TSS その5

ずいぶん放置した上に広告まで出てきたので
短いですが止まってた連作をアゲます。
もっと早めに終わらせるつもりだったのにどうしてこうなった…

入れ替わり父娘・憑依された巫女・女体化男子に囲まれたTS好きな男の物語です

トランスセクシャルシンフォニア その5


 誰も幸せにならなかった食事抜きのランチタイムを終えて、トボトボと帰路につく。
 普段通りなら気の向くままどこかしら寄り道するのだが、今はとてもそんな気分じゃない。女体化男子の告白に最悪の対応をしてしまったショックは大きく、いまだに俺の心をチリチリと苛んでいた。
「だって……あいつ、わかってねぇんだもん」
 誰に向けるでもない言い訳を、力なくつぶやく。
 本当に女体化男子が好きなら、目の前に現れた時点で捕獲、もとい保護をするべきだったかも知れない。違うよクソと怒鳴る前に、とりあえず付き合っていろいろレクチャーすべきだったかもしれない。
 時間がたてばたつほど後悔は重くのしかかり、足取りは重くなっていく。
「はぁー……」
「ふぅー……」
 ため息が、ちょうど曲がり角から出てきた人と重なった。顔を上げると、同じく俯き加減だった俺の方に目を向けた細身の眼鏡中年と視線が合う。
「あ、あれ、先輩。お疲れ様です」
 大鳥父……父親の身体になった雛姫ちゃんだ。
 警備員の制服を着て、やけに眠そうな顔をしている。今帰ってきたのだろうか。
「えへへ。実は、少し前にお仕事が終わって……ふぁ……あ」
 疲れているだろうに朗らかな笑みを浮かべ、それでも眠気には抗いきれなかったのか小さなあくびをする。
 高校生の俺や雛姫ちゃんでは、バイトをしても明け方まで働くなんてことは出来ない。ましてや太陽の下で汗水を流していたスポーツ少女にとって夜中の二時や三時なんて世界は完全に未知の領域だったに違いない。
 学生と大人の立場、昼と夜の生活。そして性別まで、二人の暮らしは完全に逆転していた。
 今までと全く違う環境に放り込まれた父娘の境遇は、俺の想像よりももっと大変なのだろう。同情めいた気持ちが湧き出るものの、それでも女の子と入れ替わった大鳥父は心底から羨ましいと思う。……という脳内はおくびにも出さず、やはり俺は普通の良き隣人として、当たり障りのない態度を保ち続けていた。
「眠そうだね」
「はいぃ……ちゃんと、休憩時間とかはあるんですけど……知ってますか先輩。誰もいないビルって、すごく怖いんですよぉ~」
「そ、そうなんだ……」
 中年男性が敬語交じりに少女っぽく喋る姿と仕草は、どれだけ中身が女の子だとわかっていても、目を覆いたい気分になる。
 頭の中でショートポニーの可愛らしい後輩をどれだけ思い描こうと、耳に残る枯れ気味の低い声がその幻想を砕く。入れ替わりモノでお約束の「くねくねオジサン」は、実際目の当たりにするとギャグでは済まされない部分が多くあった。
「お父さん、いつもあんな風に頑張っていたんですね……全然知りませんでした」
 父親姿の雛姫ちゃんは、そんな自分に嫌悪するでもなく、感慨深く呟いた。相手の立場になって初めて相手の事がわかる。これも入れ替わりのお約束だ。
 わだかまりのある親子なら関係改善も夢じゃない。もともと仲の良い大鳥親子なら、相手への思いやりは更に強まるだろう。
「元に戻ったら、今度から朝は起こさないように気をつけなきゃ……、あっ、帰ったらシャワー浴びたいからお風呂の用意も……」
 さらりとお風呂とかいうキーワードを出して平然としているあたり、もう男性の体に慣れたのだろうか。
 『今の自分』がして欲しいことを指折り数え、この入れ替わりで得た経験を最大限に活かそうとする雛姫ちゃんを、俺はとても逞しく思うのだった。



 部屋でスマホを見ていると、ちょうど葛葉さんからのラインが入った。
『明日、どうする?』
 前置きのないダイレクトなメッセージに思わず鼻白むが、すぐに用件を理解する。
「そっか、デートだ」
 女体化男子の衝撃で記憶から抜け落ちてしまったが、そういや明日は葛葉さんとのデートだった。正確に言うなら、彼女に憑依した男を成仏させるための一日デート体験である。
 昨日決まったばかりの上に昼間のことでプランも何もあったもんじゃないが、とりあえずアーケードにでも入れば遊ぶ場所には困らない街だ。
 文字通り天にも昇る最高のデートをプロデュースしたい気持ちはあったが、いかんせん経験不足である。そもそも俺は葛葉さんの中にいる男のことを何も知らない。
 疑問はさまざま、A6用紙に箇条書きにしてもまだ足りないぐらいあるが、どれか一つを選べと言われればなぜ男相手にデートをしたがるのかという謎に尽きる。女の身体になったら恋愛対象も逆転するのだろうか。
「なるようになる、か」
 ひとまず集合場所と時間だけ提案し、あとはぶっつけ本番にした。
 朝起きたら女の子になっていたという可能性もあるのだから、予定は未定の方が身軽に動ける。そんな言い訳で自分を説得し、俺は速やかに床に就いた。



 翌朝俺の目を覚ましたのは、けたたましいチャイムの音だった。
 スマホのアラーム機能が起動するよりも早く、家のインターホンが何度も何度もしつこく軽やかな音を鳴らしている。女体化メイドを雇う金も機会も持たない俺は惰眠を貪ることをしぶしぶ諦め、あくびをかみ殺しながら訪問者の顔を確かめた。
 目が覚めるような美少女が家の前にいた。
 まったくサイズの合っていない男モノの服を華奢な体にまとい、背中まである髪を指先でくるくるともてあそんでいる。
 それは、自分の理想とかけ離れていると言うだけの理由で一度突き放してしまった女体化男子高校生……同級生の司馬だった。
「……何してんの、お前」
 今度会ったら、自分の理想を押し付けてしまったことをわびようと思っていた。
 だが心の準備が全くできていなかった俺は、ついついそんな言葉を投げかけてしまう。ボーイッシュとも呼べない選択ミスの服装は、そのままするりと体から落ちてしまいそうな危うさがあった。
 隣家にいる後輩の女の子より凹凸があるからそう簡単には脱げないだろうが、女として成熟したスタイルを押さえ込む男モノのシャツやジーンズは別の意味で危険だ。
「お、おはようだぜ、桑倉! 僕……じゃなくて俺、女になったんだ!」
「いや、知ってるし」
 というか、なんだその、男の体になった女の子が無理やり男のフリをしているような喋り方。
「今から女物の服を買いにいくから、付き合ってくれ! べ、べつに、デートとかじゃないからな!」
 出来損ないのツンデレめいた台詞を吐いて、ちらちらと目配せをよこす。
 昨日、俺が言ったことを必死に勉強しなおして来たのだろうか。台本を読み上げているようなたどたどしさだが、努力は認める。
 だが、やっぱりわかっていない。
 女体化して服がないのはお約束だが、そこで女物の服を買いにいこいう選択肢はアリエナイ。女友達やノリの良い姉貴あるいは妹がムリヤリ着替えさせるのならわかるが、自主的に女物の服を買い求める時点で女体化男子失格だ。「スカートなんて履けるか!」と主張し、抵抗の末に最後は顔を赤らめて穿いてくれるのが大変グッジョブだと思う。
「……悪いが、今日は先約がある」
 昨日のこともあるので俺の持論は封印し、それでもきっぱりと断った。
 用事があるのは本当だ。
「そ、そっか……じゃあ、また明日ね」
 司馬は美少女顔を力無くほころばせ、背中に哀愁を漂わせながら立ち去っていく。
 もし葛葉さんとのデートが無ければ、買い物に付き合ったのだろうか。考えても仕方のない未来を想像し、ふと疑問がよぎった。
「……なんで俺の家、知っているんだ?」
 わずか二回しか会ったことのない男に、住所を教えるはずが無い。
 初夏の兆しを見せ始めた朝の空気が妙に冷え込んだ気がして、俺は背筋を震わせた。



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