェンスに立った輪島が口を開く。
「俺は別に、バスケに思い入れがあるわけじゃない。だがな……」
 腰を低く屈める。
 その顔からは、いつもの笑みが消えていた。
「負けるのは、大ッ嫌いなんだよ」
 言い放った瞬間、弾丸のように突っ込んでくる。
 タックルを食らわせるような猛烈な勢いに、併走することすら叶わない。
「行かせるか!」
 エリタが進行を阻むが、輪島は彼女の目の前でボールを抱えくるりと背中を向けた。一歩、二歩と踏み込み、脇を抜けた瞬間に大きく跳ねる。
 何もないはずの宙を、水平の板の上を転がるようにしてボールはまっすぐバッグボードに激突する。跳ね返った勢いをそのまま受け止め、ゴールネットが暴れた。
「なに、いまの……」
 いくらなんでも速すぎる。見送ることしかできなかった。
 これが、輪島の本気だろうか。
「びびんな! フォーメーション行くぞ!」
 コートの外から女の子の怒声が聞こえてくる。先輩や輪島の前だというのにまったく恵莉さんらしさを配慮していない、熱血漢らしい台詞だったけど、そんなことはどうでもいい。
「うんっ!」
 力強く頷き、打ち合わせ通りの配置についた。
 輪島が怪訝な顔をして、背後の僕と前方の彼女にせわしなく首を振る。
「っしゃあ!」
 声を出し、エリタが突撃をする。
 別段変わった様子のない、普通のドリブルだ。
 輪島はボールを奪おうと正面に集中した。チームメイトがいないのだから、そうせざるを得ない。
 二人が真正面に相対した瞬間、それは起こった。
 ボールはエリタの股下を潜り抜け、背面に控えていた左手がそれを受け取った。間髪入れずに、手のひらから放たれた鉄砲弾は、まっすぐに僕の待ち構える3ポイントライン間際へと飛んでくる。
「たっ!」
 両手でしっかり構え、眼鏡でくっきりと捉えた先にあるゴールからは決して目を放さない。
 教科書で見たとおりの型を意識して丁寧に投げると、ボールは緩慢な動きで宙を泳ぎ、ネットを射抜いた。
「うわー、3ポイントだよね、いまの」
 パタパタとスコアを三枚めくりながら、先輩が感心した声を上げる。ちょっと気持ちが良い。
(でも、落ち着いてやらないとしくじるんだよね)
 エリタが輪島をひきつけてくれるおかげで、僕はゴールに集中することができる。2対1の変則試合だからこそできた、付け焼刃にしか過ぎないショットだ。
 成功率だって知れたものだし、あてにできたものじゃない。
「やるじゃねぇか」
 事情を知らない輪島は、素直に感心していた。
 これで僕の方も警戒しはじめるだろう。逆に言えば、もう一人へのディフェンスが少しだけ緩くなったわけだ。
「お返しに、俺のも見せてやる」
「は?」
 返事したときには、もうすでに相手は低い姿勢で突っ込み、僕を抜き去っていた。まるで瞬間移動だ。
 エリタと対峙してもその勢いは衰えず、一直線にゴールを目指……。
「あ」
 3ポイントラインの外で急停止をする。正面にいるエリタとの距離は約1メートルほどしかない。
 集中する時間も、ゴールを見据える時間も、体勢を整える時間も本当に一瞬だ。にもかかわらず、輪島の手から放たれたロングショットは、正確にリングの中心を貫いた。
「……すごい」
 敵ながら、という言葉をこれほど強く感じたのは初めてだ。
 オールラウンダーな男に隙はなく、僕らが唯一勝っているのは数だけだった。
「ははっ、この野郎……ッ!」
 エリタも同感なのか、瞳を燃やし、拳を硬く握り、乱暴な台詞を吐く。
 だけどその表情は、とっても楽しそうだった。


 35-34。
 僕らのポイントが伸び悩んでいるのに対し、輪島はまさに躍進といった感じだ。
 技量も、そして体力にも差が表われ始めている。
 エリタの動きも最初に比べてだいぶ精彩を欠き、僕の方は言うまでもない。たった一回のゴールで覆される差をどうにか維持するだけのスタミナは、残っていなかった。
「あと1分ー」
 気を利かせてくれたのか、先輩がタイマーを見ながら残り時間を読み上げる。
 同じ1分でも、待つのと過ごすのとではかなり違う。
 何としてでもこの1点を守りきらなければ、僕らは負ける。
「はぁ、はぁ……ミナキ」
 ポイントを入れた輪島がセンターラインに戻るのを見送っていると、名前を呼ばれる。
「わかってる。絶対に、守りきるよ」
 お互い、かなり息が上がっていた。
 もう無理はできない。
 そのはずなのに。
「攻めるぞ」
「え」
「カウンターだ」
 そう言って、エリタは強い瞳で僕を見据えパスを送る。
「行けぇッ!」
 叫び声に突き動かされて走り出す。輪島やエリタとは比べ物にならない、鈍重なドリブルだ。
「隙だらけだ」
 輪島が横切ったかと思った瞬間、ボールは僕の手のひらから消え掠め取られていた。
 エリタは3ポイントラインの上で突撃をする男を待ち構えている。
 援護にまわるべきか、とも考えたけど、僕はその場から動かなかった。
 彼女は、カウンターと言った。つまり。
「うわ、ついに逆転ッ!」
 上ずった声を出して、先輩が敵のポイントに興奮している。
 ランニングショットを決めた輪島はボールより先に着地をして、コートの外に出るエリタの前に立ちはだかった。
 パスもドリブルも通さないと言わんばかりに両腕を広げて、威圧を剥き出しにしている。
 その圧をまるで意にも介さず、エリタは姿勢を低くして足を前に踏み出した。
「ミナキ!」
 低空で放たれたボールは輪島の股下を抜け、水切りのような軌道を描いて手元にやってくる。
 パスを受け取り、中断させられたドリブルを再開する。輪島は慌てた様子で向かってくるが、僕のショットの方が早い。
 3ポイントなんて欲張らず、確実に取れるフリースローのラインまで近づいてから両手で投げる。
「あぁ!」
 ガンッと硬い音がして、リングにはじかれる。
 ゴール下に駆け寄るが、そのときには輪島の姿もすぐ隣にあった。
 リバウンド争い。身長差は歴然で、僕より背の高い恵莉さんよりも更に背丈がある男にそんな勝負を挑んでも勝てっこない。
 だけどそれでも、負けたくない一心で地面を蹴り、腕を伸ばす。
 届け、届け、届け────ッ!
「惜しかったな」
 願いは叶わず、あえなく敵の手に渡った。
 両手で挟み込むようにボールをつかみ、頭上に掲げたまま自由落下を始める。

 その、腕と腕との間に。
 もう一本、細くしなやかな腕が、伸びてきた。

「っらぁ!」
 一瞬遅れて跳び上がったエリタが輪島の手からリバウンドを奪い返し、更に高く舞い上がる。
 それはまるで、天使の翼が見えてしまうほどの長い滞空時間だった。
 手のひらからこぼれたボールは放物線を描いてもう一度リングに向かう。
 赤い輪の縁を一周ばかりして。

 ボールは、ネットの中へと収まった。

「試合終了ーッ!」
 先輩の声とほぼ同時に、ホイッスルが鳴る。
「か……、勝っ……た……?」
 尻餅をついて、落ちてきたボールの動きを目で追う。
 37-36。
 拍手をする先輩の隣にあるスコアボードは、間違いなくそう記されていた。
「はぁっ、はぁっ、く、はぁ……、ミナキ……」
 エリタが握り締めた左手を突き出してくる。
 僕は立たなくなった足腰をもう一度奮い起こして、彼女と拳をぶつけ合わせた。
 言葉では伝えきれない、勝利の快感を共有して笑う。
「はは、ひでぇざまだな」
「キミこそ」
 汗だくで、まとめていたポニーテールもほつれていて、今にも倒れそうなほどに呼吸を乱して。
 それでもかげりのない、ハツラツとした顔をする彼女のことを。
 僕は、とてもカッコイイと思った。




バスケ描写はきっと、経験者からすればおかしいことだらけに違いない

物語はあと1、2回で終了です
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プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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