T.S.S その11

久しぶりに更新。春の間に終わる気がしない…


入れ替わった父娘と、憑依された巫女と、女体化男子に囲まれた、TS好きな男の物語です
憑依巫女攻略完了


前回のあらすじ
憑依された巫女と二度目のデートをすることになりました
トランスセクシャルシンフォニア その11


 テスト前だと言うのにこんなことしてていーのだろうか。
 前回と同じく駅前のロータリーで亮祐の到着を待つ俺の脳裏に、ふとそんな疑問がかすめた。
(まぁでも、連休を挟んでからだし……間に合う間に合う)
 中間試験は大型連休が完全に終わってからすぐに始まる。逆を言えばまだ一週間ぐらいは猶予があるし気分転換は必要だと自分自身を説得し、二度目のデートに赴いたわけだった。
 連休初日のためか人通りは普段の倍以上に膨らんでいる。
 はしゃいだ声を上げて駅に向かう家族連れ、手をつないで点描オーラを醸し出すカップル。楽器と思わしきバッグを背にした男女混合のグループは合宿へ向かう途中だろうか。性別も年齢も問わずロータリーを行き交う顔ぶれは揃って穏やかな表情を浮かべ足取りも軽い。
 そんな喧騒の中でもなお人目を引き付ける、長い黒髪をたたえた女性がいた。すれ違う男たちの視線をことごとく吸い寄せる美貌の持ち主は、迷いなく一直線に俺の元へ向かってくる。
「よっ」
「お、おう」
 互いに右手を掲げ、十年来の友人のような挨拶を交わす。年上の女性と気さくに言葉を交わした経験なんてほとんどないため、少しだけぎこちなくなった。
 亮祐の服装は、前回と同じパンツルックだった。白いジーンズが脚にぴったりとフィットして、その細さや長さが一目でわかる。淡い朱色のシャツにノースリーブのベストをつけた、巫女服とは逆の配色を行くファッションだった。
「ちゃんと持ってきたか? 忘れたりしてねーだろーな」
「平気だって」
 ほら、と見せ付けるように肩の荷物を担ぎなおす。
 水着を持って駅前に集合……そんなセリフでデートに誘われれば、行き先は一つだ。
 季節を少々先取りしすぎな気もするが、そんなものお構いなく亮祐は駅に向かって歩き出すのだった。
「よしっ、さっさと行こうぜ!」
「おー……」



 電車を使って三つ先の駅。特にこれといった特徴もなかった田舎駅だが、一年ぐらい前に大型のスポーツジムが出来てからはそこそこ賑わっている。
 テニスやゴルフ、空手やヨガなどさまざまな設備が用意され、当たり前のように温水プールもあった。
 50mのコースが10コも並んだ大型プールには、シーズンオフにもかかわらず大勢の人が泳いでいる。
 フィットネス中の年配者やスイミング教室らしき小学生の集団を、壁際のベンチに座ったまま俺はぼんやりと眺めていた。一応ここはスポーツ施設だからか、ゴムボートを浮かべて遊んでいるような人間はさすがにいない。
「泳がねーのか?」
「……ぅぉ」
 いきなり視界に入ってきた濡髪の美女に、思わず声が出てしまう。
 ありていに言って、「葛葉さん」は抜群のプロポーションだった。
 出るところは出て、引き締まるところはキュッと引き締まっている。女性らしい腰のくびれは非常に蠱惑的で、競泳水着が体のラインをいっそう際立たせていた。
 平均男子と同じぐらいある上背も手伝ってか、純和風な顔立ちにもかかわらずどこか外国のモデルを思わせる美貌の持ち主だ。
 男だと名乗る人物がそんな魅惑の肉体を動かし、さらにはきちんと女性用の水着を着ていることにドキドキする。女だけに許されたファッションを男が完璧に着こなしている光景は、世界の法則が乱れたような倒錯的な気分になる。
「なんだよ、じーっと何見て……ははぁん?」
 俺の視線の先をたどった「葛葉さん」……もとい亮祐が、何か悪戯を思いついたような顔で片眉と口端を吊り上げた。
「にしてもよー、女の身体ってのは、すげぇもんが付いているよな」
 言いながら、おもむろに両手を自分の(葛葉さんの)胸に添え、持ち上げる。
 水着越しに浮かび上がる胸の曲線が、か細く滑らかな女性自身の指先によって形を変えていく。その光景を、全集中力をかけて俺の魂に刻む。
 女の胸を堂々と凝視する男という汚名も辞さないつもりだった。そのぐらい、セルフ乳揉みの絵面には夢と希望が詰まっているのだ。
「……いや……なんか……そういう目されるのって……怖いな」
 俺の反応を見てか、パッと胸から手を離し、笑顔を引きつらせる。自分から煽って来たわりに煽り耐性は低いようだ。つくづく言動が一致しないというか、後先を考えていない男である。
「う……あーもう! ジロジロみんな、この変態!」
 ラブコメみたいなセリフを叫び、水着美女は再びプールに向かった。
 鈍感主人公なら首をかしげて終わるシーンだが、俺はむしろ積極的に亮祐の後を追いかける。
「んなっ! ついて! くんな!」
 クロールをしながら、器用に喋る亮祐。
 俺もクロールで横に並び、息継ぎをするときにちょうど向かい合わせになるように調節した。
「お前から、誘ったんだろうが」
「う、うるせぇぇ!」
 ターンの際にバタフライへと泳法を切り替え、スピードを上げていく。
 男の意地もあり、俺はそんな亮祐が疲れ果てるまで並走した。
 他の客にしてみれば迷惑極まりない二人だったろうが、楽しかった。


 体中がふやけるほど水に浸かった後、俺たちは再び電車を使って別の街へ繰り出した。
 降りたのはごく普通の駅だ。無人駅というわけでもなく乗降人数もそこそこいたが、どこか閑散とした雰囲気がある。
「どこ行くんだ?」
「んー、まぁ、お楽しみってやつだ」
 役所の案内板どころか、量販店の広告すら見当たらない田舎駅に、いったい何があるのか。
 振り返る亮祐の表情はプールを出てからずっと上機嫌で、真意は読み取れない。

 さらにバスを乗り継ぎ十数分。
 俺と亮祐は、とある停留所で降り「そこ」に到着した。
「ここは……」
 オレンジ色に染まった日差しを反射するのは、均等に並べられた沢山の石。
 ひとつひとつに文字や人名が彫刻され、夕焼けのせいばかりでは決してない物悲しい雰囲気がこの場所を支配している。
「……神社の巫女が寺にいるってのも、変な気分だよな」
 冗談めかして言いながら、亮祐は一つの墓石の前で立ち止まり、腰を落とした。
 そのまま静かに目を伏せ、両手を合わせる。それが誰の墓かなんてのは、説明されるまでもない。
 俺も、亮祐の隣に立ち、同じく目を閉じた。花も線香もない、黙祷だけの時間が、夕暮れと共に静かに過ぎ去っていく。
「…………うん」
 少しの間。わずか一分程度の沈黙は、納得するように呟いた声で打ち破られた。
「ここな、俺の墓なんだ。……幽霊になってうろうろしてたとき、親父たちがここで手をあわせてたのを何度も見た」
「そっか」
 目の前で俺と喋っている『五条亮祐』の名前は確かに墓石に刻まれ、これでほぼ亮祐が「葛葉さんの生み出した別人格」という可能性は消えた。
 正真正銘の「憑依された女」が目の前にいる。とはいえ、こんな場所ではテンションも上がらない。
 俺の口から気の利いた台詞はついに出てこなかった。
「俺さ、お前に嘘ついてた事があるんだ」
「ウソ?」
「あぁ。……聞いてくれるか?」
 それから亮祐は、ポツリポツリと『五条亮祐』だったときのことを話した。
「俺、バカみたいに真面目でなぁ……。信じられねーだろーが、学年で一番勉強が出来るやつだったんだぞ」
 成績優秀で、テストの順位は必ずベスト3に入っていたという。
 だが放課後は塾へ、休みの日も家に篭って勉強をするか図書館に出かけるかの生活しかしてこなかったため、友達と呼べる人間はいなかったらしい。
 学校と塾と家をローテンションし、誰とも交流を持たずひたすら勉強に打ち込んでいた男は、ある日突然、破裂した。
 友達と呼べる存在のいない自分がひどく空虚なものに思え、これまでの真面目な生き方に疑問を抱くようになったのだ。
 亮祐は慌てて友人を作ろうとしたが、気付いたときには既に高校三年の受験シーズン。クラスメイトは殺気立ち、有名大学への推薦を決めていた亮祐を完全に八つ当たりだが敵視すらしていた。
 そもそも勉強漬けの毎日だった男はコミュニケーション能力が極端に低く、ごくまれに話に付き合ってくれる人間を捕まえても会話がほとんど続かなかった。
「学校以外の奴等と仲良くなろうと、ゲーセンとかにも良く行ったよ。……ま、ゲームの腕が上がるだけだったけどさ」
 粗暴な振る舞いや言葉遣いは、そこで学んだらしい。キャラ崩壊もいいところなので、最後まで人前で今のような喋り方をすることはなかったようだ。
「タイコでわいわいやってたカップルとか特に羨ましくてさぁ……友達だがダメなら、彼女を作ろうって思ったりもしたけど、それも無理でさ。このまま、大学に行ってもひとりぼっちなんだろうなって思ったら、ホント、死にたくなってきてよ……」
 これまで明るかった声が、徐々にトーンを落としていく。
 俺は、『五条亮祐』がどんな結末を選択したか想像しかけた。
「あ、自殺とかはしてねーからな? 家に帰ってた途中で、フツーに交通事故にあっただけだから」
「そ、そうか」
 先手を打つように俺のありきたりな想像を否定し、再び声に活力を戻す。
「ま、そんな気分のまま死んだせいか、ずっと心残りだったんだよな」
 誰かと一緒に遊び、恋人のような時間を経験してみたい。
 それが、死んでなお残った亮祐の、たったひとつの願いだった。
「お前とのデート、楽しかったぜ。女の立場だったのが、ちょっとだけ残念だけどな」
「亮祐……?」
 振り返った『葛葉さん』の顔には、やりきったようなサッパリした笑顔が浮かんでいた。
 それだけで、俺は全て察してしまう。
「俺、そろそろ行くわ」
「…………ああ」
 亮祐は、満足したんだ。
 望みが果たされた幽霊が進む先は、成仏という名の別れだった。
「あ、最後にもう一つ」
「うん?」
 何だ、と思う間もなく『葛葉さん』の顔が迫る。
 潤いを帯びた唇がすぐ目と鼻の先に映り、俺は体中からぶわりと汗を吹き出した。
 目を瞑り、全身を硬直させる。
 小さな吐息がそのまま俺の鼻先をかすめ、イタズラを仕掛けるような『彼女』の声が耳元で囁かれた。
「葛葉が俺にカラダを貸してくれたのって、どうしてだと思う?」
「……は?」
 カラダを、貸した? 葛葉さんが? 亮祐に乗っ取られたって話じゃなかったか?
 疑問が津波のように押し寄せ、思考が追いつかない。
 フリーズした俺の隙を見計らったように亮祐は身を離し、ニカッと笑った。
「じゃあな、親友」
「ちょ……!」

 その言葉を最後に。
 俺は二度と、亮祐と会うことはなかった。

***

「……」
 亮祐の魂が抜けた葛葉さんは、相変わらず無口だった。
 日の落ちた光明神社まで戻る道すがらに彼女の口から出てきた言葉は、「お疲れ様でした」と「帰りましょう」だけだ。
 憑依されていた間の記憶とか、亮祐が最後に残した言葉の意味とか、聞きたいことは沢山あるのだが、沈黙を続ける彼女の背中に気後れしてしまい何となく切り出せずにいる。
 やがて階段を登り終えると、久しぶりに見る感情に乏しい顔つきの葛葉さんがじっと俺を見つめてきた。
「…………送ってくれて、ありがとうございます」
「い、いえ。こっちこそ、いろいろお世話になりました」
「それは、私の台詞……です」
 たどたどしく話す葛葉さん。本来の彼女はこっちなのに、どうしても違和感を抱いてしまう。
 だがそれもやがて消えていくだろう。
 亮祐と過ごした日々は少しずつ薄れ、俺にとっての葛葉さんは今の状態が正しいものになる。
(死んだ奴の憑依って、悲しいものなんだな……)
 短期間で親しくなり、それでいて別れる時はあっという間だ。
 俺を親友と呼んでくれた男を、いつまで覚えていられるだろうか。
 少し方向性は違えど同じ趣味を持つ白山や六村のことが、ふと脳裏に浮かぶ。
 今度会ったら、あいつらにもう少し優しく接しようと思った。
「あの……桑倉、くん」
「はい?」
「……えと……いっぱい、迷惑掛けてごめんなさい……その、私でよければ、力になるから」
 葛葉さんの言葉で、自分がまだ問題を抱えていたことを思い出す。
 入れ替わった父娘。女体化ストーカー。
 この二つにも、俺はいずれ決着をつけなければならないのだ。
「……ありがとうございます。なんかあったら、相談させてもらいますね」
「う、うん……それじゃあ」

 またね、と手を振り、社務所に向かって歩き出す。
 薄暗がりでよくわからなかったが、彼女はほんの少し、微笑んでいたように見えた。



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・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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