T.S.S その12


入れ替わった父娘と、女体化男子に囲まれた、TS好きな男の物語です



前回のあらすじ
憑依された巫女は脱落しました
トランスセクシャルシンフォニア その12

 巫女さんに憑依していた霊が成仏し、めでたしめでたし、とはならなかった。
 差し当たって早めに解決するべき問題は、自ら望んで女体化している男ではなく、事故で体の入れ替わった父娘だろう。
 しかしどうしたものか。入れ替わりの対処法はすでにネタ切れだ。
 時間経過か、それこそ怪しげなアイテムや装置の力に頼るしか思いつく手段がない。
 目覚めの一発目からそんなことばかりを考えつつ朝の仕度を終え、玄関のドアを開ける。
 真正面に、美少女モードの司馬が立っていた。
「おはよう桑倉く」
 そっと扉を閉じた。
「え、ち、ちょっ、ひどいよ! なんで!?」
 ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャと狂ったようにドアノブが回される。
「どうして、ねぇ開けてよ開けて開けて開けて開けて開けてなんで閉めるのおおおおお!?」
 少女特有の金切り声が扉一枚を隔てて響く。近所迷惑だとか考えるよりもまず恐怖が全身を支配した。夜なら完全にアウトだ。
 何でこの男はいつもホラーチックなんだよ。こえーよ。
「な、何の用だよ!」
 おそるおそる扉を開け、隙間から外の様子を窺う。念のためドアチェーンを掛ける事は忘れない。
「桑倉君! た、大変だよぉ!」
「奇遇だな! 俺もたった今身の危険を感じている!」
 司馬は隙間に指をかけ、むりやりドアをこじ開けようとしている。よっぽど挟んでやろうかと思った。
「あ、あのね僕、元に、男に戻れなくなっちゃった!」
「……え」
 その台詞を一瞬疑ってしまったのは、司馬のこれまでの振る舞いにも原因があると思う。
 しかし結局のところ俺はお人好しなのだろう。恐怖はたちまち相手の心配へと変わり、詳しい事情を聞くことにした。


 自由意思による変身は、いろいろと枝分かれするTSの中でも上位に入るお気軽さだ。
 憑依や他者変身の場合、他人の肉体を弄り回すという負い目や背徳感があるのだが(白山なんかはそうした感情も含め憑依の醍醐味だと熱く語る)、自分自身を対象にした性別変化は純粋に女の子を楽しむことができるパターンと言える。
 誰にも迷惑かけず、好きな時に女になり、好きな時に男に戻る。女になっているときに親友とばったり会って惚れられてしまう、なんてストーリー展開もセットでついてくる、一番ライトな方向性だ。
 しかしノーリスクとは言い切れず、他と比べて目立たないがトラブルにつながる可能性は秘めていた。
 すなわち、不可逆現象。女になったまま元の身体に戻れなくなる状態だ。
 見る側のTS好きにしてみればそれこそ王道中の王道。そこから揺れる人間関係などを描き、最後に元に戻るか女のままでいるかが問われる漫画や小説は世の中にあふれている。
 しかし女体化した本人にしてみれば大事件であり、いままでお気軽だった分パニックになりやすい性質もあるのか、とにかく打たれ弱い。
「どうしよう……僕、どうしたら……」
 ヤンデレ女体化男子が正座して落ち込む姿は、いままでの怪奇的な振る舞いを清算するぐらいしおらしい。
 美少女がしょんぼりする様子は、同情のひとつもしたくなる。
「親には話したのか?」
「話せるわけないよぉ。今朝だって、見つからないようにこっそり家を出たんだから」
「ふむ……」
 こんな状況でも家族には秘密にしたままか。
 思ったより根は深そうだった。
「じゃあ、原因を考えようぜ。たとえば昨日は何していたんだ?」
「うーんと……電車に乗ってスポーツジムで泳いで、お墓参りして神社に行ったよ」
「昨日の俺のデートコースじゃねぇか!」
 え、なに、ずっと尾けてたの? 怖い!
「僕がいるのに浮気するなんて……ひどいよね、君は」
「俺たち別に付き合ってないよな! その犯罪者一直線の考え方いますぐやめてくれ!」
 同情しかけた気持ちが嘘みたいに消えていった。
 ヤンデレに甘い顔をしたらダメなんだと学べた、貴重な朝の時間だった。


 顔を突き合わせていても原因は見つかりそうにない、というか、いつまでも司馬と二人きりでいることが耐えられず、俺たちは家を出ると神社に向かった。
 学校の方は遅刻だが、そこはもう、諦めるしかない。司馬を放置しておくと何をし始めるかわかったものじゃないという恐怖も手伝ってか、俺は早々に今の問題を解決したかった。
 川沿いの歩道を歩き、長い石段をのぼり、ようやく境内に入る。ライフワーク化している俺には大したことのない道のりだが、女体化男子にはつらかったのか司馬の息が上がっていた。
「だ、大丈夫か? つーか、昨日もここに来たんだろ?」
「ぜぇ、ぜえ……き、昨日は、男に戻って、登ったし……ふぅ、それより君、歩くペース早いよぉ」
「うーむ……」
 確かに男と女じゃ、体力も歩幅も全然違う。
 TS的なカノジョができた時には、そのあたりに気を遣える男になりたいものだ。
「あ……」
 砂利を踏む音と小さな声に振り向く。
 社務所の陰から現れたのは、巫女装束姿の葛葉さんだった。手には鏡餅を載せるときに使うような、木組みの台を持っている。
「こんにちは、葛葉さん」
「ん……いらっしゃい」
 無表情で、とても平坦な抑揚。それでもそこはかとなく言葉尻が柔らかく感じるのは、俺の気のせいだろうか。
「あ、昨日のビッチ、ぶぇっ!」
 殴っておく。美少女の姿だろうが、元男なら容赦なしで良い。
「巫女さんに向かって何言ってんだお前は」
「うぅ、いたいよぉ……これはもう、大好きな君に頭なでなでしてもらわなきゃ完治しないかも!」
「もう一発行くか?」
 なんだろう。女の子に手を上げる行為は良くないと分かっていても、相手が司馬だとそんな気持ちが失せる。徐々に遠慮がなくなっているのかもしれない。
「……誰?」
 葛葉さんは小首をかしげ司馬の紹介を求める。初対面の彼女から見れば俺が美少女にいわれのない暴行をしているシーンなのに、まったく物怖じする様子がない。
「えーと……葛葉さん、これ、女に変身できる男です」
「紹介テキトーすぎない!?」
 文句を言う司馬を無視して、自分の意思で性別をころころ変えられる体質や、女になったまま元に戻れなくなったことを話す。
 普通なら鼻で笑われそうな話だが、男に取り憑かれていた経験を持つ巫女さんはあっさりと受け入れてくれた。
「事情は、わかりました。…………お祓い、してみる?」
「はい、お願いします」
「僕の意思とかガン無視されてるんだけどー?」
 体質の一言で言い切ってしまう変身がお祓いで改善するとは思えないが、上手くいけば儲けものだ。司馬が終わったら、大鳥親子のことも相談してみよう。
「わかりました。……では、おじい……神主と一緒に、相談してみます」
「はい、よろしくお願いします」
「無駄だと思うけどなぁ……」
 不服そうな司馬を葛葉さんに預け、俺は改めて学校に向かう。
 今から行けば、昼ぐらいには間に合いそうだった。



 昼休みの喧騒にまぎれてしれっと教室に入ると、待ち構えていたかのように白山と六村の二人が近寄ってきた。
「こんな時間から来るとはな……てっきり通学中に美少女と入れ替わって情報交換していると思ってたが」
「中身が田舎の女子高生とかになって、慣れない都会に迷って遅れたと思っていたわ」
 TS好きを自負する友人二名は今日も絶好調だ。亮祐との別れを経験したせいか、いつもなら適当に聞き流す台詞すらかけがえのないものに思えてくる。
「とりあえずメシ行こうぜメシ。今日は六村も一緒だぞ」
「ちょっと聞きたい事がね」
 まがりなにりも女子である六村は、俺や白山と行動を共にすることは実はそう多くない。
 眼鏡をキラリと輝かせて宣言する様子には、ちょっとした嫌な予感すら抱くわけだが……。
「俺もだ」
 女体化したまま戻らなくなった司馬のことをどうするか、この際だから二人にも相談してみよう。
 持つべきものは友達である。


 屋上前の踊り場で弁当やら購買パンを並べ、まず最初に俺から話を始めた。
「憑依が、終わった……?」
 葛葉さんが憑依状態から解放されたと聞き、白山はこの世の終わりみたいな顔をしている。
 男だと思い込んでいる説を唱えてはいたものの期待はしていたのか、かなりショックを受けているようだ。何を期待していたのかは、考えないでおこう。
「なんてこった……成仏? 成仏だって? あんな美女に憑依しておきながら、あっさり未練断ち切って『じゃあね』なんて、そんなわけあるかぁ! 『これからは俺がお前として生きてやるよ』エンド以外ありえないだろ!」
「お前の黒さを基準にすんじゃねぇよ!」
 そういうのが苦手な層だっているんだからな! 俺とか!
「それでそれで? お別れのキスぐらい、したんでしょうね?」
 一方で六村は目を輝かせてさらなる期待をしている。
 俺は首を横に振ると、亮祐が最後に残した謎めいた言葉を二人にも伝えた。
「亮祐が言うにはさ、葛葉さんはわざとカラダを貸していたんだって……意味、わかるか? 俺は、失敗して事故で憑依されたって聞いてたんだけど」
「意味も何も、言葉通りだろ」
「はぁ?」
「そうね、その葛葉さんって人には目的があった。それを叶えるには男の霊に憑依される必要があったのよ」
「そしてその目的は、他の奴に知られちゃマズイってことで、お前は嘘の原因を教えられた。そんなところだな」
「…………まじか」
 なんだろう。なんというか、信頼していた人間に裏切られたような、ぞっとしない気分だった。
 もちろん俺に迷惑をかけたくなかったとか、いくらでも好意的な解釈は出来るが、しかし……。
「まぁ、どんな目的かまではわからねぇけどさ」
「それより桑倉君。今日、シバちゃん来ていないの?」
 六村が話題をシフトさせ、神社サイドの思惑は結局うやむやのままになった。
 放課後、改めて話を聞いてみよう。
「あいつは男に戻れなくなったらしい」
「!」
 みつあみを振り乱し、六村が前のめりになる。
「女の子になったまま?」
「あ、ああ」
「原因はわからないのね?」
「まあ……」
「オーケー。二人は幸せなキスをして終了しなさい!」
「打ち切り感ハンパねぇな!」
 おそらく女体化したまま戻らなくなった司馬を俺がかいがいしく世話をしてそのうち俺も司馬に好意を持つようになって「僕男だよ?」「関係ないぜ」とか言いながらキスをしてエンディングテーマが流れるような妄想でもしたに違いない。
 ……1ミリもずれている気がしない自分の想像力が逆に嫌だった。
 女体化した司馬は結構俺の好みだったりするので、一歩間違えれば現実になりかねない。
(気をつけよう)
 女体化男子と恋人関係になるなんてTS好き冥利に尽きるが、相手は選びたかった
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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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