短編「ABCオブTS」 V

26のアルファベットの頭文字をタイトルにした TSがテーマの短編を作っています

かなり軽くてプロローグ的な話です

コメントにて素敵な単語を教えて頂きました
ありがとうございます


短編「ABCオブTS」

vain -自慢する-
 とある村のとある武器屋。
 購入したばかりの武器を手に取り、男は誇らしげに笑っていた。
「ふははっ、やったぞ……ついに、ついに手に入れたぞ!」
 ギルドの依頼を何件も掛け持ちし、連日連夜の日々を費やして稼いだ金は、全てこの武器に貢いだ。
 それほどまでに男は剣に魅せられていた。あるいは、それがこの魔剣の成せる業なのかもしれない。
 魔剣・アイスソード。
 村の武器屋に置いてあることが不思議でならないが、間違いなく最強の部類に入る一振りだ。
 80センチほどの長い両刃の刀身は青い輝きを放ち、氷のように透き通っている。
 柄に触れるとひやりとした冷気が右手を覆い、オーラのように全身にまとわりついた。魔力のない人間が持てば凍傷を起こすかもしれないほどの冷たさだが、聖戦士の資格を持つ男は手のひらに魔力を集中させ、冷気をガードしていた。
「なんという美しさだ」
 有り金を全て失ったが、アイスソードの放つ青き輝きの前では後悔の念など一縷も湧いてこない。
 ニセモノや呪われた装備だという可能性も捨て切れなかったが、持った瞬間から男は全て理解した。
 このアイスソードは間違いなく本物で。そして自分は、魔剣に選ばれた人間なのだ。
 まるで石の台座から剣を抜いたアーサー王のような高揚とした気分を、男は抑えきる事ができなかった。
「はははは! みろ! これがあの伝説のアイスソードだ!」
 広場で抜き身の剣を振り回し、村中の人間に買ったばかりの武器を自慢する。
 まるで子供のような所業に、村人は呆れ、あるいは無視をした。
 関心を持つのは孤児院の子供たちばかりで、少年少女らは美しき魔剣に純粋に見蕩れていた。
「うっわぁ~、キレー」
「すっげぇなおっさん。あんなたっけーもん買えるなんて!」
「ふふふ、そうだろそうだろ。お前たちにはこの良さがわかるんだな!」
 男も子供相手に、高々になった鼻を引っ込めることなく自慢を続けた。
 有頂天になった男は、背後から近づく三人の旅人に気付かない。
「アイスソードを手に入れたってのは、あんたか?」
「おぉっ! そうさ、俺は、ねんがんのアイスソードを手に入れたぞ!」
 嬉々として振り返る男の顔面に、鉄の塊のような拳が飛んできた。
 男の鼻っ柱が砕け、陥没し、2,3メートルほど後ろに吹っ飛ばされる。
「ぐはっ!?」
「お、おっさん!?」
「きゃあああああ!!」
 孤児院の子供たちが悲鳴を上げて逃げていく。
 旅人たちは彼らには一瞥もくれず、ただ地面に倒れる男を冷たい目で見下ろしていた。
「おいおい。まずは譲ってくれないかって頼む予定だったろ?」
 マントを付けた、金色の鉢金をした若い男が笑いながら言う。
「関係ないね。どうせ素直に渡しゃしねぇよ」
 全体像が筋肉で膨れ上がった、傷跡だらけの男が手をパキパキと鳴らしながら言う。
「じゃあ、殺して奪い取るってカンジ?」
 露出の激しい派手な服装をしたとんがり帽子の女が、残忍な笑みを湛えながら若い男に擦り寄る。
 その女に感化されたように、男二人の表情にも残酷な光が宿った。
「な、なにをするきさまらー!」
 男の絶叫は平和の村の全域に広がり、しかし誰かが助けに入ることはなかった。


 男は三人の旅人にアイスソードと、そして命を奪われた。
 ボロ雑巾のようになって広場に横たわる男の死骸に、たった一つだけ近づく影がある。
「……おじさん」
 先程集まっていた、孤児院の少女だ。
 彼女は数年前、禁忌の魔法を使用したことで自分の両親を亡くした。死者の蘇生……幼い頃に一度だけそれを試したところ、誤ってグールを生み出してしまったのだ。
 少女は以来、忌み子として村人たちから煙たがられている。孤児院においてくれるだけでも、ありがたいことだった。
「大丈夫……もう、あのときの私じゃない」
 少女が魔力を集中し、死体となった男の復活を願う。
「はあぁぁッ!!」
 白と濃紺のオーラが立ち上り、二人の体を包み込む。
 そして……少女の意識は、そこで途切れた。

「う……ここは……?」
 男が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。
「たしか、俺は」
 ねんがんのアイスソードを手に入れ、子供たちに自慢していたはずだ。
 そこに妙な三人組が現れて、それから……それから、どうなった?
"おじさんは、あいつらに殺されたんだよ"
「!?」
 突如として頭の中に少女の声が響く。だが、辺りを見渡しても人影は一つもなかった。
「な、なんだ、誰だ!?」
"私、おじさんのこと生き返らせようと思って……でも、失敗しちゃったの"
「生き返らせる……だと? 死んだって、失敗って…………だが、俺は生きているじゃないか!」
"おちついて。変だと思わない?"
「ッ!」
 頭の中の声に言われて、初めて男は気付いた。
 先程から叫ぶ自分の台詞の数々が、どれも甲高い。声変わりする前でもこれほど高くはなかったはずだ。
 それに、視線が妙に低く、体もやたら軽い感じがする。
 腕を持ち上げてみると、現れたのは鍛え上げた男の右腕ではなく、白くてか細い少女の腕だった。
「お、俺の腕が……身体が……」
"おじさんの魂は、私のカラダに入っちゃったの……ごめんなさい"
 申し訳なさそうな声が頭の中に響く。
 部屋の奥にあった鏡を覗き込むと、白いワンピースを着た小さな少女の姿が映った。
「そんな……」
 男がぺたぺたと顔を撫で回すと、鏡の中の少女も同じ動きをする。
 間違いなく、この少女は自分であった。
"ごめんなさい"
「……いや、いい」
 頭の中で聞こえる声と全く同じ、可愛らしい声だった。違和感がひどい。
 いっそ悪夢だと思って意識を閉ざしたらどれほど楽だったろう。
 しかし屈強なる聖戦士の精神は、状況の把握を進めるたびに冷静になっていった。
「お前は俺を助けてくれたんだ。文句などない」
"……ありがとう。おじさん"
「おじさんって……俺はそんな歳でもないぞ」
 まして今の男はどこからどう見ても可憐な少女だ。
 むろん、こんな姿では剣など持つこともできないだろう。
 しかし男には、このまま孤児院の少女として新たなる人生を歩むという選択肢は存在しなかった。
「さて、行くか。いや、その前に身支度をしなければな」
"え?"
「どうした、冒険は初めてか?」
"えっと……。おじさん、何を言ってるの?"
「決まっている。俺たちを元に戻す方法を探すんだ」
 いまの彼は、二つの精神が一つの肉体に入っている状態だ。
 これまでそんな前例はないが、世界は広い。
 きっとどこかに、今の状態を解決してくれる賢者がいるはずだ。
「それから、俺のアイスソードも取り返さなくてはな」
 冒険を続けるうちに、あの三人組の情報も入ってくるだろう。
 少女の肉体を危険にさらすことになるが、それでも男はあの美しき魔剣を諦め切れなかった。
 『アイスソードを手に入れたぞ!』と自慢していいのは、自分だけなのだ。
「あと、俺はおじさんじゃない。ヴァーンと呼べ」
"私の名前はフィンだよぉ、おじさん"
「……では、二人合わせてヴァインだ」
"女の子っぽくないねー"
「うるさい」
 ヴァーンとフィンは、それから夜通しこれからのことについて語り合った。

 後の歴史書で、ヴァインと名乗る勇ましき少女についての記述が散見されるが……果たして、この二つの心を持った少女がそうであるのかは、誰も知らない。




つづかない

『復讐~』が終わったので軽い話が書きたかったのです…
あと4
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ガラハドェ…

コメントありがとうございます

>  さん
これが後の世に言う『禿の呪い』です(言わない)
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