ぞっこん3-2

長編のTSモノ
入れ替わった少年少女の話です。だらだらとしたペースで続けています。


ぞっこんショット!3-2

 土曜の駅前通りは当然のように人でごった返し、特にアーケード街の入り口は、さっきから他人の右折を許さない人垣を作っている。
 そんな雑踏から一歩引いた場所で、俺は待ち合わせの店先に背中を預け、携帯のデジタル表示を見ていた。
 並んだ四つの数字は、約束していた時間をとうに過ぎていることを知らせている。だというのに、部活メンバーはいまだに姿を現さない。
「はぁ」
 ため息を吐き出す作業にもいい加減飽き、ショーガラスに後頭部を預ける。街並みを左右対称に映すガラスの世界には、必ず付けることと厳命されたヘアピンとリップを塗った藤の顔が、どこか憂鬱そうな顔を見せていた。
「これが、俺か……」
 その気はないのに、指が前髪をいじる。
 白いブラウスに黒のスカートという極めてシンプルな格好だが、本人の素材がいいのか、さっきからやたらと道行く人の目線を集めていた。
 制服のときから同じことは感じていたが、今回はより顕著にあからさまでぶしつけな視線が投げつけられているのがわかる。実際、たまったものではない。女としての生活にもそれなりに慣れてきたとはいえ、これだけはどうにも慣れそうになかった。
 というか、慣れる前にさっさと男に戻りたいものだ。
「にしても、遅い」
 待ち合わせた時間からすでに十五分も経っている。
 藤はともかく、夕香先輩までもが遅れているのはどういうわけだろう。先輩は変な人だが真面目ではあるのだし、五分前ぐらいには到着していそうなものだと思っていたのだが。
 何かトラブルでも、と不安がもたげるが、行き交う人波のせいか電波状況は最悪で、こちらから連絡を入れることは無理だった。
「ねぇキミ」
「はあ?」
 アンテナ表示のない携帯を睨みつけながらやきもきしていると、聞きなれない男の声がした。顔を上げると、いつの間に傍に寄ってきたのか、薄ら笑いを貼り付けた見知らぬ男が俺を見下ろしている。
「いまヒマ? ヒマならちょっと俺と遊びいかね?」
 その陳腐な台詞のおかげで、男の目的は大体わかった。
 鬱陶しく伸ばした金髪に、紫のサングラス。笑顔を作る唇の端には、銀のピアスが刺さっている。やたら光沢度の高い豹柄のワイシャツは胸元まで開き、首から提げたアクセサリーがちらちら輝いていた。
 チャラチャラという擬音がこれでもかというぐらいよく似合う、珍しい男だ。
「別に変なイミとかねーからさ。ちょっと俺、ツレにドタキャンされてヒマしてんのよ。ってか、キミもっしょ? 似たもの同士、仲良くしてみねぇ?」
 一方的に喋り、勝手に解釈される。ずいぶんと強引というか、自己中だ。
 少しムカツクが、ヒマつぶしにナンパ男の生態観察も面白いかもしれない。めったに見られるものじゃないしな。
「あ、遊びにって、どこに行く気かな?」
 いままで見てきた記憶を総動員し、精一杯女らしく喋る。ついでに笑顔のおまけつきだ。男はそれを好感触と受け取ったのか、さらに距離を詰め寄せてきた。
 まったく、これで相手が実は男だってわかったら、どんな顔をするのかね。
「そうだなぁ、キミは行きたい場所とかある? 実は俺、車持ってんのよ」
「えーと。でも、あまり遅くなるといけないし」
 わざとらしく困った風を装いながら、甘えた声を出す。すると男は、あたかもたったいま思い出したような声を上げ、手を打った。
「あー、そういえば今日は、公園の方でイベントあるぜ? 行ってみねぇ? すぐ近くだよ」
「でも、今日は約束してて」
「だーからドタキャンされたんしょ? あ、それよりお昼まだ? なんならオゴるぜ」
 俺の一挙一動に目を配り、男はとにかく会話を絶やそうとしなかった。
 慣れているのか、慌てる素振りもなく常に最初の笑顔を崩していない。それでいて、じりじりと間隔を詰めてきている。
「ごめんなさい、やっぱり、ここで友達待っています」
「じゃあ、その子と一緒にってのは、どう?」
 言葉を噛み締めるようにゆっくりとした口調で、男はサングラスを外し、流し目に俺を見た。
 喫茶店の壁に手をついて、密着する直前の距離まで詰め寄ってくる。
「あ、あのぉ?」
「別に変なことしようってわけじゃないんだからさ。ちょっと食事しながら、お喋りするだけだぜ」
 相変わらず口元は笑んだままで、それなのに目が少しも笑っていない。どうやらマズイ人間を引っ掛けてしまったようだ。
「ほら、いいだろ行こうぜ」
 とうとう腕が握られ、強引に引っ張られる。
 藤もこんなところばかり普通なようで、とても力任せには振り払えそうになかった。
「は、離せよ。ってか、しつっこい!」
「またまた、フリなんてしちゃって。この俺が誘っているんだぜ?」
 なんというかもう、生理的にキモイ。女言葉を喋る男の姿は何度も見たが、上には上がいたわけだ。
「待ちたまえっ」
 未知の恐怖にひたすら嫌悪感を抱いていると、ふいに、男の背後から凛とした声が響く。
「あぁん?」
 男は、狩りの時間を邪魔されたような不機嫌面を隠そうともせずに、眉間にしわを寄せながら振り向いた。だが次の瞬間、それはきれいさっぱり取り払われることになる。
「引き際を知らぬ者は、その先に待ち構える絶壁に突っ込み、必ずやその身を滅ぼすであろう。人それを、自爆という」
「んな、なんだ、お前はっ」
 ナンパ男が語気を荒げ、謎の御託を垂れる人物を睨みつけた。だが「彼女」はまったく動じず、漆黒の外套を見せ付けるように大きく翻すと、
「キミに名乗る名はない!」
 象牙色の仮面を太陽光に輝かせ、ない胸を反らし、きっぱりとそう言い放った。
「ゆ、夕香先輩!」
「は? キミの、知り合い? ……あ、あはははははは、そーいや俺、急用が」
 動揺していると一発で理解できる取り乱し方で引きつった笑顔を浮かべると、ナンパ男はそそくさと俺の視界から消えていく。
 目の前に立つ男が消え、代わりに目にしたのは、背景と化した人垣の十割の視線を独り占めにした、ファントムスタイルの夕香先輩だった。
「や、藤くん」
 男のことなど初めから眼中になかったかのように、軽やかに右手を挙げる。街中で見ると、その黒づくめのスタイルは際立って怪しく映った。よくここまで補導されずに来れたものだ。
「な、なんつー格好してんですかっ。脱いでくださいっ」
「おや。ピンチを救ったナイトに対して、ずいぶんな言い草じゃないか」
 ナイトとは程遠い格好をして、ギャラリーの視線やら携帯のカメラやらを独り占めする怪人に、良識を問われてしまった。
「そもそもどうしてキミは、いつまでもこんなところにいるんだい」
「え、だ、だって待ち合わせはここでしょう?」
「うん。この店だが」
 そこまで聞いた瞬間、ゾワッとしたものが背中を駆け抜ける。
 慌ててショーガラスを振り返ると、いままで鏡面世界しか見ていなかったガラスの向こう側が、今度ははっきりと見えてきた。
 奥のテーブル席に、見覚えのありすぎる二人の男が座っている。
 考えるまでもない。俺の姿をした藤と、そいつから微妙な距離をとった席に座る和弥だ。
「い、いつからあそこに」
「キミを除いた全員が、集合時間の五分前にあの場所にいた。もちろん、私もだ」
 俺がここに着いたのは十一時ちょうど。つまりは俺が待ちぼうけを食らって過ごしていた間、夕香先輩達はずっとあの席にいたわけだ。
 っていうか、外じゃなくて中かよ!
「こ、声をかけて下さいよっ」
「そうしようと思ったのだが、人待ち顔をする藤くんの横顔がとても優美だったのでね。フィルム一本二十四枚全てをキミのために使ったよ」
 そういって、マントの内側からネガが巻き戻されたフィルムを取り出す。
「フィルムを買いに席を立ったはいいが、キミが絶体絶命にいるのを見かけてね。つい助けてしまった。……実は、余計なことだったかな」
「い、いえ。それは、その」
「大して感謝もしていないみたいだしね。いや、別に感謝されたくて助けたわけではないが、それにしても口を開いて一番初めの台詞が、『なんて格好をしているんだ』はないんじゃないかな?」
 確かに、その服装はどうあれ、助けてくれたのは事実なのだから、まずはお礼を言うべきだった。夕香先輩があのとき現れてくれなければどうなっていたか、想像もしたくない。
「……あ、ありがとうございました」
「初めからそう言ってくれれば、私も素直に喜べたのだがね。……まあいい。タイミングは外しているものの、気持ちは伝わった」
 あるかなしかの微笑みを浮かべながら、夕香先輩は俺に背中を向けると、背後の写メ子集団に立ち向かっていった。
「すぐ戻る。店で待っていてくれ」
 おそらくは宣言通り、近くのコンビニかどこかでフィルムを買ってくるのだろう。あの格好のままで。
「あー……」
 いいや、もう。本人が気にしないってんなら、俺もそうしよう。
 あの奇妙な格好にいちいち反応していたんじゃ、こっちの神経が持たない。なにより、先輩があーゆー人だっていうのは、初めて会ったときから知っていたじゃないか。
 セールストークにノせるような気分で、無理矢理に自分を騙していく。
 まあ、それでもやっぱり好きなんだけど。
 というか、なんかもう放っておけないのかもしれない。
 そんな自己分析を悶々としながら、俺は店のドアに取り付けられた来客鈴を静かに鳴らしたのだった。


「あ、おいしー♪」
 浮かれて弾んだ調子の声が、耳元で響く。
 ハッと顔を上げると、テーブルを挟んだ向かい側の席では、和弥と藤が生ぬるい笑顔を浮かべて俺を見ていた。
 二人の前にはコーヒーしかない。かたや、俺の前にはシンプルなイチゴのショートケーキが一皿。ダメ押しとばかりに、自分の右手にはフォークが握られていて、さらに口の中では、ふんわりとしたクリームの甘味が広がっていた。
 どうやら、いまの台詞は、この口から出たもので間違いなさそうだ。
「なんだよ藤、ケーキ好きなのか?」
 ニヤニヤしながら、俺の姿をした藤が尋ねる。
 その顔を見ていると、そうだと素直に答えるのが、なんとなくシャクに障った。
「す、好きで、悪い?」
 開き直ってみても、相手からニヤニヤ顔は消えない。
「べっつにー?」
「……ふんっ」
 顔を逸らし、ハーブティーを口に含む。ふわっとした香りが、照れくささやら自己嫌悪やらで高揚した頭に染み渡り、次第に落ち着いた気分を取り戻していった。
 この店はケーキだけでなく紅茶も一級品のようだ。
 まったく、素晴らしい。前からこの店に興味はあったが、評判通りの味わい深さで文句の付け所がない。
 店の雰囲気が女性向けだったせいか、どうにも一人では入りづらく、いままで足踏みをしていたのだが、いまの俺は四ノ宮藤であり、つまりは女だ。ということは、可愛らしいケーキを笑顔で迎えても、それを嬉しそうに食べても、なんの不自然もないわけで。
 そんな風に油断していたせいか、いまの俺が本当は女ではないと唯一知っている人間の前で、『おいしー♪』などと漏らしてしまった。
「可愛くていいと思います。自分は」
「むぐっ」
 和弥のダメ押しに、鎮まりかけた気分はあっさりと覆される。事情を知らないとはいえ、その台詞は完全に逆効果だった。
「ま、遠慮なく食べてくれって。ここは俺がオゴるしさ」
 ずいぶん気前の良いことを言っているが、使われるのはつまり俺の金である。
 とはいえもちろんこのせっかくのチャンスに、ショートケーキの一口だけで終わる気はさらさらない。幸い本人の了承も得たことだし、カロリーとかそのあたりにも配慮しないことに決めた。
 とはいえ、メンツがこの二人では、せっかくの一級ケーキも味が落ちてしまう。夕香先輩が一緒にいれば、また違ってくるのだろうが、我等が部長はフィルムを買いに行ったきり一向に戻ってくる気配がなかった。
「そろそろ、帰ってきてもいい頃なんだけど……」
「ん? 夕香センパイのことか?」
 無言でアゴを引くと、藤もこれみよがしに腕を組み、いかにも考えていますという風なポーズを取った
「うーん。確かに、ちょっと遅いかも。フィルムなんて、コンビ二で簡単に買える物だしなぁ」
 誰に言うでもなくそんなことを呟きつつ、携帯をいじり始める。
 受話口に耳をそばだてると、しばらくして出てきたのは、電波が届かないというお定まりのメッセージを悪びれずに言う、冷たい女の声だった。
 ちょっと夕香先輩の声と似ていたな、とか思うあたり、もう苦笑しか出てこない。
「ダメだこりゃ。ちょっと探してくる。二人はここに残ってて」
 一方的にそう言うと、相手の了解を取る気などさらさらないといわんばかりに、藤はさっと席を立ち上がると一度も振り返ることなく、店を出て行った。
「……行っちゃいましたね」
「そうだな」
 残された俺と和弥は互いの視線を合わせると、同じような愛想笑いを浮かべた。気まずいというわけではないが、いきなり二人きりにされてしまい、なんとなく会話がしにくくなった感じだ。
 呼び水でもあればと店内を見回してみるが、特にめぼしい話題は転がっていなかった。
「きょ、今日はずいぶん人が多いですね」
「え、あ、ああ」
 窓の外に目を向けると、いまだにアーケード街の入り口は人で溢れかえっている。
「なんか、広場の方でイベントやってるっぽいから……」
 さっきのナンパ男が、確かそんなことを言っていた。
 できれば蒸し返したくなどない記憶だが、このままなんとなく居心地の悪い沈黙が続くよりはずっとマシだ。
「へー、何をやってるんですか」
「さあ? 大道芸でもやってたりしてな……くぅっ」
 取り留めのない会話をしながら、質素ながらも完成された甘さをもつショートケーキを再び口に運ぶ。
 イチゴのわずかな酸味と甘味とがほどよい調和で舌の上に広がり、喜びに打ち震えた唸り声が自然と漏れた。
 糖分のチカラは偉大である。
「好きなんですね。ケーキ」
「うん」
 さっきと違い、素直に頷く。和弥にとって、あくまでいまの俺は四ノ宮藤だ。
 送られてくる生温かい視線も、少しこそばゆい感じはするものの、大して気に障るほどではなかった。
「なんか、イメージと違います」
「そう、か?」
 女がケーキを喜んで食べる姿のどこがおかしいのか。
 和弥にとって俺と藤は尊敬の対象であり、性差など関係なしに男の中の男なんだそうだが、勝手に幻想を抱いて勝手に幻滅されても困る。
「オトコらしくない、とか?」
「いえ。言ったじゃないですか、可愛くていいと思うって」
 それはそれで複雑なわけだが。
 しかしよくもまあ、恥ずかしげもなく可愛いとか言えるものだ。
「和弥ってさ、実は結構、女タラシ?」
「な、なんですかいきなり」
 真っ赤になって目を丸くする。
 それが図星を指されたからなのか、それとも怒りによるものなのかまでは、判別がつかなかった。
「いくら先輩でも、言っていいことと悪いことがあります」
「いや、だって、会ってから間もない女に可愛いとか言うし……」
「それだけのことで、自分が軽い男だと見られるのは、非常に心外であります!」
 バカでかい和弥の叫び声で、それまで穏やかな喧騒に包まれていた店内が一瞬にして静まり返る。
 からかい半分のつもりが、思わぬ地雷を踏んでしまったらしい。そう気付いたときには、もう手遅れだった。
「先輩が可愛いと思ったから、相手が先輩だからこんなことが言えるのです! なのに先輩は、自分の気持ちをそんな軽薄なものと一緒にするのでありますか!」
 聞きようによっては告白されているとも思わせる台詞で、店中の人間の視線を独り占めにする。痴話ゲンカならよそでやってくれとでも言いたげな目だった。
 なんでそんなに必死になっているんだと問いたくなる激しい剣幕に、俺は相手をなだめることも忘れ、ヒステリックに口から泡を飛ばす和弥をただただ唖然としながら見守っていた。
「待ちたまえ」
 まるで暴風雨のような勢いでまくしたてる和弥とは対照的に、本日二度目になる、凛然とした静かな声がどこからかそよいだ。
「だ、誰でありますかっ」
「夕香先……ぱい?」
 このさい黒マントの怪人でもいいやと、助けを求め振り返る。
 果たしてそこにいたのは怪人ではなく、カーキ色のタートルネックに黒のロングスカートという、年頃の少女にしては少しやぼったい感じがするものの、極めて普通の服を身にまとった夕香先輩だった。
 露出の少ない落ち着いた色合いを出す服装は、スレンダーな体型の先輩によく似合っている。
「一人に敬愛を抱くあまり周囲を疎かにしないことだ、和弥くん。キミはさっきも注意されたばかりだろう。少し、落ち着きがなさすぎる」
「それは、でも…………ご、ごめんなさい」
 ヒートアップしていた和弥の勢いが、その一言で見る見るうちに衰えしぼんでいく。どうやら俺が来る前にも、何か揉め事が起こっていたらしい。誠実でひたむきなのは結構だが、いささか情緒不安定のきらいがあるようだ。
「先輩。ふ……タカくんは一緒じゃないんですか?」
「うん? いや、会わなかった」
 とすると、どこかですれ違ったのか。とことん間が悪い。
「まぁそのうち戻ってくる。そんなことより、これを見てくれ」
 〝俺〟の所在をそんなことの一言で切り捨て、先輩はショルダーバッグの中から有名カメラ店のロゴが入った袋を取り出し、中身をテーブルの上に広げた。
「もう現像してきたんですか?」
「ああ、だがすべて納得のいかない出来だ」
 声に不機嫌なものを含ませて、柳眉を逆立てる。
 写真はどれもが、空を見上げたり髪を気にしたりしている藤を、窓ガラス越しに写した物だった。
 片隅に印字された日付は今日。つまりこれは、店先で先輩達を待っていたさっきまでの俺というわけだ。
 ……なんすかこの羞恥プレイ。
「このときのキミはもっとこう、愛しさと切なさと、他にもウブな期待や不安などが入り混じった、なんともいえない素晴らしい表情をしていた。だが私が撮った写真はこのザマさ」
 そうはいっても、見る限り手ブレやピンボケなどという、一目で失敗だとわかるような写真は一枚もなく、どれも上手い具合に被写体をメインに据えている。にもかかわらず、本人にとっては及第点ではないらしい。
「この原因はなんだと思う? それは私があの衣装を身にまとい、マスクをつけていたことが理由だ」
 質問にみせかけた自問自答をすると、メガネのブリッジを指で押し上げる。
 世の中にはコンタクトレンズという物もあるのだが、どうやら体質に合わないようで、あの衣装のとき先輩はずっと裸眼でいるのだそうだ。
「それじゃあ、着替えたのは」
「そう。この姿は、より良い撮影を可能にするための、苦肉の策なのさ」
 決意の表れとばかりに、グッと拳を握り締める。
 意気込みは充分すぎるほど伝わったが、それなら最初から普通の格好をしてきてくれれば、こっちも余計な心労を抱くことなかったろうに。
「近くに父がいてよかったよ。うまく衣装を預けられた」
「え?」
「いや、それよりも」
 そこで一旦言葉を区切り、きょろきょろと店内を見回してから、
「鷹広くんはどこへ行ったのかな?」
 そんなこと、となおざりにしていた男の所在について、やっと尋ねてくれたのだった。
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プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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