ポゼッション・ビギナー

連作をほったらかしで突発的に短編を置いていきます。
表ブログに掲載しているので内容はライトです。


 現実は小説よりもよっぽど不思議なことに満ち溢れている。
 同時に、現実はフィクションのように都合よくもいかなかった。


 長年の苦労の末にようやく手に入れた憑依ドラッグ。その名の通り、他人の身体に乗り移ることができる、夢のようなクスリだ。
 俺には、女性への変身願望があった。同性愛者じゃなくても、異性の快楽に興味を持つのは当然のことだ。俺は人一倍、その興味が強かった。
 そしてついに手に入れた憑依ドラッグを、俺は迷うことなく口にした。錠剤を胃の中に流し込み、その数分後には強烈な眠気に襲われ……気が付けば俺は、ソファに座る自分の身体を見下ろしていた。
「ひゃっはー!」
 歓喜の雄たけびを上げ、さっそく壁抜けの確認をする。数多くのフィクションが描いていた通り、俺は何にもぶつかることなく、また、誰の目にも映っていなかった。
 念じるだけで体が勝手に動き、空中をさまよう。
 浮遊感が常に付きまとっているだけで、ほとんど肉体があった頃と変わらない。ひとしきり自由度を確かめ、俺はようやく本命を成し遂げるため街へと繰り出した。
 大通りを歩くたくさんの通行人を見下ろしながら、俺は女を物色する。
 やったことはないが、きっとナンパをするときと似たような心境だと思う。ただし、俺の場合は成功率100%だ。
 苦労して呼び止め、ムリヤリにでも相手を褒め称える道化になる必要なんかない。俺が気に入ったその瞬間、女は自分のモノになる。
 独占欲を満たし、同時にナンパ男達への優越感が味わえるのだ。
 そのうえ、相手の都合やツレを気にしなくてもいい。
 急いでいる様子のOLだろうが、彼氏持ちの女だろうが……ちょうど足元を通り過ぎた、年の離れた姉妹らしき少女がターゲットでも、関係ない。
 ワイシャツの上に黒のベストを着た、チェック柄のプリーツスカートを穿いた少女が、背丈の半分にも満たない小さな女の子の手を引いて歩いていた。
 女の子は少女に全幅の信頼を寄せ、お姉ちゃんお姉ちゃんと連呼しながら笑顔を見せている。少女も似たような顔をして、女の子のとりとめもない話に耳を傾けていた。
 少女ぐらいの年頃なら、べたべたと懐いてくる子供を鬱陶しく思いそうなものだが、そんな様子は片鱗すら見えない。第一印象そのままの、仲の良い姉妹で間違いないだろう。
「……ふふ、お姉ちゃんが急にエロくなったら、あの子、どんな顔をするかなぁ」
 人間関係も、その人物の立場すら、俺の思うがままにできる。
 憑依とはなんて素晴らしいのだろう。
 もちろん人目など気にも留めず、俺は制服姿の少女の身体に向かってダイブした。

「うぉろッ!?」

 すり抜けてしまった。
 漫画なら全身に衝撃が走り、今頃あの子の身体を思うがままに動かしている場面なのに、俺の身体は少女の服も皮膚も地面すら突き抜けてしまった。
「そんなばかな……」
 地面から顔を出し、遠ざかる少女の背中に向かって突進する。
 壁と同じく、するりと通り抜けてしまった。
「おいおいおいおいおいおいおい!」
 話が違う。
 身体を乗っ取れなければ、「憑依ドラッグ」などと名乗っていいはずがない。
 正面からキスをするように口の中を目指すが、何の効果もない。背中に手を差し入れるが、何の手ごたえも感じない。
 足元に潜り込んで、女性器から体内へ侵入しようとしても無駄だった。
 ならば次は耳から憑依だと意気込み、俺は空中からとびかかるように少女の右耳へと向かった。
「うぅっ!」
 待ち望んでいた、全身への衝撃。そして自分が、二本の足で地面に立っている感覚。
「はぁ……や……った……」
 俺は、ついに憑依ができた。
 ………………妙に視界が低かった。
「どうしたの?」
 俺の右手を引く相手が……俺のモノになるはずだった制服姿の少女が、不思議そうな顔をして俺を見下ろしていた。
 慌てて自分の身体を見下ろす。
 短い手足。男の頃と何も変わらない真っ平らな胸に、ぽっこりと膨らんだ小さなおなか。
「……ま、間違ったあああああッ!!」
 俺は、少女ではなく、女の子の方に憑依をしてしまった。

 よく「憑依成功だ」という台詞を聞く。まぁ、物語の中での話だが。
 ならこれは憑依失敗のパターンだろう。俺はあくまでも少女のカラダの方が欲しかったのであって、妹の方に興味はこれっぽっちもなかった。
 子供だが一応女には違いない。そう思って少女を振り切り、コンビニのトイレで早速身体検査を行ったが快楽のかの字も感じられなかった。
 乳首を摘んでも、縦筋にムリヤリ指を挿し入れてみても、痛いだけで全然気持ちよくない。
「ちっくしょう……!」
 子供の甲高い声で口汚く吐き捨て、トイレの床に脱ぎ捨てた服を着ていく。
 さっさとこのカラダから抜け出したいが、いくら念じても幽体に戻れなかった。
 だが、まだ希望はある。
「大丈夫? おなか痛かったの?」
 少女が腰を落とし、目線の高さを俺に合わせる。
 妹が別人に乗っ取られているなどと思いもしていないのだろう。頭を撫でる手は優しさに溢れ、温かかった。
 俺は少女の腕を掴み、幼いカラダの全力で彼女を引き寄せた。
 わずかによろめいた少女の唇に向かって、自分の唇を重ね合わせる。口を通り抜け、魂の移動を行うイメージを絶え間なく意識し、目を閉じて唇のもたらす感触に集中した。
 喉奥から、ずるりと何かが吐き出される感覚がする。
(やったか……!)
 キスを通じて憑依先の肉体を乗り換えるのは常套手段だ。
 俺は両目をゆっくりと開き、目の前を直視する。……目を閉じる前と変わらない、少女の驚いた顔があった。
 少女は俺から眼を背け、自分のカラダを戸惑った風に見下ろしている。
 服の中を覗き込み、周囲を見渡し、コンビニの中にも関わらずスカートを大胆にめくり上げた。
「……? なんで、あたし、おっきくなってるの? これって、おねえちゃんのお洋服?」
 舌足らずない言葉遣いで首をかしげ、俺の顔を不思議そうに見下ろす少女。
 ……どうやら、間違ってこのカラダの持ち主の方を移動させてしまったようだ。
「おねえちゃん? おねえちゃんどこ? おねえちゃああああん、うわーーーーんッ!」
 少女が人目もはばからず泣き喚き、幼いカラダに影響されてか俺も泣き出したい気分になる。
 乗り換えまで失敗してしまい、この体からは相変わらず抜けられない。
「憑依って難しいんだな……」
 ポツリと呟いた俺の可愛らしい声は、少女の号泣によってかき消されてしまった。






「憑依成功!」「乗り換え成功!」
そんな台詞はもちろん大好きなのですが同時に失敗することもあるのかと思いました。
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