ネコス13

変身が主になっている短編SSです
後先考えずゆるい感じで進行していますが、
今回から記憶喪失編の締めに入るため前後編に分けました
よろしければお付き合いください


ネコス13 ~記憶喪失編
 
 みなさまこんばんは。
 異性への変身願望を叶える喫茶店ネコスの美人マスターです。今夜は久々に一人の時間を過ごしています。
 寒い寒い冬ももうじき終わりを迎える今日この頃ですが、住み込みバイトにしてTS娘のユカリちゃんはいまだに記憶を取り戻す気配を見せません。
 
 思えば、始まりは頭から血をだらだらと流した少年が「俺は誰?」と尋ねた瞬間からでした。
 その少年が数時間後にはなぜか絶世の美女に変身し、行く当てもないのでネコスに住み込んでもらって数ヶ月。
 ユカリちゃん本人はあまり気にしている素振りを見せていませんが、記憶がないというのはやっぱりつらいでしょう。
 私の持論ですが、人生は楽しくなくては損です。
 ふとした瞬間に過去の自分がわからないことで悩み、気持ちを暗くさせるなんて、そんなのはつまらないと思います。
「とはいえ、どうしたものでしょうか」
 少年だった頃の顔写真でもあれば話は簡単だったんですが、あいにくとユカリちゃんは初対面のとき以来ずっと男の姿に戻っていません。男の面影があるといえばありますが、それでもほぼ別人である今の彼女を元に人探しするというのは、かなり難易度が高いのではないでしょうか。
 それでも何とかしてあげたいと思うのは、最近ユカリちゃんの様子が変だからです。
 無理に明るく振舞い、妙にそわそわし、お菓子作りを教えてほしいなどと言い始めました。
 情緒不安定なのか、仕事中にも時々ギクシャクしているときがあります。
 顔色も白い肌に赤色が目立っていることが多いですし、もしかしたら病気なのかもしれません。
「はあ~、一人でいると気持ちが暗いほうへ傾きますねぇ」
 やっぱり、無理やりにでも買い物についていくべきでした。
 それにしてもなぜ彼女は一人で行ってしまったのでしょう。一緒に住んでいる私には見せられないような物を買ってくるつもりなのでしょうか。
 ……暇なので楽しいことを想像します。
 そういえば、もうすぐバレンタインでした。
 今は女の立場にいる私ですが、あいにくチョコを贈りたい相手とはまだ出会っていません。
 せいぜい、お店のバレンタインフェアでチョコ系のお菓子をお客さんに渡すぐらいです。
 空気の読めない妹からは毎年義理チョコをもらっていますが、はたしてユカリちゃんからは貰えるのでしょうか。
 なんなら私からあげましょうか。うん、それがいいかもしれません。
 となれば、乙女の夢を実行するチャンスかもしれません。
 自分をチョコでコーティングし好きな人に食べてもらう、伝説の「ワタシをタベテ♪」作戦。
「もちろん性的な意味で食べてほしいわけですが、何か?」
 一人なのについつい誰かに語りかけてしまう、そんな私こそ美人マスター。
「そうと決まれば、早く準備をしなくては」
 まずはKY妹に私にチョコを塗るのを手伝ってもらう約束をして……。
 あーうー。バレンタインを考えると顔のニヤケが止まりません。
「バレンタインの翌日は休業しましょうかねぇ」
「なんでだ?」
「そりゃあ、「ワタシをタベテ」作戦が成功した場合、淫欲に溺れる一夜をユカリちゃんと……」
「……俺、もう寝るから」
「スルーですかユカリちゃん! ただいまもツッコミもなしでいきなりお休みですか!」
 というか、いつの間に帰ってきたのでしょう。
 それと、やはり「ただいま」がないのは寂しいのですが。
「マスター権限で、帰ってきたときは「ただいま」を言うべきだと命令します!」
「……なぁ」
「はい?」
 なんでしょう。なにやら、いつもと雰囲気が違います。
「俺、ここにいていいんだよな?」
「何を言っているんですか」
 本当に、どうしたというのでしょう。
「当然です。記憶が戻るまでといわず、ずっとここに住んでいてほしいぐらいです」
「はは。それは断る。俺も、たまにはゆっくり風呂に入って、ぐっすり眠りたい」
「私の隣でですね。わかります」
「……じゃ、今度こそ寝るから」
 またスルーされました! マスターは寂しいと死んでしまうのに!
「……ありがとな」
「ふえ?」
 彼女は、ふっと優しく微笑みながら、そうつぶやきました。
 でもその言葉は、感謝と同時に、とても儚げな想いが込められていた気がします。
「ユカリちゃん」
「ん?」
 彼女を呼び止めて、どうしようというのでしょう。
 気がついたら、私は複線もフラグもない、直感だけで自分が抱く不安を口にしました。
「ユカリちゃんは、黙っていなくなったりしませんよね?」
 どうしてそんなことを聞いてしまったのかわかりません。
 ただ、彼女との楽しい時間が終わってしまうような。
 そんな雰囲気が、この場にはありました。
「俺の帰る場所は、ここなんだろ?」
 そう答えたときの彼女の顔は、見慣れるまでになった、絶世の美女のいたずらっぽい笑顔でした。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
「って、何いきなり興奮してんだよ!」
「美女なのに明るく人当たりのいい笑顔……グッジョ!」
 私嘘ついてました。ぜんぜん見慣れていません。この笑顔はヤヴァイです。
 あきらかにユカリちゃんは引いていますが、そんなの関係ありません。
 今日下がった好感度は、バレンタインで今よりもっと引き上げられるに違いありませんから。
「バレンタイン、楽しみにしておいてくださいね!」
「いやな予感がしなくなったらな」
 相変わらずつれないですが、だがそれがいいってもんです。

 「ネコス」にシリアスな空気はいりません。
 みんながみんな笑える結末を目指し
 とりあえず私は、どうしたらチョコを自分に塗れるのかを考えます。


「……はぁ」
 ユカリは、自分の部屋で買い物袋の中身を確認していた。
 畳の上には、ネコス常連客・赤井に渡すためのチョコ素材が広げられている。
 だが今彼女が悩んでいるのは、どうやったらマスターの目をかいくぐって手作りチョコを作ろうかなどという問題ではない。
「これ……どう見ても俺だよなぁ」
 彼女が広げているのは、電柱に貼ってあった尋ね人のチラシだ。
 それに映っている写真は、どうみてもいまの自分であった。
 思わず電柱からはがし持ってきてしまったのは、他人に見られたくなかったからだ。
「……」
 人のいいマスター。そして赤井の顔が、真っ暗な部屋に浮かび上がる。
 女の姿の自分が捜索されていたこと。
 心地の良い今の生活が終わってしまいそうなこと。
 男なのに、男に手作りバレンタインチョコを渡そうとしていること。
 ユカリの苦悩は、もうしばらく続きそうだ。




(……あれ? TS要素なくね?)
後編は2/14ごろに書き上げます

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