亡霊犯+ ~廃校の亡霊3

裏で公開していた「亡霊犯」の外伝です
被害者視点で絶望に至るまでの話を書いています

主人公は何も知りません
また、多少暴力的なシーンがあるので注意です


今回で被害者視点は終わります
リア充絶望しろ
亡霊犯+  ~廃校の亡霊・表 3


 上野と川俣さんが出発してから十分後、俺とかれんの順番になる。
「かれん、これを」
 俺の背後で、七倉がかれんに何かを渡していた。
「……? なに、スプレー?」
「滝沢に襲われそうになったら、それを使って」
「襲わねぇよ!」
「あ、あはは……ありがとう。でも、わたしは滝沢君を信じているから」
 そういって、七倉に防犯スプレーをつき返す。
 あぁ、幸せだ。こんな可愛い子にこんな風に信頼されているなんて。
 だからこそ、かれんともっと親密になりたいと思う。
「……じゃあ、行くか」
「うん」
 校舎の入り口を押すと、木々のしなる甲高い音がいやに大きく響いた。
 扉の内側から漏れる空気が妙に冷たい。
 廃校というから、床に穴があいていたり、梁が腐り落ちていたり、大きなクモの巣が張っていたり──そんな想像をしていたのだけど、意外と通行の妨げにならない程度にはスッキリしていた。
 とはいえ照明は点かないし、外観から見た通り窓は全部塞がれている。街灯もなく、月も隠れてしまった密閉空間は一メートル先すら見えない。
 闇の中を一歩進むたびにギィ、ギィと床が鳴る。その音が余計に不安を掻き立て、懐中電灯が射す一筋の光ごときではこの陰鬱とした空気を振り払えそうになかった。
「……やけに寒いな」
「うん……」
 かれんが言葉少なに頷き、自分の肩を抱く。
 冷蔵庫、とまでは言わないが建物全体にクーラーでもかけているのかというぐらい冷たい風が通っていた。
「は、はやく行こうよぉ」
「そうだな」
 とりあえず最短ルートを目指し、まずは階段を探した。
 虫の声すらしない闇の中を、ギィ、ギィと軋んだ音を響かせながら進む。かれんは俺の持つ懐中電灯から離れまいと、ぴったり横をついてきた。
「……」
「……」
「そ、それにしても、よく上野が旅行に来たよな」
「そ、そうだねっ」
 沈黙に耐え切れず、先に出発した眼鏡男の話題を振ってみる。
 かれんも同じ気持ちだったのか、すぐに飛びついてきた。
「わ、わたし、あまり上野君のこと知らないんだけど……滝沢君は?」
「俺もあんまり……岩屋の幼馴染だってことぐらいしか」
 一緒の教室だから何度か会話をしたこともあるけど、温井に比べるとそれほど親しいわけでもない。そもそも、上野が誰かとつるんでいるのを見た事がなかった。
「やっぱ、岩屋が強引に誘ったんだろうな……」
「利香ちゃん、上野君が好きなのかなぁ」
「それは、どうだろうな……?」
 まぁでも、あの二人がくっついたら面白いとは思う。
 特に上野は、どんな風に恋に落ちるのか全く想像がつかなかった。

 そんな話をしているうちに校舎の不気味な雰囲気も少しだけ気にならなくなり、俺たちは難なく階段を見つけた。
「月山。足元、気をつけろよ」
「うん……」
 床をしっかりと照らしながら、一段ずつ確かめるように上る。
「た、滝沢君……あれっ!」
「え?」
 踊り場が見えてきたところで、いきなりかれんが声を張り上げた。
 彼女の指差す方にライトを当てると、白い光を反射するガラス製の小物が床に落ちていた。
「眼鏡……?」
 拾い上げてみると、レンズの片隅に赤黒い汚れがついている。
「そ、それ、上野君の眼鏡っぽくない?」
 言われてみれば、上野がかけていたものに良く似ている気がした。でも、だとしたらなんでコレがこんなところに落ちている?
 それに、この汚れは……血か?
「き、気のせいだろ。眼鏡なんて、どれも似たようなものだし」
 わざと明るい声を出して、別物だと言い張ってみる。
 これが先に出発した上野のモノだとしたら、あいつは今どうしているのか……イヤな想像が広がるばかりだった。
「そう……かな」
「ああ。きっと今頃は集合ポイントでぶつぶつ文句言いながら待ってるって」
「……うん、そうだよね。真衣ちゃんもいるんだし、何かあったら携帯にかけてくるよねっ」
「そうそう。ほら、俺たちも早く行こうぜ。もたもたしてたら追いつかれる」
 別に競争じゃないんだし、急ぐ必要はない。けど、俺たちはまるで何かに急かされるように足を進めた。
「大丈夫だ。何があっても、お前だけは守るから」
「あはは、長見ちゃんと同じこと言ってる」
「ぐっ……茶化すなよ」
 センスが七倉と同じレベルだと言われているようで軽いショックを受ける。
(ま、笑ってくれたならいいか)
 かれんは笑顔の方がやっぱり魅力的だ。

 それから俺たちは一気に最上階まで上りきり、真っ直ぐ突き当たりの教室を目指した。
「あれ……開かない」
 引き戸に手をかけるが、ピクリとも動かなかった。
 だめもとで前後上下左右と全部試してみるが、扉は堅く閉ざされたままだ。
「一番奥の教室って、ここだよな?」
「うん……」
 だが扉は開かず、上野たちもいない。
 別の部屋か? そう思って振り返ると、どこからか女の叫び声が響いてきた。
「!?」
 慌ててお互いの顔を見合わせる。
 俺の気のせい……ではなく、かれんも聞こえたのか、自分の身体を抱きしめて震えていた。
「ね、ねぇ、今のなに? 今のなに!?」
「わ、わかんねぇ……」
 風の音にしては、あまりにもハッキリとした人の声だった。
 川俣さんか、後から来た七倉か、岩屋か。それとも、全く別の誰かか。
「も、もう、やめようよぉ。絶対変だよ」
「ああ、俺もそう思う」
 温井あたりにビビリの烙印を押されそうだが、そんなことは構わない。
 俺はまず岩屋に連絡し、すぐに引き返すべきだと伝えようとした。
「…………なんで、通じないんだよ」
「わたしも……長見ちゃんに繋がらない……」
 それから俺たちは、知っている番号へ次々電話をかけてみる。だが、どこにかけても結果は同じだった。
 無音が俺たちの間に重くのしかかり、ほんの少し浮上していた明るい雰囲気があっという間に散っていく。
「と、とにかく戻ろう。みんなと合流して、それから上野たちを探した方がいい」
「う、うん……っ」
 かれんは目じりに涙を溜めて、何度もコクコクと首を振った。

「かれんッ!」
 二階まで降りると、小さな影が廊下の向こうから駆け寄ってくる。
「な、長見ちゃん……!」
「よかった……無事だった……」
 普段の抑揚のないぼそぼそした喋り方とは違って、心配していたのがハッキリと伝わってくる感情的な声だった。
「無事って、何かあったのか?」
「……川俣がおかしくなった」
「真衣ちゃんが!?」
「おかしくなったって……何があったんだよ!」
「それは……」
 二人で詰め寄ると、なぜか七倉は赤い顔をして目線を逸らす。
「ここは危険。早く逃げるべき」
「待てって。岩屋は? 温井は一緒じゃないのか? 川俣がいったいどうしたんだ!?」
「説明している時間が惜しい。ヤツラに見つかる前に、早く!」
 七倉がかれんの腕を引き、脱出を促す。
 ヤツラ? ヤツラって誰だ。
「い、いつもの冗談だよね? ね?」
「かれん、信じて……この校舎は悪霊の住処。川俣はおそらく憑依されて……きっと、上野ももう……」
「冗談にしちゃタチが悪すぎるぞ!」
 悪霊? 憑依? オカルト好きならではの発想か。
 そんな話を持ち出すまでもなく、これ以上ここにいたらマズい気がするのは俺も同じだ。
「行こう!」
「う、うん」
 俺はかれんと七倉の後に続き、一気に階段を駆け下りていく。

「うそ……どうして!?」
 入り口には、大きな南京錠がかけられていた。
「嘘だろ? 俺たち、ここから入ってきたんだぞ!?」
「ワタシもそう。……きっと、ヤツラに閉じ込められたんだ」
「滝沢君……!」
 かれんが今にも泣き出しそうな顔をして、俺にしがみついてくる。
 カタカタと震える小さな手が憐れで、そっと包み込んでやった。
「……大丈夫だ。お前たちは近くの教室に隠れていろ。俺はこのドアを壊せそうな道具を探してくる。……七倉」
「なに?」
 細長いツインテールを揺らして、眉尻を下げた七倉がジト目で俺を見上げてくる。
「さっきの防犯グッズは持っているな? 怪しいヤツが来たら、それを使ってすぐ逃げろ」
「ん」
 懐から例のスプレーを取り出し、得意げに見せ付けてくる。
 俺はその様子に安心し、かれんを七倉に預けると真っ暗な廊下を走り出した。

「バールか何かあればいいんだけど……」
 用務員室あたりに行けば使えそうなものが見つかりそうだが、それがどの部屋なのかさっぱりわからない。
 見つけた教室の中に手当たり次第入ってみるが、古びた机と椅子があるだけで役に立ちそうなものはなかった。
「畜生……温井ー! 岩屋ー! 上野ー! 川俣さーん!」
 いなくなった四人の名前を叫び、次の教室に入る。ここも普通の教室だ。
「ん……?」
 ちょうど教室の真ん中辺りに、ライトの光に反射するものがあった。
 念のため室内をサッと照らし誰もいないことを確認してから、そのナニカに近づく。
 床に落ちていたのは、金属の棒だ。長くて硬い重量感のある鉄の塊は、入り口の鍵を壊すのに十分役立ちそうだった。
「よし」
 俺はそれを拾い、きびすを返す。
 早くかれんたちのところに戻ろう。息巻きながら一歩踏み出すと、足元でカサリと音がした。
「……新聞?」
 それは、妙に状態の良い新聞だった。廃屋に紙くずが散らばっているのは珍しくないが、その新聞はまるで今朝発行されたかのようにキレイだ。
 【行方不明の刑事、顔写真を公開】という見出しと、小さな顔写真が付いている。
 俺は引き寄せられるようにそれを拾い上げ、記事に目を通した。

【捜査当局は行方不明となっている女性刑事"草木シヅル"さんの顔写真を一般公開し、民間への協力を呼びかけた】
【"草木シヅル"さんは昨年起こった少女連続誘拐事件以降、行方がわからなくなっており──】【また、犯人逮捕の際に殉職したと思われる男性刑事についても何か関係があるものとして捜査を進めている】

「草木……シヅル?」
 思い出した。
 一年ぐらい前にウチの学校の女生徒が次々と誘拐されて……そのとき刑事が一人死に、一人が行方不明になった。
 一時期は不謹慎ながらその話題で持ちきりで、『犯人は別にいる』とか『行方不明になった刑事が黒幕だ』という噂まで流れていたほどだ。
 しかし半年もすれば下火になり、俺もニュースで"草木シヅル"の名前が公開されるまでそんな話はすっかり忘れていた。
「……」
 草木シヅルの記事が載った真新しい新聞。廃校のことを温井に教えた同姓同名の女性。
 血のついた眼鏡。女の叫び声。繋がらない携帯。
 行方不明の刑事が黒幕、という風説。
 不安が、これ以上ないほどに膨れていく。
「助けてぇっ、滝沢君ーーーーッ!」
「かれん!?」
 絹を裂くような悲鳴が聞こえ、新聞から顔を上げる。
 まさか、草木が? そう思った瞬間、俺は鉄の棒を握り締め教室を飛び出した。


「かれんーーーーッ!」
 乱暴に床を鳴らして、廊下にいたかれんの名前を大声で叫ぶ。
 彼女の傍には、見知らぬ女が対峙していた。振り向いた女の顔は、新聞に載っていたものと同じだ。
「草木ぃ! かれんから離れろ!」
「きゃあ!?」
 鉄の棒を大きく振りかぶり、床に叩きつける。避けられたのか、俺自身に命中させるつもりがなかったのかはわからない。
「大丈夫か、かれん!」
「滝沢君!」
 彼女の前に立ち、鉄の棒を構えて草木を睨みつける。
 俺はもう、草木が事件の黒幕だったという話をすっかり信じきっていた。
「てめぇ……かれんに何するつもりだった! 七倉はどうした!?」
「だ、ダメッ、そいつから離れて!」
 草木は武器を構える俺に怯みながら、声を荒げた。
「そいつは、あなたの知っている子じゃない! 今すぐ離れて!」
「何を言ってるんだ、お前は! 誘拐犯の言う事を聞くと思うか!?」
「違う、私じゃない……あれは、私じゃないの! お願い、信じて!」
 とても演技とは思えない悲痛な顔をして、涙を流して訴えてくる。
「騙されちゃダメ、滝沢君!」
 しかし背中越しに聞こえるかれんの声が、揺らぎそうな俺の心を引き締めてくれた。
「みんなそうやって、この女に騙されたの。刑事だって言って油断させて……そうやってアイツは、たくさん女の子をさらったの」
「私じゃない! 全部、あなたが……! 私のカラダを勝手に使って……! 先輩だって……!」
 錯乱しているのか、草木はわけのわからない事を言ってかれんを怒鳴る。
 どちらを信用するかなんて、天秤にかけるまでもなかった。
「草木、答えろ。みんなはどこにいる!」
「ダメ!」
 答えになってなかった。
「言え! みんなをどうしたんだ!」
「知りたい? みんな犯されたわ……長見も利香も真衣も。心が壊れるまで滅茶苦茶にね」
「……え?」
 ふいに背後から、氷のように冷たい声が届いた。
 いまのは、かれん? 振り向くと、小さなスプレーの噴射口が俺に向けられていた。
「そして……かれんも」
 シュッと、霧状の何かが噴き掛けられ、目に激痛が走る。
 なんだ。何が起こった。いったい誰が? 俺の後ろには、かれんしかいなかった!
「やだ……やめて……もうやめて……!」
 草木がむせび泣き、許しを乞う。
 誰に? ここには、お前と俺とかれんしかいないはずだろ。
「残念だったな、ヒーロー君」
 かれんの声が聞こえ、同時に重い一撃が頭に叩きつけられる。
「ガッ!?」
 激痛は鼻を折り、たまらず床に倒れた。
 それでも、痛みは治まらない。
 かすれた視界が最後に捉えたのは、
 鉄の棒を振りかぶり、
 返り血を浴びて笑う、
 かれんの笑顔だった。

 ────────。

「ボス、警察に通報は?」
 闇の中で、男の声がした。
 意識が混濁としていて、誰の声かわからない。
「済ませた。俺はしばらく潜伏する」
 これは、かれんの声だ。
 だがとても彼女の台詞とは思えない、男のような喋り方をしている。
「じゃあ、後はシヅルに箔を付けるだけですね」
 今度は、別の女の声。
 ようやくわずかながら持ち直してきた意識を起こし、目を開く。
「そうだな。現行犯の方が言い逃れもできまい」
 かれんが薄ら笑いを浮かべて、何かを言っていた。
 何だ、何を言っている……どうしたんだよ、お前……。
 横を見ると、眼鏡をかけていない上野が寝ていた。
 頭から血を流し、気を失っているようだ。その更に隣には温井の姿も見える。
「じゃあ、そろそろ始めるか」
 ハイヒールの足音が目の前に聞こえる。
 顔を上げると、鉄の棒を肩に担いだ草木シヅルがいた。
「くく、サツが来るまで生きていられるかな?」
 草木が金属棒を振りかぶる。鉄の塊で、何度も何度も俺の身体を打ちつける。
 足が折れ、腕が折れ、肋骨が折れ、頭が潰される。
 なのに、痛みは感じない。
 あぁ、なんだ。
 つまり、これは夢だ。
 早く、目を、覚まして……みんなで、旅行の続き……を……。
 ……………………。




ゲームオーバー

事件の真相は裏で公開していく予定です
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

やっぱり表でエロ要素はないんね
もしそうでなければ、きっともっと絶望を味わうだろう・・・

亡霊Sideも期待しています!

返礼

わかっていただろうにのぅ

No title

裏が始まったので、こちらをまとめて読みにきました。
守りたい大切な女の子に殺されるのは、やはり興奮しますね!
川俣さんがとり憑かれたであろう場面も読むのが楽しみです。

コメントありがとうございます

>nekome さん
憑依霊になれるのなら是非ともSATUGAIして欲しいです!
裏では悲惨でエロイ真相を明かしていくつもりですので、良ければそちらもお付き合いいただけると嬉しいです
プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
管理者の詳細

最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
FC2投票
無料アクセス解析
応援バナー
ちぇ~んじ!~あの娘になってクンクンペロペロ~
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR