TS昔話4 雪女

とある逝去ニュースを聞いて書いた
悪気はなかった


昔話にTS要素を足したショートショートです
妖怪がらみで題材は雪女



TS昔話4 「雪女」


 昔、ミノルという若者が父親と共に狩りに出かけた。
 その年は思うように蓄えを得る事が出来ず、獲物を求めて冬山にまで登らなければいけなくなったのだ。
 ところが狩りは一向にはかどらず、親子は日が暮れるまで雪山をさ迷い歩くことになった。
 そうこうしていううちに天候は悪化し、これはいけないと親子が気が付いたときには既に時遅く、あたり一面が吹雪によって遮られていた。
「お、オヤジぃ、もうだめだぁ……俺たちはここで死ぬんだ……」
「しっかりしろ! おぉ、あそこに山小屋があるぞ!」
 若者とその父親は、最後の力を振り絞って吹雪の中を歩いた。
 ようやくの思いで辿り着いたそこは、掘っ立て小屋のような簡素な作りで、風が吹くたびにギシギシと音がしている。
 屋根が吹き飛んでしまわないかと心配になるようなボロ小屋は、それでも薪が常備されていて、外に比べれば極楽だった。
「うぅ……死ぬかと思った」
「天の助けだ……お前、先に寝ておけ。俺は火の番をする」
 父親はそういい、囲炉裏の傍に腰を下ろす。
「しばらくしたら交代しよう。ゆっくり休め」
「あぁ、悪いなオヤジ」
 本当なら老いた父を先に寝かせてやりたかった。しかしミノル自身くたびれていたし、何より一度言い出したら絶対に曲げない父の性格を知っていたので、素直に従うことにした。
「じゃあ、お休み」
「ああ」
 そういい、ミノルは目を閉じた。
 …………どれほど時間が経ったのか。
 寒気を感じ、彼はうっすらと目を明けた。
 幼い頃に死に別れた母の夢を見たせいか、どうにも胸の中に隙間風が吹いているような、うら寂しい気持ちが残っている。
(あれ……?)
 だが、そんな哀愁は一瞬で吹き飛んだ。
 小屋が薄暗い。囲炉裏の火が消えている!
 慌てて飛び起きようとしても、まるで金縛りに掛かったように身体が動かなかった。
(お、オヤジ……)
 父親が座った場所を横目で見ると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。
「フフフ……」
 いつからそこにいたのか、白い着物を羽織った白髪の女が、父の前で妖艶に微笑んでいた。
 父は銃を女に向けた格好のまま動かない。動くはずが無い。その全身は、氷付けにされていたのだから。
「愚かな男……私に銃を向けるなんて……フフフ……」
 氷付けになった父の前で、女が笑う。
 扉は開かれ、粉雪がちらちらと女の周りを舞い踊っていた。
 雪山ではありえないほどの薄着でありながら、寒さに震える様子は一切無い。
 美しい容姿が、その尋常で無い雰囲気をより際立たせた。
(も、もののけだ……!)
 もし身体が動くのなら、いますぐ父の敵と叫んで発砲しただろう。
 だが、ミノルの身体は相変わらず金縛りにあったままで、自由になるのは目玉だけだった。
「さて、もう一匹……」
 女が振り向き、ミノルと目が合う。
「……って、女か。女に用は無い。失せろ」
(は?)
 急に砕けた喋り方をして、性別を見誤った発言をされる。
 ミノルは確かに母親似で、成人してもいまだに着物を纏えば女性と見間違われるぐらい美しい顔立ちをしていた。それこそ、目の前の女と比べても引けを取らないほどだった。
 しかし、まさかこんなときに、まして父の敵である物の怪に女と勘違いされるなどと、屈辱以外の何ものでもない。
「いいかい。お前のことは見逃してやるが……私のこと、誰にも話すんじゃないよ? 約束だからね」
 女が一方的に言い捨てると、一際と大きな風が吹き、吹雪が小屋の中で渦を巻いた。
 身の縮むような寒さに、一瞬だけ目を閉じる。再び目を開けると、女も、氷付けの父親も消えていた。
 ……こうしてミノルは、天涯孤独の身になったのだった。

 それから三ヶ月の時が流れた。
 ミノルは言われたとおり、誰にもあの女のことは話さなかった。話しても、どうせ信じてもらえないだろう。
 近所の者に父のことは山から滑落し行方知れずになった、とだけ説明した。
 とはいえ、このまま泣き寝入りをするつもりもなく、父の敵を討つべく彼はあれから何度も雪山へと足を運んでいる。


 冬も終わりに差し掛かり、山にも雪解けが訪れた頃だった。
 いつものように例の物の怪を探しに山へ入ると、少女が行き倒れているのを見つける。
 よもや見捨てるわけにも行かず、彼は少女と共に山を下り家で介抱してやった。
「あ、ありがとう、ございます」
 少女はユキと名乗ったが、それ以上のことはわからなかった。
 本人にも記憶がなく、なぜあのような場所にいたのかさえ覚えていないという。
「もし迷惑でなければ、ここに置いてはくれませんか」
 父を失い、一人さびしい日々に打ちひしがれていたミノルにとって、そう申し出たユキの言葉は大変にありがたかった。

 ユキを受け入れてから、ミノルは頻繁に山に行くこともなくなった。
 最初は大人しかったユキも、次第に本来の性格が出てきたのかみるみる明るくなっていった。
 活発で、下手な男よりも勝気で、しかしとても温かな心を持つ優しい女性である事がわかり、ミノルはそんな彼女に惹かれていった。
「なぁ、結婚しないか」
「…………うんっ」
 夏のある日、二人は契りを交わし、めでたく夫婦になった。


 それからさらに時は流れ、二人の間には可愛い子供がいた。
 幼いわが子を抱きながら、ミノルは幸せをかみ締める。こんな時間が、ずっと続けば良いのにと、心の底から思った。
 だが、同時に罪悪感も芽生える。
 父の無念も晴らせず、こんなに幸せになっても良いものか。
 今年も、雪の降る季節を迎えていた。
 父と別れた季節。
 ユキと出会った季節。
 悲しみと喜びとの感情が無い混ぜになる、複雑な時季だ。
「どうした、外なんかぼんやりと見て」
 ユキが男っぽい口調で話しかけてくる。可愛らしい見た目とぞんざいな話し方の落差に最初は戸惑ったものの、今ではそれも彼女の魅力だ。
「いや……また、冬が来たと思ってな」
「そうだな。私と出会った季節だ」
 娘を抱きながら微笑むユキに、ミノルも笑い返す。だが、心は晴れなかった。
「お前と出会ったこともそうだが……もう一つ、忘れられない事がある」
 その一言をきっかけにして、ミノルの口から山小屋での事が語られる。
 父と共に雪山で迷ったこと。
 雪を纏う物の怪に父が殺されたこと。
 敵を討てず、歯がゆい気持ちでいること。
 ミノルはいままで胸に秘めていたこと、全て打ち明けていた。
「オヤジの敵も討てず……こんなに幸せになって良いものか、とな」
「…………いいに決まっているだろう」
「何?」
「子の幸せを願わぬ親などいないさ」
 言いながら、ユキは我が子をミノルに抱かせる。
 そのとき、どこからか粉雪が舞い降りてきた。
「……とうとう言ってしまったな、ミノルよ。誰にも言うなと言われたのにな」
「ユキ……お前は」
「私……俺の本当の名は、ユキサダ」
 それは、父の名だった。
 しかしミノルは一度として、ユキに父の名を教えたことは無い。
「あの女の物の怪……雪女とやらにさらわれて、気が付くと女の姿になっていた。……俺はもはやお前の父でなく、ましてや人間ですらないのだ」
 いつの間にかユキの着物が、あの日山小屋で見た白装束へと変わっている。
 細い体躯は、どこをとっても父の面影などなかった。
「これで、お前とはお別れだ」
「どうし……て……」
「ふっ、気持ちが悪かろう? 父だった者を抱き、夫婦となり、子まで成したのだからな」
 言いながら、ユキは背を向ける。
 小さな肩が震えているように見えたのは、見間違いだろうか。
「それと、雪女の事を話したお前に、たった今抹殺命令が下った。俺がお前を殺さずとも、いずれ他の雪女が襲い掛かってくるだろう」
「そんな……」
「安心しろ、俺が、お前を守ってやる。……娘のことは任せたぞ」
 その瞬間、ひとりでに扉が開き、吹雪が家の中に舞い込んだ。
 突風と冷気によって、一瞬だけ顔をしかめる。そのわずかな間に彼女の姿は跡形もなくなっていた。
《いつか必ず、戻ってくる……》
 風に乗せて、ユキの声が響く。
 それが、最後だった。
「待てよ……待ってくれよ、ユキぃぃぃぃぃぃッ!!」
 気持ち悪くなど無い。
 刺客が来るのなら、共に立ち向かえば良い。
 そう伝えたかったのに、話も聞かずに彼女は自分の前から消えてしまった。
「くっ、う、ううううううっ!」
 腕の中では、娘がすやすやと眠っている。
 泣いている場合ではない。
 これから先、自分一人で、この子を立派に育てなければいけないのだ。
 なにより。
「絶対だぞ……絶対、戻って来いよ!」
 一度言い出したら、絶対に曲げない性格の妻を、彼は誰よりも理解していた。




水木しげる先生…
「妖怪」というジャンルを世に広く知らしめてくれた御大に拍手
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巫

Author:巫

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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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