ぞっこん3-4

長編のTSモノ
入れ替わった少年少女の話です。だらだらとしたペースで続けています。


ぞっこんショット!3-4

 どこをどうやって帰ってきたのか、気がつけば俺は部屋のベッドで横になっていた。
 夕焼け色をした天井に、今日一日の顔ぶれが浮かんでは消えていく。
 ゼロ円スマイルのナンパ男……は、どうでもいい。一刻も早く忘れるべきだ。
 いやに必死になって、俺を可愛いと説き伏せる和弥。
 ベストショットにこだわる夕香先輩。
 エセ手品師に熱狂的な拍手喝采を送っていた藤。
 娘とは正反対の性格をした、精悍な先輩の父親。
 そんな奴に頭を撫でられて、なぜかドキドキしていた自分……。

「はぁぁぁ~」
 幸せ成分を全て吐き出す勢いで、深いため息をつく。
 入れ替わってからずっと気の休まらない日が続いている。それがお互い様ならまだしも、藤は俺とは逆にいまの状況を受け入れ、存分に楽しんでいるようだ。
 あいつだって好きな相手がいるはずなのに、どうしてあんなに余裕を持っていられるのか、不思議でならない。
「うん?」
 そこまで考え、スッと冷たい何かが背筋を走った。
 先輩の親父に会って舞い上がっていた藤。キョウスケという名前。頭を撫でられて無意識にドキドキしていた身体。最後に聞いた呟き。
『心が身体に影響されちゃったってことだね。タカくんってば、センパイが好きなんでしょ?』
『明日になればタカくんもわかるんじゃないかな。きっと』
「マジか」
 まさか、藤の好きな〝キョウスケ〟ってのは……。
 枕元から手探りで携帯を取り、藤にメールを打つ。その間にも、身の毛のよだつ相関図は着実に形作られていった。
 まさかまさかと思うほどに、そのまさかはどんどん可能性を強くしていく。
 数分後、送り返されたメールには、俺の頭をショートさせるのに充分なパワーを持った返事が綴られていた。


 夜が明けると、世界はぐるぐるのぐにゃぐにゃだった。頭がぐらぐらと沸騰し、思考力はまるでゼリーのようになっている。
 それなのに、よせばいいのに、またも携帯を開いてしまう。
《愛があれば年の差なんて》
 照れを表現した絵文字つきの短いメールが、熱をさらに引き上げる。
 環境の変化やら人間関係やらで頭を悩ませていた毎日に、トドメとばかりにこんなわけのわからん冗談のようなものを突きつけられたのだ。これで体調が崩れないはずがない。むしろよく風邪程度で済んだと思うべきだろう。
「おぉぅ~」
 身体中がムッとした熱でコーティングされ、息苦しさのあまり意味のない唸り声を漏らす。目眩が絶え間なく続き、気分は荒海を渡るボートのようだった。
 パジャマが汗で湿り、じっとりとした感触が不愉快を募らせる。具体的に言うと、胸の辺りがかなり蒸れていた。
 取り外しができればいいのだが、あいにくとこの身体は正真正銘の女であり、そして平均を著しく凌駕したバストサイズをしている。
 入れ替わってから幾日か経つが、いままで敬遠し、出来るだけ見ないよう触らないようにと避けてきたこの無駄に重い脂肪の塊は、ここにきて最大の難敵として立ちはだかっていた。
「胸が……胸が迫る……うぉー……う?」
 胸元の蒸し暑さとの孤独な戦いを繰り広げていると、ふいにひんやりとした物が額に触れた。おぼつかない意識を無理矢理引き起こし、じわじわとまぶたを持ち上げる。
「気がついたかい?」
「せん、ぱい?」
 ついに幻覚が始まったらしい。せめてもの救いか、現れたのが先輩で良かった。
「親父さんだったら、立ち直れねぇ……」
 自嘲気味に呟きながら、昨日のことを思い出す。
 先輩の父親にドキドキしたアレは、おそらくこの藤の身体が、無意識に反応していたせいだ。文字通り、四ノ宮藤は身も心も、身体の芯から芯まで、キョウスケという一人の男にゾッコンらしい。
 ……ということは、俺の身体の藤にも似たようなことが起こったと、そう考えられる。
 なんだよ、俺も結局は、骨の髄まで先輩に惚れていたわけか。
「悩んで……損した」
「言っていることがよくわからないな。まだ、朦朧としているのかな?」
「はぇ?」
 煮えたぎっていたはずの頭をどうにか働かせ、少しずつ現実感を芽生えさせていく。定まった視界が、俺を心配そうな顔で見下ろす夕香先輩を捉えた。
「……先輩?」
「やあ」
 声をかければ、サワヤカとはいえない無機質っぽい声で、サワヤカな返事が返ってくる。
 夢や幻ではありえない、いつものやり取りだった。
「ど、どうして、ここに?」
「つれないことを言うね。幼馴染の看病をするのがそんなに変かい?」
 先輩の傍らにはトレイが置かれ、水の張った洗面器と濡れタオルが用意してある。水気を帯びたまっさらな布が、額に貼りついた髪をそっと拭った。
「で、でも……」
「言いたいことがあるのならあとで聞こう。いまはゆっくり休むといい」
 柔和な声でそう諭し、目を細める。
 一方で、その手は俺の胸元のボタンを一つ一つ丁寧に、かつ素早く外していた。
「いや、ちょっ、何しているんですか!」
「胸元が暑いのだろう? 汗を拭いてあげるよ」
「な、なんでそのこと」
「胸がどうとか言っていたからね。蒸し暑いのだろう? 私にはわからないけど、ねっ」
「ひゃうっ! あっ、そこっは……うひゃあ!」
 冷えたタオルを持った先輩の手が、俺の谷間に差し込まれる。熱のせいで、余計に敏感になっているのもいけなかった。
 その際に走った数々の感覚を詳しく言ってしまうとお酒を飲めない年齢未満はお断り的な領域に達してしまいかねないが、これだけは言わせて欲しい。
 憎しみを込めて胸をいじるの、やめてください。


──カシャッ──
 耳障りな音と同時に、白い光がまぶたの裏を突き刺す。
 白いというか、むしろ痛い。というか眩しい。
「っだよ……」
 いまいましい光を浴びたせいで、眠りから無理矢理引き剥がされる。
 気分はナナメ四十五度の右肩下がり。すこぶる目覚めの悪い朝だった。
 訂正。朝ではなかった。
 部屋の中は真っ暗で、窓の外には目の覚める光などとても放ちそうにない月がぽつんと浮かんでいる。
 その弱々しい光を遮る雲を目で追ううちに、じわじわと意識を閉ざす前の記憶が蘇ってきた。
 熱にうなされていたら先輩が来て……それで……。
 胸どころか全身をタオルで拭かれ、弱りきった身体で身悶えているうちに、眠ってしまったらしい。
 思い返していると、カァッと顔が熱くなってきた。せっかく熱も下がり始めたのに、また気分が悪くなりそうだ。
「ああ、起こしてしまったかな」
「ひゃっ」
 いきなりの声に、俺は思わず高い声をあげて上半身を跳ね起こす。
 枕元に夕香先輩がいた。
「い、いたんですか、先輩」
「ずっとね。私が病人を放っておくわけないだろう?」
 外の景色からいって、少なくとも四時間以上は眠っていたはずだ。よもやその間、ずっと看病してくれていたのだろうか。
 ありがたいやら申し訳ないやらで言葉に詰まり、視線は知らずのうちに胸元へ下がっていく。
「あれ? パジャマ……?」
「ああ、キミの身体を拭いた後、新しい物に着替えさせておいた」
 その一言で記憶機能がさらに刺激され、全裸を見られてしまったことをも思い出す。
 女同士なのだし、そもそもこれは自分の身体ではないのだしと納得させようとしても、やはりバツが悪いことに変わりはない。
 しかし先輩はまったく気にしていないようだ。もしかしたら、こういった看病に慣れているのかもしれない。身体を拭く手つきにも、ためらいはほとんどなかった。
「ふふ、見事だよ」
「はい? うわっ」
 言葉につられるようにして顔を上げると、耳障りな音と眩い光が再び襲い掛かってくる。
 太陽とはまた違う、痛いほどの白い光に顔をしかめていると、いつの間に現れたのか緑色のアメーバが視界の中をさまよい泳いでいた。
 俺はそれで、ようやく光の正体に気付いた。
「裸を見られてしまったという恥じらいと、同性ゆえに妥協できるかできないかの境目に頭を悩ませ恥じらう少女。最近のキミは、どうにもあざとい」
「あ、あざといって……」
「だが、それがいい」
 にやりと、月明かりの下で口を綺麗に曲げる。
 先輩の両手には、首から提げたカメラが構えられていた。さっきの音と光とアメーバは、それが原因だ。
「もしかして、さっきも撮りました?」
「月明かりに浮かぶ病床のキミがあまりにもセクシィだったのでね。あれをカメラにおさめずに、写真部部長は名乗れまい」
 そんなことを誇らしげに言われてしまい、どっと疲れが舞い込む。
 昨日のナンパ男のときといい、どうしてこの人は、俺に『ありがとう』の言葉を簡単に言わせてくれないのかな。
「それより、具合はどうだい?」
「もうほとんど治りかけていたんですけどね。さっきまでは」
 熱は出るわ頭は痛いわで、いつまた寝込んでもおかしくなかった。
 それでもやはり、こんな時間まで看病してくれたのだから感謝はしている。
「どれ」
 先輩は俺の額に手のひらを乗せると、ゆっくりとした調子で頷いた。
「うん、これなら心配はなさそうだ」
 火照った顔に、心地良い冷たさが拡散する。
 手の冷たい人間は心が暖かいとか言われている。体温で人の心が推し量れるわけないが、いまならその世迷い言を信じていい気がした。
「では、そろそろ失礼するよ。キミの両親も帰ってくる頃だ」
「あ、あの、先輩」
「うん?」
「その……ありがとう、ございます」
 改めて伝えるお礼の言葉は、なぜか照れくさく、最後の方など自分でもほとんど聞き取れないぐらいに小さくなっていた。
 それでも先輩にはちゃんと届いたのか、微かな笑顔で礼を返される。
「明日のプレゼントは、期待してもいいかな?」
「え?」
「それじゃあ、またね」
 砕氷船のごとくざくざくとゴミを掻き分けながら、去り際に手を軽く振ると、音も立てずに先輩は部屋のドアを閉じた。
 かたや俺は、しばらくその場から動けずに疑問符ばかりを浮かべている。
「プレゼント?」
 首を捻っても、回答なんぞ出てくるはずもない。
 しかしつい最近、この単語をどこかで聞いた覚えがあった。
 どうやら何かのお祝いがあるらしいことだけはわかるが、詳しいことまではやっぱりわからない。
「プレゼント、プレゼント、プレ…………ああっ!」
 同じ呟きを何度か繰り返し、ようやく思い出す。
 大事なことのはずなのに、いままで忘れていた。というか、そもそも知らなかったという方が正しい。
 確認のため、まるで昨夜の再現のように慌てて藤にメールを打つが、おそらく間違いないだろう。
 明日は、夕香先輩の誕生日だ。
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Author:巫

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