ぞっこん3-3

長編のTSモノ
入れ替わった少年少女の話です。だらだらとしたペースで続けています。


ぞっこんショット!3-3

 俺達は店を出ると、ようやく人のまばらになったアーケード街を抜けて広場へとやってきた。
 どうしてこんなところに来たのかというと、始まりは夕香先輩の携帯に届いた一通のメールからだった。
『これは……鷹広君から?』
 すれ違いになったことを聞き、このまま喫茶店で帰りを待とうとした相手からのメールに驚いているのか、先輩は声に意外なものを含ませながら、そう言って俺達にも携帯を見せてくれた。

 公園にいます。そのたった六文字しかないメールには、俺が一度も使った覚えのない、喜びを表現する絵文字やら顔文字やらがぎっしりと打たれていた。
 結局その呼び出しに応じる形で、俺達はここまでやってきたわけなのだが……。
「……」
 先輩はさっきから何か考え事をしているのか、難しい顔つきをしていた。
 付き合いは短いとはいえ、あんな俺のキャラに似合わないメールが送られてくれば、不審に思うのも当然だろう。
「いやぁ、賑やかですね」
 その一方で、入れ替わってからの俺しか知らない和弥は、あの浮かれメールにもなんら不自然を感じていないようでノンキに辺りを眺めている。
 芝生に沿ったレンガ敷きの大路には、まるで縁日のような顔ぶれがずらりと並んでいた。たこ焼きにヤキソバといったお馴染みの屋台をはじめとして、なぜかガレージセールや献血までもが行われている。
 こんな場所で、藤はいったい何をやっているのか。嫌な予感は膨らむばかりだ。
 しばらく三人で歩いていると、広場の中央にアーケード街で見かけた覚えのある顔ぶれが、今度は円を成して通行の妨害をしていた。
 その中心部からは、バラエティなどでもたまに耳にする荘厳さの漂う曲が流れている。
「ふむ、まずまず好評か。ありがたいことだね」
「先輩?」
 まるで中央で何が行われているのか知っているような口ぶりで、夕香先輩は人だかりを満足そうに眺めていた。
 心なしか表情にもうっすらと笑みが戻り、どこか誇らしげにさえ見える。
「せっかくだ、少し見て行くかい?」
「えっ、い、いや、でも」
「鷹広くんなら、私と和弥くんで探しておく。遠慮せず、いつものように行きたまえ」
 どうやら中心部にいる人間が誰なのか、先輩は知っているらしい。さらに聞けば、その人物の気配を察するや否や、藤は尻尾を振る犬のように飛び掛るんだそうだ。
「…………」
 その行動を、俺にしろと?
「鷹広くんを見つけたら、またここに戻ってくる。では行こうか、和弥くん」
「え、いや、でも自分は藤先輩と」
「人手は多いほうがいい。すまないが、問答無用だ」
 恥を捨てるか、それとも正体をバラしてそんなこと出来ないと言うか、その二つを天秤にかけるヒマも与えず、先輩は和弥を引き連れて出店の並ぶ方へ向かっていった。
 人ごみの中に消えていく後ろ姿を見送りながら、どうしたものか考える。
 せっかく別行動になったのだし、このまま何も見ずに立ち去るという手もありだが、それは、あとになって話のツジツマ合わせに苦労するのが目に見えていた。
「おおーーっ」
 ふいに、人垣が大きな歓声と拍手を上げる。
 中には口笛まで吹き、シビレルだの憧れるだのと、バカみたいに騒ぐ声もあった。
「……ちょっと待て?」
 たったいま聞いた声を頭の中でリピートし、再生終了と同時に俺は人ごみへ特攻する。
 文句を言いたげな視線を背中に浴びながらも人と人との間をくぐり抜け、ようやく最前列に着いた俺がまず初めに見たものは、背の高い黒マントの怪人だった。
 身長からいって、先輩ではない。そもそも、たったいま別れたばっかりだ。
 先輩と違い、怪人はハーフマスクに加えて、悪魔祓い師のような鍔の丸い帽子を目深に被っていた。さらに言うなら、その右手にはおもちゃのような大きさのナイフが握られている。
「さあ、次はこの、なんの変哲もないナイフ。鋭く尖ったこの争いの象徴が、あっという間に平和の象徴へ早変わりだぁっ!」
 ギャラリーに取り囲まれたその中心部で、男はハツラツとした声と共に、マントを大きく翻らせた。
 真っ黒な布地が男を覆い、周囲の視界からその姿を消す。だがそれも一瞬のことで、再び衆目に現れた男の右手からは、ナイフが忽然と消えていた。
 マントの中にしまったのだろうと、そう思う隙もなく、ひらひらと目の前を季節はずれの桜が通り過ぎた。
 とっさに空を見上げると、いつの間にか現れた白いハトが、花びらを撒きながらギャラリーの上空を羽ばたいている。ハトはその場でしばらく旋回し、やがて当たり前のように、男の腕に戻っていった。
 再び大きな拍手が湧く。そして口笛と、先ほど聞いたバカ丸出しの歓声も。
「イヤッホー! キョウスケさん最高ー!」
 その声の主が、予想通りの人間だったためか、脱力感と頭痛とが一気にやってくる。
「藤ぃ……」
「ふはははははっ。紳士淑女の皆々様、ご声援どうもありがとう!」
 野郎の黄色い声にも余裕の笑顔で切り返し、男は手品を続行する。
 どうやら藤の知り合いというのは、このマジシャンらしき男で間違いなさそうだ。
 男の足元には青いビニールシートが広げられ、その上に置かれたラジカセからは、例の荘厳さを感じさせる曲がループ再生されている。
 ラジカセの横には、なぜかガラス細工の小物や怪しげな仮面などといった古めかしい調度品が並べられていた。目を凝らしてみれば、値札まで貼ってある。
 もしかしたら手品はただの客寄せで、本当は公園の入り口で見かけたガレージセールの仲間なのかもしれない。たしかに集客率はけっこうなものだが、客自体は品物から遠ざかっているように見える。これでは本末転倒だ。
「さあっ昼の部はこれで終了だ! 途中、娘の乱入もあったが楽しんでいただけたかな? さあ次のショーは午後四時からっ。ここにある品物を買ってくれたお客さんには、夕方の部でサービスするぜぇ? メルシィッ!」
 男はなぜかフランス語でそう言葉を締めくくると、怪人衣装一式を空に向かって投げ捨てた。
 マスクの下から現れた無精ひげを蓄える柔和な顔つきが、いたずらめいた笑みでギャラリーに愛嬌を振りまく。
「ん?」
 心臓が、いきなりなんの脈絡もなく、早鐘を打ち始めた。
 全身が芯から火照り、きゅぅっと胸が締め付けられるような切ない気分になる。
 急いでいるわけでもないのに、なぜかそわそわして落ち着かない。
 なんなんだ、これは……。
「ぃよう、藤ちゃん!」
 どこか覚えのある気持ちに戸惑っていると、活発な男の声が降りかかってきた。反射的に顔を上げると、さっきの男が両手を広げ、キラリと白い歯を覗かせている。
「ヘイ、カマンッ!」
 まだギャラリーのハケきっていないその中心で手を打ち鳴らし、身体を反り返らせる。それはまるで、俺の胸に飛びついて来いとでもいうようなポーズだった。
「……マジか」
 先輩の話によると、藤はいつもあの男に忠犬の勢いで飛びついているらしい。実際、あの男の顔を見ていると、なぜだか幸せ気分に支配され、いますぐ胸元まではだけられたあの白いワイシャツに向かって飛び込みたい衝動に駆られた。
 だが足は一進一退を繰り返し、前にも後ろにも進まない。まるで、野郎に飛びつくのが許せない俺の意識と、飛びつきたい藤の意識とが交互にせめぎあっているような感じだった。
「うぅ……」
 俺は数メートル先でダンディズムな笑顔を振りまく男を前に、いよいよ屈しそうになる。よく見ればかっこいいかナーとまで思う始末だ。
「キョウスケさん!」
 一瞬、自分が発したかと勘違いしそうなほどピッタリのタイミングで出てきたその声は、聞きなれた男の――本来の自分の――声だった。
「お疲れ様ですっ、これ、差し入れですっ」
 顔を真っ赤にして、藤がたこ焼きを差し出す。
「ああん? なんだお前……ん、おいおい、こいつぁ駅前の「金だこ」じゃねぇか! くれんのか?」
「もちろん!」
「そうかそうか、ふははははは!」
 オッサンの態度がいきなり氷解し、豪快に笑いながら藤の頭を撫でた。藤も、それを嬉しそうな顔をして受け入れている。
 混乱のしすぎで、頭が真っ白になりそうだ。とりあえず、あんなキモイ自分の姿は知り合いには絶対に見せられないな。
「藤くん。いまここで鷹広くんの声が……」
 お約束が偶然だよコンチクショオ!
「み、見ちゃ駄目です! ってかお願い見ないでぇ!」
 甲高い声で叫び、夕香先輩の両目を手のひらで塞ぐ。手の脂がメガネのレンズについてしまうのは心苦しいが、オッサン相手に頬を染める俺の姿を見られてしまうのはもっと苦しい。というか、舌噛んで死ねる。藤の身体は道連れだ。
「な、何をっ」
「何も聞かないで、回れ右して、向こう行ってください。お願いします!」
「ぃよう我が娘アーンド藤ちゃん! 挨拶もなしにオジサン悲しいぜぇ?」
「わああああああっ!」
 いつのまにここまで接近してきたのか、例のオッサンが青ノリのついた歯を輝かせて目の前に立っていた。その隣には俺の姿をした藤もいる。
「夕香。紹介するぜぇ? こいつは、オレの大ファンだ! 野郎も虜にするパパのマジックって、正直どうよ!」
「ならば私も紹介しよう。そこの彼は私の後輩であり、写真部の一人だ。旧知の仲である藤くんのみでなく、赤の他人までも惹きつけた娘の手腕は、正直どう思うかな?」
「ふふん、引き分けって所か」
「うん、異存はない」
 いったいこの二人は何を張り合っているのだろう。
「ってか、パパ? ……娘?」
「おいおい藤ちゃん? どうしたよ」
「何をそんなに驚く? 知っているだろう」
 不思議な顔を二人から返される。
 改めて男をじっくりと見るが、二十代にしか思えなかった。それに、陽気で軽いノリの若作りオヤジと、物静かで大人びている夕香先輩とでは、どうあっても結びつきそうになかった。男の雰囲気はどちらかといえば藤に近い。
「父よ。どうも藤くんは調子が悪いらしい」
「夕香。父じゃなくてだな、もっとこうエレガントに、「パパ」。もしくは高貴な感じで「お父様」って呼んでくれって、いつも言ってんだろぉ? あ、藤ちゃんヘーキ? 熱ある? 健康だからって、油断しちゃあいけねぇぜ」
 冗談とも本気ともつかない台詞のあとで、急に真面目な声を出すところも、夕香先輩というよりは、やはり藤にそっくりだ。
 しかしそれでも、目元や顔立ちは、どことなく夕香先輩を思い出させる。
 先輩が男になって、常に裏表のない笑顔を絶やさないでいれば、こんな感じの顔になるのかもしれない。
「ははぁ、さては属性変わったな藤ちゃん。モジモジしちゃってぇ、このこの」
 まじまじと観察しているのを、都合のいいように考えたらしい。おちょくるような調子でそんな台詞を吐くと、先輩の父親は俺の頭を撫でてきた。
 ごつい手が髪に触れ、頭を撫でさする。
「ひぅっ!」
 ドキンッと、急に心臓が跳ね上がった。治まりかけていたはずの動悸が再び胸を苦しめる。
 ちょっ、おい、なん、で……?
 顔がこわばり、息をつくことさえ一苦労なのに、ふわふわと暖かくて、気持ちのいい感覚に迫られる。これ以上身を委ねていたら、どうにかなってしまいそうだ。
「あ、あの、その、手……」
「ふはっ、イイヨイイヨー、可愛いじゃん」
「うっ!」
 和弥に続いて、夕香先輩の親父にまで可愛い認定されてしまう。それが気つけになったのか、ドキドキと暴走していた心臓が嘘のように静まっていった。
 だが心はすでにボロボロだ。今日は朝からいろんなことがありすぎたせいか、本当に具合が悪くなってきた気もする。
「あ、アタシ、帰ります!」
「ふははは、照れちまったのかな? まあちょっと待ってくれって」
 父親はそういうと、工事現場の立入禁止ポーズのように手のひらを突き出し、くるりと手首を捻った。
「わ……」
 その手並みに、一瞬で目を奪われる。何も持っていなかったはずの手には、いつのまにか一輪の造花が握られていた。
 どうやらこの親父、娘と違い手先はとても器用らしい。が、このキザったらしい真似はどういうつもりだ。
「新しい萌えを身に付けた藤ちゃんに、心ばかりのお祝いさ」
「さよなら」
 足を止めた俺がバカだった。
「送っていこうか?」
 先輩の優しい言葉が身に染みる。が、いまは誰とも顔を合わせたくない。
 実を言うとキザ親父に造花を差し出され、また心臓がバクバクとなっている。たぶん耳まで真っ赤だ。
「い、いいです。一人で、大丈夫ですからっ」
 どいうにかそれだけ言うと、俺は逃げるようにその場から走り去る。
 去り際に、『やっぱり』と呟いた藤の声が聞こえた気がしたが、その意味を考える余裕はなかった。
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Author:巫

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・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

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・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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