トランス・セクシャル・シンフォニア 3

全年齢向けの学園モノです
仮ですがタイトルつけました 長いのでTSSと呼びます


入れ替わった親子をサポートするTS好きな主人公の話です

TSS -素晴らしき非日常  その3


 まったく興味のない話題だろうが、俺はカノジョという存在を手に入れた事がない。婦女子とそこそこいい雰囲気になったことが無いとは言い切れないが、俺の性癖を知るなり女たちは次々と離れていった。
 性癖トーク開放後も付き合いが続いている女は六村だけだ。もっともアレを恋愛対象として考えるぐらいなら、異世界からやって来た女の自分と付き合う方がずっとマシだ。むしろウエルカムである。
 そんな俺の人生を振り返りながら視線を隣に移すと、結わえたポニーテールをぱたぱた揺らす後輩の女の子が同じ速度で歩いているので、少し感動的だった。
「うぅ~ん……」
 雛姫ちゃんは右手のスマホを難しい顔で見つめ、可愛らしい唸り声を上げている。人差し指で画面をおそるおそるいじり回す姿は歩きスマホをする若者というよりも、電化製品の使い方に苦戦する機械音痴のようだった。
「やっぱり、よくわからないねぇ……らいん、とか、すたんぷ、とか……」
「大鳥さんはスマホじゃないんですか?」
 年下の女の子に敬語で話しかけると、雛姫ちゃんはスマホから顔を上げ苦笑いを浮かべる。
「うん……古い人間だからねぇ。昔の、二つ折りのアレで充分なんだよ」
 若者の代名詞ともいれる女子高生の口から困った顔で『古い人間だ』などと言われ、俺のテンションは朝からうなぎ上りだった。
 見た目と言動がそぐわない場面に遭遇し、目の前の女の子は違う人間なんだということがひしひしと感じられる。
 雛姫ちゃんの姿こそしているが、その中身は彼女の父親だ。二人が入れ替わった事実を再確認するたびに、性癖はグレイトに刺激されていた。
「それに昨日も思ったが、最近の授業はずいぶん難しいね。正直、ついていけない部分がほとんどだ」
「でも、大鳥さんは一度経験済みでしょう? 正直余裕じゃないですか」
「ははは、恥ずかしいことに私自身が学生の頃も成績は良くなかったよ。……ところで、君に頼みがあるんだが」
 朗らかに雑談を続けていたが、大鳥さんは急に真面目な顔つきをして俺を見る。やけに大人びて感じるのは、中身が別人という先入観があるからだろうか。
「雛姫の姿をしている以上、私は君の年下だ。先輩が後輩に敬語を使うのは少しおかしいと思わないかな?」
「あぁ……そう、ですね」
「正体を明かした上で勝手な頼みだとは思う。そこは謝ろう。しかし、私のことは本物の雛姫と思って接して欲しい」
 大鳥さんは自分たちの入れ替わりを公にするつもりはないようで、平穏な生活を続けてもらいたい俺としてもその意見には大いに賛成だった。
「もちろん、私も精一杯雛姫のように喋ろう。……よ、よろしくお願いします。センパイ」
 ぎこちない笑顔を向け、さっそく有言実行してくる。
 ギャップ萌えのためにも、口調は是非そのままでいてください。その言葉をギリギリ飲み込み、俺は大鳥さんの言葉に黙って頷いた。


 校門に辿り着き、大鳥さんと別れる。
 何かトラブルや悩み事があれば、今朝交換したメールでやり取りをすることにした。こんなことでもなければ、きっと一生かかっても手に入ることはなかっただろう雛姫ちゃん本人のアドレスだ。
 入れ替わっても自分が使っていた持ち物を手放さないパターンは意外と多いが、大鳥親子は持ち物もしっかり交換している。徹底して本人になりきる覚悟の表れを見ているようで、非常に頼もしい。
「何かとご面倒おかけするとは思いますが、どうぞよろしくお願いします」
 体育会系とは違う、社会人っぽさが滲み出た挨拶で腰を曲げ、大鳥さんが去っていく。薄氷学園はデフォルトでスカートが短いから、次に会ったらそれとなく歩き方を注意しようと思った。
 さて。
「くくくく……そういうことか、タケ」
 昇降口の物陰からこちらを窺っていた怪しい友人が、怪しい笑いを浮かべて現れる。風紀委員に見つかったら一時間コースの説教がはじまるような面構えだ。
「そんなところで何しているんだ、白山」
「誤魔化そうとしても無駄だぜ? あれは昨日、お前が様子のおかしいと言ってた子だ。だが今日は二人仲良く登校……ここから導き出される答えはつまり、お前が分魂能力に目覚めたということだ!」
 犯人はお前だ! とでも言いそうな得意顔で人差し指を突きつけてくる。
 分魂とは、魂を分裂させて複数の人間に憑依できる能力のことだ。普通の憑依と違って自分の体も動かせるので、ハーレム作りには持ってこいの力といえる。
 ただ、俺は女の子になった男の戸惑いや恥じらいが大好物なわけで、漫画なんで見る限りその点が薄まりがちな分魂にはあまり興味がない。もちろん、出来るに越したことはないが。
「あの子はお前の性奴隷第一号ってわけだ。くそぅ、羨ましい奴!」
「ははは、くたばれ」
 良俗意識の最低ラインを元気に突っ走る友人へ中指を突き返し、俺は早々と教室に向かった。

**

 四時限目の体育が終わり、着替えもせずに学食へ向かった白山と別れて教室に向かっていると、廊下に佇む『雛姫ちゃん』の姿を見つけた。
「雛姫ちゃん」
「ん、桑倉く……センパイ。どうも、お疲れ様です」
 呼び方はまだちょっとぎこちないが、大鳥さんは本来年下の俺にもすんなりと敬語を使ってくる。社会人は歳の差など関係なく丁寧な言葉遣いがマナーらしいし、おいおい慣れていくだろう。
 もっとも、そんなこととは比べ物にならない重大な危機が目の前に迫っているようだが。
「……入れないの?」
 彼女はトイレの前で立ち往生していた。落ち着きなく女子トイレの中を窺ってはすぐに顔を背け、内腿をモジモジとこすり合わせている。
 中からは複数人の話し声が聞こえ、盛り上がり方からしてしばらく移動しそうにない。
「……正直、娘の体で用を足すのは抵抗がある。だが、まぁ、見慣れてもいるんだ」
 大鳥さんは「子供の頃の話だがね」と付け加え、生理現象はどうしようもないからとも語る。
 肉親との入れ替わりは、過去の結びつきが何よりも強い。赤ん坊だった頃から雛姫ちゃんを育ててきた父親なら、娘の性器も排尿も何度だって目撃してきたはずだ。
 しかし幼少期と現在の第二次成長を経た肉体とでは、体の構造はかなり変わっている。だいいち、見たことはあっても自分自身で経験したわけではない。
 俺には大鳥さんが必死に「なんでもないことだ」と自分に言い聞かせているようにしか見えなかったが、わざわざ指摘する必要はあるまい。というか、それならなぜトイレに入るのをためらっているのだろうと疑問に立ち戻った。
「娘のはまだいい。だが、人様の娘がシテいる音を聞くのは……申し訳なさすぎて、つらい」
 言葉通り弱りきった声を上げて、目を伏せる。そうはいっても根性で生理現象を押さえつけられるはずもなく、昨日も限界ギリギリまで耐えてからトイレに入ったらしい。
「そういうことなら……」
 俺は相談役としての面目を果たすべく、大鳥さんをとある場所へと案内した。

 校舎の最上階に位置する理科室前のトイレは、めったに人の寄り付かない隠れスポットだ。余談ではあるが、俺もたまにここを利用している。
 耳をそばだてるが、女子トイレから人の声は聞こえない。これなら、大鳥さんもゆっくりとお花摘みに専念できるはずだ。
「どうぞ、ごゆっくり」
「か、感謝する」
 もはや堤防は決壊直前だったのか、感謝の言葉もそこそこにトイレへ駆け込む。
 女子の肉体は男より尿道が短く、長い間ガマンができないことぐらい男の俺でも知っている。個室に入った途端に気を抜いて、漏らしてしまわないことを祈るばかりだ。
「……うぅん、お約束だ」
 壁にもたれかかり、妄想に耽る。
 女の子の体でする用足しとはどんな気分なのだろう。男のように方向は当然定まらず、股全体を濡らすように黄金水を吐き出す感覚には、興味が尽きない。行為後にティッシュで女の大事なところに触れる点にも注目だ。
 まかり間違って敏感な部分を刺激し、そのまま女体への神秘に迫るのが、ただれた性転換生活の始まりである。
 耳を澄ませば喧騒に混じって、雛姫ちゃんの水音が聞こえてくる……ような気がしたので、紳士的な俺は足早に立ち去った。
 トイレの出待ちをされるなんて、いい気分でもあるまい。

 数分後。
「……あれ、桑倉くん?」
 雛姫の顔を達成感に満たしてトイレから出てきた大鳥父は、親切な青年の姿を探し、首を傾げていた。


「入れ替わった二人が元に戻るのって、どんなときだ?」
 学食にやってきた俺は、先に食事をしていた白山の向かい側に相席させてもらい、雑談を装って訊ねてみた。装うも何も普段からこんな会話ばかりしているからか、白山は特に妙な顔をすることなく俺の質問について考える。
「うーん……俺は、元に戻らずそのままお互いの人生を交換するほうが好きなんだが」
「絶対元に戻るパターンで」
「オーケーオーケー。そうだな、やっぱり王道は、入れ替わったときと同じことを試してみる、だろ?」
「だよなぁ」
 雷に打たれたなら雷に当たりなおす。事故にあったなら事故にもう一度巻き込まれる。
 大鳥親子は頭をぶつけたのが原因で入れ替わった。だが、もう一度ぶつけても元に戻らなかったらしい。
「他には、寝たら元に戻るとかな。エロ漫画なら、同時にイクって方法があるな」
「もしくは、キスをするとかか……そのあたりが限界だよなぁ」
 いくら親子が良好な仲とはいえ、さすがにキスやセックスを簡単に受け入れるはずもない。伝えるのは保留にすべきだ。
「ところで、お前の性奴隷第一号はどうしたんだよ? てっきり今日は学食に来ないで、保健室でよろしくしていると思ったのに」
「だから分魂に目覚めてなんかいねぇよ」
「桑倉センパイッ」
 まだ勘違いしたままの白山をどう言いくるめようかと思っていると、雛姫ちゃんの元気な声が聞こえる。
 脂汗を浮かべて困り果てていた顔から一転し、朗らかな美少女が購買の袋を手に微笑んでいた。
「さきほどはありがとうございました。これ、つまらないものですが」
 他人行儀な口調だが柔らかな声で、紙パックの野菜ジュースを差し出される。トイレに案内したお礼だろう。
「いや、いいよそんな気にしなくて」
「いえいえ、ここは、私の顔を立てると思って。あ、それともお嫌いでしたか」
 穏やかな顔つきのまま、絶対に受け取らせるのだと意思表明をするように押し付けてくる。意固地になって受け取り拒否をする理由もなく、俺は彼女の手からジュースを受け取った。
「では今後ともご助力の程、よろしくお願いします」
 深々と頭を下げ、立ち去っていく。定例文のような言葉遣いと態度だったが、後輩の女の子がさらりとそんな言動をしている時点で俺は大変満足だった。
「お、おかしいな……あの子は、お前に乗っ取られたはずじゃ」
「違うっつうの」
 憑依的な考え方をしている間は、おそらく親子入れ替わりの答えには辿り着けないだろう。自分だけが真実を知っている優越感に満たされ、しかし親子を戻すためにも白山や六村の知恵は借りたいというのが本音だった。
(そのうち、全部話してみるか……いや、その前に喋っていいか確認しなきゃな)
 紙パックにストローを突き刺して、今後の計画を練っていく。
 ふと力強い視線を感じた俺は、背中に走る悪寒に突き動かされ慌てて振り返った。
 『雛姫ちゃん』の姿は既にない。他の全員も、思い思いに食事を満喫していた。
「どうした?」
「いや……」
 視線の圧力はすでに消え、俺はもやもやとした気分を抱えたまま雑踏の中から正体を探ることを諦めた。

**

 掃除の時間も終わり、俺はいつものように街へ繰り出した。
 大鳥さんは陸上部へ。白山や六村もそれぞれバイトや部活に精を出している。放課後の時間を一人きりでうろつくことにほんの少し後ろめたさと寂しさを感じるが、代わりに自由に動けるので文句などあるはずもない。
「さて、行くか」
 鳥居の先にある石段を見上げ、今日も気合を入れて光明神社を目指す。
 足しげく通っているおかげで体力はそれなりについていた。それほど苦労することなく見慣れた境内に辿り着き、深呼吸をする。
 たった百数段の高低差で街の喧騒はすっかり消え失せ、自然の匂いと静寂がこの空間を満たしていた。吸い込んだ息を大きく吐くと、体の中が軽くなったような気さえする。
「おぉぅ、少年か。待っていたぞ」
 早速参拝をしようと本殿へ進んでいると、社務所にいた神主さんに声をかけられた。今日はこの人が当番らしい。
「こんちわっす。待ってたってなんですか?」
「うむ、実は……これは、お主を信頼しているからこそ話すのだが……」
 普段のひょうひょうとした顔を曇らせ、怪談話でも語りだすかのように声を潜める。
 老人が語ったのは、神主が言うと恐ろしく説得力の増す台詞だった。
「葛葉が、霊に取り憑かれた」
「……はい?」
「信心深いお主なら、霊魂の存在は信じているだろう? 葛葉はな、その成仏できない霊魂を払おうとして、失敗し、体を乗っ取られてしまったのだよ」
「…………」
 俺は二の句が告げず、神主さんの言葉に耳を傾けていた。
 申し訳ないことだが、何が起こっているか理解できないのではなく、むしろ事態を呑み込んだ上で脳内オーケストラが奏でる祝福の演奏会に夢中で動けなくなっていたのだ。
「安心せい。悪霊の類ではないし、乗っ取られたとはいっても事故のようなものだ」
 神主さんは沈黙を続ける俺の胸中をどんな風に勘違いしたのか、慰めるような言葉を付け加えてくれた。テレパシー的な超能力が開発されていない世界で本当に良かったと思う。
「憑依した男が未練を果たせば、葛葉も元に戻るだろう」
「そう、ですか」
 やっと口が動くようになり、出てきたのはそんな相槌だった。
 白山が理性を失って叫び狂うほど喜ばしい展開にはギリギリならないようで、俺も安心する。「この体は貰ったぜ」とか言う悪霊がウジャウジャしている昨今、葛葉さんは本当に幸運な人だ。
「でも、なんで俺にこの話を?」
「うむ、それなんだが……」
 神主さんはまた渋い顔をして、目をそらす。そのときだった。
「よー、爺さん」
 社務所の奥から緋色の袴が見え、葛葉さんが姿を現した。いつもなら巫女服の掛け襟までキッチリと整えている彼女は、まるで着慣れない和服を着た外国人のように裾を余らせ、服をたるませている。
 眉を寄せた表情はありありと「面倒くせぇ」を主張し、長い髪を掻き上げて首の後ろをぼりぼりと引っ掻く仕草を見た瞬間、彼女が葛葉さんの姿をした別人だと確信した。
「やっぱ無理だわ、これ。着物なんて、生きてた頃にだって着たことねーし」
「く、葛葉ぁ! おまえ、何という格好を……!」
「んだよ。別に丸出しってワケじゃねぇんだからいーだろ。……あん? なんだこいつ?」
 ぞんざいな口調で老人と会話する葛葉さんが、俺の存在に気付き目をすがめる。本来の彼女と違ってころころと表情が変わるのは新鮮だが、やや攻撃的な傾向をうかがわせる態度だ。
(なんとなくだけど、若い男……か?)
 とりあえず、意思の疎通は出来る。一般メディアじゃ憑依されると顔が化け物に変わったりもするが、葛葉さんの外見は非常にありがたいことに相変わらず美しいままだった。
「葛葉よ。彼こそ、お前の望みを叶える運命の男だ」
「は?」
 俺の頭に疑問符が浮かび、唐突なロマンスワードを使った老人を見る。いったいどういうことだ。俺は何も聞いていないぞ。
「ふぅん、コイツがねぇ」
 葛葉さんの体を乗っ取った男は、社務所の窓口から身を乗り出して俺の顔を上目遣いにジロジロと眺める。位置的に襟の隙間から谷間が見える格好となり、俺は慌てて視線をそらした。
(あぁ、俺はいま憑依された女と会話している……っ!)
 自分の扇情的なポーズに気付かないでいる美女は中身が男であることを如実に語り、それに対する純情男のような俺の反応も実に王道パターンだった。冷静な部分がいまだに荒ぶる指揮者を実演し、いま置かれている状況への歓喜を示す。
「少年よ。折り入って頼みがある」
 葛葉さんを見ていると興奮が次々押し寄せてくるので、神主さんに意識を集中させる。この老人が葛葉さんに取り憑いたらどうなるかなんて邪念は、俺の理性とやはり唐突すぎる言葉によって打ち消された。
「お主には、葛葉とデートをしてもらいたい」
「ヨロシク」
 語尾に星マークでもついていそうな軽い口調で、葛葉さんが指を二本だけかざす。
 俺はよもや自分の直感がハズレたのではと軽い失望を覚え、続いて神主さんから説明された詳細で見事にV字回復を果たすのだった。

**

 神社を後にした俺は、歩きながら頭の中を整理する。
 まず、葛葉さんは男の霊に憑依されている。それは裏付けも取れたので間違いない。
 男は五条亮祐(ごじょうりょうすけ)と名乗り、同性愛者ではないが生前から男とのデートに興味があったらしい。一体どこからどこまでが本当なのやら。
 葛葉さんの体を乗っ取るつもりはなく、満足したら成仏すると亮祐は話していた。神主さんは街で適当な男をひっかけようとするのを押し留め、苦肉の策で俺に事情を話したわけだ。
 憑依された美女とのデートを辞退するはずもない。乗り気で了承した俺を、二人は感謝しつつも不思議そうな顔で見ていた。
 このごろはそんな顔で見られてばかりだ。
 そんなことを考えていると、昨日、入れ替わり現象を受け入れた俺を不思議そうに見ていた親子の片割れがマンションから出てきた。
「あっ、先輩!」
 年上の男性からそんな風に呼ばれるとぞわぞわ来るものがある。
 大鳥父の体になった雛姫ちゃんは、活発な女の子そのままの動きで俺に駆け寄り朗らかに笑った。
「お疲れ様ですっ、いま帰りですか?」
「うん。雛姫ちゃんは、これから仕事?」
「はいっ、しっかりお父さんの代わりを務めてみせます!」
 ガッツポーズを作り高めのテンションで言葉を交わす大鳥父の姿は、男女入れ替わりのギャグ漫画でしか見られない、とても貴重な光景だった。見た目の問題から萌えるまでには至らないが、ぼんやりと中身の『雛姫ちゃん』が見え隠れして俺も笑顔になる。
「頑張ってね。俺じゃ何も出来ないかもだけど、困った事があったら相談してよ」
「そんなっ、先輩には充分助けてもらってますし。お父さんのフォローまでしてもらって……」
 慌てて手を振り、俺への気遣いを忘れない。
 この子は仕方ないとはいえ、父親に自分のカラダを使われて何とも思わないのだろうか。思ってないはずは無いだろうが、マイナスの感情は不自然なぐらい欠片も見せようとしない。
(いい子だ……)
 そういうことにしておこう
「元に戻る方法、思いついたらお父さんに伝えておくから」
 葛葉さんの場合は解決手段も判明しているが、大鳥父娘の問題は山積みのままだ。
 二人のためにもなるべく知恵を絞るべきだと、俺は決意をあらたにした。



 階段から落ちる。電気ショックを受ける。曲がり角でぶつかる。くしゃみをする。あくびをする。酒を飲んで寝る。合わせ鏡に映る。写真を撮る。アプリを使う。オマジナイをする。神頼みをする。
 自室の本棚から引っ張り出したありとあらゆる入れ替わり手段を現実的なものに限ってピックアップし、雛姫ちゃん宛のメールに打ち込んでいく。
 十五個ぐらい挙げたところで、指が止まった。
「キス……と、エッチか」
 入れ替わって困っている親子に、この上近親相姦を示唆する情報を与えるべきだろうか。
 ハッキリ言ってかなり気まずい。悩んだ末、俺は最後の手段として但し書きをしてから後者の選択だけを消して送信した。
「全部ダメなら、もう俺に出来ることないぞ?」
 せいぜい傍にいて、今日のようなフォローを続けるだけだ。
 しかしそれは非常においしい立場であり、葛葉さんの件も含め、俺は今夜もエキサイトな夜を過ごすのだった。
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非公開コメント

No title

井澄ミストと申します。
おそらく初コメントだったように思いますが、表・裏ともに更新を楽しみにしています。

TSFな事象に巻き込まれた人たちを見つめる主人公の立ち位置を羨みつつ、ワクワクしながら読んでいます。

>見た目と言動がそぐわない場面に遭遇し、目の前の女の子は違う人間なんだということがひしひしと感じられる。
>後輩の女の子がさらりとそんな言動をしている時点で俺は大変満足だった。
>本来の彼女と違ってころころと表情が変わるのは新鮮

このあたりのフレーズを読んでいて強く同意しました。
普段と違うギャップが間近で堪能できるのがいいですね。

続きも楽しみにしています。

コメントありがとうございます

> 井澄ミスト さん
表裏ともどもお読みいただきありがとうございます。
リンクもありがとうございます。読むのが遅い上気の利いたコメントも添えられませんが、機を見てそちらの小説も拝読いたします。

フレーズへの同意ありがとうございます。
心の中でべらべらとうるさい主人公ですが、どうぞよろしくお願いします。

この小説が19金アニンゲ残念
プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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