ぞっこん1-2

ぞっこんショット……その2
まだ該当シーンに入りません…


「それでは、本日の議題をはじめるとしよう」
 メガネをキラリと輝かせ、さっきまで落ち込んでいたとはとても思えない態度と口調で夕香先輩が声高に俺と、抜き出し作業を終えた藤を見渡した。
 写真部のメンバーはこれで全員。基本的に顔を見せない幽霊顧問は無視。幽霊部員は会ったことさえない名前のみの存在なのでノーカウントとしよう。
「テーマは奨励祭について。知っての通りこの学校は毎年六月の始まりに雨樋学園奨励祭、いわゆる文化祭を二日間に渡り開催する。すでに各クラスでは準備が進められ、そのほとんどが折り返し段階へと踏み入っている中、私達写真部はいまだになんの準備もしていない。これをどう見る、鷹広くん」
「え、俺?」
 いきなり名指しされ、答えを出すまで少しタイムラグが生まれる。
 そうじゃなくても、やはり面食らっていたかもしれない。なぜならいままで奨励祭のことについて話し合ったことなどなかったから、てっきり何もしないのかと思い込んでいたのだ。
「それは……」
「はいっ、やっぱりあたし達も何か出展すべきだと思いますっ!」
 まごつく俺を押しのけ、藤の大きな声が主張する。
 答える人間にこだわりはないのか、夕香先輩はその言葉にうんうんと頷き、唇を鉤型に曲げた。
「では藤くんに続けて問おう。写真部という個性を出し、なおかつ残り二週間で実現可能な企画とは何かな?」
「展示がいいと思いまーすっ!」
 無駄に元気なテンションと明るい口調で、一瞬たりとも考える素振りなど見せずに明瞭な答えを返す。
 付き合いの長さなら、俺よりも幼馴染だという二人の方がずっと長い。このまま口出しせず任せておけば、案外あっさりと決まるのかもしれない。
「具体案はこうですっ」
 そしてその期待は裏切られることなく、藤はいっそう高いテンションで企画内容を固めていった。
「あたし達の傑作品を惜しみなくパネルで展示! 親切で可愛いガイド付きでワンコイン! さらにプラスワンコインで元野球部のエースさんプレゼンツ、おいしいチーズケーキを進呈! これで今年の最優秀賞はうちのものだぁっ!」
「ちょっと待ったぁぁっ!」
「な、なによぉ、いきなり。びっくりするじゃない」
「びっくりしたのは俺の方だよっ、なんだいまの提案は!」
「んー?」
 藤は俺の驚きが理解できないといったふうに小首をかしげる。
 そんな仕草をしたところでごまかされるものか。
「元野球部のエースってのは、誰のことだ?」
「もちろんキミだよ?」
 ビッと細い人差し指の切っ先が俺を指す。
「オーケーわかった。じっくり話し合おうか四ノ宮藤」
「やん♪ フルネームなんてそんな他人ぎょーぎなむぉごっ」
「よーく聞けバカヤロウ。俺の秘密が何か、そのマジカルな脳みそをフル回転させて思い出せ」
「むご……むぇつにふぁくふももむぁいもに」
 ぜんぜんわからない。
「別に隠すことないのに、と言っている」
 すかさず先輩が通訳に入った。
 このままでは会話が不便なので、仕方なく手を離す。
「ふぃー、タカくんったら強引。女の子の扱いがわかってないねぇ」
「お前を女として扱っていいのか、いつも疑問に思っているんだがな」
「えーひどぉい。タカくんには、あたしが男に見えるのぉ?」
 猫なで声で、藤が腕にまとわりついてくる。
 短く切りそろえた髪がさらりとなびき、ほのかなシャンプーの匂いが俺の鼻をくすぐった。
「は、離せよ」
「ふふーん。女の子、感じた?」
 ぐいぐいと身体を寄せ付け、夕香先輩とは比べ物にならない制服の膨らみ箇所で俺の二の腕を撫でる。
 柔らか……えぇい、鎮まれ皆の衆! 落ち着けアドレナリン!
「あははーっ。慌てるタカくん、かわいいっ」
「もお、好きにしろ……」
 だから、こいつは苦手なんだ。
「…………」
「?」
 気のせいか、いま夕香先輩に睨まれていたような……?
 まぁ、そんなわけないか。



 さしあたっての問題は、スペースの確保だった。
 展示を行うには、あの部室では狭すぎる。そんなわけで、俺は顧問に掛け合い、空き教室の工面ができないかと相談しに行かされた。
「無理」
 一秒で終わった。
 そもそも奨励祭の二週間前にそんな企画を立てること自体、どうかしているのだ。今更になって空き部屋が手に入るなんて都合のいいことが起きるはずがない。
 これで、めでたくケーキはナシってことだ。
 元がつくとはいえ野球部のこの俺が、実はお菓子作りが趣味だったなどと、絶対に知られるわけには行かない。
 なのに、夕香先輩はあろうことか自宅のキッチンでケーキを作る俺の写真を持っていた。それが出会ったときに見せられた例の写真なのだが、先輩に惚れてしまったいまではアレもきっかけの一つだったと思っている。だがそれはそれとして、秘密にしておきたい気持ちは常に健在だ。
 ちなみにブツを使い勧誘したのは先輩だが、写真を撮ったのは藤らしい。なぜそんな黒幕めいたことをやらかしたのかは、いまだに謎である。
「ん?」
 四階の廊下に戻ると、写真部の部室の前に見慣れない男子生徒がいた。
 小柄な身体にワンランク上のサイズと思われる学ランを着た、一見すると男装した女のような男だ。頭には白いハチマキが巻かれ、思いつめたような眼差しでドアを見つめている。
「写真部に何か用か?」
「うわああああああっ!」
 俺が声をかけると、小柄な男はその細い体つきに似合わず、耳が痺れるほどの大声を上げながら大げさに跳び上がった。
 キーンという妙な音に襲われる。藤のようにただ無闇に騒がしいだけではない、腹の底から発せられた大声だ。
「なになに、いまの?」
「廊下からだね」
 声は部屋にいる二人にも届いていたらしい。
 小柄な男はそれに気付くや否や、すかさず俺の脇をすり抜け、あっという間に階段を駆け下りていった。
「な、なんだったんだ?」
 一瞬遅れで部室のドアが開いたときには、すでにその男の足音さえ聞こえなくなっていた。

 幽霊部員かとも思い、二人にもさっきの男のことを聞いてみたが、どうやら性別からして違うらしく、俺の予想はあっさり潰えてしまった。
 それでもまだ興味の尽きなかったらしい藤は、その男の容姿を事細かに尋ねてきた。
「背は結構小さかったな。あと、女みたいな顔してた」
「ふぅん、小柄な美少年かぁ」
 何を妄想しているのか、男の特徴を聞いた藤はニヤニヤと口元を歪めている。
「あ、もしかして入部希望者だったり? でもそれならなんで逃げるかな」
「なんにしても、いまいない人間のことを考えていても仕方あるまい。入ってきたら、是非とも写真部に貢献してもらうがね」
 不敵な笑みを作り、今日また新たに積み重ねられたクラシックカメラのカタログを見上げる。何を考えているのか、手に取るようにわかりそうだ。
「ところで、空き部屋の件はどうなったのかな?」
「そうそう、タカくん。あたしもそれ聞きたい」
 キラキラと、藤はともかくとして、わかりづらいが夕香先輩までが期待の眼差しを向けてくる。
 不意討ちのような、その素直すぎる感情の露出は正直、反則だ。
「えーと……か、考えておくって、言ってました」
「えー? タカくん生ぬるいよぉ」
「いや、うちの顧問は白黒をはっきりつけることで有名だ。曖昧な返事をもらえただけでも、充分希望の光がある」
 俺の嘘にまるで疑いを持たず、先輩の澄まし顔がほんの少し綻ぶ。拗ねた顔も可愛いが、やはり笑顔に勝るものはないな。
「では鷹広くん。ケーキ作りと部屋確保の件はキミに任せよう」
「わ……わかり、ました」
 たった一つの嘘が、身の破滅を呼ぶ。誰が言ったかは知らんが、なんとも的を射た言葉じゃないかコンチクショウ。
「と、ところで、それ、なんですか?」
 このままこの話題が続くのがイヤで、俺は机の上を覆い隠す紙切れを指差した。
「ガイド服のデザイン画だ。キミのいない間に話を進めておこうかと思ってね」
「そうそう。で、当日になってサプライズ! っていうのが理想だったんだけど」
 散乱したコピー用紙には、修学旅行で見かけたバスガイドのような服装にアレンジをくわえたような構造の服が描かれている。
 中には色気もへったくれもない黒一色で統一された上下のスーツや、これはメイド服じゃないかとツッコミたくなる服まであり、それぞれの趣味やセンスが窺い知れるところだった。
「やっぱりさぁ、ガイド服の基本はスーツだよね? ところがどっこい、あたしはあえてメイド服を推す!」
「基本とは裏を返せばありきたりで独創性がなさ過ぎるからね。だが私は反対する。ガイド服にはガイド服の魅力があるんだ」
「運転手を惑わしてこそのガイドでしょう? センパイのは色気がないんですよ」
「ふ、キミもまだまだ青いな藤くん。ビジネスウーマン、つまり大人の色気というものを知らないのかな」
 かわるがわる、流れるように喋り続ける二人に、俺は口どころか思考も挟む余裕がない。
 なんにしても、話題のすり替えは成功したようで何よりだった。
「フレアのヒザ上十五センチと夕香センパイ。二つの力をあわせれば百万パワーは確実ですよぉっ」
「無駄な露出は客の目を曇らせるので感心はしないな。あくまでメインは展示物なのだ。というか、恥ずかしいので嫌だ」
 黒マントと仮面で校内をうろつき回れる夕香先輩が恥ずかしいなどと言う理由がいまいち納得できないが、そこは何かしらのこだわりというかボーダーラインみたいなものがやはりあるのだろう。
 入部してしばらくしてから知ったことだが、あの黒マントは〝ファントム〟と名乗る怪人をモデルにした、裁縫のスペシャリストを自称する藤の自信作らしい。なんでそんな物を作ったのかと聞けば、『センパイが着てみたいって言ったから』だそうだ。
 そんな風に基本的に夕香先輩を支持する藤だが、どうも今回ばかりは譲る気がないらしい。
 閑話休題。
「俺、もう帰っていいですか」
「まぁ待て。今日中にデザインを決めたいんだ」
 それと俺の居残りとどう関係があるんだ。
「タカくん。女の子の服はね、男の意見も取り入れてこそなの。言ってる意味、わかるよね?」
 わかりたくない。
 そんな俺の心の叫びは届くはずもなく、少女らは再びガイド服についてのサミットを開始した。
 重要だとか言っておきながら、意見を聞いてくる素振りなどひとカケラも見せてこない。スーツだメイドだと言い合う声を、俺はあくびをしながら聞くだけだ。
 どんな格好をしても夕香先輩は可愛いに違いないのだから、話の行く末に興味はほとんどなかった。
 このままでは退屈で死にそうだ。トランプをしようにも、一人では神経衰弱ぐらいしかできない。
 孤独である。
 俺はパイプ椅子の上で座り心地を正すと、上体を机の上に沈み込ませた。
 枕となる両腕も机の上に寝そべらせる。
「ロングスカートにこそ、淑女としての魅力が凝縮されているのだよ。くるりとターンしたときにふわりと浮き上がるスカートの裾にロマンスは感じないかな?」
「いえいえ、時代はミニですよ、ミニスカート! 猫も杓子も袴も浴衣も、ミニが萌えるんだと言われる時代です!」
 頭の上から先輩と藤の声が降り注ぐが、就寝体勢に移った俺を咎める様子はない。もはや完全に蔑ろにされているわけだ。
 悪気はないとわかっていても、その理不尽さに多少の怒りを覚えつつ、しかし寝そべることで眠気は急激に加速する。
 一人ほったらかしにされた俺は、春の陽気も終わりかかった午後の日差しにあてられながら、ゆるゆるとした眠気にさらわれていくのであった。



ようやく次から入れ替わりスタートです
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Author:巫

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・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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