ぞっこん4-2

長編のTSモノ
入れ替わった少年少女の話です。

ぞっこんショット!4-2


 チャイナの次に背中丸出しガイド服というコスプレコンボも、意識が半分以上違う方向を向いていてはなんの感慨も湧いてこない。
 すっかり慣れてしまった女の服の着替えに手間取ることもなく、ほとんどオート状態のまま衣装を装着した俺は、ため息をつきながら、備え付きの椅子に崩れ落ちるようにして座った。
 一緒に仕事をする相手はまだ来ていない。
 俺と和弥とで設営をした衝立には、幾枚かの写真が飾られている。その横には短冊サイズのプレートが掛けられ、それぞれにタイトルが付いていた。
《夜のトバリのひと光り》
 部活中だろうか。なにやら言い合いする俺と藤を撮った写真だ。もちろん、時間は夜じゃない。
《SING MY ANGEL》
 直訳すれば、歌う私の天使。ただ、傘を差しただけの藤をそういう目で見られるのかは疑問だ。
《燃える想い》
 燃える要素なんて一つもない、大あくびをかました俺。嘘タイトルにも程がある。
「先輩……」
 こんな調子で俺や藤を中心とした日常風景にズレたタイトルを付けてあるのが、我らが部長の作品だった。
 仮に何か深い意味を込めているのだとしても、残念ながら俺には解読できそうにない。
「おいーすっ、タカくん。何してんの?」
「ひゃっ」
 写真を凝視していた俺の背後で、能天気の塊がいきなり現れる。
 音もなく出てきてくれやがったおかげで、変な声が出てしまった。
「おっ、怯える姿もカワイーねっ。さすがあたし」
 人を驚かせておきながら、相手はニコニコと愛想を振りまいている。
「う、うるさい黙れ何しに来た」
 恥ずかしい思いに襲われる顔をそむけ、早口で吐き捨てる。くじ引きの結果、写真のガイド役は前半が俺と和弥というメンツになったため、藤の出番はとっくに終わったはずだ。
「いやま、ヒマだったからさ。二人だけだと、厳しいだろーと思って」
 疑問を見透かしたのか、あっさりとした調子でいやに納得できる答えを返してくる。
 チャイナ喫茶で働いていた際、美術室でまた会おうなどと言ってくる客達が、とにかく後を断たなかった。でれっとしたあの眼差しには、チャイナドレスだけでは飽き足らず、ガイド姿も拝み倒そうという魂胆がはっきりと映っていた。
 つまり写真部はこれから、俺目当ての客で溢れるに違いない。
 藤はそんな苦々しい俺の気持ちに気付いたのか、あるいは、元は自分の顔だけにいまの表情がどんな気持ちでいるのかわかりきっているのか。
「人気者はつらいねぇ」
 自画自賛とも皮肉とも取れる、そんな一言をよこしてきた。
「俺じゃなくて、先輩をそうしたいんだけどな」
「なんでセンパイ?」
「先輩がどんな風に思われているのかぐらい、お前も知ってるだろ」
 今朝の、大和とのことを思い出す。
 藤と夕香先輩の付き合いの長さは俺の比ではない。「先輩は害のある変人」という先入観を払拭する秘訣も、この女なら簡単に見つけそうな気がしてきた。
「あー、なるほどね。そっかそっか」
 何度か頷き、何かを一人で納得している。
「なんだよ?」
「いやぁ、タカくんは本当に夕香センパイが好きなわけだね」
「うっ」
 得意げにさらりと言った台詞があまりにもストレートすぎたためか、言葉に詰まった。
「ふふぅん、赤くなってる。その様子なら、まぁ心配ないだろうけど……もしセンパイ泣かしたら、オシオキだからね」
「オシオキ?」
「そう。センパイに悪い虫がつかないようにって、鍛え抜いたんだよ? そのカ・ラ・ダ」
 藤はいたずらめいた顔をし、俺の胸をちょん、と指先でつつく。
「さ、触んなっ。だいいち、いまそんな話はしてないだろ」
「まあまあ落ち着きなさいって。実はあたしも、同じように考えたことがあるのよ。センパイのために、何かあたしに出来ることはあるかなって」
「あ、ああ……」
「でもさ、こういうのはやっぱり本人の問題なんだよね。もちろん、見放したわけじゃないよ? でもセンパイって、周りには繊細なくせに自分のことになると強情だから」
「わかってる」
 自分勝手に見えて、周りにはしっかり合わせることのできる。けれど、決して自分の中にある譲れない一線は守り通す、我の強い人で。
 俺はもしかしたら、あの人のそんな一面に惹かれたのかもしれない。
「だけど、本当は怖がりで恥ずかしがり、っていうのも知ってるよね?」
「ああ」
 雷の一件もそうだし、俺を部活に勧誘していたときにも、仮面に隠されていなかった瞳にはどことなく脅えた色が宿っていたのを覚えている。
 勧誘を断られることを恐れていたのか、切り札である秘密の写真を俺が強引に奪い返しにくることを懸念していたのか。それは本人に聞いてみないとわからないが、とにかくあのときの先輩は、とても不安がっていたことだけは間違いない。
 なのに、口調だけは妙に落ち着き払っていた。
「そこがまた、可愛くて仕方ないんだよねぇ。いじらしいっていうの? 一つ年上なんだけどさ、それもギャップがあってメルシー神様っていうか?」
「いじらしい……ああ、そうだ。それだ!」
 初めて他の人間の口から先輩を支持する声を聞き、何度も何度も頷く。最近気付いたが、どうも夕香先輩のことに限ってだけは、藤とはこれ以上ないほど気が合ってしまうらしい。
「話がずれたかな。とにかく本人が変わんなきゃ、悪い噂はなくなんないってこと。それに……」
「?」
 声のトーンをふいに寂しげに落とし、藤は目線を例の短冊プレートに移した。
 謎の題名を、静かな口調でいくつか読み上げる。もっとも読んでもらったところで、その内容や写真との関連性はやっぱりわからなかったが。
「これは全部、普段出さない夕香センパイの本音だよ。そう思うと、ゾクゾクしない?」
「ゾクゾク……?」
 ふざけているのか本気なのか判別しづらいことを言い、笑顔で自分の身体を抱きしめる。けれど、言葉には一貫して真剣味があった。
 もう一度、自分の目で短冊を改める。
《ありし日の友》
 そういうタイトルの撮影日はつい最近。というか、俺が熱でうなされていたときの写真だ。
 何がどう本音なのか、やっぱりさっぱりちっともわからん。
「こんなこと、いままでは文章でだって表に出さなかった。けど、センパイは変わった。周りがどうこうしなくたって、あの人は自分で勝手に変わっていけるの。だったら、センパイが大好きなあたし達は、センパイが困ったときにすぐ力になれるよう傍にいてあげるだけで、いいんじゃないかな」
「……でも、悪く言われているのがわかってるのに、ほっとくのは」
「あー、タカくんタカくん。そんな、俺がなんとかしてやんなくちゃ的な考え、古いんでない?」
 疲れたような呆れたようなため息を漏らし、やがて『これはあたしの話だけど』と前置きをしてから、今度は雰囲気だけではなく口調も、目つきまで真剣そのものにして、一気に語り始めた。
「たとえばっ、子持ちのバツイチなんて男にあんまりいいイメージは持たれないものだけどさ、そんな世間様の意見なんて、知ったことじゃないでしょ? その人が好きだから好き。周りがどんなに悪く言っても、やっぱり好きだっていうなら、問題ないの。変な人? バツイチ? 幼馴染のお父さん? そんなの関係ない! その人が好きで好きでどうしようもないんだったら、あとはこっちも、全力で、ハードルを乗り越えるのみなのよ!」
「…………」
「大切なのは、その人が好きだと迷わない自分の気持ちっ。周りの批評も黙らせる、フルパワーな愛の言葉! キング・オブ・突撃ラブハート!」
 自分の姿が、演説ぶって好きだ愛だと叫ぶ姿を見るのは、なんというか恥ずかしさで悶え死ねる。それに一歩間違えれば、駆け落ちや犯罪に走りそうな理屈だった。
「わ、わかった。わかったから落ち着け」
 これ以上喋らせたら、開店前の展示室に電波炸裂の愛を説く男が出来上がってしまいそうだ。
 だがおかげで、気持ちはさっきと比べてだいぶ軽くなっている。かなり強引な論法だったが、納得できないでもなかった。
 ヘタに人気を上げようなんて、そんなことを考える必要はなかったのだ。身もフタもない言い方をするが、夕香先輩は変な人で、やはり違いない。
「それでも、好きだって思える気持ち、か」
 藤にはきっと、あの父親が力いっぱい好きと言えるだけの言葉がある。さっき言っていた数々の障害さえ、やがて全てぶち壊し、やがてキョウスケに想いを伝えるのだろう。
「……すごいな、お前は」
「言ったでしょ。恋する乙女は無敵なの」
 正直、羨ましく思った。先輩のどこが好きか、いまだにぼんやりとしたままの俺とは明らかに違っている。
 もし、今度大和に訊ねられたとき、俺はちゃんと言えるのだろうか。
 夕香先輩のどこが好きなのか。
 それを、力いっぱい伝えることが出来るのか。
「気楽に考えてみれば、自然とわかるよ。あの人のどこが好きなのか、どうして好きなのか。そして、自分はその人のためにどうすればいいのか、ね」
 電波の受信を終えたのか、口調がいつものお気楽さを取り戻している。
 直後、壁に掛けられた時計の針が午後の一時を示し、チャイムが響いた。
 間延びした約二十秒を要する鐘の音が鳴り止むのとすれ違いざま、コツコツとドアが鳴る。
「入れるー? 写真部って、ここだよなー?」
「早っ」
 ドアの前で律儀に待ち構えていたかのようなタイミングだ。もしかしたら、さっきの愛の語らいも聞いていたかもしれない。
「いらっしゃーい、中にどうぞーっ」
 やるせない恥ずかしさに襲われる俺を押しのけ、藤は慣れた調子でドアの向こうの人間を呼び込んだ。
「お、おい、和弥がまだだろ」
「ん~でも、開店遅らせるわけにもいかないし?」
 藤は明るい調子でドアに声をかけ、それから遅れて三人の男達が入ってきた。幸か不幸か、全員知らない顔だ。
 それまで軽薄な笑みを浮かべていた客達は、俺を見た瞬間、ピタリと口を閉ざした。理由は考えない。ああ、考えるものかよ。
「おーおー、みとれちゃったか? 恋の奴隷三名様ご案内だ。頼んだぜ、可愛いガイドさん♪」
「うぐ……わ、わかったよ」
 皮肉っぽく喋り方を男モードにチェンジし、藤は白々しい微笑みを浮かべながら、壁際に設けた衝立の裏へと消えていった。
「あのぅ、その」
 クラスの模擬店と違い、一人でこの男達に対処しきらなければいけないという状況に、まず頭がついていけない。
 それでなくても、いまのいままで真面目っぽい話をしていたのだ。そう簡単に頭を切り替えられるはずがないじゃんか。
「二人でーす。可愛い女の子とおいしいケーキをくださーいっ」
「うをっ!」
 フリーズしているヒマなどあり得んとばかりに、後続の客が顔を出す。だが、またしても客は俺を見た途端に頬を染め上げ、硬直してしまった。
「え、えーと、あの。ご、ご案内しまーす。こちらへどうぞ」
「は、はい。お手柔らかに」
 ぎこちない笑みを浮かべながらそう言うと、客達もまた、ギクシャクとした足取りで客席に着く。
 そのあとも次々と新規の客が現れては、みんながみんな、なぜか俺に目を奪われていた。
 お前等、そんなにエロスが好きか。


「四ノ宮さん。どうだい、この後。僕と二人でさ」
「断るっ!」
「うぉっ、な、なんだよ……ったく」
 きっぱりとした態度で一蹴してやると、男は俺が作り置きしておいた最後のケーキを飲み込むように食べ始めた。
 作り手としては笑顔でゆっくりいただいて欲しいのだが、それなら誘いを断るにしても――いくら、いろんな人間から似たような台詞を聞き続けていたせいで気がささくれ立っていたにしても――もう少しオブラートに包んで言ってやったほうが、相手も機嫌を損ねなかったかもしれない。
 何人目かもわからないナンパ男は、そのまま不機嫌を露わにしながらケーキを完食し、一言も喋らずに部屋から出て行った。
「はぁ……疲れた」
 椅子に座り、ようやく一息つく。時計を見ると、針はすでに四時を刻んでいた。
 奨励祭の一日目ももうじき終わる。にもかかわらず、外の賑わいは衰える様子はまったく見えない。噂じゃ、演劇部が盛んなんだとか聞いたが、いまからそれを見に行くだけの気力も、体育館まで行く体力も残っていなかった。
 開店からこの時間まで、ほとんどノンストップで客が入ってきたし、何よりも視線が厳しかった。
 特に気になったのは、下心のある男どもの目だ。ああもう、思い出すだけで身体中がぞわぞわする。
「お疲れー。大人気だったねぇ」
「…………」
 褒めているようでまったく褒めていない藤の労いにも、俺はどこかの殺し屋を気取って三点リーダーを返すのが精一杯だった。
 何も考えるヒマもないほどに身体を動かしたからか、頭だけは妙にスッキリとしているのが救いだ。
「タカくんさ、やっぱりあたしより才能あるよ。女の子の」
 性差に才能とかが関係あるのかはともかく、まるでまたもや『もうしばらくこのままでいようか』なんて言い出しそうな口ぶりに、不安を覚える。
 いろいろ思うこともあるが、さすがに今度ばかりはそれを承諾するつもりはない。というよりも、これ以上この身体で過ごしていたら、藤の言うところの女の才能とやらがメキメキと磨かれていく一方な気がしてならなかった。
「約束、守れよ?」
 もはや一刻たりとも女でいるつもりはないのだと、目ヂカラで返答する。
「はぁ、やれやれ。……待っててね」
 藤は、まるでこちらの言い分がわがままだとでも錯覚させるような素振りを見せ付けてから、俺に待機を命じた。もちろん子供じゃあるまいし、待っていろと言われて棒立ちしているつもりはない。
 入り口に鍵を掛け、廊下側の窓ガラス、さらには天窓の施錠も徹底的にチェックし、スネーク一匹の侵入も脱出も許さないようにする。それらが一通り終わった頃から間を置かず、藤はカメラバッグを携えて戻ってきた。
「すっごい今更だけどさ、これ使っても、元に戻れなかったりしてね」
「笑えねぇ」
「だよねー。それにこのままじゃ、キョウスケさんの恋人になれないしー?」
 年の差などには目もくれていないらしい。想いを伝えることになんの抵抗もないようだ。
「タカくんになったおかげで、いろいろキョウスケさんの気持ちも……あ、あれ?」
 うきうきした語らいが、カメラバッグの中身をのぞいた瞬間、不安しか実らせない呟き声に取って代わった。
「どうした?」
「………………ない」
 身じろぎせず口だけを動かして、たった二文字を抑揚のない声で囁く。
 化物と直面したように色を失ってみせれば、あるいはさすが元演劇部だと褒めたかもしれない。しかしそう言った藤の顔は、声を掛けることさえためらわれるほどに、なんの表情も浮かべていなかった。
「待ってよ、だってあたし、ちゃんと中に入れたよっ?」
 自問自答する語尾が徐々に上ずり、口調からは余裕が失われていく。
 初めて見るその取り乱し方は、俺をからかうとか、嘘を言っている風には、とても見えなかった。
「どうしよぉ、タカくん」
 いつものひょうひょうとした面影はいまやどこにもなく、泣き出しそうなほどの哀れさを含んだ声が、悪い予感の当確を明らかにする。
「カメラ、なくなってる」
「……盗まれたのか?」
 ひしひしと感じられる藤の焦燥が、逆に俺を冷静にさせたのかもしれない。
 自分でも驚くぐらいに、すんなりと言葉が出てきた。
「そ、そう、みたい……」
「ずっとここに置いていたのか?」
「う、うん。朝から、荷物は全部ここに」
「ってことは……犯人はここに来た客達か、鍵を持っている顧問か。美術室は一階だから、外から入ってきた可能性もあるなっ」
「えっと、つまり、何もわかんないって事だよね」
「その通りだ」
 あれ、いま俺、藤に突っ込まれたのか? あの、ボケの塊に?
 うわ、なんかすっげぇ悔しい! ってかああもう、やっぱり俺も混乱しているみたいだよコンチクショオォ!
「あぁーーッ!」
 結局あたふたするしかないと思い始めた矢先、素っ頓狂な声がパニックしかけた頭をハッとさせる。
 その声の主はというと目を見張り、俺の背後を指差していた。
「な、なんだよ? げぇっ!」
 つられて振り返り、すぐに藤の驚きを理解する。
 窓枠の向こう側。いまだ活気に満ちた廊下を、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら歩く痩せ男がいた。
 以前、和弥と一緒に食事をした時に、少しだけ会った覚えがある応援部の先輩だ。そんな男が、なぜか首から古めかしいカメラを提げている。
「アレって……だよな」
「うん」
 動機はともかく、状況証拠としては十分だ。
「犯人シメてくる。元に戻るの、もうちょっと待ってね」
 拳を鳴らしながら、笑顔なのに凶悪な凄みを浮かべた表情で戸を開ける。
 藤は人いきれの中に飛び込むと、大声を上げて走り出した。
「ひぃっ! なんだいキミはっ。うわあああああああ!」
「逃げんな待てぇ! カメラ置いてけコラァッ!」
「あー……」
 上級生を怒鳴りながら追いかける自分の姿を見送りながら、どうしたものかと着地点のない声を出す。
 俺も一緒に行けばよかったが、出遅れてしまった上に、悪い意味で目立っている追跡者の後を追うのはさすがにためらってしまった。
 犯人確保は藤に任せて、言われたとおり大人しくしていようかなと、自分でもどうかと思わなくもない投げやりな考えに身を任せようとした、そのときだ。
「先輩」
「あ?」
 開け放たれたままのドアから、こっそりと和弥が顔をのぞかせる。まるで、俺が一人になるのを見計らったようなタイミングだ……というのは、自分が疑い深くなっている証拠か。
 カメラを盗んだ犯人はあっけなく見つかったのだから、邪推する必要はない。そのはずなのに、どうしてか和弥の笑顔に黒いものが見え隠れする。
 笑顔?
「なんで、お前は笑っているんだ?」
 和弥は本来、俺と同じ時間帯に店番をするはずだった。それなのに今更になって姿を現し、悪びれることなくニコニコしている。
 明らかにおかしい。さらに凝視すると、美少女ヅラがだんだんタヌキのように見えてきた。
「先輩。大事なお話があるのです。ついてきてもらえませんか」
「いやだ。ここで聞く」
「……わがまま言わないで欲しいであります」
 人を化かしそうな笑顔を浮かべたまま、和弥は俺の手首を強引に掴み取ると、背を向けて歩き出す。
 女のような顔をしててもやはり男ということか、握る力はかなり強かった。
「痛ッ、離せ!」
「騒がないでくれませんか、鷹広先輩」
「ふざけ………………は?」
 いまのは、なんだ?
 聞き間違いでなければ、和弥はいま、確かに俺本来の名前を呼んだ。
 それは、つまり。
「じゃ、行きますよ」
 もう俺が逃げることはないと判断したのか、引っ張る腕の力が少しだけゆるくなる。
 そんな気遣いに気を回せるほど冷静になっているのかといえば、そうでもない。
 脊髄反射のみで右足左足が動き、思考力は混乱の渦でいままさに洗濯中だった。
 ……うん、自分でもわけがわからん。
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プロフィール

巫

Author:巫

・TS好きのはしくれ
・小説モドキを主に不法投棄します
・えろいといえなくもない表現を時々するため、10代前半以下の方の閲覧はお勧めしません

・当ブログのリンクはご自由にどうぞ
・ぬるい目で見守っていただければ重畳
・……上記のように妙な言い回しをする悪癖あり

・モドキとはいえ小説を公に無断転載してはいけません 常考
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