ぞっこん4-1

長編の入れ替わりモノです。最終章始めます


これまでのあらすじ

普通の男子学生だった鷹広はある日、ひそかに恋心を抱いている写真部部長・夕香の幼馴染である藤と体が入れ替わってしまう。
ばれないようにしていこうと生活を交換する二人だが、藤と鷹広を尊敬するという後輩の和弥が現れ、
さらに藤は夕香の父親が好きだと白状し、鷹広の身体のまま父親に急接近。
一方で鷹広は、夕香の誕生日を「幼馴染の藤」としてささやかに祝うものの、なぜかほんの少し気まずくなってしまった。
嵐のような日々が過ぎ、ようやく元の身体に戻れる予定の日。
その日は、学校の文化祭「奨励祭」が開始されるの日でもあった。



ぞっこんショット!4-1


《これより、第十三回、雨樋学園奨励祭を、開催いたします》
 午前九時。奨励祭の始まりを告げる放送が校舎の内外を問わずに響き渡った。
 そこかしこから拍手が聞こえ、C組の連中は祭りを堪能すべく、午前のシフトメンバー以外の全員が我先にと廊下へ出て行く。
 そんなクラスメイト達を横目に、俺はカーテンで遮蔽されただけの仮設更衣室に入った。
 机の上に折りたたまれ鎮座する真紅の服は、以前の試着からさらに変貌を遂げた、四ノ宮藤専用チャイナドレスだ。専用との名が付くからには、色は赤! とよくわからない主張をした大和の言を忠実に守ったカラーリングは、派手の一言に尽きる。
 藤専用チャイナは以前と同じくきわどいスリットを維持している。なおかつ、ボディラインを引き立たせるフィット感も健在だった。少しでも太腿の隙間をなくそうと裾を引っ張れば、今度は胸が服に押し付けられて強調されるという凶悪なデザインも相変わらずだ。
 ただし今回は、ギリギリセーフを唱えた実行委員の唯一の功績として、任意でパレオの装着が認可されていた。腰に巻いてスカート風にコーディネートを施せば、ギリギリラインもなんとか隠すことが出来る。
 着心地はやっぱり落ち着かないけれど、それでも少し救われた気分だ。
「ふぅーじぃー、着替え終わったー?」
 カーテンの向こう側から、大和の声がかかる。
「う、うん」
「よっしゃ開けるよいいねってか問答無用、ほらご開帳ぉーっ!」
「え、うわぁっ!」
 急にテンションを上げた早口が終わると同時に、カーテンが勢いよく取り払われた。内装を中華風に飾り付けた教室に残っていたクラスメイト達の、ライオンのような目ヂカラが一斉に襲い掛かってくる。
「キターーーーーッ!」
「グッジョッ! 俺に良し!」
「はあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ」
 ライオンどもが怒号にも似た喜びの声を上げて狂乱する。中には通報されても仕方のない反応をする輩までいた。
 ここまで狂喜されるとむしろヒいてしまう。C組にはまともな人間がいないんだろうか。
 カーテンを開け放った大和の服も、色違いとはいえ俺と同じマイクロミニなのに、不思議と彼女に視線は集まっていない。
 やはり赤カラーは特別なのか? ……よくわからん。
「ふっふーん、可愛いでしょ? エロイでしょ? でも、この娘はいまから私が独り占めするのよ! どう、羨ましいでしょ!」
「はい?」
 それはいったいどういうことだ。
「ガッデム! なんてこったい!」
「いや、むしろご褒美だ!」
「ふふっふーん。ってわけで行くよ、藤」
 やんややんやとエキサイトしっぱなしのケモノ達を得意げに一瞥し、大和が俺の手を引く。
「い、行くって?」
「廊下に決まってんじゃん。私とのゴールデンコンビなら、千客万来よ!」
 大和はグッと拳を握り、やたらと張り切った気迫を見せている。手を引かれるまま廊下に出ると、他のクラスから客引きの声が聞こえ、早くも祭りらしい賑わいを感じた。
 ああ……そういえば俺もやるんだっけな、アレ。
 ようやく合点がいった。この時間帯の客引き担当は俺と大和の二人だけなので、確かに独り占めと言えなくもないというか、なんでいちいち紛らわしい言い方をするのか理解に苦しむ。
「こら、なんて顔してるのよ」
「か、顔?」
「やる気なさけじゃない。元とはいえあんたも演劇部なんだし、作り笑顔ぐらいしてなさいって」
「……はぁ。わかった」
 とはいえ開催直後では、やはり客入りのテンポは緩やかなものだ。
 まずは面白そうな展示やイベントから覗いていく。そして小腹が空けば模擬店で一息つく、というのがお決まりのパターンだろう。よって、忙しくなるのはおそらく昼頃。午後から俺は部活の方に行く予定なので、シフトは午前中の二時間までとなっている。
 そのため混雑する時間帯は回避できるが、口コミの宣伝効果を狙うのなら早い時間から人目をひきつけたほうがいい。大和はその戦略を最大限に活かすため、プロポーションとテンションの両方がビックサイズという藤を先鋒としてもってきたに違いない。なかなかの策謀家である。
 だが果たして、行きかう人波が送りつける好奇の眼差しは、ちくちくと痛いばかりで入店への後押しにはなりえていないように思えた。
 俺に言わせてもらえば、店の入り口にこんなきわどい格好をした女が立っているのを見た時点で尻込みしてしまう。学校という、顔見知りがたくさんいる場所であることも、おそらくは足を向けにくい原因の一つだ。
 つまり大和の作戦は失敗に終わったわけだ。つーかむしろこのまま終わってくれ。
 ――その願いは、届いた。
「一人なんだが、入れるかな?」
「は、はーい、いらっしゃいま……せ」
 宛先はマッドな神様のところだったらしい。
 針のむしろに座っているような気分で、半ばヤケ気味に顔に貼り付けた営業スマイルを搾り出す。が、それもほんの一秒で崩壊した。
「やあ、藤くん。今日のキミのテーマは、セクシィかい?」
「せ、せせ先輩? う……いや、あの、この格好……いや、その格好は……?」
 見られたくなかった人ナンバーワンにそんな指摘をされ、一気に体温が平熱を上回る。それでもどうにか口がきけたのは、きっと先輩の衣装のおかげだ。まあ、おかげ、というにはあまりにもアレな感じだが。
「私の服装が、何かな」
 俺の格好とは逆に、黒マントとハーフマスクという限りなく露出のない服装。これはもう気にしないと前に決めたばかりだし、そもそも祭りの真っ只中なら、その格好は特別おかしなものではない。
 じゃあ何が問題なのかというと、だ。
「……うわぁ、エロいんだか怪しいんだか」
 怪訝な大和の声が、それを指摘する。
 マントの下に着ているのは、写真部で使うガイド服だ。
 深い青色をしたタイトのワンピースが彼女の羽織る大きな暗幕に包まれ、もともとエロスを滲ませていた衣装に妖艶さが加わっている。
 ペルソナ付きの怪人というより、魔女や吸血鬼のイメージが近い。学園祭の出し物ではなく、ハロウィンでの出演を勧めたい格好だった。
 この俺でも唖然とするぐらいだ。先輩は変な人という予備知識を持った程度でしかない周囲にいたっては、怪訝を通り越して不気味がるような目つきをしている。
「入れるかな?」
「申し訳ございません。うちはマントを付けた怪しい人の入店はお断りしています」
 俺がいいと頷くより先に、大和が毅然とした調子で入店拒否を告げた。もちろん、そんなたったいま思いついたかのような規律など初耳だ。
 大和は何をそんなに怒っているのかと思わせるぐらいの剣幕で、さらに眉間にしわを寄せながら口を開く。
「あのですね、藤にこれ以上ちょっかい出さないで下さい! あなたみたいな変な先輩と一緒にいるせいで、この子まで変な目で見られているんですよ!」
「いや、それはない」
 藤がおかしいのは元からだし、その頭の固い保護者のような言い草はどうかと思う。だが大和は相変わらず、俺の話を五分たりとも聞いてくれなかった。
「だいたい、先輩が藤を無理矢理写真部に入れるから、藤はこんな格好をして、お客さんを呼ぶ係りなんかになっているんです。ああ、かわいそうな藤!」
「いや、何言ってんのお前」
 大和は前からなんとなく先輩を毛嫌いしているようなフシはあったが、まさか面と向かって噛み付き掛かるとは思わなかった。というか、こんな格好をしているのは間違いなくお前が原因だろうが。
「……私は藤くんに、いや、他の誰かに何かを無理矢理強制した覚えなど一度もないのだが」
 結構あったような気がするが、先輩の性格を考えるのなら、本気で嫌がればそれらを取りやめてくれたはずだろうとも思った。
 初めて会ったときのあの写真だって、きっと真剣に拝み倒せば返してくれただろう。勝手な想像ではあるが、間違っている気はしない。
 なぜなら、もし先輩が人の嫌がることを本気で行うような人間ならば、俺はそんな人になど惚れていないからだ。いや、何も言うな。ずいぶんと妄想力のハジケた恥ずかしい考え方だというのは、自覚はしている。
「強制なんかしてなくても、周りの人は変人と一緒にいるのは変人だって思うようにできているんです!」
「それは藤くんへの理解が足りない証拠さ。それに私も、自らが変人だと公言した覚えはない」
「そんな変な格好をしてて、何言ってんです!」
 首肯しかけた。が、エロス満開のチャイナを着ている女がそれを言うか。
 とりあえず、そろそろ止めないとこの不毛な争いはいつまでたっても終わりそうになかった。
「あ、あのー二人とも、もうその辺でやめてほしいかなーって。あ、あはは……」
「……仕方ない、ここは私が折れるとしよう」
 そう言うと夕香先輩は外套を翻し、人ごみに道を譲られながら悠々とした足取りで去っていった。しかしその背中は心なしか煤けて見える。
「ふんっ、おととい来なさいっ」
 大和はといえば、そんな後ろ姿を見送って鼻を鳴らしていた。
「はぁ……言い過ぎ」
「えぇ? だってホントのことじゃん」
 その台詞に、俺は以前と同じく言葉に詰まってしまう。
 まただ。また俺は、好きな人の悪口をただ聞くことしか出来なかった。
「……ち、ちが」
 出てくる語彙は貧弱で、薄っぺらくて。
 これ以上、言葉を続けられなかった。
「おーい、ヤマちゃーん。お客、なんか並んできたよー?」
「あっとごめんごめん。いまご案内しまーす。ほら、藤もそんな顔してないでさ」
 大和はあっさりと話題をシャットアウトし、営業スマイルを再開させる。
 だが俺は、いまの気分ではとてもそんな風に笑えそうになかった。
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