ぞっこん2-6

長編のTS小説 第二部第六章

入れ替わった少年少女の話です。なんとはなしに続けています。


ぞっこんショット!2-6

 四ノ宮家は夕香先輩の言っていた通り、学校から徒歩で約三十分かかる。幼馴染である夕香先輩の家にしてもおそらく距離はそう違わないだろう。つまりその間、この恥ずかしさと緊張からは開放されないということだ。
 薄紅色をした傘の下で手を繋いだまま二人並び、ざんざんと降りしきる雨の道を歩いて行く。特に会話もないまま、それでも気まずい雰囲気というわけではない、心地の良い沈黙がしばらくの間流れた。
 どのくらいそうしていたのか、唐突に繋いだ手の力が強まる。

「先輩?」
 振り向くと、先輩は繋いでいない方の手で片耳を塞いでいた。
 それに俺が気付くのとほぼ同じくして、青白い光が目の前いっぱいに走る。やや遅れて、空はいままでとは一味違う、空気を突き破るようなひどい轟音をがなり立てた。
「ひんっ」
 夕香先輩はこれ以上ないほど身を縮こまらせ、ほとんど泣き顔になっている。その必死さは、痛いほどに握られた手の熱さが存分に物語ってくれていた。
「あの、せ、先輩。手」
 俺の言葉が終わらないうちから、せっかちな雷がまたもや怒鳴った。
 男のときなら大したことはないと感じられるような力でも、女の身体では耐久力が低いのかメリメリと指が悲鳴を上げている。
 藤が貧弱なのか、先輩の握力が規格外に強いのか。
 いずれにせよ、折れるとまではいかないものの、押し潰される痛みを好き好んで耐え忍ぶ趣味など俺にはない。
「えぇっと……そういえば、先輩。さっき、何を数えていたんです?」
「う、うん?」
 話題を振ることで、雷への恐怖心を逸らすことができたのか、わずかながら握る手の力が弱まった。
「ほら、学校で何か数えていたじゃないですか。和弥を探していたときに」
「あ、ああ。あれか。父の教えでね」
「お父さん、ですか?」
 その相槌に先輩はなぜか目をパチクリとさせ、まじまじと俺を眺めた。しかしそれも数秒のことで、すぐにまた怯えたハムスターのような顔つきに変わる。
 手の握り方は、だいぶ優しいものに戻っていた。
「雷が光ってから鳴るまでの時間を計り、光速と音速の差を利用して距離を導き出す方法なんだ。一秒でだいたい二百メートルぐらい発生源から離れていると考える。これによって、身の振り方を考えみゃあああっ!」
 本当に年上かと思うぐらい可愛らしい悲鳴を上げ、先輩の雷講義が中断される。
 空はそうとう機嫌が悪いらしい。さっきからずいぶんゴロゴロゴロゴロうるさい。
「ががが、学術的に、たた正しいかどうかは、保証は、ない。が、父の言葉だ。信じるに値する」
 健気にも講義を続けてくれるが、すでに俺の意識は涙目になっている先輩にしか集中していなかった。
 両腕でしっかりと俺の腕に絡み付いているおかげで、吐息が掛かりそうなほど身体が密着し、薄いなりにも微かな膨らみの感じられる胸板が押し付けられている。
「ぐすっ、うん? 何をニヤついているのかな?」
「いや、その、胸が……あ」
 思わず、素がでてしまった。
 先輩はメガネのレンズからはみださんばかりに瞳を大きく開けて、きょとんとしている。それはきっと、正しい反応だろう。幼馴染の、しかも同じ女から、そんなことをいきなり言われたのだ。
 できれば一笑に付して欲しかったが、そうそううまく事は運ばないらしい。
「……イヤミかな?」
「え? ひゃあ!」
 いきなり胸をつかまれた。
「この、はちじゅうきゅうのEという胸の持ち主であるキミが、固いし小さいしで中学の頃から成長のない私の胸に触れた程度で本当に至福を感じるのかと私は問いたい、小一時間問い詰めたいっ」
「ちょ、あの、せんぱ……」
 むにむにと先輩の手のひらが俺の胸を乱暴にこね回す。弄り回されるくすぐったさと、男のときではありえなかった胸を触られる感覚が、どうにか冷静に勤めようとする脳みそを熱暴走へと導いていく。
「んっ」
 ノドの奥から、艶かしい声が漏れた。巨乳は感度が悪いというが、さすがに攻め続けられればそれなりに感じるらしい――っていうかちょっと待て。
 このままではシャレにならない。昨夜この身体に欲情するものかと誓ったばかりなのに、早くも瓦解してしまいそうだった。
 脳裏によぎるのは、先輩が査定した数字と見下ろせばすぐに視界に飛び込むその実物。
「ちょ、ほ、本当にやめてください、謝りますからっ」
「むぅ……」
 いささか不満げな声だったが、先輩は了承してくれたのか、胸への攻撃をやめてくれた。
「仕方ない、今日はこのくらいにしておこう……。私だって、その、胸の事は気にしているのだから、あまりからかう真似はしないように頼む」
「はぁ……はぁ……は、はい……」
 からかったつもりはないのだが、とりあえず頷く。どうやら胸関連の話はタブーのようだ。やはり、先輩も年頃の女の子というわけか。
「しかし残念だよ」
「な、何がです?」
「決定的瞬間を逃してしまった。胸を触っていたときのキミの表情、おそらくはハリウッドも夢ではなかった」
 それから先輩は、実に流暢に四ノ宮藤という少女の可愛さについて語り始めた。
 ちょっとした不可抗力に思春期っぽく反応して見せただけだったのに、どう間違ったら藤の魅力の話にまで結びついてしまうのだろう。すっかり雷も気にならなくなったらしく、歌うように藤のアピールポイントを聞かせられる。
「恋愛経験ゼロの不器用で無愛想な私より、キミの方がずっと可愛いに決まっている。胸も大きいしね。事実、藤くんの人気は校内で五本の指に入るというもっぱらの噂なのだよ。洗濯板の私に対して流れる噂とはまさに雲泥。魅力の格差が知れるというものさ」
 そんな藤よりも、俺にとっては先輩が一番なんだと。そう言いたい。ついでに、胸の大小など好きという気持ちの前ではまったく問題ではないのだとも言ってやりたかった。
 しかしこの姿でそれを言っても、さっきのようにイヤミか何かと勘違いされるのが関の山だ。ならば、自分の本当の姿で、洗いざらいの気持ちをぶつけてやるしかない。
 元の身体に戻り、夕香先輩に告白する。
 雨音を聞きながら、そして、隣でまだ藤を褒める先輩の声を聞きながら、俺はその決意を心に刻み付けたのだった。


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