T.S.S その7

入れ替わった父娘と、憑依された巫女と、女体化男子に囲まれた、TS好きな男の物語です
繋ぎの一話

トランスセクシャルシンフォニア その7


 朝目が覚めたら、女の子になっていた。そんな元・男の様子をじっくりと観察し悦に浸りたい俺ではあるが、自分自身の女体化願望がないわけじゃない。というかむしろなりたい。してくれ。
 だが世の中に溢れるさまざまな創作物では、往々にして女性としての苦労が描かれている。特に身だしなみに関して言えば、雑な男の生活からは到底考えられない時間を必要としているようだ。
 肌の手入れにブラの装着と調整。髪もキチンと梳かし、行動の一つ一つに気を配らなければならない。そういった苦労を含めて女の子になりたいと力説するタイプもいるが、俺はやっぱり特等席で眺める立場の方が良い。
 朝から家の前で待ち伏せをしていた美少女も、その容姿を維持するために見えないところで努力をしているのだろう。たとえ男子の制服を着て、わざわざ胸の第二ボタンまで開けていたとしても、だ。
「おはよう、タケノリくん!」
 美少女を包み込む幸福を賜った学生服は、袖やら肩幅辺りはぶかぶかなのに胸部だけが今にもはちきれそうなぐらい窮屈そうだった。ボタンを外した胸元は、白い谷間を惜しげもなくさらけ出している。
 呼び捨てなど、どうでも良くなる。そもそも下の名前は教えていないはずなのだが、その疑問も取るに足らないぐらい衝撃的な光景だった。
「……おはよう、司馬」
 元・男相手とはいえ女性の胸をガン見するほど図々しい度胸はなく、視線をそらす。
 そんな俺の気持ちを知ってか知らずかというか絶対知っててやってやがる女体化男子高校生は、満足そうに声を漏らした。
「んっふふー……やっぱり、君はこういう感じの女性がタイプなんだね?」
「何の話だ?」
「ごまかさなくていいよ。昨日、綺麗な女の人と一緒にいたじゃないか」
 言いながら、司馬は呆然とする俺の手を取ると自分の胸元に引き寄せた。まるで昨日の出来事を再現すかのような動きだ。
 急すぎる話の流れに、頭の処理が追いつかない。パニクっている間にも、俺の指先は徐々に学生服を押し上げる胸元へと導かれていく。
「いいよ……君が望むなら、僕はどんなことでもしてあげる」
「……ッ」
 俺は力任せに腕を引き戻し、手首に絡みつく女の子の指を乱暴に振り払った。
 あからさまな拒絶をされ、司馬が大きな目を皿に見開く。
「お前さ、そうやって男に都合の良い女になって……それで、俺が満足すると思うのか?」
「……え、え?」
 また怒られると思ったのか司馬は少し萎縮しているようだ。
 だが俺は、何よりも悲しい気持ちでいっぱいだった。
「女になった男っていうのはなぁ。なんていうか、自分を見失ったらだめなんだよ。自分は男だっていう自覚は、最後まで取って置くものだって言っただろ」
 エロ漫画でよくある快楽に溺れて「もう男に戻らなくていい」と思う展開にだって、結局は男の自覚がある。男としての意識があるからこそ、女の快感にハマるのだ。
 最初から女であることを受け入れ、女として男にアプローチをして、男の好みに合わせて自分を変えるようなヤツを、俺は女体化男子とは認めない。
「なんでお前が俺なんかが好きなのか知らないけどな。そうやって誰かのマネしているだけのヤツを、俺は魅力的に思わない。一番最初に会った男の司馬の方が、今のお前よりよっぽど可愛い……いや、男が好きって意味じゃないからな!?」
 釘を刺しておかなければ、今度は男の姿のまま迫ってきそうな予感がした。ここまで説明されてそんな手段を取るようなら、もはや手の施しようがない。
「…………わかった、よ」
 うなだれ、注意しなければ聞き取れない小さな声で司馬は返事をした。
 ふらりと進み始めた足取りは、とても弱々しい。
(……また傷つけちゃったか)
 遠のく背中が小さく見えるのは、体付きのせいばかりではないだろう。
 どうにも司馬との会話は相性が悪い。だが、俺は俺の信念を曲げるつもりはなかった。

「意外と女ったらしだねぇ、君は」
「うおおお!?」
 隣家のドアが開き、同時にトゲトゲしい女の子の声が俺に刺さる。
 現れたのは、制服姿の雛姫ちゃんだ。昨日に引き続き不機嫌なのか、栗みたいな口をして大きな目を尖らせている。
 そして今日も髪型が違っていた。
 左右の髪をまとめているので一瞬ツインテールかと思ったが、後ろ髪の部分をだいぶ余らせている。ツーサイドアップというやつだろうか。
「お、おはようございます……」
「おはよう。昨日は神社の巫女さんと街に出かけ、今日は別の女性と登校かい? どちらも綺麗な人じゃないか、男として羨ましいよ」
 全然感情の篭っていない少女の声でそんなことを言われてもいややっぱり大変ご褒美ですありがとうございます。
「忠告しておくが、遊びのつもりで私の娘に手を出してもらっては困るよ? ……まぁ、今はその心配はないか」
 憮然としたまま俺の鼻先に人差し指を突きつけてくる「雛姫ちゃん」。中身が男であろうがお構い無しに、むしろ中身男性だからこそエキサイトして襲い掛かる連中がいることは、知らないほうがいいだろう。
「それじゃあ、お先に」
 大鳥さんは終始ツンとした態度で俺から離れて行った。
 ……俺、何かマズイことしたかなぁ。



「【男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり】。これは、【男がする日記というものを、女の私もしてみよう】という意味ですね」
 古文の授業を右から左へと聞き流し、雛姫ちゃんや葛葉さん。そして司馬のことを考える。
 ここ一週間の俺は、人生で最高の日々を過ごしていた。
 入れ替わった父娘から頼りにされ、霊に取り憑かれた巫女さんとデートし、女に変身できる男からは愛の告白をされた。同じ趣味の仲間に今の状態を包み隠さず話せば、死なない程度に絞め殺されても不思議ではないほど満たされている。
 だが、問題もあった。
 急に不機嫌になった大鳥さん。何を考えているのかわからない亮祐。萌えるポイントをはき違う司馬。女になった彼らとの交流は、いい意味でも悪い意味でも俺を戸惑わせる。
「作者である紀貫之は男性ですが、女の視点で描かれる自伝風の物語は後世の物語に様々な影響を与えました。ここはテストに出ますので、ぜひ覚えておいてください」
「……はい?」
 おっとりした教師の言葉が、俺を急に現実へと引き戻した。
 世にも不思議なTSライフを送っていようとも、俺自身はただの男子高校生でしかないのだった。


「ってわけで、しばらく顔出せません」
 放課後になり、俺はまっすぐ光明神社を訪ねた。
 薄氷学園の中間テストは、五月の連休明けに行われる。つまりあと三週間も経たないうちに試験期間に入るわけだ。
 それだけあれば余裕そうな気もするが、休日にまで教科書と睨み合いなどしたくない俺のような人間にとっては実質一週間と少ししかないので今からしっかり勉強しておく必要がある。
 雛姫ちゃんや葛葉さんの問題をほったらかしにするつもりはないが、放課後の寄り道を控える程度には真面目に取り組もうと思った。
「ふむ、承知した。しかしまぁ、お主も義理堅いというか何というか」
 社務所の窓口越しに俺の話を聞いた神主さんは、伸ばしたあごひげを撫でながらしきりに頷いている。
「わざわざそれを知らせに境内まで上がってくるとはの。いや感心感心」
「いや、それは……」
 嬉しそうに目を細める老人の顔を見ていると、葛葉さんの様子を見に来たついでだとは何となく言いづらかった。
 肝心の本人は建物の中にいるのか、姿を見かけない。
「お主には世話になりっぱなしだからの。なぁに。葛葉のことなら心配はいらんさ」
 先日のデートは結果的に失敗し、孫娘の身体は乗っ取られたままだ。だというのに神主さんは明るく微笑み、俺に負担を感じさせまいとしてくれている。
「……役に立てなくてすいません」
「気にするなというのに。学生の本分は勉強であろうよ」
 そういい好々爺然と微笑む神主さんに、俺はもう一度深く頭を下げるのだった。



 神社からの帰り道、俺はまたしても出勤途中の「大鳥さん」と出会った。
「あぁ……こんにちはです、先輩」
 疲れを顔中に滲ませたまま、それでも朗らかに笑いかけてくる。
 慣れない身体と環境で大変だと言うのに、俺に気を遣わせまいとしてくれているのがひしひしと感じられた。
「調子はどう? 仕事は慣れた?」
「あははは、そーですねぇ……外が明るくなってから寝るのは、とても不思議な気分です」
 大鳥父の仕事は、ビルの夜間警備らしい。それほど多くの人と関わる必要はない職種だが、朝起きて河原を走るような暮らしを続けてきた元スポーツ少女に昼夜逆転の生活はかなり負担になっているだろう。
「俺にはこんなことしか言えないけど……がんばってね。二人が元に戻る方法、なるべく早く見つけるから」
「はいっ。よろしくお願いします!」
 両手でガッツポーズを作り、笑顔を見せる。そうした少女らしい仕草を見ていると、いろんな意味で手助けしなければという気持ちになった。
(……でもなぁ)
 大見得を切ったはいいが、入れ替わった二人が元に戻る方法なら最初のメールでほぼ伝えてある。大鳥親子もそれを実行に移し、失敗続きのまま今に至るのだ。
 時間が解決する場合もあるが、そろそろ二人が入れ替わって一週間になろうとしている。時間が経てば経つほど心と身体に違和感がなくなっていくパターンもあるので、あまり楽観視は出来なかった。
 だとしたら「あの手段」を、いよいよ視野に入れる段階かもしれない。
 元に戻るためには、セックスをすることだと、隣人の入れ替わり父娘に伝える必要が。
「……ねぇ、雛姫ちゃん」
「はい?」
 屈託なく微笑む眼鏡の中年男性に、一旦は声をかけたものの口ごもってしまう。
 この、人の好い父と娘に、近親相姦せよなんて台詞を伝えられるわけがない。言う方も聞く方も恥ずかしすぎるし仮に伝えたとしてもやるかどうか決めるのは当人達だし、万が一にも元に戻ったのならそれはつまり二人は結ばれたという下世話な想像力に火がついてしまうことは隠しようもないわけで俺も当人達も気まずい。一番最悪なのは、それでも元に戻らなかった場合だ。
 一生このままというのは二人が……特に雛姫ちゃんが可哀想すぎる。が、セックスで元に戻る保証はなくリスクばかりが大きい。
「…………お父さんと、仲良くね」
「? はい、もちろんです」
 悩みあぐねた末に、結局そんな言葉しか投げかけられなかった。
 


 動画を見て、教科書を開き、漫画を読み、ノートを復習する。そんな時間を三十分刻みで過ごしていくうちに、夜はいつのまにか更けていった。
「……だめだぁ」
 集中力が再び途切れ、俺は天を仰ぐ。これでもう何度目だろう。
 まだ三週間もあるので平気だと高をくくることも出来るが、どうにも集中出来ない。言い訳として使いたくはないが、やはり三人のTS少女たちが気になって仕方なかった。
 正直、俺の手に余る。
 夢にまで見たTSFの実現。考えられる限り最高のポジション。そこに間違いはないはずなのに、理想と現実とのギャップは離れていくばかりだ。
 贅沢者めと白山や六村からの罵声が聞こえてきそうな弱気が頭をよぎり、俺は思い切り自分の頬を叩いた。
「……ぃよし!」
 明るく人懐こい雛姫ちゃんの不機嫌な顔が、無口で無表情な葛葉さんの雑な振る舞いが、活力に変わる。
 気を取り直し、俺は再び勉強机と向かい合うのだった。






そろそろ共通ルート終了です
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Author:巫

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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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