ぞっこん2-8

長編のTS小説 第二部第八章

入れ替わった少年少女の話です。なんとはなしに続けています。


ぞっこんショット!2-8

 今日最後の授業枠を使ったロング・ホームルームで、藤のクラスは模擬店の準備を着々と進めていった。
 具体的に言うと、妲己も泣いて首を振りそうなほどきわどいスリット入りのチャイナ服が、一着また一着とこの世に生み出されていった。
 だがいまは教室中の人間が作業の手を休め、対峙する二人の男女を遠巻きに見守っている。
「スリットはギリギリが重要なんだよ、ギリギリがっ!」
「だから、ギリギリでアウトしているじゃないのさ。ギーリーギーリーアーウート」
 頭の痛くなりそうな激論を交し合う二人を眺めながら、俺は事の起こりを思い出す。
 はじまりは、大和の発案からだった。
 いまでさえありえないぐらい短いというのに、この上さらにスリットを短くしようというその発言に、ついに奨励祭実行委員の男がキレたのだ。
『振る舞いには注意するようにって、風紀委員から言われているんだ。ハレンチすぎる!』
 とまぁ、非常に好感の持てる真面目クンぶりを発揮してくれたまではよかったが、問題はそのあとである。
『そして大和よ、お前はギリギリセーフの美しさを何もわかっていないっ』
 なんのことはない。この男もまた、藤や大和サイドの人間だっただけだ。
 藤といい大和といい実行委員といい、このクラスにはずいぶんと頭の腐った人間が多い。前にチャイナのコスプレは藤の提案ではないと言っていたが、なるほどこんなクラスメイトどもではたとえ藤がいなくとも同じ結果を導き出したろう。
 俺は目眩を堪え、耳を塞いでしまいたい気分でざわめきの中に身を置いていた。
 ついでに言うと頭痛の原因はこの教室だけではない。壁越しからも男女入り混じった歓声が聞こえ、なぜか俺の名前が褒め称えられている。
「おおーーっ! シビレルゥ!」
「鷹広ぉっ。お前はいつかやってくれると信じてたぜ!」
 ウチのクラスの企画は幕末についてのレポート展示だし、面白味なんてどこを探してもないはずなのに、この異様なほどのエキサイトモードはなんなんだ。
 肝心の〝俺〟の声は、どういうわけかまったく聞こえてこないし。
「いやっほーっ、鷹広最高ーっ!」
「絶対領域って言葉、知っているか? 出せばいいってもんじゃないんだよ」
「じゃあ委員長は、エロ雑誌の星マークに萌えられるの? ハアハアできるの? そんなわけないよね?」
「…………」
 頭痛薬って、保健室にあったかな。


 なんとか保健室の世話にならずに済んだ俺は、おぼつかない足取りで部室に向かっていた。先に藤が何を話していたのか問い詰めたかったが、昼間に続いてまたもすれ違ってしまったらしい。
 写真部と書かれたプレートを提げるドアを、いつものように二回叩く。
 やっぱりというか、返事はない。何もかもが変わってしまった環境の中で、ここだけはいつも通りだ。
 それが少し嬉しい。まるで先輩がいまの俺を〝俺〟として受け入れてくれているようで、そう思うと気持ちが楽になっていく。
「…………」
 本棚のない書庫という表現がぴったりの写真部には、相変わらず文学少女っぽい雰囲気で雑誌に目を落とす夕香先輩がいた。
 どこか物憂いげに見える横顔で夕焼け色をしたページをめくり、小さなため息をつく。俺に気付いていないのだろうか。
「……藤くん」
 目線は手元に向けたまま、先輩がポツリと呟く。逆光のせいで薄暗くなっている表情がそう思わせるのか、その声はどことなく暗い。
「キミの差し金かな」
「な、何がですか?」
 ジロリと横目に振られた眼光が、俺から狼狽の言葉を引き出した。何もやましいことはないのに、これでは自ら灰色だと言っているようなものだ。
「鷹広くんの奇行はキミの計画なのかと、そう聞いている」
 雑誌を閉じ、目線は俺をロックオンしたまま顔を向けてくる。
 憂鬱そうに見えたのは夕焼けマジックでしかなかったのか。しっかりと直線を結んだ唇は、先輩の気分が不機嫌であることを表していた。
「あの、奇行って?」
 変人の名をほしいままにする夕香先輩がそう評価するほどだ。よほど普段の俺とかけ離れたことをやらかしたに違いない。
「藤……じゃなくて、タカくん、何をしたんですか?」
「白々しいね。といいたいところだが、さすが元演劇部。本当に知らないのかと思ってしまったよ」
「演技じゃありませんって」
 やけに疑い深い。
 幼馴染にここまで嫌疑を持たせるほどの奇行ってなんなんだ? それとも普段の行いがそうさせるとか?
 ……ああ、うん、納得。
「だから鷹広くんが、その、私を」
 どうしてかいきなり歯切れを悪くし、顔を真っ赤に染めていく。
 ああもう、いったい何したんだあのバカはっ。
「せ、先輩を?」
「……で」
「で?」
「デートに、誘ってきた」
 メガネが曇るんじゃないかってぐらい顔を熱っぽくし、蚊の鳴くような声で、先輩はそう言った。
「は? いや、あの、ちょっ」
 オーケー落ち着け。
「なっ、なんすかそれぇぇぇぇぇっ!」
 やっぱ無理。
「ここ、こっちが聞きたい! キミの策略だろう? じゃなきゃ、なんでいきなりあんなことになるんだ!」
「あんなこと? あんなことって、何されたんですか!」
「ぶ、部室に来るなり私の手をとり『デートしてください』? ドッキリにしてもお粗末だ! 脚本を練り直した方がいい!」
「そ、そんなことをっ? っていうか仕込んでいません!」
 なんでこうも俺を黒幕だと思い込むのかわからなかったが、とにかく問題は藤が俺の姿で先輩をデートに誘ったことだ。
 何を考えているのかなんて、こっちこそ知りたいね!
「いいかい、この展開が藤くんの意図によるものでなければ、私はどうすればいい? あんな……あんな赤面を禁じえない行動が万が一にも素の鷹広くんの気持ちだと言うのならばっ、私は卒業まで〝ファントム〟の衣装が脱げないではないか! つまり彼の行動は私をおもんぱかった末のキミによる罰ゲームだ。そうだろう、そうだと言ってくれ!」
 半分以上が意味のわからない話を、こちらの言い分を挟む隙間もないほどの早口で一気に語られる。
 とはいえこっちも、なんか必死な先輩も可愛いな、ぐらいにしか頭が働いていない。いつも無愛想な先輩の普通ではまず拝めない珍表情に俺の意識はすっかり傾いてしまっていた。
 そんな場合じゃないだろと思いつつも、抱きつく・抱きつかないの選択肢が脳内で踊る。いまの俺は女なんだしちょっとぐらい抱きついたっていいかナー。という身もフタもない結論にまで到るまで時間はそれほど掛からなかった。
「せんぷぁーーーーーーいっ!」
 そう、こんな感じで全力で叫びながら夕香先輩に突撃……って。
「うわああああああああああん!」
 他人のテンションを吹き飛ばすような大声が、廊下から徐々に近付いてきた。
「この声……」
「……彼か」
 顔を見合わせ、無言のままドアに目を向ける。
 どうやらお互い、ちょっと冷静さを取り戻せたようだ。
「助けてください! 助けてください先輩ぃっ!」
 世界の中心でも通用しそうな叫び声と共に部室のドアを開け放ち、俺と藤をよくわからん理由で尊敬視する美少女ヅラの後輩が姿を現す。
 何があったのか知る気にもなれないが、トレードマークの長ランが少し乱れていた。しかも泣き顔。ここが四階じゃなきゃ、いますぐ窓から逃げ出していたところだ。
「じ、自分、デートに誘われながら汚されたのでありますっ!」
 いっそアイキャンフライした方がマシだったかもしれない。
「な、和弥くん落ち着くんだ。……誰に誘われたんだい?」
 わかっているのかいないのか、先輩は自ら地雷を踏みにいく。
「鷹広先輩です! イ、イメージが、ガラガラガッシャンなのですっ! うわあああああん!」
 あまりのショックに思考力が一時退行でもしているのか、和弥は幼い語彙で俺の破滅を告げた。
 男を、しかも先輩を口説いた直後にデートに誘うなんて、もはやタラシとかそういうレベルではない。
 しかも汚されたってことは、おそらくまたセクハラまがいのことをやらかしたのだ。そんな男を好きになる女がいるだろうか。俺なら速攻でイチイチゼロ番を要請する。
「いや……そうか、そういうことかっ」
「先輩?」
 てっきり俺を失望する言葉が出てくるものだと思っていた夕香先輩の口から、意外なほどイキイキとした台詞が出てきた。
「わかったぞ……つまりこれは、課外部活動計画だったんだ!」
「なっ、なんだってーッ!」
 と、驚いて見せるが実のところ何を言っているのかさっぱりわからない。
 だが尋ねるまでもなく、先輩は緊迫した雰囲気で早口に説明を始めた。
「藤くんの差し金でなく鷹広くんが私をデ……デート、に誘い、その直後に同性である和弥くんを誘ったこと。これでその単語に対し一般的に用いられる異性同士による逢引の約束、という意味は放棄されたと見ていいはずだ。ここで質問だが和弥くん。キミは彼とどのような約束をした?」
「あ、明日、十一時に……駅前の喫茶店で」
「やはりそうか、実は私も同じだ! そう、つまり鷹広くんは写真部のみんなで遊びに行くことを、デートと呼んだんだよ!」
「なっ、なんだってぇーーーッ!」
 今度はしっかり意味のわかった上で、改めて驚く。
 何がびっくりって、先輩のその考え方にだ。いままでの俺を知っていれば、間違ってもそんな結論は出てこなかったはずだし、俺自身、今後も先輩が言ったような真似をするつもりは一切ない。というかできない。
 それにセクハラ問題がノータッチだ。いくらなんでも遊びに誘うのに服の下をまさぐるとか、ありえないんだけど。
「そ、そうだったのですか……」
 あれ? 納得している?
「というわけだ。きっと藤くんもデートに誘われるだろうが、毅然とした態度で臨んでくれたまえ」
「は、はぁ……」
 ぜんぜんちっともさっぱり納得できない俺は、そんな風にして曖昧に頷くしかなかった。
 どうやら二人はかなり混乱しているらしい。
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