気がつくと五年目だった件 &夏の短編

ブログ開始から五年目です
裏方サイトの勢いが強くてとどまる事を知りませんがどうしてくれましょう
それはともかく閲覧していただける皆様方に感謝を


フウウウウウウ~
ところで…夏の某ビッグなイベントって、ありますよね…
あの前回公開した短のエンのサンプル…あれ……製本したのですが…
なんていうか…その…雑な作業だったわけで…フフ…
「こ れ は ひ ど い」……って、思っちゃいましてね……

というわけで、もう全部ここに載せてしまいます
せっかくだから四つの記事ににわけていきましょう
……印刷屋の人はすげーなー

件のコピー本は会場で賑やかしになってもらいます
あれです、刺身のタンポポ的な



というわけで以下
前回の続きです


<フタリの証し>


 今の時季は西からの風がとても強く、道のりは思った以上に厳しいものになった。
 乾いた砂地が足を滑らせ、舞い上がる砂塵が熱風と共に叩きつけられ、砂漠を越えるための体力がじりじりと削り取られる。
 果たして万能薬なんてものは本当に存在するのか。しないのか。
 どんな結果が待ち構えていようとも、俺は彼女を護衛し、彼の地まで送り届ける義務があった。
「あ、アバン……さん……あの……」
「どうした」
 砂地を踏みしめながら、俺の後ろを歩くフィンが話しかけてくる。
「その……ダクト山脈は、まだ、遠いんですか?」
「そうだな」
 フィンとの旅を始めてから今日で三日目だが、まだ山陰すら見えてこない。
 彼女の歩調に合わせて進んでいるため、移動速度はかなり遅かった。
(……仕方ない)
 真っ直ぐ西へ向かっていた足をわずかに北向きに変え、麓までの最短ルートから逸れる。方角が変わっていることにフィンは気付いているのかいないのか、何も言わずに俺の後をよろよろとついて来た。
「もうしばらくすれば、泉がある。今日中にはたどり着くだろう」
「泉、ですか? ……はい、頑張ります」
 疲労の色を浮かべながらも、両手で握り拳を作ったフィンは笑顔を見せた。
「俺を風除けにしろ。少しはマシになる」
 彼女を風下に立たせ、景色に変化のない道なき道を進む。
「……優しいんですね、アバンさんは」
「仕事だからな」
 それきり、俺と彼女は無言のままひたすら歩き続けた。


 泉は熱砂の中にあってなお広く水を湛え、辺り一面は大小さまざまな緑に囲まれていた。
「うわぁ~、珍しい薬草がいっぱいです」
 現金なもので、フィンは体力の回復もそこそこに草地へと飛び込んでいく。蝶のような女だ。
「おい、荷物を増やすな」
「ちょっとだけですから。それに、すり潰しちゃえばかさばりませんし」
 言いながら、どんどん収穫していく。俺の目にはどれも等しく雑草にしか映らないが、薬師が欲しがっているぐらいだからそれらは全て薬草なのだろう。
「……大した目利きだな」
「そんなことないです。アバンさんだってすぐに覚えられますよ。この草が解熱剤。こっちは痛み止め。それからこっちは……」
「ほう、そうか、なるほどな」
 適当な相槌を打ちながら、その場に座り込む。太陽はとうに西の地平線に消え、凍りついたような蒼い空には星の輝きがちりばめられていた。
 昼とは逆に、寒さが体力を奪う。今日はここで夜を明かした方がいいだろう。
「明日には山脈につく。しっかり休んでおけ」
「はい。わかりました」
 返事ばかり軽妙で、フィンの手は休むことなく薬草摘みに励んでいた。
 彼女が腰を落ち着けたのは、夜もすっかり更けた頃だった。だが、それでもまだ眠る気はないらしい。
「さっそく作っちゃいますねぇ」
 火を焚く俺の傍に座り、ほくほくとした顔で自分の荷物から乳鉢を取り出すと摘んだばかりの薬草を次々とその中に入れすり潰していく。
 草の潰れる音と陶器と陶器がぶつかる控え目ながらも甲高い音が、砂漠の静寂をほんの少し賑やかなものにする。特にすることもない俺は、そんなフィンの姿をぼんやりと眺めていた。
「……こうしていると、いろんなこと考えちゃうんですよね」
 当たり棒で草を潰しながら、口元の笑みは絶やさず独白する。
「私は薬師として、これまでいろんな人を診てきました。……助けられた人もいれば、私の力が及ばなかった人もたくさんいます」
「まぁ、そうだろうな」
 薬師といえど万能ではない。おそらく救えない人間の方が多かっただろう。
 フィンのどこか物悲しそうな声と、草をすり潰す聞き慣れない音が、静かな夜の砂漠にこだまする。
「患者さんの命が消えていくたびに、思うんです。私にもっと力があれば……って」
「それで、万能薬か」
「はい。たとえ噂でしかなかったとしても、探すだけ探してみたいんです。……そうでなければ、患者さんが亡くなったとき、『私は全力を尽くしました』なんて言えませんから」
 過去に実際、救えなかった患者の遺族から責められたこともあったのだろう。
 人間には可能なことと不可能な事がある。なのに、フィンは万能薬などという夢物語を信じ身の丈以上の力を求めていた。
「……立派なものだな。さすがは薬師だ」
 皮肉などではなく、心からそう思う。俺のような人間には到底真似のできない生き方だ。
「立派なんかじゃありません。……薬師をしているのも、多くの人を助けたいのも、結局は自分のためですから」
「どういうことだ?」
 それまで断続的に響いていた薬作りの音色がふいに静まり、フィンが星空を見上げる。
「私は、私の事を忘れて欲しくないだけなんです」
 流れ星に願うような、切実でどこか物悲しい台詞だった。
「生きた証……なんていうと、ちょっと気取った感じですけどね」
 自分の関わった『誰か』が、フィンという女がいた事を、たまにでいいから思い出してくれればいい。
 彼女はそんな、平凡で、誰も与えられるものだと信じて止まない、大それた望みを抱いていた。
「アバンさん」
 空から視線を外した彼女の瞳が、俺を慈しむように射抜く。
「この旅が終わった後も……あなたは、私のこと覚えていてくれますか?」
 月明かりを浴びて微笑むフィンの姿はとても美しく。
 いつまでも、俺の心に焼き付いていた。



 ダクト山脈は切り立った岩山で形成され、硬く無骨な山肌はまるで緑を拒むかのように荒涼としていた。
 鋭く尖った峰は天を突き刺さんばかりに高くそびえ、灼熱の地には不釣合いな積雪が山頂を白く覆っている。
 とても薬草が自生するとは思えない、厳しい自然環境だった。
 それでも俺たちの歩みは止まらず、足場を砂地から岩に変えて山脈をくまなく探し回った。
 一日目は岩山の中腹に草原と山小屋を見つけたが、万能薬はなかった。
 二日目に一つ目の山を越えたが、見つかるのは不毛の岩盤ばかりだった。
 山頂を見てもしやと思ったが、三日目にはやはり雪が降った。生まれて初めて見る雪にたいそう感動していたフィンだが、数刻もしないうちに寒さに喘いでいた。
 運良く見つかった洞窟に逃げ込み、凍てつく夜を二人で寄り添いながらしのいだ。
 四日目に、フィンがついに長旅の限界を迎えた。発熱し、極寒の洞窟の中にありながら物凄い量の汗を流していた。
 汗を拭き、見様見真似とうろ覚えの知識を総動員して薬草を与えた。
 ──五日目の朝は、彼女の微笑みと共にあった。その晩、俺と彼女は結ばれた。

 翌朝は、朝焼けの輝きを浴びて蕾を開く、一輪の美しい花を見つけた。
 それを摘み、俺たちは帰路についた。
「アバンさんッ。ほら、早く早く!」
「おい、そう急くな。まだ雪が残っているんだぞ」
「だって……だって、ついに見つけたんですよ! じっとなんかしていられません!」
「だからっ、先に行くなと……!」
「……え?」
 フィンの体が急に雪の中に沈む。積雪によって隠れていた岩の裂け目に乗り上げたのだ。
 それは一瞬の出来事だったはずなのに、やけにゆっくりと時間が流れていたように感じる。
 彼女の名を叫び、岩壁の狭間に落ちていく華奢な身体を抱きしめた。
 凍りついた岩肌が身体を削り、まるで永遠に落ちていくのではというほどの長い時間をかけて奈落の底にたどり着く。
「あ……バン……さん?」
「無事、だった、か」
 頬にかすり傷を負ったフィンの姿をぼやけた視界で捉え、安堵の息を漏らす。途端、体中が悲鳴を上げた。
「私……私……ッ! ご、ごめんなさい! ごめんなさいッ!」
「気に、するな。依頼人を、守るのは、護衛の勤めだから、な」
 口の中に鉄の味が広がり、呼吸もままならなくなる。打ち所が相当に悪かったのか、もう長くはないと悟った。
「……そうだ、万能薬……ッ!」
 何かに気が付き声を上げる彼女の台詞も理解がままならず、意識が闇に落ちていく。
 こうして六日目に、俺は死んだ。
 死ぬはず、だった。
「アバンさん。お願いです……生きて、ください」
 頬に、彼女の手のひらが添えられる。唇が、触れ合う。
 血の味しかしかなった口内に、何かが流し込まれた。
 陽だまりのような暖かみで満ちたソレは口の中ですぐに拡散し、全身に広がっていく。
 まるで俺自身が光の塊になったような、凄まじい熱と眩きだった。


 『万能薬』──あらゆる傷を一瞬で癒す、奇跡の薬草。だが、この世の理を曲げるような奇跡には、なんらかの代償があってしかるべきだった。
 輝きが収まり、それと同時に肉体の苦痛が頬の擦り傷程度の痛みまで引き下げられる。傷が癒えたのではなく、消失したといった方が近い。
「…………これ、は」
 血だまりの地面に投げ捨てられた抜き身の刀身が、俺の姿を映していた。
 見慣れた『アバン』の顔ではなく。眼差しに戸惑いを浮かべた、『フィン』の顔を。
「……俺?」
 目の前には、死に瀕したままの『俺』がいた。
 息を絶え絶えにして、震える唇で何かを言おうとしている。
「……フィン?」
 『俺』を見つめ、なぜともなしにそれを直感する。
「よか……った」
 アバンの顔で、フィンがいつも見せていた微笑みをこぼす。
 そのまま、『彼女』は目を開ける事がなかった。
「嘘……だろ? フィン。おい!」
 乱暴なフィンの声が、岩の裂け目の中で反響し合う。
 しかしどれだけ叫んでも目の前の男が、彼女が、息を吹き返すことはなかった。
「フィン……フィーーーーーーーーンッッ!!」

 俺とフィンの旅は、こうして幕を閉じた。
 そして俺の、新たな旅の始まりでもあった。




残り半分はそのうち
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Author:巫

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