T.S.S その8

入れ替わった父娘と、憑依された巫女と、女体化男子に囲まれた、TS好きな男の物語です
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トランスセクシャルシンフォニア その8


 眠気を堪えながらふらふら歩いていると、珍しく登校中の六村を見かけたので一緒に行くことにした。
 男子と並んで歩くことに抵抗はないのか、俺の隣で彼女は今日も元気に自分の性癖をさらけ出してくる。息巻いて喋るたびに六村の長いみつあみがひらひらと揺れ、まるで猫じゃらしのようだ。
「じゃあ、ちょっとレベルを下げるわよ? 女の子が男体化して、親友の女の子を襲っちゃう展開。男になった少女は己の欲望を制御できず、大切にしたいって思っていた女の子を肉欲のままに貪ってしまうのよ。これって、ゾクゾクしちゃわない?」
「レベル上がってねぇか!?」
 ちなみに俺達が歩いているのは通学路であり、同じ学園の制服を着た男女が山ほどいる。誰が聞いていても不思議ではないこの状況でそんな話を恥ずかしげもなく、むしろ嬉々として語らう妖怪みつあみ眼鏡には感心を超えて恐怖さえ覚えた。
 なぜこの女は見た目だけ優等生っぽいのだろう。これもギャップ要素のはずだが、まったくクルものがない。
「うーん、ブラックネタにも食いつかないかぁ……っていうかさっきからあたしばっかり喋っているのよねー」
「あー……お前とは個人的に誰の目も届かない場所でゆっくり話したいというか」
「やだなにそれ誘ってる!? 桑倉君のケダモノ!」
「ケダモノじみた講釈垂れていた口が言うか!」
 俺にしてみれば六村に羞恥心があったことが驚きだ。
 もちろん「そういう意味」は欠片もなく、単に時と場所を選べという話である。
「そーやってナチュラルに女の子を口説くのね。なんなの? ラノベ主人公なの?」
「誰が誰を口説いているんだよ」
「後輩の可愛い女の子に、同じ趣味を持ったの美少女と悪友。女の子の精神が入ったダンディなおじさままで、よりどりみどり」
「後ろ三つにまったく心当たりがない!」
 恋愛対象の半分が男とか、どんな物語だ。
「でもごめんなさい。あたし、あなたのことをそういう目で見れないの……」
「真面目に返事するなよ……なんかヘコむから」
 そんな感じで六村に弄ばれていると、ふいに強烈な視線を感じた。
 ゾクッと全身を駆け抜けた寒気に突き動かされるように周囲を警戒すると、見覚えのある男子高校生が正門の陰に隠れてこちらを窺っていた。厚底眼鏡の奥にある瞳が、恨めしそうに俺を睨んでいる……気がする。
「司馬……?」
「ん? なになにあの男の子。知り合い?」
 六村も視線の主に気付いたのか、俺の袖をクイクイと引っ張り司馬を指差す。気のせいか、その声が妙にはしゃいでいる風に聞こえた。
 声をかけようかと思う間もなく、司馬は回れ右をして昇降口へ走っていく。
「あー、行っちゃった……可愛い顔してたよね。男体化中の女の子?」
「…………女になれる男」
「まっじで!?」
 甲高い声を上げて騒ぐ六村を無視して、俺は教室へと向かった。



「the time for change has come。これは現在完了形になるから、強調するニュアンスもあるぞ。この場合は……」
 英語教師の声を聞きながら、意識はやはり別の事へと逸れてしまう。
 もしかしてとは思うが、司馬はストーカーなんじゃないか。
 名乗った覚えもない下の名前を知っていたり、教えたはずのない住所も知り、極めつけに葛葉さんとデートしていたことまで知っていた。偶然では済まされない情報量に、そんな疑いを持ってしまう。
(でも何でだ? 俺はあいつと会ったのは、ほんの一週間前だぞ)
 学食で相席して、コロッケを渡した。たったそれだけで惚れらたと言うならとんだ野良犬だ。
 テスト期間は刻々と迫っているのに、俺の悩みはちっとも解決する気がしなかった。


「タケ。メシ行こうぜ」
 四時間目の授業も終わり一息ついていると、白山の方から声を掛けてきた。隣には、いつもは女子グループに混じっている六村もいる。
「いいけど……珍しいな。六村も一緒なんて」
「当然でしょ。女の子になれる男の話。じっくり聞かせてもらうからね」
 冗談で流してくれるかもと軽く考えていたが、甘かった。
 呼吸を荒くして眼鏡をギラつかせる六村は、漫画に出てくる腐女子キャラそのままだ。対して白山はどこかやる気のなさそうな顔をしている。
「いやなぁ……女体化だろ? 他者変身じゃなくて、オリジナルの女の子になるんだろ? 他人の尊厳をぶち壊すって魅力がないし、憑依や入れ替わりと違って自分の行いは全部、自分に返ってくるんだぞ? そういうの、俺はイマイチ萌えないっていうかさぁ」
「お前、本当にクソ外道なのな」
 ニュースに出るようなことだけはやめておけと釘を刺したくなる畜生ぶりだった。
「何言ってるのよ! 可逆の性別反転なんて最高じゃない! 好きな時に女になれて、好きなときに男になる生活こそリア充の一歩よ! そしていつしか心は女の子に引っ張られていくんだけど身体が男のまま固定されちゃって、変身体質が治って良かったなって男友達が喜んでくれるんだけど素直にウンて言えなくて胸がズキッてして俺まさかってなって!」
「桑倉ー、客ー」
 エキサイトする六村を意にも介さず、廊下側にいたクラスメイトが声を掛けてくる。クラス替えから半月経ち、すっかり六村や白山の奇行にも慣れたらしい。
「じゃ、後でな」
「おー、なるべく早く来いよ」
 学食の席取りと六村の世話を悪友に丸投げし、クラスメイトが呼ぶ側のドアへ向かう。
「……こんにちは、センパイ」
 むくれた表情のまま、髪型だけが普段の短いポニーテールに戻った「雛姫ちゃん」が、そこにいた。



 話があるというので以前司馬に呼び出された[屋上]に誘い、誰もいないことを確認してから改めて向かい合う。
 大鳥さんは相変わらず目をすがめて俺を恨めしそうに睨んでいた。そういえば「雛姫ちゃん」の笑顔は久しく見ていない。
「さて、単刀直入に言おうか。……桑倉君、もう私たち親子のことは放っておいてくれ」
「はい?」
 小さな身体で腕組をして俺を見上げる少女は、苛立ちの篭った声でそう告げた。
「すまないが私にはね、君が私たち親子の問題に真剣に取り組んでくれているとは思えないんだ。君の方も忙しいようだし、これを機に私たちへ関わるのは止めて貰おうと思った」
「ちょ、ちょっと待ってくださいって! そんな急に……俺、何かしましたか!?」
「一昨日はストレートロングの巫女さんと遊びに出かけ、昨日はセミロングの美少女と朝から痴話ゲンカして、今日は眼鏡のみつあみ女子と仲良く登校していただろう! 女の子達と仲良くしてへらへら笑う君なんて、私は嫌いだ!」
 階下にまで声が響きそうなほど激昂し、最高に理不尽な宣言をしてくれる。
 俺は腹が立つよりも、戸惑うばかりだった。あの朗らかな大鳥父が自分の娘と同じ年頃の男にここまで感情をあらわにして怒鳴り散らすなど、夢にも思わなかったからだ。
「もっと私を……! 雛姫のことを…………お……ぉ……」
 さらに言葉を重ねようと気勢を上げていた大鳥さんの様子が、突然、見る見るうちに萎れていく。
 カラダを小刻みに震わせ、恐ろしいものでも覗き見るかのように目線を自分の身体に……スカートの方へと流した。
「あっ……やっ……」
 スカートの上から股間を押さえつけ、俺の視線も思わずそちらへ誘導されてしまう。
 陸上部で鍛えられた少女の白い脚。小さく丸い膝の上。スカートに覆い隠されていない太ももの部分。そこに、一本の赤い筋が流れていた。
「これ……って」
「…………四十年以上生きてきた。妻もいた。……知識としては当然知っていた」
 うなだれたまま「雛姫ちゃん」は感情を押し殺した声で呟く。
「予感はあった。アレも雛姫がカバンに入れてくれた。……だがなっ! 認めたくはないだろう! 父親のわたっ、私が……!」
 顔を上げて俺を睨みつける「雛姫ちゃん」の瞳は、大粒の涙で濡れていた。
「娘の、生理を経験するなんてッ! ひぐっ、ぐっわあああああああああああああああんッ!」
 男のプライドや父親の威厳もかなぐり捨てて、子供のように泣き叫ぶ。
 いくら人気のない場所とはいえ、ここは校舎の中だ。少女の泣き声が聞こえて人が集まらないわけがない。
「おお、落ち着いてください!」
 俺は慌てて彼女の小さなカラダを抱きかかえ、ムリヤリ口を塞いだ。
「ふぅぅぅんっ! ふふぅうううううう!」
「あーもー……」
 胸の中で泣き続ける少女のくぐもった声を聞きながら、俺は途方に暮れてしまう。
 こーゆー役回りは入れ替わり相手だろうにと、今頃は自宅で寝ているカラダの持ち主を逆恨みした。


 真昼間の校舎で流血して泣きじゃくる中身中年男性の少女をなだめ、俺はなんとか彼女を保健室まで運んだ。
「すんっ……ごめんなさい、センパイ」
 ベッドに横になりながら、泣き腫らした目で俺を見つめてくる。
「最近イライラしてて……それが全然、抑えられなくて……たくさん、ご迷惑をおかけしました」
 男では絶対に経験できないことを今も体験しているのに、「雛姫ちゃん」はそんな風にしおらしく謝ってくる。
 保健の先生がいるので「大鳥雛姫」らしく振舞ってはいるが、その言葉は大鳥さんの本心だとちゃんと伝わってきた。
「善意で協力してくれているのに、あの言い草はないよね。……もうイヤになっただろう?」
「大丈夫。本気で嫌われてないなら、これからも全力でサポートするから」
 それが単に趣味のためなのか、もっと別の気持ちが含まれているのか。
 今は判断できないけど、この親子を支えていきたいという気持ちだけは変わっていない。
「優しいね……君は」
 はにかむように一瞬綻んだ顔を布団の中に隠し、背を向ける。
「……少し、一人にさせてください」
 弱々しい少女の声に頷き、俺は保健室を後にする。
 廊下に出ると、ちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


「たーけー……」
「……忘れてた」
 昼飯を食いそびれたまま教室に戻った俺を迎えたのは、いやにツヤツヤとした六村の笑顔と白山の呪詛だった。



 体育館の清掃が終わり、俺は教室へ戻ることなく正門へ向かった。
 寄り道中止を宣言した次の日に友達とだべっていましたじゃ面目が付かない。理解を得づらい趣味趣向を分かち合える貴重な仲間だが、テスト前ぐらいはお互い勉強に励むべきだ。
「……い」
 しかし六村は意外と……というか見た目通りの優秀な成績を誇っていた。あんなモラルの吹っ飛んだ性格でも勉強は出来るのだ。
「おいっ、たら」
 中程度の成績だった俺は、TS少女達との出会いですっかり集中力を欠いている。いざとなれば、恥を忍んで六村に教えを乞う必要も……。
「おいこらっ! シカトすんなぁ!」
「ぐぇこっ!?」
 襟首が引っ張られ、絞められたニワトリのような声が出る。振り向くと、美しい顔で激昂する葛葉さんがいた。
 ファッションセンターで適当に見繕ったような地味目の服装だが、それでも彼女が持つ外見の美しさは全く損なわれていない。下校する生徒達の目は、男女問わず俺と葛葉さんに注がれていた。
「うっ……」
 好奇の視線とは一線を画した、今日二度目となる力強い眼光を感じ取り悪寒が走る。
 突き刺さるような視線の持ち主を探ると、やはりというか、校舎の窓からこちらを見下ろす厚底眼鏡の男子生徒がいた。
「く、葛葉さん……! とりあえず、歩きましょう!」
 謎の圧力に危険を感じた俺は、葛葉さんの手を取ると急いで校舎から離れた。
 殺意のこもった視線の数が飛躍的に増えた気がしたが、たぶん、勘違いだろう。


「いやな、買い物のついでに、ちょっと寄ってみたくなってさ」
 突然の学園訪問を問いただすと、葛葉さんはカラッとした笑顔でそう答えた。
 中身が男の霊だとわかっていても、本来の葛葉さんでは見ることのできないサバサバとした表情には思わず目を奪われてしまう。亮祐は一度、自分がどんな美女に取り憑いているか客観的に理解した方がいい。
「それよか、爺さんから聞いたぞ。テストが近いんだって?」
「そう、ですけど……」
 首肯すると、葛葉さんがますますニンマリと口角を吊り上げた。美人なのでどんな顔でも絵になる。
 通い慣れた道のりも、隣に誰かいるのといないのとでは大違いだ。特に葛葉さんのようなハイレベルの美女なら、信号の色すらやけに煌めいて見える。
 そんな俺の浮ついた気持ちを吹き飛ばすかのように、葛葉さんは胸を張って堂々と宣言した。
「しょうがねぇから、俺が教えてやるよっ」
「……何を?」
「勉強に決まってんだろ」
「……」
 幸福だった気分が急速にしぼみ、自分の口角が下がっていくのを感じる。
「あぁ? なんだよその顔。もしかして俺のこと、馬鹿だとか思ってたのか」
「ソンナコトアリマセン」
「ふんっ……! まぁ、疑うなら良いよ。無理には誘わねーよ」
 白々しい俺の返答がお気に召さなかったのか、へそを曲げてしまった。
 信号機の色が赤から青へ変わるまでの間、重々しい沈黙が続く。何かフォローを入れようと探るが、何も思いつかなかった。
 やがて機械的なカッコウが鳴き、立ち止まっていた人たちが一斉に動き出す。
「……お前さ。もう少し、人に頼っても良いと思うぞ」
 雑踏に埋もれてしまいそうな小さな声で、葛葉さんはそう呟いた。
「何でもかんでも自分一人で抱え込むなよ。俺じゃ頼りにならねぇってんなら、他の奴でもいい。友達とか、この前のちびっこでも、気晴らし相手にはなるだろうよ」
 まるで俺の悩みを見透かしたかのような言葉だ。
 葛葉さんは勉強のことを言ってくれているはずなのに、どうしてか入れ替わり親子や憑依巫女、女体化男子との付き合いに息切れを起こしかけていた俺へのアドバイスに聞こえる。あるいは、そうやってこじつけようとするぐらい俺は限界だったのかもしれない。
 一つ一つ賞味するにはご馳走すぎるシチュエーションだが、一度に表面化されると食傷してしまう。贅沢な悩みだと殴殺されるのも覚悟で、俺は打ち明けるべきかもしれなかった。
 同じ趣味を分かち合う、友達に。



 雛姫ちゃん。
 風呂場で頭をぶつけ、父親と入れ替わる。同じ手順や、その他俺の知るさまざまな入れ替わり方法を教えるが効果なし。人の好い父親と素直で可愛い後輩のためにも、早く元に戻してあげたい。
 葛葉さん。
 神社の巫女さんで、亮祐と名乗る男の霊に憑依されている。無口無表情で神秘的だった本来の彼女の面影はなく、気さくで付き合いやすい女性へと変わった。悪霊の類ではなさそうだが、このまま憑依状態が続けば心変わりも危ぶまれる。
 司馬。
 一週間前に出会った、女になれる男。なぜか俺の事が好き。TSの基本を理解していない。

「……こんなもんか」
 ラノベの設定資料を眺めているような気分でTS少女達の情報を羅列したメールを確認し、白山と六村の二人へ送信する。
 これを読んで、普通の人なら何の冗談だと笑い飛ばすだろう。しかしあの二人は違う。
 フィクションでしか存在しないトランス・セクシャルに本気で興奮し、実現すれば良いなと妄想を日々逞しくする……俺のご同類だ。
「さて……俺もがんばろう」
 昔の格言でも、知恵を出し合うのが三人いれば妙案が出るとかいう言葉がある。
 一人一人、確実に解決しよう。


 その夜。
 街のど真ん中で、全く別の場所から同時に狼の遠吠えのような声が発生したらしい。





次回から雛姫編・葛葉編・司馬編に突入
一本道でまとめるか分岐個別シナリオにするかは未定です
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巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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