長編 約束 2-1

長めの全年齢向け小説を書いています
「不思議の国のアリス」ベースで女体化モノという定番な話ですが
いろいろ変な感じにしています

第二章スタート


 ドラマに出てくるような中世的な村。
 ここメルポルネを一言で表すのなら、そんな雰囲気だった。
 木製の小屋の前では頭巾をかぶった妙齢の女性たちが談笑し、精悍な体付きの中年男が藁を積んだリアカーをひき、ニワトリが堂々と道を歩き、どこからか馬や羊の鳴き声が聞こえてくる。
 牧歌的で平和的なこの村が、まさか領土争いをする三勢力の内の一つだとはとても思えない。
 よそ者である俺が村を歩き回っても、誰も警戒心をあらわにしなかった。
 しかしそもそも、村人達には争いをしているという認識は無いのだろう。
 村に限らず、この世界で暮らす人間のほとんどが揉め事を起こさない。
 『反抗する意志』を持たない人間だけが暮らし、他人の言うことには絶対に対立しない、完成された平和な世界だ。
 そんな世界に領土争いやリヴァールという決闘手段を生み出した『アイドル』は、まるでテロリストのようでもあった。
 もっともアイドルの登場で世界のあり方が変わったかといえばそうでもないようで、人々は相変わらず争いごとをせず、他人の言うことに逆らうこともなく平穏に暮らしている。
 争っているのはあくまでも、アイドル同士に限った話といえた。
「……あなたは」
 そのアイドルの一人、“歌姫”セビオスは、俺の姿を見て少しだけ目を大きく開いた。
「戻ってくるとは、思いませんでした」
「正直、複雑な気分だけどな」
 アイドルに対する悪印象がないわけではない。
 だが、それ以上に『反抗する心』を持たない人間が俺には耐え難いほど気持ち悪かった。
「公式戦に出る。メルポルネのゲストとしてな」
 三勢力が一堂に会し、領土を賭けたリヴァールを行う公式戦。
 異世界から来た『応募者』の俺は、その勢力争いに参加することが出来る。
 俺をこの世界に引き込んだ白髪女の話じゃ、公式戦の優勝がトップアイドルになるための条件らしい。
 どんな願いでも叶えられるという伝説の称号を得て、俺は元の世界に戻る。そして、女の……妹と同じ姿になったこの身体も、元に戻す。
「俺じゃ力不足かもしれないけど、ま、よろしく頼む」
 手を差し出し、握手を求める。
 セビオスは珍しく戸惑った様子で、なかなか手を差し出しては来なかった。
「…………そ、そういうことは、領主に言ってください」
 くるりと背を向けて、逃げるように歩き出す。
 が、数歩離れた場所でその足取りが止まると、セビオスは仏頂面のまま俺を振り向いた。
「……ありがとう」
 聞こえるか聞こえないかの小さな声で礼を言い、再び早歩きで去ってしまう。
「一応、受け入れてくれたってことでいいよな」
 ドライな彼女のことだから『必要ありません』の一言で切り捨てられることも考えられたが、そうはならなかったようで胸をなでおろす。
 あとは、ここの領主が頷いてくれるだけだ。


「それは素晴らしい。歓迎しますよリデル」
 病床にしか見えない布団の上の男が、蒼白な顔に笑みを浮かべて俺の両手を握ってくる。
 “領主”ムジックは相変わらず不健康そうだった。
 骨ばった手が、小さくなった女の俺の手をすっぽりと包み込んで、上下に振り回される。
「あぁ、よかった。これでメルポルネも救われる……!」
「大袈裟だ。ってか、離せ」
「大袈裟だなんてとんでもない。公式戦に参加する人間は三人以上という決まりがあるのです。ところが我がメルポルネには、リヴァールを使える人間が私とセビオスしかいなかった……!」
 歌とダンスと見た目の優劣を競い合わせる『リヴァール』を使うには、強い闘争心が必要だ。
 だが争いごとのない世界でそんな意志を持つ人間はわずかしかいない。
「このまま、領土を奪われるしかないと窮地に立たされていたところへ、まさか応募者の協力が得られようとは……! 感動のあまり血反吐を漏らしてしまいそうです」
「表現おかしいから」
 とにかく滞在先も決まり、メルポルネでのレッスン漬けの毎日が始まった。
 もともとアイドルを目指していたから基礎は出来ているつもりだ。しかし体が女になったせいで、歌の歌い方も、ステップの踏み方もかなり勝手が違っている。
「はい。ワン、ツー、ワン、ツー、そこでターン」
「ぬわぁ!?」
 油断すればバランスを崩してスッ転ぶなんてこともざらだった。
 股間にあるべきものが無い感覚というのは、実際かなり落ち着かない。
 救いだったのは、慎ましやかな胸はダンスの妨げにならないということぐらいだ。
 一緒にレッスンをするセビオスも似たようなサイズで、目の毒になることもなかった。
「……今、失礼な事を考えませんでしたか?」
「気のせいだろ」
 汗を拭きながら、ジロリと睨まれる。そんな目にもだいぶ慣れて来た。


 耳元で囁くような雨音に気付き、目を覚ます。
 ムジックにあてがわれた室内は薄暗く、一瞬まだ夜なのかと勘違いしそうになった。
「ふぁ……」
 もそもそと布団から起き上がり、今日も女の格好をして、女のカラダのままであることに落胆する。
「いーかげん、風呂とか入りたいんだがなぁ」
 この世界では日付が変わりさえすれば着ている服はおろしたてのように、身体も風呂上りのようにさっぱりするのだが、お湯に浸かった記憶がないせいか、すわりが悪い。
 かといって今は女のカラダ。しかも妹と瓜二つの肉体。裸を見ることへの抵抗感や罪悪感は相当だった。
「……雨、か」
 入浴を諦めて障子戸を開くと、どんよりと濁った空に出迎えられる。
 降り始めたばかりなのか、雨脚はそれほど強くない。
 そんな事を考えていると、風に乗って歌声が聞こえてきた。
 ────La-LaLa。
 薄暗く落ち沈んだ雨色の風景にあっても、なお冴え渡る澄んだ声。セビオスだ。
 朝を告げる鐘のように、彼女は歌を歌う。目覚めと共にこの歌声に聞き入るのが、ここに滞在するようになってからの俺の習慣だった。
「いや、でもちょっと待て」
 セビオスの歌は、毎日同じ時間、同じ場所で行われる。
 あの丘の上で、空に向かって、堂々と。
「……まさか、な」
 そんなバカなことはしないと思う一方で、やりそうだとも思わせるセビオスの性格を考えた俺は、傘を手に例の場所に向かった。


 予想通りというべきか、セビオスは雨の降りしきる中、傘もささずに歌っていた。
 濡れるのも構わず、雨音を伴奏にして激しいバラードを歌う彼女は、ピンと背筋を伸ばし毅然としている。
 そうしたストイックな雰囲気に見惚れる一方で、俺は呆れてもいた。
 大会も近いのに、この女は何をしているんだろう。
「風邪引くぞ」
 隣に立ち、傘を掲げる。
 身長はセビオスの方が少し高く、腕を伸ばす必要があったのが地味にヘコんだ。
「……放って置いてください」
 こっちの気持ちも知らず、俺を一瞥すらしない。
 長い藍色の髪からしたたる雨水を拭おうともせず、セビオスは自分の平坦な胸に手を当てて目を閉じた。
 俺を無視して歌い続けるつもりらしい。させるかと腕を掴み、意識を強引にこちらへ向けさせる。
「アホかお前は。無理して倒れたらどうする」
「そのときは、自分がその程度の人間だったというだけです」
「こんな場所で歌ってたら、一流アーティストだってノドを潰すって!」
 無理にでもこの場から連れ出そうと腕を引っぱるが、セビオスはびくともしない。
 険しい眼差しが俺を睨みつけていた。
「………では、私とリヴァールをしますか?」
 三つの才能を競い合わせ、敗北感を与えた相手にはどんなことでも命令できる、この世界の暴力。
 おおかた、俺に『帰れ』とでも命令するつもりだろう。
 歌姫と呼ばれるだけあって、セビオスの歌唱力は群を抜いている。女としての歌い方を学んだとはいえ、今の俺が勝てる見込みはほぼゼロだ。
 ……それが、どうした。
「────セッツ!」
 俺は、不意打ちのように試合開始の合図を唱え先攻に回る。
 勝てない相手だからって勝負を避けていたら、いつまでもトップアイドルになんかなれっこない。
 実力で劣るのなら、セビオスのターンが来る前に速攻で勝負を決めればいい。
「♪────ッ!」
 女としての高音を利用し、跳躍と疾走感を重ね掛けした鋭い歌を披露する。
 雨も、セビオスの視線も、自分自身が紡ぐ少女の声によってかき消されていった。
 意識が、歌を歌うことだけに特化する。
 アピールタイムの一分間を全て使い切り、初めてその歌を人前で披露しきった俺は、深い感慨に包まれていた。
「…………」
 だが、セビオスの表情は揺るがない。『負けた』という言葉が出てこない限り、リヴァールは続行される。
「……どうして、泣いているんですか?」
 セビオスの台詞は、意外なものだった。
 敗北宣言でもなければ試合再開の合図でもない言葉の意味がわからず、掻き立てられた闘争心が消えていく。
「泣いて……?」
 自分の目元を指で拭うと、たしかに湿り気を感じた。
 雨かとも思ったが、視界自体が滲んでいることに気づき、ようやく自分が涙を流していることを知る。
「あ、あれ……おかしいな」
「…………セッツ」
「ちょ、おま!?」
 さきほどの意趣返しのつもりか、完璧な不意打ちを食らった。
 ……結果は、言うまでもなく惨敗だった。
 っつーか俺、一度もリヴァールで勝ったことなくね?


 予想を裏切り、セビオスが出した命令は「家まで送れ」というものだった。
 セビオスの歩調に合わせて隣に並び、腕を伸ばして傘を掲げる。従者にでもなった気分だ。
「帰るつもりだったなら、素直にそう言ってくれよ……」
「気が変わりましたので」
「あっそ……」
 それは、俺が泣いたことと関係しているんだろうか。
 だとしてもセビオスは「泣いた理由を話せ」と命令はしなかった。
「…………」
 横顔を盗み見るが、まつげの長い、整った顔立ちからは何の表情も読み取れない。
 その性格を主張するように、ただまっすぐ前だけを見つめていた。
「……私は、この村が好きです」
「うん?」
 視線は動かさずに、雨音に紛れてしまいそうな小さな声でポツリと呟いた。
「両親のいない私を、この村は、領主は受け入れてくれました。私に、家族というものを教えてくれました」
 だから、と言葉を続け、空を見上げる。
 いつの間にか足並みが乱れ、セビオスが傘から飛び出してしまった。
「だから、私は」
 濡れるのもいとわず、灰色雲に覆われた空に向かって言う。
「メルポルネを守るために、“歌姫”に恥じないよう、努力を怠るつもりはありません」
「……そうか」
 それが、雨の降りしきる中歌い続ける彼女の理由なんだろう。
 村を、家族を守るために。
「俺にも、家族がいる」
 再びセビオスを傘の中に入れ、気が付けば俺も語りだしていた。
「妹のアリスは……アイドルを目指していたんだ。いつか俺とユニット組んで、芸能界でデビューしようってよく話していた」
 アイドルの概念からして異なるこの世界では、芸能界なんて言葉は通じないだろう。だがセビオスは口を挟まなかった。
 顔だけ俺の方を向き、無言のまま隣を歩いている。
「けど、一年ぐらい前にアリスは死んだ。酔っ払い運転なんていう、クソみたいな事故でな」
「……」
「さっきの歌はな、俺とアリスの二人で作った歌だ」
 本来はアリスが歌うはずだったパートを、何の因果か俺が歌うことになった。泣いたのも、たぶんそんなところだろう。
 大切な存在を失った傷は、まだ癒えていない。
「自信はあったんだけどな。歌姫のお前にしてみれば、平凡でつまらない歌だったみたいだ」
「そんなことはありません」
 突然、傘を持つ手が握られる。
 足を止めると、セビオスの強い眼差しが俺を射抜いた。
「自分で作った歌を……誰かと一緒に作った思い出を、そんな風に卑下しないで下さい」
「……セビオス?」
「私はずっと、独りで歌ってきました。村の人は良くしてくれるし、ムジックだって大切な人間です。……けど、私は誰かと曲を作ったことなんてない。そんな発想自体、したことがありません」
「……そうか」
 同じ領地のアイドルとはいえ、ライバルであることに違いはない。
 トップアイドルになれるのはたった一人だけだ。
「私はあなたが、少し羨ましい」
「…………別に、特別なことじゃない」
「?」
「今から作れば良い。俺と、お前と、ムジックとか村人も巻き込んで、みんなで一つの曲を作れば良い」
 俺の言葉がよっぽど意外だったのか、セビオスは目を見開いて言葉を失った。
「……そんなことが」
「出来るとか出来ないとかは後で考えれば良い。やるか、やらないかだ」
 これまで頂点を目指し、たった独りで歌い続けていたセビオスは俯き、しばらく逡巡していた。
 だが、頂点を目指す理由が『村を守りたい』のなら、一人で頑張る理由はどこにもない。
「…………」
 沈黙が続く中、雨脚はいつの間にか途切れ、雲の切れ目から陽光が差し込んでくる。
 再び正面を向いたセビオスの顔には、日差しを浴びてツボミを開いた花のような笑みが浮かんでいた。
「あなたは、不思議な人ですね」
「そうか?」
「トップアイドルを目指しているのに、わざわざ自分からライバルを増やそうとしているんですから。不思議じゃなければ変な人です」
「ほっとけ。性分だよ」
「かわいい顔をして、口が乱暴なのも、ですか?」
「あ……」
 そういえば俺、本当は男だってことまだ話していなかったか。
「あのなセビオス。俺は」
「あぁ、お二方、ここにいましたか」
 女じゃない、と言いかけたところへ、辛気臭い声と共に領主のムジックがゆらりと歩いてくる。
「どうかしましたか?」
 セビオスは俺との距離を詰め、手を握ったまま、割って入って来た領主に顔だけ振り向いた。
 そんな態度に怒りもせず、むしろムジックはニヤニヤと含み笑いをしている。
「おやおや、仲の良い事だ」
「女同士のスキンシップです。男性のあなたにはわからないでしょうね」
「…………」
 急に正体を明かすのが恐ろしくなる。
 俺が男だと知ったら、どんな反応をするのやら。
「仲間はずれは悲しいね……でも、これを見たらそうも言ってられないんじゃないかい?」
 そういってムジックが懐から一枚の便箋を取り出す。既に封は切られていた。
「招待状……ですか?」
 俺から手を離し、セビオスが便箋を注視する。
 ムジックは微笑みながら静かに頷き、俺を見た。
「リデル。レッスンの成果を見せるときがきましたよ」
「は?」
 なにがなんだかわからず、差し出された便箋を受けとる。
 二つに折りたたまれた紙を開くと、現実世界では見慣れない文字が飛び込んできた。

【舞踏会開催の告知】

「ぶ、舞踏会ぃ……?」
「王城、カペリオン主催のダンス大会です。公式戦のウォーミングアップと思ってください」
「王城……」
 それなりの時間、この不思議の国で過ごしてはいるが、王城の領土には行ったことがない。
 舞踏会で何をするのか、そしてどんなアイドルがいるのか。
 せめて、少しでもまともな人間がいれば良いと願わざるを得なかった。





生活描写はスットバシタ
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・小説モドキを主に不法投棄します
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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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