ぞっこん2-4

長編のTS小説 第二部第四章

入れ替わった少年と少女の話です。だらだら長く続けています。
            ぞっこん2-1と第一部のあらすじはこちらから

ぞっこんショット!2-4

 話題は、たったいまデザインが決まった服の製作準備へと移った。
 服を作るには、着る人間のサイズを知っておく必要がある。そして、測る人間は同性の方が望ましいことは言うまでもない。
 ところが、いま現在の俺と藤は夕香先輩の同性であり同性でないというミステリーな状況だ。そういった事情を知らない先輩が、まさか俺の姿をした藤に採寸を任せるはずもなく……
(は、はちじゅういち……)
 吹っ飛びそうになる理性をなんとか押しとどめながら、俺はつい先ほど目の当たりにした数値を反芻することになった。
 いや、正確に言うとあえて意識をそちらに向けている。そうしていないと、ふとした瞬間にこの身体のサイズを思い出してしまいそうになるからだ。
 藤はきっと、脳みそに回す栄養を全部プロポーションのステータスに割り振っているんだろう。
「胸は豊満。胴回りは痩躯。同じ女として、少しばかり嫉妬するよ」
 暗室で二人きりの身体測定が終わると、夕香先輩は拗ねた口調を漏らしながらメジャーを引っ込めた。
 平均サイズなんて俺が知るわけもないが、どうやら先輩は年齢のわりにほんの少しだけ発育が悪いらしく、そのことを気にしているようだ。
「まったく、まだ育っているとはね。いったいどれだけ成長すれば気が済むんだい、キミは」
「そんなこと言われても、お……アタシは、好きで大きくなったわけじゃ」
「世論によれば、大きい胸の持ち主は頭が悪いとかいうね。いや、これは単に独り言だがね」
 一概にはそう言えないだろうが、藤に関してだけ言えばそれはきっと当たっていると思う。俺も似たようなこと考えたし。
 そんな風にどうということもないやり取りをしながらドアを開けると、部室には藤の他にもう一人、ここの学園の制服を着た男子生徒が座っていた。
 小柄な身体に大きめの学ランに、背中まで届く長くて白いハチマキをしている。
 どこかで見た覚えのある顔を向け、二重まぶたの大きな瞳が暗室から出てきた俺と夕香先輩を捉えると、男は椅子から跳ねるようにして立ち上がった。
「部長殿でありますか!」
 中性的なくせに力強さを感じさせる逞しい声が響く。その声が、昨日同じ時間に部室の前で見かけた男子生徒のものだと思い出すのに、時間は必要なかった。
「自分は、雨樋学園一年A組、出席番号十八番。佐藤和弥であります! どうぞ、和弥と呼び捨てて下さい!」
 男の制服を身にまとっているにもかかわらず、実は女ではないかと疑わせるほどの顔立ちとは裏腹に、男はまるで訓練中の海兵隊のような喋り方でそう名乗った。
「和弥は応援部だったみたいですよ。元、ですけど」
 俺と先輩が暗室にいる間にいろいろ話していたのだろう。藤が和弥の自己紹介を補足してくれる。
 そういえば、俺が野球部にいた頃にやけに長い帯のハチマキをした応援団を見かけた記憶がある。身体の芯から震えさせられた大きな声援は確かに、和弥が張り上げる声と酷似していた。
 だが応援部の人間が写真部になんの用なのか。俺と同じ疑問を抱いているらしく、夕香先輩も表情に訝しげなものを浮かべていた。
「それで、どうしてここに? 元ということは、応援部から心機一転し写真部に入部するつもりかな?」
「いや、こんな時期にそれはないでしょう」
 いまはどこもかしこも、学園全体が六月に控えた祭りの準備で目を回している。
 まだ五月とはいえ、このタイミングで新入部員が入ってくるなんて可能性はほぼゼロだ。
「おいおい、なに言ってんだよ」
 呆れた口調で、むしろ俺を小バカにするように、今度は藤が口を開いた。
「応援部を辞めた人間が、それ以外の理由で写真部に来ると思うか?」
「は? いや、でも普通……」
「ほぉ、普通ねぇ」
 完全に人を見下した顔をされる。それが自分の顔だというのが、余計にイラッとさせた。
 カメラで入れ替わるなんてことに比べれば、奨励祭直前の入部希望なんて大して変に思うことじゃない。おそらく藤は、そう言いたいのだろう。
 果たして答えは、どうやら間違いではなかったようで、和弥は相変わらずの軍隊口調に敬礼まで付けて胸を張った。
「ご明察です。自分はいまから、身も心も、この写真部へ捧げてゆく考えであります!」
 一向にボリュームの下がる気配のない大声も、次第に耳に心地良い大きさに聞こえてきた。映画館の音量が腹立たしいほどうるさいとは思わないのと同じ感じだ。藤のようにキャンキャン騒がしいだけでは、こうはいかない。
 和弥は偽りのない熱心な瞳を、真っ直ぐに夕香先輩へ向けた。
「部長殿。入部の許可を頂けますか!」
「もちろんだとも」
 部員が幽霊を合わせても四人しかいない写真部に入部希望者を選ぶ余裕などない。女顔の新入生は当然のように歓迎された。
「だが、後日改めて入部届けを持ってきてくれ。でないと、正式な写真部員として認められないからね」
「はい、宜しくお願い致します!」
「ああ、それともう一つ。女装に興味があるかい?」
「は?」
「いや冗談だ……キミは、手先は器用かな?」


「藤先輩、その生地よりもこっちのがお勧めです」
「あ、ああ。じゃあ、それにしようか」
 色とりどりの布に囲まれた店の中で、棚に貼り付けられた説明書きを睨みつけていると、横から和弥のアドバイスが入った。
 お勧めといわれても、どこがどう良いのだか俺には判別がつかないが、とりあえず逆らう理由もないので言う通りに従う。
 どうして俺達がこんな大型生地店にいるのかというと、事の起こりは和弥が入部した直後に夕香先輩が聞いた質問から始まる。
 手先は器用かという質問に対し、和弥は自信満々に家事全般が得意だと、男らしさを意識したあの口調で答えたのだった。
 デザインが決まりサイズも測ったいま、残る下準備は作業に必要な物を揃えるだけになっている。部室の片づけを〝俺〟に任せ、先輩は家政科部からミシンを借り、その一方で裁縫に詳しい藤(つまり、いまの俺)と和弥が生地を買いに出ているわけだ。
 とはいえ裁縫なんて五年ぐらい前に授業でエプロンぐらいしか縫ったことしかない俺に、例の服を作るに当たって一番適している布地は何か、なんてわかるはずもない。
「助かったよ。ありがと、和弥……くん」
 両手に買い物袋を提げ、和弥に改めてお礼を言う。この頼れる後輩のおかげで、見当違いの生地を選ばずに済めた。
 感謝の言葉に和弥は照れくさそうに頬をかき、目線をせわしなく空へと向ける。
「お役に立てて光栄であります。正直、自分が一緒にいても邪魔かと思っていました」
「そんなことないって」
 とんでもないとばかりに首を振り否定する。
 なんだか自分の仕草が藤っぽくなっているような気も一瞬だけしたが、その懸念は、あとに続いた和弥の台詞であっという間に打ち消された。
「やっぱ、入ってよかったですよ。尊敬する鷹広先輩や藤先輩のお傍にいられて、こうして助けになれるのですから」
「尊敬?」
 ただの社交辞令と受け止めることも可能だが、それにしては言葉の端に冗談めかしたものはなく、表情も穏やかなりに誠実そのものだった。
 俺は尊敬なんてされるようなことをした覚えなどないし、だいたい和弥と会ったのは昨日が初めてだ。そして何より、あの藤を尊敬できるというその思考回路が信じられなかった。
「なんで?」
 和弥は俺の当然すぎる疑問に答えを返さず、空を見上げたままポツリと呟いた。
「……雨が降りそうですね」
 つられるようにして俺も空を見ると、さっきまでは夕焼け色をしていた雲が、いつのまにかくすんだ灰色をしている。
 いつ泣き出してもおかしくない。そんな空模様だった。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
管理者の詳細

最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
FC2投票
無料アクセス解析
応援バナー
ちぇ~んじ!~あの娘になってクンクンペロペロ~
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR