長編 約束 1-4

長めの全年齢向け小説を書いています

「不思議の国のアリス」ベースで女体化モノという定番な話ですが
いろいろ変な感じにしています

今回で世界観説明と第一章が終わります

 リヴァールをしましょう。
 なぜ、いま、このタイミングでセビオスはそんな事を言ったのか。
 馬鹿正直にそれを訊ねたところで、お得意のだんまりを決め込まれるだろうことは想像に難くなかった。
 だから俺は、基本的なルールすら知らないとだけ返した。
 ムジックからどう使われているのかは教えられたが、やり方は見当もつかない、と。
「……リヴァールは、『セッツ』と唱えた瞬間から始まります」
 セビオスは仕方なしといった様子で、淡々と説明をする。
 それによると、この世界の住人はセッツという言葉でお互いの闘争心を刺激するらしい。
 どんな状況であっても、どんなに親しい間柄であっても、その言葉をキッカケにして激しい競争意識に駆られるのだという。
 セッツを宣言した人間は、外見や歌唱力、またはダンスセンスといった『才能』をアピールし、一方で受け手はそのアピール内容に一分間耐える必要がある。
 魅了されるか劣等感を抱くかした時点で強制的に敗北宣言をしてしまうが、耐え切った場合は攻守交替し再び『セッツ』から始める。
 俺は、アイクのイケメンレベルやセビオスの歌声に対し『到底勝てそうにない』と思ってしまった。その気持ちが、土下座という結果を招いたのだろう。
 ただしセッツは必ず宣誓しなければいけないものかというと、そうとも限らない。
 対抗心や闘争心といった競争意識があれば、合図無しでもリヴァールは始まる。……つまり、普段から相手の才能に嫉妬したり傾倒してはいけないということだ。
「……面倒な世界だな」
 俺の口からでてきたのは、そんな呆れにも近い感想だった。
 競争意識を抑えつけるなんて不可能に近い。ましてセビオスは歌姫と呼ばれるほど目立った存在だ。
 挑まれたり挑んだりの毎日を想像し、当事者でないのにげんなりする。
 だが、彼女の答えは意外なものだった。
「あなたが想像しているような煩わしさは、この世界にはありません」
「?」
 どういうことだ、と訊ねかけた俺の唇を塞ぐように、セビオスの細い人差し指が立てられる。
「秀でた才能を持つ者は『アイドル』と呼ばれ、それぞれ違う二つ名を持ちます」
「アイドル……」
 その単語に、胸がざわつく。
 夢を叶えると、約束をした。
 俺は必ず、アイドルになる。
「私は、歌唱力の才能に秀でた“歌姫”、セビオス」
 改まった様子で、初めて本人の口からその名が告げられる。
 強い眼差しは、もう何を聞いても無駄だと物語っていた。
「始めましょう。あなたからどうぞ」
「……ッ」
 俺は腹をくくり、拳を握る。
「ああ、わかったよ。せ……セッツ!」
 元の世界にはなかった新たな常識の扉を、自ら押し開く。
 瞬間、セビオスへの好意はそのままに、闘争心だけが刺激された。
 勝つ。絶対に、勝つ!
 そんな強い感情の赴くままに、俺は最も得意とするアーティストの曲をアカペラで歌うのだった。


「ま、負けた!」
 二分後、ひざまずいて敗北宣言する自分の姿があった。
「……馬鹿ですか、あなた。なぜわざわざ歌唱力で挑んだんです」
 リヴァールはセビオスの圧勝だった。
 当たり前だ。歌姫とまで呼ばれる少女が俺の歌唱力になびくはずもない。
 一分間に及ぶ俺の熱唱は完全にスルーされ、攻守が入れ替わった直後に繰り出された強烈な声が俺の心を打ち砕いたのはむしろ当然の結末だった。
 そもそも俺の歌も酷く、相手が彼女でなくても勝てるかどうか怪しいものだった。
 なんというか、声質が合っていなくて、ところどころつっかえてしまった。どうやら女になったことでノドの使い方まで変わったらしい。
「まぁ、いいです。勝者からの命令です」
「ああ」
 煮るなり焼くなり好きにしろ。
 投げやりな気分で次の言葉を待つ。
「服を脱いでください」
「誰が脱ぐかぁ!」
 理不尽過ぎる命令に目を剥く。
 土下座もやめて、つまらなさそうな表情のセビオスに真っ向からつかみかかった。
「なんだこの夢! イケメンが水着脱げとか美少女が俺にストリップしろとか! 俺にそんな趣味はあったとか軽くショックなんだが!? っつか持ってねぇよッ!」
「そういうことです」
「何がだ!? 俺に露出願望があることか!?」
「リヴァールに負けても、理不尽すぎる命令は拒否できるということです」
「……あ?」
 なんでも命令出来るわけではない、という顔色の悪い領主の言葉を思い出す。
 同時に浮かぶのは、さっきのアイクたちとのやり取りだ。
 水着を脱げと命令したアイクは、実はあの時、リヴァールを使っていたのでは?
 『セッツ』の合図がなくても試合は成立するとの説明もあり、その考えは自分の中で疑いようのないものになっていた。
 だが、実際は違う。
「絶対に覆せない命令を出せるのは、ステージで行われる試合のみです。それ以外の場所では、些細なことにしか使えません」
「そう、だったのか。じゃあ」
 アイクに指名された水着の女は、あくまで自分の意思で脱ごうとしたのか?
 しかしその考えもまた早とちりだと、セビオスが首を横に振る。
「この世界の人間には、競争意識がありません」
「は?」
「私やムジック、アイクや双子のような人間……闘争心や対抗心を持ち、リヴァールを行える人間の方が、ここでは珍しいんです。多くの住民は、争うことも抗うことも妬むこともせず、毎日平穏に暮らしていますよ」
「それは……」
 平和、なんだろうか。
 憎しみも哀しみもなく、相手に引け目を感じることもない世界。
 理想主義者が掲げるようなお題目が、ここでは実現されていた。
 それなのに俺は、ひどく居心地の悪いものを感じる。ただその気持ちは直感的なもので、どう言葉にして良いかはわからない。
 苦しみも哀しみもない世の中はたしかに平和なんだろう。
 でもそれってなんか、つまらなくないか?
「私達はリヴァールを使う才能があり、この平和な世界に領土争いをもたらしました」
 動揺する俺の頭上に、セビオスの声が降り注ぐ。
「しかし争いに巻き込まれてしまった善良な一般住民は、秀でた才能を持つ存在をアイドルと呼び、崇拝し、どんな理不尽な命令であろうと喜んで従います」
「……どうしてだ?」
「才能のある人間の判断は絶対に間違っていない。そう信じているからでしょう」
「……」
「アイクがやらせようとしたことは、ここでは当たり前の光景なんです。もっと極端な命令……恋人と別れろとか、人を殺せとか、自殺しろとか。そんな言葉を投げかけたとしても、彼らは何の疑問のなく従うでしょう」
「嘘、だろ……?」
 それはもう、競争意識がないとかの問題じゃない。
 意思のない人形やロボットと同じだ。
「もちろん、今のはたとえ話です。しかし『アイドル』の言葉が絶対的な力を持っていることは事実であり、大なり小なりその才能を自らのために使っています……もちろん、この私も」
 そこまで喋り切り、セビオスは再び口を閉ざした。
 この世界は、俺の夢で。
 それなのに。
 それだから?
(歪んでる……な)
 女の姿になり。風変わりな対決方法があり。
 人間とも呼べないような人間が暮らし、そのほとんどが『アイドル』に心酔した狂信者だった。
「私を軽蔑しましたか?」
 感情の読めない声色で、セビオスが訊ねる。
 軽蔑なんてしていない。
 そう言いたかったのに、ノドは痺れたように動かなかった。
(こいつの何を知っているんだ……)
 出会ってまだ一日も経っていない相手だ。
 セビオスがどんな風に過ごしているのか、俺はまるで知らない。もしかしたら、アイクのような理不尽な命令を平然としているかもしれない。
 元の世界とは決定的に価値観の異なる話を聞かされたせいで、俺は今まで出会ってきた人間全てが信じられなくなっていた。
「…………」
 向かい合ったまま沈黙が続く。
 どのくらいそうしていたのか、セビオスの視線がふいに逸れ、上を見る。
 つられて俺も空を仰ぐと、日差しがちょうど真上に来ていた。
「ここから西に向かって、約二十分」
「え?」
「中立である『運営』の領土に辿り着くはずです。領主は白髪のハクト」
 視線を戻したとき、セビオスは既に俺から背を向けていた。
「お、おい……」
「私は村に戻ります」
 三度目の捨て台詞を吐いて、セビオスが遠ざかる。
 俺は手を伸ばしたが、空を切るだけだった。
 呆然と突っ立ったまま、木漏れ日を吸い込んだ藍色の長い髪をじっと見入る。
 そのキラメキが完全に森の中に消えるのを見届けるのを待って、ようやく胸中に残る複雑な思いを呑み込んだ。
「とりあえず、行くか」
 セビオスの消えた方角とは逆の道を歩き、西に向かう。
 いよいよ、俺をこの世界に引きずり込んだ原因とのご対面だ。

***

 木々の合間を縫うようにして歩き、再び森の中の人工的な壇上を目にする。
 アーチ型をした野外ステージの周辺には、鉄骨を肩に担いだヘルメットの作業員が今日も走り回っていた。
 昨日は気付かなかったが、工事現場に付き物の重機はおろかフォークリフトすら見当たらない。自動車のない世界だから当たり前かもしれないが、ランニングシャツの男たちが人力で資材を運んでいく光景は実に異世界めいて見えた。
「な、なあ、あんた」
「オレッスか?」
 近くを通りがかった作業員を呼び止め、ハクトの名を出す。
 どこの誰とも知れない女がいきなりここの領主に会わせろなんて話を受け付けてくれるか心配だったが、結果として杞憂に終わった。
「ハクト様なら、あそこで事務作業をしてるッス」
 作業員が指差した方角には、テントが張られていた。キャンプで見るような三角形ではなく、四隅の間隔を充分に取った広々としたものだ。
 俺は作業員に礼を言い、入り口の前に立つ。
 あの白髪女と会うのは三度目になるが、キチンと話し合いをするのは初めてだ。
 少しばかり緊張する。
 三勢力の領土争いに加担していないらしいが、それでも相手は領主の一人だ。
 素直に俺の質問に答えてくれるとは限らない。
「いつまでそこにいる気ですか?」
「!」
 俺がここにいることを最初から知っていたような口振りで、テントの中から声がする。
 垂れ幕越しにこちらの逡巡までをも見破ったその声は、間違いなく俺のこの世界に引き込んだ白髪女のものだった。

 中に入ると、目にも鮮やか白髪が飛び込んできた。
 日差しが遮られほの暗い室内でありながら髪色の彩度は衰える事を知らず、天幕の隙間からわずかに漏れる光を吸収し光り輝いている。
「来ると思っていましたよ。応募者」
 大きなテーブルを挟んで、女が前のめりに両手を組む。
 服装は昨日と変わらず、青と白のストライプが入った洋服だった。改めて見てもやっぱりバイト先だったコンビニの制服に似ているせいで、非現実感がわずかに薄れる。
「今日は時間もあります。私に答えられることでしたら、なんでもどうぞ」
 首にかけた懐中時計に目をやり、眼鏡の奥にある視線が俺を挑発するように射抜いた。
(……何を考えている?)
 急に親切な態度を取られ、戸惑う。しかしあるいは、今までは本当に時間がなかっただけかもしれない。
 いずれにせよ、相手の腹を探ったところで俺の訊ねることは変わらない。
 この世界のこと。
 リヴァールのこと。
 それよりもまず最優先で解き明かすべきだった疑問を、ようやく口にする。
「何で俺は、女に……アリスになっているんだ?」
 あえて気にしないように努めたが、気にならないはずがない。
 この世界で出会った連中は、俺の本当の姿を知らない。だが目の前のコイツは、男の花村リデルを知る唯一の人間だった。
 女の姿だったにも関わらず一目で正体を見破ったことといい、俺の女体化には間違いなくハクトが絡んでいる。
「アリス?」
「妹の名前だ。今の俺は、あいつにそっくりだ」
「はあ、なるほど」
 何がなるほどなのか。
 ハクトは気のない返事をしてイスから立ち上がると、俺を中心にしてぐるぐると回り始めた。
 足の爪先から頭のてっぺん。横顔や後ろ姿に至るまで一通り眺めてから、さらりと呟く。
「あなたが妹さんの姿になっている理由は、私にはわかりません」
「なっ!」
「強いて言うなら、ここは夢を叶える事が出来る世界で、あなたの夢を実現するにはその姿が必要不可欠だった。……そういうことにしておきましょう」
「お、俺はアイドルになりたかっただけだぞ!?」
 声を荒げて否定するが、自らの言葉がどこか空々しく聞こえる。
 俺は本当は、女としてアイドルデビューをしたかったのか? 自分の気持ちがわからない。
「この世界でアイドルになるのは難しくありません。リヴァールを使って、ファンを増やすだけです。自分の言うことなら何でも従ってくれるような、熱烈なファンをね」
 こちらの混乱もお構い無しに、どんどん勝手に話を進める。
 俺は歯がゆい気持ちを抱え込んだまま、せめてもの反論をした。
「ファンじゃなくて信者だろ」
「ファンであれ信者であれ、不特定多数にチヤホヤされて御輿に担がれる存在が『アイドル』です。それは、あなたの世界のアイドルも同じではないですか?」
「……その、チヤホヤされるのが難しいはずなんだけどな」
 ため息をつく。
 何も俺は、ハクトとアイドル議論を交わしたいわけではない。
「俺を元の世界に戻せ」
 夢なら夢で楽しもうと思っていたが、競争意識のない一般人というイビツな存在を知った今、この世界はただただ居心地が悪い。
 ここは、俺の居るべき場所ではない。そんな風に感じるのだ。
「俺をこの世界に連れてきたなら、帰すことも出来るだろ?」
「出来ません」
 きっぱりと、即座に断られる。
「あなたはゲームに応募した。そして私が参加を承諾した時点で、もう後戻りなんて出来ないんですよ」
「ちょっと待て! そもそも応募なんかしてない!」
 怒鳴るが、涼しい顔で完全にスルーされる。
「元の世界に戻りたければ、トップアイドルになることです」
 俺の話など聞く耳も持たないらしい。
 応募について深く突っ込むことを諦め、別の質問をした。
「…………どうやったらなれる?」
 この世界における『アイドル』の意味を知った今、トップアイドルという地位も俺の想像と違うような気がする。
「公式戦で勝利することです」
「公式戦?」
「ええ。近々、我々の用意したステージで三勢力が領土を賭けて争います。それを公式戦といい、そこで優勝をすればトップアイドルになれる……と、いわれています」
 最後に少しだけ曖昧な物言いをして、白髪女が開き直ったように続ける。
「まぁ、明確に定められた条件なんて最初からないのですが」
「はぁ!?」
「実を言うと、トップアイドルとは伝説でしかなく、これまで誰もその存在を確認していません。どんな願いも一つだけ叶うとか、応募者にはトップアイドルの素質があるとか。そんな噂ばかりが一人歩きしています」
「な、なな……」
 つまり、頂点に辿り着いたとしても元の世界に戻れる保証はない。
「ふざっけんなお前! 勝手に連れて来て、そんな……!」
 胸倉をつかみ、鼻先が触れ合うほどに詰め寄る。
 それでも、ハクトの人を見透かしたような表情は揺るがなかった。
「……何度も言うように、この世界への応募はあなたが望んだことです」
「俺を連れてきたのはお前だ」
「望んだのはあなたです」
 堂々巡りだった。
 お互いがお互いの主張を譲らず、妥協もしない。
 眼鏡の奥にあるハクトの瞳には、怒り狂った妹の姿が映っていた。
「…………」
「…………」
「……公式戦の説明は必要ですか?」
「……頼む」
 手を離し、下がる。
 これ以上ハクトを問い詰めたところで無駄だろうし、トップアイドルの伝説がデタラメでないとも限らない。
 何よりも、険しい顔をするアリスを見るに耐え切れなかったというのが大きかった。
「公式戦は三勢力の領土争いですが、応募者であるあなたはどの領地に滞在するか選び、その勢力のゲストとして試合に参加が出来ます」
 乱れた襟元を調え、ハクトが机の上の用紙を手に取る。
 四角い枠取りの入ったそこには『エウテルペ』『カぺリオン』『メルポルネ』と三勢力の名前が記入されていた。
 『エウテルペ』の下にはアイク・レイア・ウルアの名が。
 『メルポルネ』にはムジックとセビオスの署名がしてある。
 『カペリオン』にも三人の名前が記入され、一番下の欄には参加登録済という判が押されていた。
「さて、あなたが参加する勢力は、どこですか?」
 紙と一緒にペンも手渡され、署名を迫られる。
 記入をしたら最後、完全に領土争いに巻き込まれてしまうだろう。
 だがそうしなければ、きっといつまでもトップアイドルにはなれない。
 やるしかない、のだろう。
 三つの領地と、そこにいるアイドルたちの一覧を眺めながら、ペン先を滑らせる。
「俺が選ぶのは────」

 こうして俺は。
 名実共に応募者となり、女の姿のままトップアイドルを目指すため領土争いに加わるのだった。
 ……わっけわかんねぇ。





どこに滞在するかまだ決めていないので
ちょっと休憩します
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プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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